表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女王国の日常 ~『2周目は鬼畜プレイで』番外編短編集~  作者: わかやまみかん
アナザーストーリー『2.5周目は大団円プレイで(仮)』
8/28

第1話  アリス、生々しい悪夢から目覚める。

アナザーストーリー編開始します。

今作は本編『2周目は鬼畜プレイで』エピローグからの続きです。

未読の方は、そちらから読んで頂くよう強く推奨します。



「――ッ!」

 

 余りの痛みに耐えきれず、オレは身体を捩じるようにして跳ね起きた。

 それと同時に胃から何か熱いモノが喉を焼け付かせながら上がってくる。

 両目からとめどなく涙をこぼしながら、胃の中のそれを夢中で吐き出す。

 息が整わない。……苦しい。

 死ぬとはこういうコトか!?

 そんな中で不意に背中がさすられた。

 どこか(いた)わるかのような優しい手つきだった。

 驚き、弾けるように振り向くと、そこにいたのは()()()のクロエ。


「……クロエ? ……何故? ……まだ生きていたの?」


 何とかそれだけを絞り出す。

 しかし当のクロエはポカンとしているのだ。

 彼女から視線を逸らすと、今いるここは室内であることに気付く。

 外からは日の光が差し込んでいた。

 見下ろすと自分が転がっていたのは草の上ではなく、フカフカのベッド。

 その上に自分が吐いたモノがあるのだが、――()ではない。

 正直訳がわからなかった。

 必死で現状を理解しようと頭を回しながら呼吸を整える。

 その間もクロエは誰かに指示を出しながら、オレの背中をさすり続けてくれた。



「――何か怖い夢でも見られたのですね?」


 いつになく優しい声のクロエがそっとオレの涙を拭い、口元も拭う。

 顔を上げると横からスッと水が差しだされた。

 目だけそちらに向けると、パールが心配そうにこちらを覗き込んでいた。

 ――彼女も魔王城でクロードに殺されたはずなのに。……何故?

 そんなことを考えながらも反射的にそれを受け取り、喉を鳴らして一気に飲み干す。


「……どういうこと?」


 改めて周りを見渡した。

 間違いない。ここは女王国公館のオレの私室だ。

 ――今、クロエは何と言った? 


「……ゆめ? ……()()が? ……本当に?」


 二人ともその声には答えてくれない。

 視線を動かすと机の上に書類の束を見つけた。

 オレは恐る恐る立ち上がり、それに手を伸ばす。

 そして無言のまま目を通した。

 帝都とヴァルグラン関連の報告書だった。


「……まだ、ヴァルグランはある、ということ?」


 クロエとパールが目を合わせて首を傾げるのが見えたが、オレは気にせず目を瞑って考える。

 徐々に頭が冷えてきて記憶が戻ってくる。

 ――そう。

 オレは山猫を総動員して、ずっとこれを調査させていたのだ。

 昨晩ようやくその報告書類が上がってきて、寝る直前まで読み込んでいた。

 やがて開かれる決起集会に向けてどう動くか見極める為に――。

 

「……そうよね。……まだ戦争は始まってもいないわ」


 思わず独り()ちる。

 オレの口から漏れ出たその物騒な言葉に二人の息を飲む気配を感じた。

 しかし今は気にしない。

 余りにも生々しい夢を見たせいで記憶が混乱してしまったようだ。

 


「……何か……私、変なこと言っていた?」

 

 気になるのは意識のないうちに何か重要なことを話していないかということ。

 しかしクロエは首を振る。


「私が今朝公館に参りましたが、珍しく陛下はまだ起きていらっしゃらないとお聞きしまして、もしかしたら少し体調がすぐれないのかと。……せめて何か御召し上がれないのかとこちらにお訪ねしたら、中から悲鳴が聞こえまして……」


 クロエの言葉をパールが継ぐ。


「山猫が見張っているので賊の類はあり得ませんでした。ですがそれでも何かあったのかとボクとクロエさんと二人で部屋に飛び込んだら――」


「……私が苦しそうに吐いていた、と」

 

 オレの言葉に二人が頷く。


「わかったわ。……もう少しだけ身体を休めたいから、午前の執務は取りやめてもいい?」


 正直今から起きて仕事をする気になれなかった。

 だから少しだけ弱った顔を見せる。


「午前と言わず今日一日ゆっくりしてください!」


 それに過敏に反応したのか珍しくクロエが声を荒げる。

 言い方は丁寧だが怖い。

 ちょっと()()()()の一面を見た気がした。


「そうです! アリス様は働きすぎです。今日はこの部屋から出ないでください! ……今はまだ食べられないでしょうけど、後で食べやすいものを用意してこちらにお持ちしますから。いいですね? ……ちゃんと寝ていて下さいね! ……絶対ですよ?」

 

 パールもいつになく真剣な顔でそう告げるとキビキビとした動きで部屋を後にした。

 オレはそれを無言のまま見送る。

 クロエも感慨深げにパールの出ていった扉を眺めていた。



 

「――それでは何かあったら、必ず呼んでくださいね? ……すぐに駆け付けますから」


 そう言い残しクロエも部屋を後にした。

 オレはノロノロと、いつの間にやら綺麗に整えてもらっていたベッドに再び寝転がると、ゆっくり目を閉じる。

 そして誰にも聞こえないように――それこそ、この部屋内で姿を隠してオレを心配そうに監視しているであろう山猫にも悟られないように小さく呟く。


「……夢、……だったのか?」


 本当にただの悪夢で片付けていいモノなのだろうか?

 ()()はまさしくオレが練り込んでいた計画そのものだった。

 クロード、ゴールド、ロレントなどをけしかけて暴走させる。、

 集大成として皆が反対する中でクロードに皇帝を殺させ、全ての面倒をヤツらに押し付ける。

 一方オレは安全圏で悠々とセカイを支配しながらその時を待つ。

 ――我ながら惚れ惚れするような完ぺきな計画だった。

 そしてあの夢の中では全てが思い通りに運んだ。

 想定以上といってもいい。

 再び神の声が聞こえるという予想外の展開にもきっちり対応して、それを計画の一部に組み込んでみせた。

 その辺りの手際の良さは夢ならでは、といったところなのだろうか。

 本当に全てが思い通りだったのだ。

 ……そう。

 ――あの場にサファイアさえ現れなければ。  

 結局あれが最大の誤算だったのだろう。

 舐めていた。見切るのが早すぎた。

 即断即決がオレの主義だが、完全にそれが裏目に出た感じだ。

 あれを失敗と見做すならば、敗因はクロードたちで遊び過ぎたことにあるのは間違いないだろう。

 結果としてサファイアに一撃を喰らわされた訳だから。



 もちろんあんなモノはただの夢だと無視してもいい。

 頭の中で常に考えていることが、無意識のうちに夢という形で具現しただけの話だ、と。

 現実があのように簡単に進むとも思えないし。

 それでもアレを何かの警鐘と見做すならば……。

 

「……さて、……どうする?」


 正直なところアレを修正するだけなら芸がないと思う。

 それにもう見たかったセカイは見た。

 ――夢の中で、だが。

 そこまで一直線に考えて、オレは仰向けに寝転がり顔を覆った。

 不意に乾いた笑いが込み上げてくる。


「……()()()()()()()()だって? ……アレが?」

  

 レッドとパールの死。

 ブラウンと女王国民の狂気。

 残された者たちのあの悄然とした姿。

 あれを目にしてオレは何を思った?

 オレを信頼して命を懸けてくれた者たちが、自分なりに精一杯大事に守ってきた者たちが()()()()姿を見てどう思った? 

 所詮夢は夢でしかない。

 アレはただの幻想だ。現実ではない。

 それでも、いくら何でも、アレは無かった。

 だがオレは確かにあんな未来を望んでいたのだ。

 ――そんな自分自身に吐き気がする。

 ならばどうすればいい。

 どうすればアレを回避することができる?

 オレは目を瞑りながらその方策を考えた。



 どうすべきか? ……今思いつくのは二つ。

 まずはクロードたちを何とかしてこちらの陣営に引き入れるべきだということ。

 彼らは確かな戦力だった。勇者一行の名に恥じない動きをしていた。

 今回はそれをオレがしっかりと制御する。

 そしてもう一つ。

 それは大規模戦争を回避しなければいけない、厳密にいえば勝ち組と負け組をつくらないこと、か。

 もっと言うなれば負け組を必要以上に追い詰めないことだ。

 追い込まれた人間の怖さは身をもって味わった。

 それを踏まえて肝となるのがヴァルグランへの対応だろう。

 何としてもマストヴァル家の人間を全員無傷で確保する。

 できれば兵士たちからも余計な死傷者を出さない。

 クロードたちをこちらに引き入れておけばそれも可能なはず。

 夢の中では女王国としてあの戦争には出来るだけ関わらないようにしていたが、それもやめる。

 むしろオレがクロード一行とともに最前線に出て領主アランの説得に動くべきだろう。


 

 それだけで何かが確実に変わるはずだ。

 もし必要ならば女王国として譲歩を重ねてもいいだろう。

 もちろんその上で最後にはきっちりと美味しいところを持っていくつもりだ。

 女王国の民にも不自由はさせない。

 その辺りを踏まえつつ、上手く立ち回らないといけない。

 とにかくあの未来だけはゴメンだ。

 オレが打とうとしている手がこの先どんな結末に繋がるのか分からない。

 どうせなるようにしかならないだろう。

 それでも、オレはみんなと笑いあえる未来を創ると決めた。

 ――今、決めた。



本作は10話構成でマールパートが3話ごとに挿入される感じです。

それではよろしくお願いします。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ