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くちなしの異世界  作者: kou
25/40

棋士団VSナオト道場10

「俺の…負けだ…。」


結局先述した手順の内、3三の先受けに気づかなかった副団長サンの玉は詰まされ、ユリちゃんの勝ちとなった


「…ふぅ。対局ありがとうございました。」


ぺこりと頭を下げるユリちゃんと、両膝をつき項垂れる副団長サン。

そして


『うおおおおおおおおお!!』


と俺の時より大声で湧き上がる村人からの歓声。

あくまで村外の人間である俺とは違い、村出身の、それも年端もいかない女の子が棋士団の副団長に勝ったのである。

特にユリちゃんを幼少から知る家族の喜びようは凄かった。

ユリちゃんに駆け寄り「天才少女」だの「御使い」だのと褒め称えながら、言葉の上でも物理的な意味でも持ちあげている。

ユリちゃんも門下生以外との初めての対局で白星を挙げられ、年相応に破顔している。

対局中の張り詰めた表情が嘘のようだ。


対して棋士団の空気は実に重い。


年端もいかない子供に惨敗。

それも対局中、多くの団員が賛意を示した指し手での惨敗である。

これは対局した副団長サンのみならず、団員全体の惨敗と言っても過言ではない。


(さて、棋士団の面子もあるだろうにどうするのかね…。)


そう哀れみ半分ザマミロ半分で様子を窺っていると。


バキッ!!


「ぐっ…!」


突然鈍い音が響き、対局していた副団長サンが、以前俺と対局したアラミドとかいう副団長さんに殴り飛ばされた。


「いつまでそうやって落ち込んでいるつもりだ!!エチレン!

負けたお前がやるべき事は、項垂れる事ではないだろう!!」


(おまいう。)


項垂れていた副団長サンは何かを思い出したかの様に立ち上がると、例の穴熊団長の元へ駆け出し、片膝をついた格好で何やら話はじめた。

対局前、団長サンはなにやら不穏なことを言ってはいたが、今の副団長サンを見る感じ命乞いとかそういうものではないらしい。


(…ならいいか。なんか団の規律かなんかがあるんだろ。)


そう思い、ユリちゃんの胴上げに加わろうと棋士団から視線を切った時。



「ナオト殿。」


「…なにか?」


背後からかけられた声に訝りながら振り向くと、そこにはもう一人の副団長と同じように片膝をつき、頭を垂れているアラミド副団長の姿があった。


(え?何これ怖い。どうしたのこの人。

半年前の口調はめっちゃヤンキー調じゃなかったっけ?)


「今に至るまでの数々のご無礼。誠に申し訳ありません。

弊棋士団団長を遥かに凌ぐその棋力。

実に見事なものでした。


事の仔細を知らぬとはいえ、身の程を弁えぬ私の無礼。弁解のしようもございません。

私が行った無礼に関しましては、貴殿の思うままの罰を一切希釈せず受け入れる用意があります。

我が身で許容できる罰であれば、例えそれが死を伴うものであっても受け入れると誓います。


しかしながら、弊棋士団は王都の安全を預かる棋士団として、貴殿の行動に対し静観し続ける事は出来ません。


我が命に免じて、貴殿と棋士団の間で、貴殿の行動の程度についてご相談する機会を頂けないでしょうか。


どうか…どうかご一考をお願いいたします。」



(うーわ…どうしようこれ…)


正直な話、アラミドとかいうこの副団長さんには何の悪感情も抱いてない。

何せ前会ったのが半年も前なのだ。

なんかムカつく事を言われた記憶は薄っすらとあるが、内容はほとんど風化してしまっている。

…将棋が弱かった事はよく覚えているが。


ただ、この副団長への罰云々はともかくとして、棋士団と相談できる機会があるのは正直ありがたかった。


村長のお墨付きがあるとはいえ、この世界で俺がやっている事は、控えて見てもクーデターの先導に近い。


別に俺は国を滅ぼしたいわけではないので、都合のいい落とし所を話し合えるなら相談の申し入れに否やは無い。


しかし、人狩りの経験が残っているであろう村人は、俺とは比べ物にならない悪感情を彼らに持っている可能性があり、軽々な返事は出来ない。


半年も集落内で過ごしていれば情もうつる。

常日頃の恩もある。

村人の反感を買うような事は出来る限りしたくないのだ。


「…村の方と相談させてもらえますか?」


内心を悟られぬよう努めて無表情にそう返すと、アラミドさんは顔を上げ、俺の顔をまっすぐ見たまま答えた


「はい。構いません。


しかし弊棋士団としましては、本遠征では最低限、貴殿とコミュニケーションの取っ掛かりは掴みたいと思っております。

その為、相談の可否さえ不明瞭なまま帰路につくことは許されておりません。

どうかその点はご容赦ください。」


『村の人と相談したけど結果出ませんでした。話はまた後日改めて来てください』

という時間稼ぎは通用しないという事か。

まぁ、そんなことをするつもりはないが。


片膝をついたままの副団長サンを背に、俺は事の次第の報告と相談を行うために、人狩りの件を教えてくれたユリアンさんと村長の元へ向かった。


:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-


「うん?棋士団との話し合い?いいんじゃないの?」


(え?)


「ええ。強要でなくこちらに相談して頂けるというのは、副団長の発言とはとても思えない配慮ですよ。


棋士団も、ナオトさんに団長が負け、ナオトさんの一番弟子に副団長が負ける様を目の当たりにしては、ナオトさんの実力を認めざるを得なかったのでしょう。

素晴らしい事です!」


(えええ?)


「ちょ、ちょっとまってユリアンさん、村長さん!

二人とも棋士団に対して思うところは無いの!?」


「「え?」」


博識、丁寧、温和の三拍子揃った個人的ご意見番の筆頭であるユリアンさんと、村の最高責任者である村長に先の件を相談したところ、その口からは思いもよらない返答が返ってきた。

人狩りで両親や村民を連れ去られたとはとても思えない、とても軽い反応である。


(…もしかして俺、担がれた?

いやでも人狩りの件は神様も否定しなかったし…。)


「ユリアンさんは棋士団の人狩りでご両親を連れていかれたんでしょう!?

それに対する恨みとか悪感情ってないの!?」


「うーん…。とはいえ二人とも《まだ王都で元気にしてる》しなぁ…。

子供の頃は親を連れて行かれて恨みに思う事もあったが、今となっては然程でもないかな。」


…は?


「え…人狩りって…処刑とかするために王都へ連れてくんじゃ…」


「処刑?そんなことはしないぞ。

棋士団の人狩りはあくまで『王都へ連れて行くだけ』だ。

俺の場合は親世代が根こそぎ王都に連れていかれたから、その代わりとして棋士団が農作業を手伝うために派遣されたりもした。

ていうかそこにいる村長は農作業の手伝いに来てそのまま居ついた元棋士団組だぞ。」


「えええええええええ!!」


(聞いてないぞそんな事!!)


「だ、だってユリアンさんは序盤定跡を知っている世代はもう村にはいないって!!」


「あ、あぁ。『知ってる奴は皆王都に住んでるから』もう村にはいないんだよ。

村長は棋士団として働いた時間が短すぎて、殆どシンバンの経験は無いしな。」


目を向けるとお恥ずかしいと頭を掻く村長さん。


てっきり蛇蝎の如く嫌ってるもんだと思ってたのに、元棋士団を村の長に据えても問題ない程度の感覚だったとは…。

気ぃ抜けたぁ…。


「なーんだぁ…。

人狩りなんて物騒な事言うから、てっきり王都に連れていかれて殺されたのかと…。」


「なるほどな、それで俺らに棋士団への恨みはないのかなんて聞いたのか。

ついでに言っておくと棋士団の徴集にも同じような決まり事があって、ユリちゃんみたいな子供を連れて行く場合は、代わりに結構な大金を渡してくれる。


それにつれていかれた子供は、将来棋士団や王城の事務員になる為の教育を受けるから、ある意味村より恵まれた生活をしていると言えなくもない。」


ただ、徴収に本人や親の意思が介在しないのは事実だし、親ってもんは基本的に金を幾ら積まれても子を手放したくはないもんだ。


アラミド副団長はまともな方だが、棋士団の中には横柄な奴もいるし、不平不満は皆それなりに持ってるよ。

単に相談を突っぱねる程毛嫌いしてるわけじゃないって話さ。」


「はー…そういう事だったんですね…。

安心しました…。」


「ええ。ですので村の事は気にせず、どうぞナオトさんの判断で決めてしまってください。


まぁ、一刻も早く道場を取り壊せ、などと言われてしまうと流石に困ってしまいますが…」


「ははは、それはあり得ませんね。

そんな事を条件に持ち出すようなら、俺は全力で抵抗しますよ。」


もしそんな寝言をほざくようなら、門下生総動員してでも棋士団ぶっ潰してやる。

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