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くちなしの異世界  作者: kou
13/40

【閑話】とある日の王国棋士団1

王都ハクロウ

棋士団詰め所、団長室にて。


「よりにもよって一介の旅人に負けるとは何たる事だ!!

理由を説明しろアラミド!!まさか貴様…手心を加えた訳ではあるまいな!!」


アラミド副団長から、東4号集落からの徴収失敗、それも王国民ですらない旅人にシンバンで敗北したというおよそ信じがたい報告を聞いた棋士団長のナイロンは激昂した。


それもそうだろう。四十年前の人狩り以降、集落からの徴収が失敗した事など一度もなかったのだ。

それはひとえに、王都とそれ以外の集落で隔絶した棋力の隔たりがある事を意味する。

その王都の中で上位五本の指には間違いなく入るであろう棋士団の副団長が、シンバンの戦歴が皆無の素人に二連敗したというのだ。

副団長に随伴した二名の団員以外、団長を含む全ての団員が、その報告の信憑性、副団長の油断を疑ったのは無理からぬことである。


「はっ!此度の件は私の鍛錬不足故であります。今後生まれ変わったつもりでシンバンの腕を磨くことに邁進する所ぞ「そんなはずがあるか!!」


副団長の報告を遮って団長が声を荒げる。

それは今彼が述べた内容が、油断以上にありえない事だったからである。


「お前の棋力は私も知っている!!油断でもしない限り、いや、油断をしてたとしても初心者に負けるような棋士ではない!!


何が起きたのか正確に報告しろ!!」


「お褒めに与り恐悦至極であります。


しかし、残念ながら私が報告しました内容は事実でございます。

私が対戦した旅人は、私を遥かに上回る棋力を持った棋士でありました。


その証拠として、私の対戦棋譜を団員全員に共有いたします。

どうかそれで判断いただければと…」


王都に住まう一部の権力者以外には伝わってないが、シンバンは単なる対局ツールではない。


魔法を人間から剥奪するにあたり、監視魔法、連絡魔法、記録魔法など、事務作業で多用されていた汎用魔法を代替する必要が生じた為、シンバンにはそれらを自動的に補う機能があらかじめ備わっている。


これは将棋道場の開設から間もなくして、ナオトが偶然見つけ出し、万人が使えるコミュニケーション手段として一気に普及する事になる。


王国棋士団は団長をリーダーとするコミュニティ機能をメインで利用しており、定跡の確認や団員の訓練内容の棋譜を密に共有している。


「いいだろう!見せてみろ!


もしお前が油断した形跡が棋譜に見えたら…解っているだろうな。」


「もちろんであります。」


「ふん。いい度胸だ。

ボードオン!

アラミドの棋譜を直近から二つ表示しろ!」


団長の目の前に半透明のスクリーンが浮かび上がり、そこに『サガワナオトvsアラミド』とかかれた対戦カードが二つ表示される。

その両方とも、サガワナオトという名前の下に白丸が書かれ、アラミドの名前の下には黒丸が書かれている。


「ちっ。本当に負けたのか…。馬鹿め。」


正直なところ棋士団長は敗北すら疑っていた。

副団長は、自分と五戦すれば一勝はするほどの手練れである。

初めてシンバンを触るような、そんな素人に負けるとは到底思えなかった。


「まず一戦目の棋譜だ。再生しろ。初手からだ。」


八十一マスの盤面が表示され、駒が初期配置につき、棋譜が再生される。


『7六歩』

『3四歩』

『7五歩』


「ん?」


『8四歩』

『7八飛』


「は?」


『8五歩』

『4八玉』


「はぁ!?」


『8六歩』

『8六同じく歩』

『8六同じく飛車』

『7四歩』


「…。」


『2二角成』

『2二同じく銀』

『9五角』

『4二玉』


「ちょっとまてぇ!!」


そう叫ぶと同時に棋譜の再生が止まる。


団長はスクリーンから目を外し、副団長の元へと歩み寄ると、その胸ぐらを掴んで大声で叱責した


「貴様これはどういうことだ!!

なぜ敵陣に成り込まない!!

飛車に角が当たっているのを見落としたのか!?

どう考えてもこれは悪手だろうが!!」


興奮のあまり胸ぐらを掴んだままがくんがくんと副団長を揺らす。


「団長。私がその手を思いつかないとお思いですか?」


「なんだと?どういう意味だ!」


揺さぶられながらもあまりに冷静な副団長の言葉に、思わず団長は手を離し、先を促した。


「もう一度落ち着いて盤面をご覧ください。


その角打ちは飛車だけではなく玉にも当たっています。

飛車取りと同時に、王手なのです…。」


それを聞き団長は、一拍置いてばね仕掛けの人形のようにスクリーンの前へ戻り、食い入るように盤面を見る。


程なくしてその局面が既に絶望的である事に気づいたのか、顔からみるみる血の気をなくし、蒼白の面持ちで副団長に視線を戻した。


「お前は…この手に気づいていたのか?」


「…いいえ。

私も例の旅人からの指摘を受け、初めて気づきました…。」


恐らく副団長に勝った旅人はそれを見越した上でこれまでの数手を指した。

つまり開始からここまで、15手の応酬は全て旅人の掌の上だった事になる。

選択肢の多い序盤ですら手玉に取られるのだ、選択肢が限定された終盤ならどれほどの脅威か…


(勝てない…勝てるわけがない…こんな、俺たちの遥か上を行く化け物に!!)


「幸いにして我らに対する敵意は大きくないようでした…。


王都での生活環境を準備した後、再度集落へ訪問し、王都への同行を願い出る予定であります。」


「それは…実現出来そうなのか?」


「何とも言えません…。

私は去り際に彼に暴言を吐いてしまいましたし…。


しかし彼が他国に所属する事でもなれば、我が国はおしまいです。

このような技術が他国に普及してしまったら、我が国の兵力では到底太刀打ちできません。」


「その通りだな…。


暴言に関しては負って処分を与えるが、まずは件の旅人を王都に招く準備を進めろ。

彼の棋士は何としても我が国に迎え入れるのだ。

万が一にも他国へ渡してはならん。」


「はっ!!」

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