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ブラウン、アリスに塩の話を振ってしまう。

拙作『2周目は鬼畜プレイで』の登場人物が2頭身キャラでちまちま動く感じです。

短めです。

箸休め感覚でどうぞ。


 

 開けっ放しの窓から潮風の匂いがする。

 ここは女王国公館の会議室だ。

 姐さんがずっと何かを喋っていたが、俺は一切気にせずそれを聞き流す。

 どうせ本当に大事なことなら、姐さんはこちらの事情も関係なく呼び出して命令して終わりだ。

 だからイチイチ会議に呼ばないでくれと何度も言っているのに、全く聞いちゃくれない。

 そんなことを内心でボヤいているうちに会議終了したようだ。 

 皆が席を立つのを横目で見ながら、伸びをして固まった身体をほぐす。 

 ――腹減った。こんなときは肉だな。肉の気分だ。

 どこの店に行こうか? ポルトグランデはメシの美味い店が多い。

 アホみたいに値の張る店も多いが。


 

 一人で食うのは寂しいから誰か誘おうと、人の出入りが激しい部屋を見渡すせばレッドと視線が合った。

 が、逸らされる。

 なぜに? 別に奢れとは言っていないのに。

 ヤツの横顔を見ていると、ふと以前の話を思い出した。

 レッドと姐さんが遠出をしたときに食ったという肉の話。


「……なぁ、姐さん」


「……ん?」


 彼女は書類に目を通しながら、こちらに視線を寄越すことなく返事する。

 いつものことだから気にならない。

 俺が無視されているとかじゃないぞ。断じて。


「前にレッドと補領巡りしていたときの話なんスがね」


「……うん」


 今度は気のない返事だけ。

 もはやちゃんと聴いているのかすら分からん。

 だが、これもいつものことだ。


「姐さんと一緒に食った、狩った獣を焼いて塩振っただけの肉がめちゃめちゃウマかったって話聞いたんスけど。それに近い味の店知ら――」


 俺が話している途中、姐さんがもの凄い勢いで体ごと振り向いた。

 満面の笑みで。


「その塩、今も持ってるわよ!」


 いきなり姐さんは胸元にガバリと手を突っ込んだ。

 えっ? ちょっと見えそう!

 いつも穏やかなクロエさんが珍しく「あぁッ!」と取り乱す。

 一瞬にして間合いを詰めたパールが「見るなぁ!」と俺の眼を指で突いてきた。

 ――ッ、あぶねえぇ! 

 俺は何とかそれを間一髪で避ける。

 女王国に入ってから一番命の危機を感じた瞬間だった。

 そんなよく分からない修羅場の中でも、姐さんは平然と笑顔で布袋を俺に突き付けてくるのだった。


「はい、コレ。よかったら使ってよ。まだまだいっぱいあるから、無くなったらいつでも言ってね」


 周囲の視線を感じながら、俺はその人肌に温もった布袋を受け取った。




「ありがとうございます。……で、どうやったら美味しく食えるんですかね?」


「あまり固く焼きすぎないで、赤い部分が三割程残っているぐらいがいいわね」


 天井を見上げながら答える姐さん。

 そしてこちらを見つめ、徐々にその表情に熱が篭ってくる。

 ……これは本気だ。本気の姐さんだ!


「で、その塩をおもむろに振りかける。その塩に混ぜてある乾燥させた香草が肉の脂の湿り気で戻るときにね、ホントにいい香りがするの。まずはその匂いを感じる」


「……感じる!?」


「そう。まずは鼻で美味しく頂くの。……そして気分を盛り上げてからおもむろに脂と香草の香りと塩が溶け込んだ肉にかぶりつく!」


 そう言いながらいい笑顔で肉にかぶりつく姐さん。

 もちろん目の前に肉なんかない。

 いわゆるエア肉だ。

 だけど空腹の俺にはしっかりとその肉が見えていた。

 それにしても、姐さん、さっきの会議のときより一生懸命話してねーか?


「陛下……その、よだれが……」


 クロエさんが申し訳なさそうに持っていた布で姐さんの口元をぬぐった。


「……あぁ、ごめんなさいね」


「ほら、パールも」


 今度はパールの口元をぬぐう。

 ……なんかホントすみません。

 いつもうちの主従が迷惑をかけてます。




「あぁ! 私も肉が食べたくなってきたわ!」


 姐さんが勢いよく立ち上がり叫んだ。


「はい!」


 そんな彼女に寄り添い、握りこぶしを作るパール。


「では今日のお昼はお肉にしましょう!」


 おっ? クロエさんもなんだかノリノリじゃね?

 視線を感じてそちらを見ると、レッドが仲間に入れて欲しそうな目でこちらを見ている。


「……じゃあ、せっかくだからみんなでこの塩を使って肉にしましょう!」


 俺がそう声を上げるとみんなが目を輝かせ、こぶしを高らかに突き上げた。

 肉は正義だ!




「それでは早速――」


 クロエさんが昼食の手配する為、席を立とうとした瞬間――。


「狩ってくるわ!」「はい! お供します!」


 いきなり訳のわからないことを言い出す姐さんとパール。

 ……買ってくるじゃない。狩ってくるだ。


「……えぇぇ!?」


 思わずクロエさんが中腰のまま叫んだ。 

 そもそも肉なら既に公館に用意されている。

 ここで何人も暮らしている訳だから。

 俺たちが呼び止めるまでもなく、ポンコツ主従は2階の窓から飛び出し、街の外まで駆けて行った。

 置いて行かれた俺たち三人は絶句しながら窓の外を見降ろし、顔を見合わせることしかできなかった。


「……今の時期だと、やっぱりビッグベアかしら……」


 クロエさんがポツリと呟いた。

 ……熊!?

 仮にも女王に熊を狩らせる気なの!?

 俺とレッドは思わず彼女を二度見してしまった。






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