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くちなしの異世界  作者: kou
14/40

【閑話】異世界将棋道場1

「それじゃあ今日もよろしくお願いします。」


『よろしくお願いします!』


「じゃあ段位のある皆はいつもと同じように乱取りをしてね。

ユリは対局を見て上げてくれ。

対局が終わったらいつもみたいにシンバンに勝ち負けを報告してねー。

いつも言ってるけど、早く終わらせる必要はなくて、ゆっくりでもいいから勝つことを意識して指さなきゃだめだよー」


『はーい!』

『あいよー!』

『わかってるよー!』



「いつもありがとうな、ユリ。

新しい人たちに教え終わったら俺が相手するから、少しだけ待っててくれ」


「うん…。大丈夫…。任せて。」


将棋道場を開いてから早三月。

シンバンで勝てるようになるという触れ込みで開いた道場は

子供からは親の仕事中の暇つぶしに

子を持つ母親からは有事に子供を守る為の鍛錬の場に

そして怪我や病気で力仕事が出来なくなった大人からは、細工仕事の合間に集う集会の場として

文字通り老若男女問わず、着実に門下生を増やしていった。


将棋盤は村一番の木こりのおじさんに切ってきてもらい、将棋盤と駒は、手先が器用な村人を総動員して作り上げた。


現在村には将棋盤が15台ほどあるが、驚くべきことにほぼすべて常に埋まっており、村人の将棋への熱中具合がよくわかる。


この人数になってくると、席主として対局を割り振りようにもままならないため、将棋を初めて指す時点を1段とし、直近三戦の中で勝った相手の平均段位が今の段位以上なら1つ段を上げる事にした。


つまり以下のようになる

1段の人が1段相手に三連勝したら次からその人は二段。(直近三戦平均値1段≧1段)

2段の人が1段相手に三連勝しても昇段はしない(三戦平均値1段<2段)

1段の人が2段相手に三戦して二勝以上すれば次からその人は二段(三戦平均値1.33段>一段)


これを繰り返して段位が高い程強いという簡易版段級位を作り、強さに合わせた住み分けと対局の経験を両立させている。


最初は村人が計算に慣れてない事から、この昇段方式の意図が正しく伝わるか不安だったが、勝敗記録をシンバンで行うようになってからは、子供を筆頭に驚くべき速度で順応していった。


予想はしていたが、シンバンは単なる個人間の将棋対戦ツールではなかった。

主な運用が将棋ツールである事に疑いはないが、機能はそれだけにとどまらず、通話、グループ管理機能、タイマー、温度計、メジャー、望遠鏡、簡易地図などなど。

一つ一つは大したことはないが、あるだけで生活水準が数段階上がる細かい機能が実装されている。

まだ試していないが、どうやら新しい機能を後付けする事も出来るようで、正に異世界版スマートフォンとでもいうべきスーパー便利ツールだった。

こんなものを万人が持ちながらも文明発展が滞っているのは、ひとえに人狩りとそれに起因する多様性の喪失が大きいのだろう。実にもったいない。


「さて、じゃあはじめましての方には俺が将棋の基礎を教えます。

既にある程度解っている人には退屈かもしれませんが、ちょっと我慢してくださいね。」


「そんな事に不満言う奴なんかいねぇよぅ。

ナオト先生は心配性だな。」


「そうそう、この道場が出来てから畑仕事できねぇ連中の居場所が出来たし、畑仕事の最中、子供を退屈させずに済んでるんだから。

感謝こそすれ怒るなんてこたぁせんよ。」


「そういって頂けると嬉しいですね。」


結構な人数に広まってはいるものの、将棋のルールはまだ浸透しきっておらず、道場にルールを学びに来る人はまだ何人もいる。

そういった人たちには、駒の動かし方と禁じ手、簡単な序盤定跡だけを教え、以降は道場の中で勝ち負けの経験を積んでもらう。


やはり成長の度合いは子供が圧倒的なようで、その筆頭は俺が助けた例の奴隷幼女だ。

名前をユリといい、道場が出来てすぐ来てくれた、俺の将棋道場門下生第一号だ。


ユリの棋力は既に門下生全員の中で頭三つは抜けている。

同年代どころか門下生全員との乱取りですら勝負にならない為、今は俺の助手として動いてもらい、その代わりに初心者指導が終わった後は、特別に俺がシンバンで切れ負けルールの対局をするのが、ここ数週間の道場の流れになっていた。


彼女の上達は凄まじい。きっと後一年もすれば、俺の棋力など抜いてしまうだろう。

それが楽しみでもあり、少し怖くもある。


:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-


「…とまぁここまでが、当道場で教える内容になります。

以降は道場の中で自由に対局していただき、経験を積みながら段位を上げていってもらう事になります。

何か質問はありますか?」


「はい!」


「はい、そこの女性の方。」


「先生のタイプはどんな女性ですか!」


「回答を拒否します!次の質問どうぞー!」



「ん!」


「はい、そこのおじさん。」


「うちの孫を嫁に貰ってくれねぇか?」


「あなたのお孫さんまだ一歳にもなってないでしょ!次の質問どうぞー!!」



「はい!」


「はい、そこの男性の方!」


「ユリちゃんに振り向いてほしいんですがどうすればいいですか!」


「知らんわ!ロリコンかお前!!将棋の質問しろ!」


まったくもう…雰囲気が完全に村社会なんだよなぁ…。

いや村だからそうなんだろうけども。


貞操観念もだいぶ緩いから『老若男女問わず』夜這いが日常的に行われてるし…。

文化的な意味では、俺はまだ当分村には溶け込めないかもしれない…。


はぁ…。


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