初心者の通る道3
無敵囲いとは、一言でいうなら「ぼくがかんがえたさいきょーのかこい」である。
「無敵」という言葉がついているものの、これは単なる皮肉であり、実際に無敵の囲いだからついたわけではない。
寧ろ美濃囲い、船囲い、矢倉囲いといった有名な玉形と比べた場合の囲いの強度は低く、更に飛車が使いにくい。
これはつまり、自ら攻めにくい上に攻められた時に受けにくいという、自殺行為のような玉形という事である。
それでも、左右対称で見栄えがよく、手数もかからない為「将棋初心者が行き着く囲い」として一定の知名度があった。
無論。悪い意味でだが。
「どうだ!
これぞ要塞の欠点たる手数の多さを解消したまま堅牢さを維持した僕独自のジョバンジョーセキ!
要塞2ndだぁ!!」
あほか。
確かに穴熊同様王手のかからない構造だし、自分の駒で周囲を覆っているのも同じだが
堅牢さの面では天と地、月とスッポン、蜂蜜とハバネロくらいの違いがある。
…話にならんな。イジメにならないうちに終わらせよう。
『3二飛』
「ふふん。驚いて声も出ないか。」
呆れ果てて声も出ないよ。
『5六歩』
『3四飛』
『5五歩』
『6二玉』
『7六歩』
…ん?
『5四歩』
「血迷ったか!
歩得の上に歩成の先手だ!
いっただきい!!」
『5四同じく歩』
『8八角成』
「…へ?」
無敵囲いの問題点その1、角の紐が外れる。
左銀を角から離して守りに使うため、角道を空けるリスクが上がる。
もし他の囲いのつもりでうかつに角道を開けると、本局の様に角を取り返せずに大損する。
「な、ななななな…
俺の角が!!」
(角道なんか開けるから…。)
「くっ…まだだ!俺にはと金がある!それも玉傍だ!」
『5三歩成』
『7二玉』
「まだまだぁ!」
『5四歩』
『9九馬』
『6三と金』
『6三同じく玉』
「二つ目のと金だぁ!」
『5三歩成』
『7二玉』
『4三と金』
『8二玉』
『5三歩』
よし、手が緩んだ。
もうと金作りはさせんよ。
『5五香』
「なっ!?」
放置すれば飛車取りつつ王手。
飛車でとれば馬で飛車を取り返す。
5筋には既に歩を打っているので、歩での合駒も無理
一種の王手飛車だ。
無敵囲いの問題点その2、王手飛車がかかりやすい。
居玉のまま5筋から玉を動かさず、しかも玉の頭に飛車がいるため玉と飛車が極端に近く、故に王手飛車のリスクが高いのだ。
「ぎ、銀で守れば…」
『5七銀左』
まぁそれしかないよね。
飛車筋止まるからこっちの危機が大分低減するんじゃが。
『8九馬』
「ぐっ!!」
これは桂馬をとりつつ6七を睨んだ手。
6七は飛車のコビン、銀の横なので、銀を上がる事で出来た急所になっている。
「き、金!金でなら受けられる!」
『6八金』
『6六歩』
同歩なら6七桂、無視するなら6七歩成で寄る。
「くぅ…ど、同歩なら…まだ…」
『6六同じく歩』
『6七桂』
「ぐ…王手か…」
ちなみにこの桂打ちに対し玉が逃げると7九馬と寄って詰む
『6七同じく金』
『6七同じく馬』
「これで…弾けるはずだ!」
『6八銀』
(…詰んだな。)
『6九金』
「!?
な…なんだ…
はは…操作…ミスか?」
んなわけないだろ。
『6九同じく玉』
『5八香成』
「…あ。」
同金には7八角から詰み。
7九玉には8九飛車で詰み。
無敵囲いの問題点その3、両側に壁になってる金と銀。
玉の頭上を戦場にするくせに、両脇の金銀が邪魔をしていていざという時逃げにくい。
本局も金が4九じゃなく3九にいたらもっと詰めにくい玉形だった。
結論:無敵囲い。ダメゼッタイ。
fghj様よりいただいた感想から無敵囲いを採用させていただきました。
この場を借りて、お礼申し上げます。
本局、最序盤の角のタダ取りが大きな分岐点の一つであった事は改めて説明の必要もない事と思いますが、これは負けさせる為の無理矢理な指し手ではありません。
角の紐を外す様な駒組みはこのような悲劇を生むよという「実体験に基づく」メッセージだと受け取っていただければ幸いです。(深くは恥ずかしいので言いません。)
ちなみに無敵囲いについてですが、あれは囲いとして金銀を堅持しようとすると使いにくいですが、左右の銀を積極的に攻めへ繰り出すのであればそれなりに使えます。
あれはあくまで「囲いとして欠陥品」なだけなので。




