将棋が好きな神様の悪戯3
30分ほど歩いて農村についたが、なんか雰囲気がおかしい。
家は見える範囲に10件ほど。
村の周囲は、腰上くらいの木の柵で囲われている。
人を防ぐものではなく、野生動物から作物を守る為だろう。
テレビで見た農村の規模には全然及ばないが、それでも大きい畑があり
それらの合間へねじ込んだように大きめの広場がある。
それらは農村としては何の不思議もない。
妙なのはその広場の様子だ。
「どうか勘弁して下さい!その子はまだ十歳なんです!どうか!どうか!」
「うるせぇなぁ…。
シンバンは世界神サマがお決めなすった解決法だろうが!
俺はそれでこのガキに勝ったんだ!てめぇに文句言う権利なんかねぇだろう!
なんだったらお前も俺と一戦やるか?
俺は何回でも、誰の挑戦でも受けて立つぜぇ?
強いキシを集めんのが俺の任務だからなぁ!」
人だかりの渦中にいるのは大柄なアラサー男性とアラフォーくらいの女性。
そして男性が腕をつかんでる、猿轡されてボロボロ涙を零している子供。
(…うーわ。
なんかこういうの地球のラノベで見たわ。
これってあれだろ…ゲームで勝ったら相手の権利奪って好き放題できる的な。
威勢よく吠えてるけど、あいつロリコンかよ。最低だな)
「そんな…わ、わたしはあなたみたいに強くない…。
あなたなんかとは勝負になりません!
どうか…どうかお願いします!お願いします!」
「ふん、話にならねぇな。失せろ!」
(シンバンってのが何なのか知らんけど、話の流れ的に手紙にあった「とあるゲームの名前」っぽいな。
あのアラサーはそんなに強いのか…。
どういうゲームか見てみたいな…。
誰か挑戦しないかな…。)
不謹慎極まりないが直人は生粋の都会人である。
慈善行為で下手な事に首を突っ込むと、大抵の場合良くないことが起こると知っている。
タダでさえ今は安全の保証もなければ金も飯もない。
傍観以外に取る選択肢などなかった。
「しかし…女性があんなに縋ってるのに周りの人は何もしないのか…?」
つい直人の口から零れてしまったそんな呟きに、そばにいたアラフィフっぽいおじさんが答えてくれた。
「あんた旅の人かい?
みんな見てるしかないのさ…。
あの大柄な男は王国キシ団の副団長。
いまああして縋りついて足を止める事すら、本来なら犯罪だ…。
これは王国直々の人材徴収だからね…。
王国の民は逆らえん…。
あの副団長はまだ優しいほうさ…。
団長にあんな事をしたら、普通ならとっくに捕縛されとる。
あの子はあの女性のたった一人の子供でね。
せめて気が済むまで泣かせてやろうという慈悲なんだよ…」
「へー…。そういうもんですか…。」
(俺から見たら完全に幼女趣味の変質者ですがねぇ…)
「俺から見たら完全に幼女趣味の変質者ですがねぇ…」
「え゛っ!?」
「え?」
(あれ…?もしかして今の声に出てた…?)
「おい。」
今までのアラフィフおじさんとは異なるヤンキーボイスが右側から聞こえる…。
首を軋ませながらゆっくり声の下方向へ視線を向けると…。
「てめぇ…今なんつった…?」
そこには顔を真っ赤にした副団長の姿が。
「…お耳がよろしい事で…」
(独り言程度、徐々に直せばいいやと考えてた過去の自分を全力で殴りたい!)




