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やがて本当の英雄譚 ノーマルガチャしかないけど、それでも世界を救えますか?  作者: 天野ハザマ


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死の集う城

 城の地下、とある部屋に設置された隠し扉が音をたてずに開く。

 念入りに整備されていたであろう扉は予想していなかったであろう利用者にも恩恵を発揮し、扉の奥からはセイル達が音もなく姿を現す。


「……ブチ破る必要があるかと思ったが、そうでもなかったな」

「ブチ破りたかったの?」

「いや。この手のはワンウェイドアだと思ってたからな」


 今からでもやろうかと言わんばかりのサーシャを制しつつ、セイルはそう答える。

 こういうものは外から侵入されないように中からは開かないようになっているかもと予想していたのだが、どうやらそうではなかったらしい。


「此処は、何処でありましょうか……?」

「地下であるのは確かなようですね。空気が冷たいです」


 キースとアミルが先行して部屋を調べ始めるが、この部屋には絵が一枚かかっているくらいで何も物がない。

 その絵自体も……セイルに芸術の類は分からないはずではあるのだが、あまり価値のない絵であるように見えた。

 ひょっとするとこれも「セイル」という身体に与えられたスペックであるのかもしれないし、そうではない……ただの勘違いなのかもしれない。

 どうにもそういった方面の確信は無く、セイルはチラリと絵を見るに留めた。


「くだらん絵だ。この部屋の価値を低く見積もらせる為の工作なのだろうな」

「……そうか」


 しかし、セイルの視線を目敏く追っていたらしいゲオルグの言葉でセイルは確信に至る。

 どうやら「セイルの身体」にはそういう審美眼もちゃんと搭載されていたらしい。


「セイル様、どうやらこの部屋には他に何もないようです」

「外から音も聞こえないであります。まあ、アンデッド相手では動くまで音はしないかもでありますが」

「ああ、ご苦労」


 アミルとキースの報告を受け、セイルは考える。

 魔族の死霊術士が何処にいるかは分からないが、此処からは激しい戦闘が予測される。

 そしてその中では、セイルが手を離せなくなる事態も当然予想し得る。


「サーシャ」

「ん、何?」


 セイルはカオスゲートからリペアキットを一つ取り出すと、サーシャへと投げる。

 手の中に納まる程度の小さな箱をキャッチしたサーシャはまじまじとリペアキットを眺め「今は必要ないよ?」と首を傾げる。


「今は、な。だがお前は性質上、他者からの回復を受け付けない。必要になる事もあるだろう」

「そっか、ありがと」


 最初の懸念はこれで解決した。

 しかし、突入開始していいかといえば話は別だ。

 恐らく、ここが作戦会議が出来る最後の機会だろう。

 だからこそセイルは全員を見回すと、静かに告げる。


「皆、聞いてくれ。城の中の状況は何も分からないが、此処から先は死霊術士の勢力圏内とみて間違いない。何か意見はあれば言ってほしい」

「では、僕から一つ宜しいですか?」

「ああ、クリス。遠慮は要らない」


 セイルの頷きに、クリスは「では」と前置きし語りだす。


「此処から先、僕は可能な限り聖域の展開を優先しようと考えています」

「聖域、か。確かに必要だな」


 アンデッドや魔族の能力を低下させるクリスの「聖域展開」は、この場においてはもっとも頼りになる能力と言える。

 問題はその範囲の狭さだが……移動しながら戦う分には問題ない。


「具体的にはどの程度の頻度になる?」

「そうですね……戦闘中はずっと、という形になるかと。具体的な展開場所ですが、イリーナさんの近くという事になると思います」

「私、です?」

「はい。僕は戦闘では役には立てませんが、聖域の展開を行う事でイリーナさんにアンデッド共が殺到するのを防ぐ事は可能になるはずです」


 なるほど、自分の能力が低下する「聖域」に進んで近づくアンデッドは居ないという考えなのだろうとセイルは理解する。

 そうでなくとも、聖域によってイリーナへの攻撃の遅延、ダメージの軽減は期待できる。


「良い意見だが……カオスアイ。お前魔族だろう? 聖域で何か影響はあるか?」


 イリーナの防具は魔族は姿を変えた「カオスアイ」であるし、他人面で浮かんでいるイザンナ=カオスアイも身体はともかく中身は魔族なのだ。

 聖域の影響があるかもしれないと考え問いかけるセイルに、カオスアイは「あー?」とやる気無さそうな返事を返してくる。


「ねえな。本体は今はただの服だし、この身体は精霊だ。何の問題もねえよ」

「……そうか」


 聖域の過信は出来そうにないな、と考えながらセイルはカオスアイから視線を外す。


「他の皆はどうだ?」

「死霊術士っていうのは、生かしとかないとダメなの?」

「ん!? あ、いや。そんな事は無いが……」

「そっか、分かった!」


 元気なサーシャの返事を聞きながらセイルは「間違った事は言ってないよな……」と心の中で自問する。

 事実、死霊術士を生かしておく理由は無い。

 生かしていけば面倒な事になるのが確実だからだ。

 というよりも、死霊術士を倒すのが最優先であるともいえる。


「……そうだな。今サーシャが言ったが、死霊術士を倒すのが今回の最優先目標だ。アンデッドの殲滅はそれからでも問題はない……はずだ」


 言いながらセイルがクリスに視線を投げかけると、クリスは静かに頷いてみせる。


「はい。死霊術士を倒しさえすれば、悪霊と化したもの以外は消え去るか元の死体に戻る可能性はあります」

「よし、ならば決まりだな。ゲオルグ、アミル、イリーナ、キース。お前達はどうだ?」

「フン、最優先目標が決まり、後方支援の態勢が決まった。それ以上話し合う事があるのか?」

「貴方は……」

「言い方考えろです」

「まあまあ、お二方……」


 ゲオルグを睨むアミルとイリーナをキースが宥めるが……セイルは軽い咳払いでそれを収める。


「よし、では決まりだな……行くぞ、皆!」

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