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くちなしの異世界  作者: kou
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将棋が好きな神様の悪戯11

その夜、俺は不思議な夢を見た。


気が付くと俺は道路のど真ん中に立っていた。

目の前では俺の普段着と同じ服を着、俺の外出用スニーカーと同じ靴を履いた人間が看板に圧し潰されている。

周りの通行人が「救急車を呼べ」だの「やべー。ツイートしなきゃ」だの思い思いに声を上げている中、一人の女性が服が汚れるのを厭わず、血塗れになった道路に膝をつき、俺の名前を半狂乱で叫んでいる。


俺が通っていた将棋道場の、席主のおばさんだ。


おばさんとは将棋以外の繋がりは無いけど、思えば色々とお世話になったな…。

あの道場へ通い始めて間もなく、負けが込んで頭を抱えていた頃に、優しく相談に乗ってくれた。

もう頑張る気力が持てないと愚痴った時も、無理に頑張らなくていい、ぬるま湯の将棋でいいじゃないかと、笑い飛ばしてくれた。

父母を早くに亡くした自分にとって、最も親しい知り合いだったのかもしれない。


彼女は道場に来る小学生、中学生、将棋を始めたばかりのおじさんおばさんにも、丁寧に駒の動かし方から教えていた。

あの将棋道場で将棋を覚え、奨励会に入り、プロになっていった子も何人かいたはずだ。


(そういえば碌なお礼も言ってなかったなぁ…。

ごめんよ、おばさん…。)


そう心の中で謝った瞬間。

目の前の風景が消え去り、代わりに平坦な世界地図の模型のようなものが見えてきた。

それと同時に


「こんばんわ。君とこうして話をするのは初めてかな?瀬川 直人君」


(誰だ?聞き覚えのない声だが。)


「なんだい、つれないなぁ。ちゃんと置手紙はしただろう?」


(置手紙?


…あのムカつく手紙書いたやつか!!)


「お前かあの手紙書いたの!!一発ぶんなぐってやるからおりてこい!!」


「ははは!怖いもの知らずだなぁ君は!


でも残念。僕を殴る事は君は出来ないよ。

いや、正確に言うと殴れるけど意味がないというべきかな?」


「あ?何言ってんだお前。」


「僕はね、今君がいる世界そのものなんだよ。

地面の砂一粒から大海の水一滴に至るまで、全てが僕の一部なんだ。

ほらね?意味がないでしょ?」


一気に冷静になった。

そりゃ殴ってもしょうがないわ。地面殴るのと同義じゃん。


「それ、神様ってよりは、この惑星そのものって感じだな。」


「まぁそうだね。

でも最初は君たちの世界みたいにちゃんと分かれてたんだよ?


ただねぇ…この世界の人間って駄目なんだよね。我が強くてさー。

殺し合いばっかしてて埒が明かないから、僕が最低限の管理をすることにしたんだ。

それまでは使い放題だった魔法もシンバンで管理するようにしてさー。

本当大変だよ…。」


なんか愚痴り始めたぞ。この神様。


「え?何?愚痴を言いに来たの?あんた。」


「ぶー。失礼だな君は。

君にこの世界の話をしに来たんじゃないか。」


ほーん。

まぁそれはそれでありがたいけど。


「それはもっと早く言いに来るべきでは?」


「君なら何とかなるかなって☆彡」


ぶっころすぞ。


「まぁ、いいや。でなんかさっきも重要な事言ってましたよね。

魔法を管理してるって?」


「そうそう。まぁ簡単に言うとね、君が聞いた通り、シンバンってのは五十年位前に作った比較的新しい仕組みなんだよ。

君の世界のショーギってのを真似してね。

戦争や犯罪を根こそぎ防いで、ショーギで決着つけるように世界のルールを書き換えたわけ。


いやぁ、あれいいね。

僕HNKの番組とか笑笑動画のAO戦実況とかよく見ててさ、解りやすいのに奥が深くって老若男女問わず遊べるってすごくない?

イゴもよかったんだけど僕には難しすぎてねー。ショーギなら何とか分かったからさ。」


いやいやいや。

こっちの世俗に染まりすぎだろお前。

笑笑動画とか今さらその名詞を聞くとは思わんかったわ


「で、シンバンを作る前は人間は魔法も使い放題だったんだけど、それをそのままにしておくと《魅了》とか《催眠》とかでシンバンが形骸化する恐れがあったからね。

人の心に働きかける魔法を全体的にブロックすると同時に、棋力に応じた魔法しか使えないように全ての人間を縛ったんだ。


例えば君が昼間に戦った副団長いるでしょ?

あの人くらいの棋力なら火おこしや水の錬成、下級魔道具の作成なんかが出来るよ。」


ほうほう。面白そうな仕組みじゃん。


「それ、俺にもできるの?」


「もちろん。この世界の人間なら誰でもできるよ。

もっとも、棋力を判定するためにシンバンでの対局を必要とするから、シンバンの経験がなかったり、負けた記録しかなかったりすると、棋力が皆無って事になって魔法も一切使えないけどね。」


だからこの村の人達からは魔法の話題が一切出なかったのか。


「本当はそれで貴族の権力集中を防ぎつつ、平民と貴族のゆっくりとした融和を進めて、君の国みたいな社会が作りたかったんだけど…。」


「貴族が序盤定跡の優位性と、棋力と魔法の関係性に気づいちゃって、人狩りが起きちゃった。と」


「…うん。」


ばっかでー。

いやまぁいうて他人事ではないんだが…。


「僕がそれを変革できたらいいんだけど、シンバンのシステムって結構忙しなくてね、そういうわけにもいかないんだ…。


で、都合よく死んで将棋の知識も経験もある君に来てもらった。というわけ!

敬ってくれていいよ!さぁ!敬え!」


「誰が敬うか!傍迷惑極まりねぇわ!」


少し同情雰囲気になっていたのが台無しだ!


不慮の死だったとはいえ、ここに転生させられた事が幸せかと言われたら大分微妙。

まぁ将棋は指せるし、話によるとファンタジー要素もあるっぽいし、当初に比べたら大分評価は上向いているけども。


「…変革できるかどうかはともかく、この村の人には自分に出来る限り将棋を教えますよ。

そうすればもし二度目三度目の人狩りがあっても、一方的に攫われるだけの展開にはならないでしょ。

それなら文句ないでしょ。」


「えー…。その村の人だけとか依怙贔屓ー。ひどぅーい」


「それなら明日にでも村を起って、王国の貴族に教える事にします。

今以上に人狩りが加速するでしょうけど構いませんよね?」


「うぐ」と返答に詰まったような呻き声が聞こえた。


もっとも、アラフィフおじさんから人狩り被害者の弁を聞いた事もあり、積極的に貴族連中の手助けをする気は今のところないが、こうやって脅しをかけないとこいつ多分調子に乗りまくるだろう。


それに、アラフィフおじさんや幼女には悪いが俺もわが身が可愛い。

最低限の恩に報いるのは吝かではないが、この世界の仕組みについてある程度理解できた今となっては別にこの村に拘る必要もない。

極論を言えば、身の安全が保障されるならどこだっていいのだ。


「わ、わかったよ…。その村の人だけでいいよ…」


ざまみ。


「あーあ。せっかく《将棋の救世主、神の代行者降臨》って神話再現を期待してたのになー。」


「死んでもごめんだ馬鹿野郎。」


「ちぇー。

まぁでも、あの世界の人が教えてくれるならきっと強くなるよね。

君のいた世界みたいな火花が飛ぶような緊張感ある棋戦。

期待してるからね!」


勝手な事を…。


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