表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/28

山猫カリン、両親の馴れ初めを無理やり聞かされる。

新世代キャラの登場です。

一応この話は4話連続になっています。

カリン→ブラウン→マイカ→カリンの予定です。


「――へぇ、あの二人の馴れ初めを聞きたいんだ~?」


 ほんのつい先ほどまで穏やかだった空気が一変し、そのただならぬ雰囲気にあっしの身体が震え始めた。

 何が起こったのか分からず、その場に立ち竦むことしかできない。

 その原因は、目の前で獰猛な獣のような気配を纏い、明らかに普段誰にも見せないような笑みを浮かべたアリシア女王陛下。

 こんなの絶対に()()()()()()()()顔じゃない!

 気を抜いたら一瞬で殺されてしまいかねない、そんな恐ろしい雰囲気。

 

「――あらあら、イケナイ娘ですねぇ? ……でもそれはあの二人だけの()()()秘密ですからダメですよ?」

 

 そんな陛下の向かいに座って、剣呑な雰囲気にも全く動じることなく悠々と紅茶を飲んでいるのは、かつて影の宰相とも呼ばれていたクロエ=ターナー様。

 流石に年齢もあって既に一線から離れているけれど、いまだ陛下の相談役としては健在で、今日のように度々登城しては女王国の重要な決定事項を、議会や執政官のメンツを潰さないように細心の注意を払いながら()調()()していくのだ。

 

「でも、このカリンがどうしても聞きたいって言ってるんだし。……そこは、ねぇ? やっぱり()()()としても叶えてあげたいじゃない?」


「……そうですね。()()()()()お願いされるのですもの、少し気が引けますが、仕方ないですわよねぇ?」


 クロエ様はあからさまな溜め息をつくと、鋭い眼光であっしを射すくめる。

 こちらも違う意味で恐ろしい。

 何というか、敵に回すと死ぬより恐ろしい目に遭わされるという感じ。

 断っておくが、あっしはそんな話を振った覚えなんてないし、そもそもこの部屋の警護を始めてからまだ一言も発していない。

 しかも完璧に姿を隠していたハズ! 

 それなのに今日、この部屋の担当があっしだと気付いた二人が勝手にそんなコトを言い出したのだ。



 女王陛下の偉業を陰から支え続けていた栄えある山猫部隊が、花嫁修業・行儀見習いのような感じになってから結構な時間が経った。

 母さんや『最高の山猫』と誰もが認めたパール=ハルバート様が現役の頃は、常に死と隣り合わせだったこの役目も、女王国による平定があってからはアリシア女王陛下付きの女中としての任務が増えた。

 陛下と一緒に視察に出かけるにしても、それなりの身なりや作法が求められるようになる。山猫の所作に不備があるとそれが陛下のキズになるからだ。

 だから山猫に入隊するとそれらをクロエ様をはじめとした貴族の女性に徹底的に叩きこまれる。

 結果としてそれを会得した田舎臭い山猫が、年頃になると女王の覚えめでたい『優良物件』に早変わりするのだ。

 そして退役後それが飛ぶように()()()、と。

 今や山猫はそちらの方で有名になってしまった。

 ……そう、なってしまったのだ。

 時代の流れだから仕方ないけれど、あっしだけは、陛下の身辺警護という最重要職に誇りを持ち続けたいと心に刻んでいる。

 女王陛下の側近中の側近と呼ばれていた両親の娘として相応しい忠誠を胸に、今日もこうやって職務に励んでいた訳で――。

 



「イヤイヤ、そんなの別にいいっすよ? お二人のお手を煩わせるなんて、そのようなコト滅相もございません。……あっしは仕事に戻りますので、どうぞお二人はお寛ぎくだ――」


 慌ててそれだけ言ってから姿を隠そうとした瞬間、いきなり腕を掴まれた。

 驚いて顔を上げるといつの間にか音もなく近付いていた女王陛下が、もう何と言っていいやら表現できない恐ろしい笑顔であっしの顔を覗き込んでいた。

 その目に吸い込まれそうになる。

 これでも一応あっしは山猫の史上最年少リーダーとして一目置かれている。

 母さん譲りの身体能力と父さん譲りの洞察力は、あっしを実力至上主義で知られる山猫部隊の頂点に押し上げてくれた。

 その気になればあっしはこの女王国の誰よりも上手に姿を隠すことが出来る――はずなのに。

 それなのに、簡単に捕まえられてしまった。

 危険を感じて反射的に掴まれた腕を引き抜き、身を翻して距離を置こうするけれど、同時に陛下の身体も少しだけ揺れて、気が付けば逆に身体を拘束されていた。

 ――えッ、ナニ、今の!?

 あまりの実力差に愕然としてしまう。

 失礼なのは承知だけど、もう陛下はあっしたちのような現役世代ではないのに。

 

「そんな顔しないで? 私寂しいわ。……ホラホラ、こちらに座って」


「――はい、あったかい紅茶ですよ。まずはこれを飲んで一息つきなさいな?」


 無理矢理イスに座らされ、動けないように肩を押し付けられる。

 そして待っていたかのように紅茶がスッと差し出された。

 ……もう、なんなのさ、この連携プレー。

 


 この任につくと決まったとき、父さんからは「いいか、絶対に姐さんを怒らせるんじゃねぇぞ」と口酸っぱく言い含められた。

 母さんからは「クロエのねぇさんの命令はどんな命令であっても従え。それがあの人から身を守る唯一の方法だかんな」と言われた。

 いつもはどんなことがあってもヘラヘラしている二人が、あんな真剣な顔も出来るのだと初めて知った。

 だけど名前の出されたその二人がそこまで恐怖の存在だったなどと、当時のあっしは知る由もなかった。

 ――今日、この日までは。

 今あっしが直面しているのはまさに両親がそれぞれ恐れていたことだった。

 ……それが同時に襲ってきた、と。

 あっしは野兎のように震えることしかできなかった。



「……いただきます」


 あっしはあきらめの溜め息とともに紅茶を一口含み口を潤す。

 緊張して口が乾いていたことに今気付いた。……おいしい。

 あっしが一口二口と飲んでいる間に、二人は今まで座っていたイスをこちらに移動させて座った。

 丸いテーブルの一箇所に三人が固まる形になってちょっと狭い。

 だけど二人はそんなこと気にならないのか、楽しそうにあっしの両脇から顔を近づけて少女のように笑いあうのだ。

 あっしは文句を言うことも出来ず、ただじっと身を固めることしか出来なかった。


「そもそも、あの二人は旧公国出身でね。女王国成立直後からずっと一緒に仕事をしていたんだけど――」


 陛下の話す女王国と言うのは旧水の公国を奪い取って出来た『水の女王国』のことだろう。

 学校の歴史の授業で習ったから覚えている。

 それに両親が関わっていたことも。


「――二人が仲良くなり始めたのは女王国公館を拠点にした頃ですね」


 クロエ様が続ける。

 女王国公館というのはかつてポルトグランデにあった帝国での出先機関だ。

 そこで帝国との和平の枠組みをレジスタンス派と模索したという話だ。

 これも学校で習った。


「あの頃から何となくお互い意識していたわね?」


「初々しかったですね~」


 二人はニヤニヤしながら頷き合った。

 それを聞かされる娘のあっし。……どう反応したらいいのやら。


「そんな二人が結婚する為に一歩を踏み出すきっかけになったのはやっぱり、アレよね?」


「えぇ、間違いなくアレですね」


「……アレ、ですか?」


 怯えながらも反応するあっし。


「「そう、()()」」


 二人の声が綺麗に揃った。表情もそっくり。

 しばらく重苦しい沈黙が続いて、無言の圧力に観念したあっしは二人の待っている言葉を絞り出す。


「……アレって、何デスカ? 教エテ頂ケマセンカ?」


 その言葉を引き出すことに成功した二人の満面の笑みときたら!

 二人は顔を見合わせると初めて自分たちがお互いどんな顔をしていたのか気付いたらしく、殊更真剣な顔を作ってみせる。

 今更取り繕ったって遅いっすよ! ここまで露骨に仕向けておいて!

 反撃代わりに二人を順に睨んでやる。

 そんなあっしの表情がツボだったのか二人同時に噴き出した。

 そして二人は楽しそうにあっしの頭をもみくちゃに撫でまわし始めるのだった。



「さて、……コトの始まりは女王国が今の形になって、忙しいのがほんの少しだけマシになった頃――」


「――私たちは功労者に対して、順番にお休みを与えることにしました」


 両脇の二人があっしの顔を覗き込みながら、代わる代わる話し始めた。

 ――父さんと母さんの昔の話。

 あっしが生まれる前の、あっしが生まれるきっかけの話を――。



当初は予告通りカリンの方から両親の馴れ初めを聞きたがる話でした。

ですが書き始めて「……違うなぁ」となり、現在の形になりました。


アリスとクロエは何歳になってもそのままです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ