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7. 協力

 ギルド長はギルドの2階にいるようだ。ケイは階段を上がりながら溜息を吐いた。

 何故呼び出されたのかはわからないが、あまり良いことではないだろう。また面倒くさいことが起きそう気がして、少し胃が痛くなるのを感じた。

 重い足取りでリーゼに着いていくと、一番奥の部屋まで案内された。


「こちらでギルド長がお待ちになっております。どうぞ、中にお入りください」


 ケイとアリシアは、リーゼが開けた扉を通り部屋に入った。


「お待ちしておったぞ、ケイ殿」


 部屋の中にいた男がいきなり話しかけてきた。他に人がいないことから、彼がギルド長のようだ。

 歳は40代後半くらいだろうか。190cmはある身長に、鍛え上げられた筋肉隆々の体が相まって、凄まじい威圧感を感じるが、その顔には人懐っこい笑顔が浮かんでいたため、そこまで怖いイメージは抱かなかった。

 【分析】(アナライズ)でステータスを確認すると、レベル78のモンクということがわかった。確かに、他の冒険者と比べれば格段に強いが、それでもケイの10分の1ほどのステータスだった。


「どうも初めまして。ケイと申します」


 頭を下げて名乗ると、ギルド長がすぐに反応した。


「そう畏まらずに、楽に話していただいて結構。私は冒険者ギルドのギルド長であるドルフだ。呼び捨てで構わないぞ」


 豪快に笑いながら話すドルフ。

 意外と気さくな人のようだ。もっと厳格な人かと思っていたが安心した。


「わかりましたドルフさん。あの、今回呼び出した理由はなんですか?」

「そう慌てるな。とりあえず座って話そうじゃないか」


 ドルフに促され、部屋に置いてあった椅子に腰掛けた。ケイの隣にアリシアが、対面にはドルフが座り、リーゼはドルフの後ろに立って待機した。


「では早速で悪いが、ケイ殿のステータスを見せて欲しい」

「わかりました」


 やはり、呼び出された理由は【職業】(ジョブ)のレベルが関係しているようだ。

 手早く【職業】の情報を表示し、ドルフに見せる。


「ふむ、本当にレベル100の剣士なのだな」


 先に見せたアリシアとリーゼとは違い、ドルフはあまり驚いた様子を見せなかった。前もってリーゼから話を聞いていたからだろうか。


「ケイ殿が相当な実力者だということはわかった。それでは、ここからが本題だ。実はケイ殿に協力して欲しいことがあってな」


 ドルフの顔からは笑顔が消え、真面目な目つきに変わっていた。どうやら、なにか面倒くさいことを頼む気だ。


「協力、ですか?」

「そうだ。ここ最近、アルベルドの南で本来生息していないはずのモンスターが何度も発見されてな。それも、かなり強いモンスターが現れたそうで、もう8人ほど死者が出ている」


 事態は想像以上に深刻なようだ。『死者』という言葉を聞いて、気分が重くなる。


「……どんなモンスターか聞いても?」


 ケイの質問にリーゼが答えてくれた。


「冒険者の目撃情報によると、ケルベロス、ボーンナイト、キメラワームが確認されております」


 リーゼの説明を受けたケイは、眉を顰めた。

 今説明された3体のモンスターは、全て【タナトス】に登場するモンスターだった。ゲームと同じステータスだと仮定すると、この街の冒険者にとってはかなりの強敵であるはずだ。10人がかりで、やっと1体倒せるかどうか。


「現在は原因を調べるために調査団を派遣しているのだが、モンスターが手強いため難航していてな」


 なんとなく話の流れがわかった。


「……つまり、私に調査団へ参加しろと?」

「そういうことになるな。もちろん、原因が解明できればそれなりの報酬を与える。協力してくれないだろうか?」


 ドルフの真っ直ぐな視線を受けながら、ケイは考える。

 てっきり、『ちょっと強いモンスターを倒してこい』みたいなことを頼まれると思ったが、意外と難しい内容だ。モンスターを倒すだけなら簡単だが、発生の原因を調べるとなると、どうすればいいのかわからない。

 しかし、人が死んでいるのだ。断りたくはなかった。

 ゲームで得た力だが、それで人を助けられるなら助けたい。


「……協力はしますが、いくつか条件があります」

「ほう、条件とは一体何だ?」


 ドルフが身を乗り出して聞いてくる。


「一つ目は、調査は私1人だけで行うこと。調査団の方とは別で行動させてください」

「その理由はなんだ?」

「目撃されたモンスター程度なら私は単独で倒せます。それなら、調査団とは別で行動したほうが効率が良いと考えたためです」


 本当の理由を隠して発言したが、ドルフはケイの考えに気付いたのか、ケイの顔を見て不敵に笑った。


「了解した。現在活動中の調査団については、街に接近したモンスターの討伐を主な目的に変更する。調査に関してはケイ殿に任せよう」

「ありがとうございます。二つ目の条件は、私の情報を口外しないことです。あまり目立ちたくはないので」


 この条件は本心だ。これ以上他の人にレベルがバレたら、更なる厄介ごとに巻き込まれる気しかしない。なるべくリスクは回避したかった。


「その条件も飲もう。元々口外するつもりは無かったが、この場で約束しよう。ケイ殿の情報は絶対に口外はしない。他にはあるかね?」

「いえ、条件は以上です。報酬に関しては応相談ということでいいですか?」

「うむ、それで構わない」

「わかりました、そういうことであれば協力させていただきます」


そう言うと、ドルフが立ち上がりケイの手を取った。


「ケイ殿、協力に感謝する」

「冒険者になるんですから、これくらいはやらないと」

「おっと、そういえば登録手続きの途中だったそうだな。リーゼ君、手続きをよろしく頼むよ」

「わかりました。ケイ様、アリシアさん、先ほどの部屋に戻りましょう」


 リーゼに連れられて、ケイたちはギルド長の部屋をあとにした。


 部屋に一人残ったドルフは、閉まった扉を見つめながら呟いた。


「…………突如現れた謎の剣士。救いをもたらすか、それとも災いか」


 その言葉は誰にも聞かれずに、部屋の静けさに飲まれて消えていった。


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