棋士団VSナオト道場2
「じゃあこっちも簡潔に答えだけ返しましょう。
嫌です。」
「…わけをお聞きしても?
もちろん十分な賃金はお支払いしますし、住居の用意も既にございます。
こんな辺境の村とは比べ物にならない生活を保障いたしますが…。」
(確かにこの村は辺鄙だし文化水準は高くないしトイレはいまだにボットンだし隣人の夜泣きで起こされるのも日常茶飯事だしプライバシーの欠片もないし生活用水は魔法便りだからあっちこっちに引き回されるし灯り無いから夜は一寸先も見えない暗闇だし田舎と呼ぶのも憚られるマグナムスーパー前時代的な環境だけども。)
「…先生、なんか凄い皆に失礼なこと考えてない?」
「…いつの間にいたのユリちゃん。そして鋭いな。」
気付かないうちにすぐ傍に来て、上着の裾を握りしめていたユリちゃんにそう答えながら、俺は団長さんに棋士団へ協力できない理由を告げる。
「配慮を無下にするようで申し訳ないけども、この村には俺の道場があるんで。
道場主が門下生を置いていくわけにはいきませんね。」
「ドウジョー…?
…シンバンの稽古場のようなものか。」
ん…思いっきり目ー顰めて口調変わったな。
やっぱ猫かぶってたかコイツ。
そりゃそうだよな。
「…こんなところでそんなものを作る者がいるとは。
シンバンで無理矢理引っ張るのは不本意だが、大人しく従わないなら仕方がない。
言うまでもないとは思うが、もし貴様がシンバンを受けないのなら村の者を根こそぎ王都へ連行する。
王国の民ならば儂が王より賜っている強制連行権でどうとでもなるからな。
モンカセーとやらを守りたいなら儂とシンバンで勝負しろ。」
強制連行権ってものごっつい不穏な響きだなおい。
詳細は解らんが、ろくでもないものだって事は伝わってくるぞ。
…そんな事しないでも断りゃしないよ。
「いいよ、指そう。
ただし、俺が勝った時の条件は「この村で生まれた民、及び俺の道場の門下生に対しては、以後「強制連行権」とやらを行使しない」という条件だ。
あんたにそれが受けられるなら指そう。」
「…いいだろう。
このような辺境の村やその中の訓練所の民など、棋力はたかが知れている。
強制連行権を行使できなかったとしてもシンバンで勝てばいいだけの話だ。
何の問題もない。
儂の条件は貴様が王国へ忠誠を誓い、王都にてシンバンに関する全ての知識を開示する事だ。」
「よし、交渉成立だな。」
さて、鬼が出るか蛇が出るか…。
あの副団長より何倍も強いって触れ込みだろ。
少しは楽しませてくれよ。
「…先生」
…ん?
ずっと上着を掴んでたユリちゃんの方を見ると、今にも泣きそうな目で俺の顔をじっと見上げていた。
「…負けないでね。…絶対、絶対負けないでね…。」
そういうと泣きそうな顔のまま、上着から手を放し、遠巻きに見ていた母親の元へ小走りで向かっていった。
(心配しないで大丈夫だよ。俺はどこにも行かないから。)
「よし、指そうか。」
「…随分と余裕だな。儂の実力は伝え聞いておるのだろう?
あの小童とは違うぞ?」
「あんた、あの何とかって副団長に勝率8割くらいなんだろ?
その程度じゃドングリの背比べもいいところだよ」
「…その余裕。後悔させてやろう。
ボードオン。」
団長がそう静かに呟くと、もはや見慣れたスクリーンが目の前に現れる。
「この世界を統べる神よ。シンバンによる裁定をお願いする。
相手は流浪の者セガワナオト。
儂が負けた場合の代償は、東4号集落出身者、及び東4号集落のドウジョーのモンカセーに対する強制連行権の行使禁止だ。」
「俺が負けた場合の代償は王国への恭順、及び王都でのシンバン知識の開示です。」
『代償確認。
先攻セガワナオト。566戦542勝。敗北の場合は王国への恭順、及び王都でのシンバン知識の開示。
後攻ナイロン。19521戦12013勝。敗北の場合は東4号集落出身者、及び東4号集落道場の門下生に対する強制連行権の行使禁止。
相違ないか。』
「相違ありません」
「相違ない」
さて、久々の賭け将棋だ。
気合入れていこう。
「よろしくお願いします」
「うむ。」