棋士団VSナオト道場5
「儂の…負けだ…。」
「ありがとうございました。」
『うおおおおおおぉぉ!!』
「やった!!先生が勝ったぞ!!」
「あの団長さんの駒組も興味深い形だったな…。勉強になる。」
「中盤部分、団長さん側がこう指したら先生が不利になっていたんじゃないか?」
「いや、そう指されたらこっちからこうやって…」
『…ざわざわざわざわ』
「う、嘘だろ…団長が負けたぞ」
「イカサマなのか…?でもあの指し手はいつも通りの団長だったよな…」
「団長の要塞があんな簡単に崩されるなんて…信じられない…」
「あ、あの男は化け物か…。」
この半年で村民の3/4を占めるようになった門下生からは歓声が。
団長の敗北を目の当たりにした棋士団からはざわつきがそれぞれ湧き上がった。
(やべ…そういや皆にはまだ穴熊教えてなかったよな…。
安易に真似ないよう、後で注意しておこう…。)
穴熊はそのバランスの悪さと、囲いの硬さへ極端に依存した棋風になりがちな点から、初心者の指す囲いとしては悪影響が大きいとされている。
シンバンで指せるレベルの門下生は流石に大丈夫だろうが、将棋を始めたばかりで穴熊に慣れてしまうのは、あまりよくないだろう。
小中学校などの部活動では、ある程度慣れるまでは穴熊を禁止にしているところも少なくないし、ただでさえ多様性の少ない環境である以上、こっちもそれに倣うのが無難だろうな。
(もしかしたらこの団長さんも穴熊頼りの対局ばっかしてきたのかな?
それなら数十年の経験を持ちながらこの程度だというのも納得がいくが。)
ただでさえ人狩りのせいで定跡が固定化されているのに、決まり巾着の戦法ばかり使ってたら、然程棋力も伸びないだろう。
「さて、では約束通りお願いしますね?」
「…あぁ、わかっとる。
約束通り、以後この村とドウジョーの民に強制連行権は使わん…。
使いたくてもシンバンの影響が無くならぬ内は使えんだろう…。」
「それを聞いて安心しました。」
「…一つだけ教えてくれ…。
貴様…ナオト殿は儂のこの戦法を知っているのか?」
…まぁ気になるよね。
大方門外不出の定跡かなんかだったんだろ。
定跡の独占癖がついているならその疑問は当然だな。
「ええ、とてもよく。
何度も苦汁を舐めさせられましたからね。」
そう答えると団長さんは俯いていた顔を跳ね上げ
「…戦ったというのか!?儂のこの戦法と!
一体どこで!どこで誰と戦ったのだ!」
両手で胸ぐらを掴み迫ってきた。
おい止めろ揺らすな顔怖い
「「一つだけ」という約束ですよ。」
がっくんがっくんと効果音が聞こえてきそうなくらい強烈に首を揺らしてくる団長さんにすげなく返す。
地球の説明なんかしても伝わりっこないしな。
「くっ…」
胸ぐらから手を放し、未練がましい視線のまま距離を取る団長さん。
あー苦しかった。
「で、今度はこちらから提案があるんですが、聞いて頂けますか?」
「…一体なんだ。先に言っておくが、もう儂は貴殿とは戦わんぞ。
…あんな負け方をしておいて実力差が理解できんほど落ちぶれてはおらん。」
「いえ、相手は俺じゃないです。ユリちゃーん!ちょっと来て!」
そう村人のいる方向へ声をかけると、おずおずとした表情で人垣の中からユリちゃんが現れた。
何故呼ばれたのか分からないらしく、きょろきょろとしきりに周囲を窺っている。
その見た目も非常に可愛らしかったのだが、ただ見てても埒が明かないため手招きすると、小走りでこっちに向かってきた。
「ハァハァ…せ、先生…対局お疲れ様です。…凄いです。」
「ありがと。でも本番はこれからだから。」
「はい?」
こっちを見ながら「何を言っているんだろう」といいだけな表情で首をかしげるユリちゃんを両手で抱え、地面に蹲っている団長さんの前に持ってくる。
「団長さん。この子と対局してください。」
「は?」
「え?」
『え?』
『『ええええええええええええ!?』』
俺以外の全員が表情を驚愕に染め絶叫した。




