初心者の通る道2
「この世界を統べる神様。シンバンによる裁定をお願いしまーす。
相手はこのレーヨンとかいうガキ。
俺が負けた場合の代償は、奴隷ユリの開放でーす。」
騒動は収まったが、レーヨンの結婚意欲は依然燃焼中らしく、取り付く島がまったくなかった。
なので激しく不本意ではあるが、当人の希望通りシンバンで話を付ける事にした。
こういう場合においては、この仕組みは最高に便利なんだがね。
(なお自分自身の名誉のために行っておくが、このガキの希望に沿うのが業腹なだけで、ユリちゃんを奴隷身分のまま囲っておきたいわけではない。決して!!)
ちなみにレーヨンに対するこちらからの要求は特になかったので、適当な罰ゲームを5種類書いたくじを引いてもらい、それで負けた時の代償を決める事にした。
実に安易。
「誰がガキだ!!…子供だと思ってふざけた宣言をしやがって…
私が負けた場合の代償は…なになに?『一人対局を五回』?
何だこれは。余裕じゃないか。」
本当にそうかな?
くじで引かせた罰ゲームの中身がなかなかえぐかった事に内心ほくそ笑んでいると、唐突に背中をつつかれた。
誰ぞ?と思い振り返るとそこにいたのは問題の渦中にいるユリちゃんその人であり、何を言うともなく耳を貸してとジェスチャーしてきた。
(…何だ?内緒話?)
恐る恐る耳を近づけると、小さな声で。
「とてもよわいからいじめないであげて」
と言ったのが辛うじて聞こえた。
『代償確認。
先攻レーヨン。190戦92勝。敗北の場合は一人将棋を五局
後攻セガワナオト。1236戦1197勝。敗北の場合は奴隷ユリの開放。
相違ないか。』
その場に響いたシンバンの声で内緒話はその一言だけで打ち切りになり、ユリちゃんは元居た場所に駆け足で戻っていった。
(…ユリちゃんが言いに来るって事はコイツそんなにやばいのか?)
思わずレーヨンの顔に視線を向けると、顔を真っ赤に染め、歯を食いしばった必死の表情が目に入ってきた…。
見開いた目から、すぐにでも血涙が流れ出しそうな雰囲気だ。
「おまえ…やはりユリ嬢と…
この少女趣味の性癖倒錯者め!!地獄に落ちろ!!」
おま!!人の目があるところでなんて事を!!
「ちがうわ!人聞きの悪い事言うな!」
「犯罪者はみんなそう言うんだ!!
お前みたいな犯罪者の元にユリ嬢を置いていてなるものか!!
男の敵め!覚悟しろ!!」
こんのやろう…言わせておけば!!
…………………ってあれ?
なんかこのやり取りにデジャヴを感じるんだが…。
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『え!あなた300人もこの子みたいな奴隷持ってるんですか!?
何てうらやま…!いえ、非道な事を!最低のロリコンですね!』
『おまっ!ちげぇよ!これにはちゃんとした理由があるんだ!
事情も知らずに人聞きの悪い事言うんじゃねぇ!』
『犯罪者ってみんなそういいますよねー。口では何とでも言えますからねー。』
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…。
軋む首を動かして道場の壁に背を預けているアラミドさんへ視線を送ると、ジト目でこっちを見ていた彼の口がゆっくりと動き
お・ま・え・が・い・う・な
と音にならない言葉を紡いだ。
「さぁとっとと始めるぞ少女趣味の変態め!ここで引導を渡してやる!
世界を統べる神よ!僕の条件に間違いはない!それで結構だ!」
「このクソガキ…
対局に負けたらその固有名詞使うのやめてもらうからな!
こっちも条件に間違いはない!いつでもかかってこい!」
「バトルスタートだ!」
「よろしくお願いしますっ!」
(…対局の挨拶を挟むと締まらないなぁ)
「ふん。僕の先攻だ!てい!」
『5八飛』
「え!?」
(原始中飛車!?こっちに来てから始めてみたぞ!?)
「ふふん、驚いたか。
まぁこれは棋士団団長のジョバンジョーセキをヒントに僕が独自に編み出した戦術。
驚くのも無理からぬことだ。ふふふん。」
このドヤ顔のウザさたるや。通勤ラッシュ時の中央線乗車率が如し
なーかーびーしゃーかー…。
穴熊から着想を得たって事なら左穴熊かなぁ…。
左穴熊苦手なんだよなぁ。
まぁ油断は禁物だ。
慣れてるいつもので行こう。
『3四歩』
「ふふん。凡庸な。」
(ほっとけ)
『4八銀』
……………………は?
あれ、なんだろう。
俺この玉形なんかで見た事あるな。
力一杯バチダンバチダンやって、ストリートファイトでボコスカ殴り合いする将棋漫画の巻末とかで…。
『3五歩』
『6八銀』
……………………。
無敵囲いだこれぇぇぇぇ!!




