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アリス、バカ騒ぎを楽しむ。

この話は本編のネタバレを含みます。

本編読了後に読んで頂くことを強く推奨します。


本当は番外編最終話の為にとっておいた話ですが、気が変わりました。


「アリス様! 今日はお誕生日なのですよ!」

 

 朝一番でパールがオレの腕に飛びついてきた。

 その一言で起き抜けの頭が一気に醒めた。

 ……だからなのだろうか、彼女も少しおめかししている。

 そんな風に観察されているとも知らず、パールは心の底から嬉しそうな表情でこちらの顔を覗き込んでくるのだ。


「……そう、だったの? ……それはおめでとう!」


 内心プレゼントを用意していなかった迂闊さに舌打ちする。

 このオレともあろうモノが、自他ともに認める最側近の誕生日すらも把握していなかったのだ。


「……で、いくつになったのかしら?」


 何とか挽回しようと突破口を探し始めるオレの問いかけに、彼女は一瞬驚いた顔をみせた後、楽しそうに笑い出すのだ。


「違いますって! 今日は()()()のお誕生日ですよ!」


 その言葉に当時の記憶が蘇ってきた。



 そうか。

 あれからもう一年も経ったのか。

 建国直後あたりだろうか、国威発揚やら女王という存在を国民たちに浸透させる手段として、オレの生誕祭を盛大に祝おうという話が持ち上がっていたのだ。

 しかしアリスの人生はあの日始まったものだし、そもそも誕生日すらなかった。

 学校の書類をあたれば、何か分かるかも知れないが。

 だが当時のオレにそんな時間の余裕などあるはずもない。

 だから、どうせ祝うならば来年この国の誕生日を祝おうと提案したのだ。

 いかにも民を愛するアリシア女王らしい、ちょっと気の利いたことを言ったものだと、そのときは自画自賛した。

 単純にやらなくてはいけないことが山積みだったから先送りしたというのも否定はしない。

 ――そして忙しい日々の中ですっかりそれを忘れていた、と。


「……やっぱり忘れていましたよね?」

 

 パールがちょっとだけ身体を離した。……がっかりさせたか。


「えぇ、ごめんなさい。……あなたたちにとっては本当に大事な日だったのにね」


 ここは素直に謝るとしよう。

 オレは出来るだけ申し訳なさそうな表情を作る。


「大丈夫ですよ。実はそんな感じだろうと思っていました。……ずっとお忙しくされていましたのは分かっていましたし」


 健気なパールが気丈にもオレを慰めるかのように微笑む。

 そんな彼女がいじらしくて、いつもよりも優しく頭を撫でた。


「本国では祝日として、各地で簡単な式典が開かれるらしいですよ!」


 自分の知らないところで、皆しっかりそういったコトもやってくれていることに少しばかり感動する。

 発言力の為だけに作っただけのこの国もちゃんと前に進んでいるのだ。




「それにこの公館でも皆でささやかな宴の準備をしているのですよ」


 聞き捨てならないその一言に反応して口を開きかけたら、軽いノックが響いた。

 許可すると笑顔のクロエが入ってくる。

 何やらいつもの簡素な貴族服と違い正装に近い。

 彼女のこんな姿を見ると帝国淑女の凄みを感じた。

 

「……やっぱり覚えておられませんでした」

 

 パールが彼女に笑顔で振り向いた。


「そうでしょうね。……仕方ありませんよ」


 クロエも苦笑で返す。

 なるほど彼女もその宴とやらに参加する為そんな恰好らしい。

 知らぬはオレばかりということか。

 ただクロエが一枚かんでいたと知った以上、これは作為的なものなのだと即断した。

 おそらくオレの口から一度も建国祭がどうだとか出てこなかったことに気付いた彼女が、周りを巻き込み徹底的に情報を遮断してこの状況を作ったのだ。

 さらにオレの知らない内に本拠地でもあるこの()()()()()で宴の準備まで。

 ――それらを女王国民でもないクロエがやって見せた。

 まだこんな細やかなサプライズだから笑って済ませられるが、もし仕掛けてきたのが奇襲戦だったとしたならば女王国は一気に瓦解へと向かっていただろう。

 クロエからすればただの茶目っ気でそんな意図は無かったとしても、それでもやはり彼女は十分に警戒すべき対象だったのだと思い知らされる。

 気を抜いていた訳ではないのだが、改めて気を引き締めないと。

 そんなことを考えながら、当の彼女に身だしなみを整えて貰っていた。



 女王国公館の一階大食堂は多数の人間を収容できる場所だ。

 そこに主だった人間を集めて宴が始まろうとしていた。

 ブラウンが声を張り上げる。


「はいはい! 静かに! ……それでは我らが姐さんから一言乾杯の音頭を取って貰います」


 いきなりの指名だが、それに笑顔で応えて急拵えの壇に上がる。


「――まずこのような宴を私の知らない間に準備出来るぐらい、まだまだ余裕のありそうなみんなに感謝を!」


 オレなりの賛辞に皆がいたずらっぽく笑った。

 どうやらオレを出し抜けたことを喜んでいるようだ。


「冒険者崩れの私がこの国の女王になって早一年になりました」


 聖王国の人間や山岳国の人間からすれば、オレは最初から女王だろう。

 だが本来は冒険者養成学校から逃げてきた一人の女子生徒だ。

 ギルド所属の冒険者ですらない。


「山の民を束ねてレイクサイドの宮殿を襲撃してから、もうそれだけの時間が過ぎたのです」


 ブラウンとレッドが感慨深げにこちらを見る。

 パールやマイカも懐かしそうな顔をしていた。


「あれから本当に色々ありました。国力を増強するためにレジスタンスと取引を始めました」


 ちらりとクロエを見る。

 彼女は内心を読み取らせない淑女の笑みを見せ一礼した。


「準備が整うと、自らの野望の為に聖王国との戦争を企て、山岳国をも挑発して戦争を始めました。誰がなんと言おうと私は侵略者です。……それでも、そんな浅ましい人間だと自覚しているからこそ、()()()()には幸せになって欲しいと願い、その為に動くつもりです」


 キャンベル、マグレイン、ガイ、ファズが頷く。


「――私はちゃんと女王の……為政者としての責務を果たせているのでしょうか、それを判断するのにはおそらく最低でもあと十年はかかります」


 この国の未来の象徴でもあるウィルを見ると、彼も笑顔で返してくる。


「それでも取り敢えずこの国は今日無事に1歳の誕生日を迎えることができました。……民たちも激動する環境の変化に戸惑いながらも、それなりに楽しく過ごしてくれているようです」


 本国から連れてきた将校や官僚たちが大きく頷いた。


「この先、私はこのセカイに対して挑戦状を叩きつけることになるでしょう。……それがどういう形になるかはまだ決めかねていますが」

 

 皆が真剣な面持ちでこちらを見つめてくる。

 この女王国はオレの踏み台だ。 

 オレは自分の目的を達成させる為ならば、コイツら全員を切る覚悟だ。  

 魔王復活の責任を全てクロードに押し付けて、時期が来たら安全圏から一瞬のうちに宝具を掻っ攫っていく。

 セカイ征服の道筋が整備された今、それがオレの新しい目標だ。

 きっと()()()()が来たら慕ってくれるパールやマイカたちの屍さえも踏み越えていくはずだ。……何の感慨もなく淡々と。 

 そのつもりだが。

 ――そのつもりなのだが。


「……それでも、みんなと笑いあえる結末を迎えたいと思います」

 

 ここにきて迷いが出てきてしまった。 

 オレの視線は()()()を見据えているのにも関わらず、心のどこかでこのセカイに残るのいいかも知れないと思ってしまうのだ。

 ここでバカ騒ぎを続ける生活もそれほど悪くないのかもしれないと。

 コイツらと一緒にこのセカイに骨を埋めてもいいかもしれない、と。

 この女王国公館での数か月は殺伐としたオレの人生を転換するのに十分だった。


「これからの女王国の発展とレジスタンス悲願達成、そしてみんなの幸せで輝かしい未来に! ――乾杯!」


 オレの言葉に皆も大声でグラスを掲げた。



 そこから始まる大宴会。

 元公国も聖王国も山岳国もない。

 いつの間にこんなに仲良くなっていたのかと思う。

 頼もしい限りだ。

 一人一人個性的な面々。全員に愛着がある。

 使い捨ての駒にしておくには本当にもったいない。 

 ……こんなにも慕って集ってくれている者たちをオレはどうしたらいい?


「――ねぇ、アリス様。こっちですよ!」


「もう! さっきから何難しそうな顔してるんすか? 今日はそういうのダメっす!」


 いつになくはしゃいだパールとマイカが近付いてきて、両腕に抱きついてくる。

 オレはやむなく思考を中断され、二人に両脇を抱えられながら騒ぎの中心へと引きずられていった。

 今日は余計なことを考えるのはよそう。

 せっかく皆が準備してくれた宴なのだ。


「ゴメンね。そして……ありがとう。今日は目一杯楽しむことにするわ」


 オレは二人だけに聞こえるように答える。

 二人は無言のまま絡ませてきた腕にぎゅっと力を込めてきた。




 



さて、ここから思い切った展開をしていこうと思います。

番外編ですし、いいですよね?(質問の形をとった確認です)

次回から『アナザーストーリー編』を始めます。

本編は本編で完全に完結していますから、あくまで二次創作的な感じです。 

その名も『2.5周目は大団円プレイで(仮)』!

続編ではありません。トゥルーエンドでもありません。

あくまで番外編です。

週に一回投稿できればいいなと思っています。


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