せかいの理
「着ましたよ。」
腕を袖に通しながらオレは女性に問いかけた。
「てか、なんか用ですか?」
「少し気になったことがあってね…。あなた、この世界の人じゃないでしょう?」
「…あ、授業10分前だ。」
この人大丈夫か?と思いながら教室に向かおうとしてみる。
「ちょ、ちょっと!私は真面目よ!」
しっかし、急に不思議なことを言われてもな。
「あなたのシャツのマーク、この学校のじゃないわよね?今日学校に来るとき気づいたの。」
確かにYシャツの腕部分に学校マークがついているのがオレの高校の特徴だ。
「そうだけど…。でもいったい何故そんなことを?」
そう聞くと回答は予想できる。
「私も別の所から来たのよ。」
授業5分前のチャイムが鳴る。
「私の名前はミサネ!あなたの名前は?」
セイト、と答えた。
「セイトくんね。放課後生徒会室で会いましょ!」
そう言ってお互いの教室に向かった。
~放課後~
生徒会室は案外簡単に見つかった。人がいるのか、すでに電気がついている。
ノックをすると中から昼に会ったミサネさんが出てきた。
「よく来たわね。隣部屋が空いているから入りましょ。」
隣部屋でお茶を出してもらい、それを頂いた。
「ところで、オレ他の高校なんですが、どうなっているんですか?」
「ああ、授業受けても問題ないかって?私も始め戸惑ったんだけど机もあったし、名簿にも名前が載ってるのよね。でも転校生として入れたらもっと馴染みやすかったんだけどね。」
それと今日は何日か分かる?と聞かれる。
夏休み前の7月20日だと答えた。
「でも時計とか見ると、今日は7月14日。」
「え、14日?」
「そして昨日は15日だったの。というよりここ最近は15日だった。」
どういうことだ。時間が遡っているのか?
「最近って…。同じ日が続いていた?」
「ただ曜日はきちんと変わる。そして一人増えると日付も1日戻る。」
どうもオカルトめいている話だ。ただ話しぶりはウソを言っている感じはしなかった。
「ここへはどう来たの?」
「確か買い物帰りに歩いていたら霧の中に迷い込んでしまってて…。」
「他の人と同じね。霧が晴れたら、いつの間にか学校があったって。」
「他に同じような人がいるんですか!?」
「いるわよ。何人か。」
少し驚きを隠せない。こんな非現実的なことがあるのと、他にも人が来ていたとは。
「ミサネさんもそうやって来たんですか?」
私はねー、と言葉を濁す。
「少し、違うルートだったけど…。」
場所を変えて屋上に向かった。校内では軽音楽部の練習音が聞こえる。
途中、自販機でジュースを買ってもらった。
校庭を見ると野球部とサッカー部の練習がよく見えた。まさに青春といったところだ。
「なんか普通の学校って感じだな。」
特に変哲もない学校だ。何も違和感がないくらい。
「願い事って、ある?」
「願い事?」
ミサネさんは手すりによりかかり、遠くを見ている。
「なんでもいい、叶わなそうなこととか。」
叶わなそうな願い事か。一度呼吸をして言い出してみた。
「もう一度家族と暮らしたいとかですかね。半年ほど前オレが留守番していたら事故で亡くして…。」
一瞬その時のことを思い出した。警察から連絡が来て、葬式をやった。
もう半年経つのに今だ胸が詰まった。
「そう。ここに来てから家へは帰った?」
「いや、まだ…。」
そういえば飲み物を買ってバッグに入れたままだった。
「この世界ではね、何か一つ願いが叶うの。」
「いや、まさか…。」
そんなことあるはずないと思ったが彼女の顔は真面目だった。
「もうこんな時間ね。」
チラリと腕時計を見ている。
「続きは明日以降にしましょう。」
学校を出たのは17時を過ぎてからだった。いつの間にか長い間話していたらしい。
幸い街はそこまで変わっておらず、自宅もスマホで住所を入れればマップで出てきた。
いつぶりだろうか。ここまで気持ちが昂るのは。
普通に歩くように心掛けたが、いつもより足が速くなってしまう。
まるで長距離走を走った後のように鼓動の音が大きく聞こえる。
しかしまださっきの話を信じた訳じゃない。流石に半信半疑だ。
だが家が近づくにつれだんだんと確信に変わってきた。
家の明かりがついていた。
玄関の前に立つと誰かの話し声が聞こえる。そっと扉を開けると。
「あ、お兄ちゃん。おかえり。」
妹の、キヨミの声だった。
「もうすぐご飯できるわよ。」
母さんの声だった。
「今日は遅かったな。」
父さんの声だった。
「ただいま…。」
その瞬間、家族ってどういうものか少し分かった気がした。そのときオレはどんな顔をしていたのだろうか。