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無個性っていったって、キャラ設定が消えるわけじゃない

「……いや、気を取り直そう。とにかく、キャラは一人いるんだ」


 王国剣兵【女】。レア度は星1の、数合わせ用のキャラだ。

 能力も低いし画像もモブだが、コストも低い。

 解説テキストも「ガイアード王国兵。剣が得意」とかだけであり、しかも男と女で2パターン作る事によって水増しをしている。

 そして更に槍兵、重装兵、弓兵、魔法兵……といったパターンがある。その中でも剣兵は一番使いやすいバランス型だといえる。

 セイルもカオスディスティニーでのキャラの揃わない最初期では何度か使ったことがある。


「……んー。とりあえず見てみるか」


 メニュー画面から「ユニット」を選択すると、「セイル」と「王国剣兵【女】」の項目がある。

 セイルはその中から「王国剣兵【女】」を選びタップすると表示が切り替わり、王国剣兵【女】の能力が浮かび上がる。


王国剣兵【女】☆★★★★★★

レベル1/20

物理攻撃:200

物理防御:100

魔法防御:50


【装備】

・剣

・鎧


「うーん……」


 試しに自分自身の項目を選んでみると、そこにはセイルの能力が表示される。


セイル

レベル1/99

物理攻撃:300(+500)

物理防御:300

魔法防御:300


【装備】

・ヴァルブレイド(☆☆☆☆☆★★)

・鎧


【アビリティ】

・王族のカリスマ

・ヴァルスラッシュ


「……この世界の一般的な強さが分かんないんだよな……」


 カオスディスティニー基準で言えば、セイルは並居る英雄に混ざっていても「普通に戦える」レベルであったはずだ。

 となると、王国兵を一般的な基準と考えてもいいように思える……が。


「とにかく、装備だな」


 先程のガチャで出た装備をセイルの「鎧」の項目をタップし、鉄の鎧に切り替えようとする。

 すると、能力が鉄の鎧に合わせて変化する……などということはなく。

 画面には何の反応もなかった。

 何度タップしても、装備の切り替え画面は出てこない。


「んん……?」


 試しにアイテム画面から「鉄の剣」をタップしてみると、光と共にセイルの前に鉄の剣が一本ガシャンと音を立てて落ちてくる。


「……そういうシステムかあ」


 どうやらアイテムに関しては本物が出てくるらしい。

 それに気づいたセイルはアイテム欄を閉じると、ユニットの編成に移動する。

 ゲームであればコストやユニット枠の空きが並んでいたはずのそこには、今は「編成可能ユニット」と書かれた画面のみがあり、そこに王国剣兵【女】の表記がある。


 王国剣兵【女】を召喚しますか?


 そう浮かぶメッセージから「はい」を選択すると、金属板が光り……セイルの前に、一人の鎧姿の女の姿が構築されていく。

 鈍い鉄色の武骨な鎧を身に纏い、腰には剣、手には丸盾。

 兜から零れる金の髪はクセが強そうで、何処となく勝気な印象も受ける。

 鎧を纏っていても「少女」と理解できるその姿に、セイルは思わず「へえ……」と呟く。

 こんな子だったのか、と。ゲームの頃には然程記憶すらしていなかったその姿に、少し感動したのだ。

 その少女はゆっくりと目を見開くと、セイルの姿を認めビシッと敬礼をする。


「あ……っ。こ、これは王子! えっ、私ったら……も、申し訳ありません!」

「いや、構わないよ。それより、王子って呼び方はやめてほしいな。俺は……」


 セイルの姿はしているが王子じゃない、と。そう言いかけて止まる。

 そう言った時に彼女が力を貸してくれるのだろうか、と。そんな心配をしてしまったのだ。

 いや、彼女だけではない。カオスディスティニーの全てのユニットは「セイル」に付き従うわけであって「セイルの姿をした別人」に従うわけではない。

 セイルが「セイルの姿をしている別の誰か」と知れば、何処かに消えてもおかしくない者だって、当然いるだろう。

 自分の言いかけた事のヤバさに気付き、セイルはつうっと冷汗を流す。


「王子?」

「ああ、いや。俺は……堅苦しいのは好きじゃない」


 そう誤魔化すと、王国剣兵の少女は苦笑する。


「そういうわけにはまいりません。王子は私達の希望です……王子ある限り、ガイアード王国も不滅です!」

「あ、ああ……」


 僅かな罪悪感を抱きながらも、セイルはカオスディスティニーのストーリーを思い返す。

 プレイヤーの数だけいた「セイル」の一人として、セイルも……健もまたその世界を駆け抜けてきた。

 今となってはそのセイルそのものとなってしまっているのだから、何とも複雑な気分だった。


「とりあえず、聞いてほしい。今俺達が置かれている状況は非常に複雑なんだ」

「複雑、ですか?」

「ああ。まず此処は俺達の居たエシュアルク大陸じゃない……それどころか、全く違う世界のようなんだ」


 だが、彼女達の記憶がカオスディスティニー基準となっている以上、セイルもまたそれに準じてセイルを演じるしかない。

 だからこそ、セイルは一世一代の演技を始める。


「どうやら、俺達の世界は消えてしまったらしい……神を名乗る少年に、俺はそう聞かされた」

「……は? お、王子。一体何を……?」

「此処に来る直前、何をしていたか……正確に思い出せるか?」

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