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残酷御伽草子 吉備太郎と竹姫  作者: 橋本洋一
十一章 真実

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残酷な真実

「お待ちしておりました。吉備太郎殿」


 手柄山から帰って来た吉備太郎たちを待っていたのは、大勢の武者たちでした。鎌倉に入るなり、彼らは四人を恭しく迎えました。


「おいおい、なんだいこりゃ? 俺様たち――というより吉備太郎はいつこんなに偉くなったんだ?」


 整然と並んだ武者たちを見て軽口を叩く朱猴。蒼牙も翠羽も似たようなことを考えていました。


「右大臣さまがお待ちです。こちらへ」


 一人の若武者が吉備太郎たちを先導します。四人は怪訝な表情になりながらも付いていきます。


「何の魂胆で僕たちを連れていくのか分からないけど、これだけの人数相手に立ち回るのはあまり得策じゃないな。今の僕たちならば倒せないことはないけど、後々面倒になる」


 翠羽はそう判断して他の三人に武者たちが気づくことがないように目配せしました。

 三人は翠羽の意を汲み取って抵抗しませんでした。

 まあ吉備太郎は右大臣の名前を聞いた時点で抵抗するつもりはありませんでした。それほど右大臣のことを信頼していたからです。


 右大臣の屋敷に着いた四人は奥のほうへと案内されます。そして一室の前に若武者は止まりました。


「こちらでお待ちください。どうぞ中へ」


 促された吉備太郎たちは中に入りました。部屋の中はかなり広く、大広間と言っても過言ではありませんでした。


「久しぶりね、吉備太郎。他のみんなも随分と成長したみたいね」


 部屋の中には竹姫がいました。三ヶ月前より少し成長したみたいで、美しさにますます磨きがかかっています。


「おお! 竹姫! 久しぶりだな」


 吉備太郎は嬉しそうに竹姫に話しかけます。


「竹姫殿もお元気そうで何よりです」

「蒼牙、あなた相当鍛えられたみたいね」

「竹姫もちっとばかり背が伸びたんじゃねえか?」

「朱猴、あなたの口の悪さは変わらないみたいね」

「竹姫さん、お疲れ様です」

「ありがとう。労ってくれるのはあなただけよ翠羽」


 仲間たちの再会に喜ぶ一同でした。


 それから吉備太郎たちは右大臣が来るまで歓談をしました。


「どんな修行をしてたのよ?」


 すると開口一番に蒼牙は言いました。


「ひたすら岩を砕いていました」

「……それが修行になっているわけ?」


 疑問に思う竹姫に蒼牙は説明しようとしますが、朱猴が口を挟みます。


「犬っころは単純なことしかできねえから仕方ねえよ」

「なんだとエテ公! そういうお前は何の修行をしていたんだ?」


 蒼牙に問われて、朱猴は自慢げに言います。


「秘伝の遁術を開発していた。見て驚くぜ? 俺様独自の遁術はよ」

「ふん。拙者の『狼牙槍』に比べたらそんなものは何の意味も無い!」


「それで、翠羽の修行は何なのよ?」


 喧嘩をしそうな二人をほっといて竹姫は翠羽に訊ねます。


「仙術を習いました。おかげでどんな傷でも治せますよ」

「それは凄いじゃない! 治癒ができるのは大きな利点だわ」

「軍略も磨きに磨いたのでこれからの戦闘も楽になりますよ」


 吉備太郎は仲間たちのやりとりを見ながら微笑ましく感じました。

 しかし一方で右大臣の呼び出しは一体どんな用件なのだろうと考えていました。


「吉備太郎はどんな修行したの?」


 竹姫が優しく訊ねてきたので、吉備太郎が答えようとすると――


「ああ、待たせたようだね。遅くなって申し訳ない」


 部屋の中に右大臣が入ってきました。傍らには黒井と高木も居ました。


「右大臣さま、久しぶりですね。……少しお痩せになられましたか?」


 吉備太郎は三ヶ月前よりも痩せた右大臣に少し驚きました。

 いえ、痩せているというよりはやつれているといったほうが正確かもしれません。


「いろいろ忙しくてね。食事を摂る暇もなかったんだ。それより修行は成功したみたいで何よりだよ」


 気さくに笑う右大臣ですが、どこか疲れているみたいでした。


「そのようにお忙しいのに、僕たちを招いたのは如何なる理由ですか?」


 翠羽が訊ねると右大臣は「約束を守らなければいけなくてね」と言いました。

 朱猴は右大臣の言い方にどこか悲しみが込められているのを感じました。


「約束……? ああ、桃太郎の真実ですか」


 吉備太郎はすっかり忘れていました。

 仲間たちは初耳でしたので、何のことやらさっぱり分かりません。


「吉備太郎くん、話す前に確認したいことがあるんだ」


 右大臣は「入ってくれ」と外に呼びかけました。


 すると中に入ってきたのは高齢の老人でした。髪を短く切り込んだ、いかにも職人という風貌の男性で眼光は鋭く、その道の達人であることを否応にも理解させられる人物でした。


「お主の刀をわしに見せてくれんか?」


 突然現れた老人にそんなことを言われて戸惑う吉備太郎でしたが、何故か素直に従ってしまいます。

「わ、分かりました。どうぞ」


 吉備太郎が刀を渡すと、老人は刀を抜き、刀身を見つめました。


「なるほど直刃に鞘は黒漆太刀拵……確かにわしの作品に間違いないな」


 吉備太郎とその仲間たちは驚きました。


「あなたが父上の刀を創ったのですか?」


 老人は射抜くように吉備太郎を見つめました。値踏みしているような目でした。


「いかにも。御上に命じられて創った刀だ。銘は刻んでおらぬがな」

「どうして銘を刻んでなかったんだ?」


 朱猴が首を傾げました。


「銘を刻むことでわしとのつながり、ひいては御上とのつながりを悟らせないためだ」


 老人が分かるような分からないようなことを言いました。


「何故、吉備太郎殿の父君が、そのような刀を持ち得ていたのですか?」


 蒼牙は老人だけではなく、この場に居る全員に問いました。


「……吉備太郎くん。君の両親の名前を教えてくれるかな」


 右大臣は静かに問いました。

 吉備太郎は自分の人生が生まれる前から定められていたことなど知る由もありませんでした。

 そして今日、ようやく知ることになるのです。


「父上は雷光。母上は文殊と言います」


 右大臣はそれを聞いて溜息を吐きました。いくら覚悟していたとしても、吉備太郎に真実を告げるのは悲しいことだったからです。


 右大臣は三ヶ月前に自分が吉備太郎に殺されることを覚悟していました。しかし十五の子どもにおそろしい真実を語るのは、あまりにも残酷な行ないでした。できればしたくないし、嘘で誤魔化したかったのです。


 けれど吉備太郎の目を見ると、決して偽りを言えるようなことはできませんでした。吉備太郎の真っ直ぐな目を見てしまうとどうしても騙すことなどできませんでした。


「吉備太郎くん。これから私は真実を語る」


 右大臣は吉備太郎に向けて言いました。


「私を恨んでも構わない。しかしこれだけは約束してくれ。必ず鬼を倒すと」


 吉備太郎は右大臣が何を言っているのか理解できませんでした。そして何が言いたいのかも分かりませんでした。


「鬼は必ず倒します。約束しますよ」


 吉備太郎の言葉に右大臣は頷きました。


「では話そう。君にはツラい話になるが、堪忍してくれ」


 吉備太郎はこのとき胸騒ぎがしました。深く暗い落とし穴に落ちるような感覚を覚えました。


「はっきり言おう。君の両親は本当の両親ではない」


 広間にいる右大臣と老人以外の人間は驚きのあまり声が出ませんでした。

 いきなりの告白に吉備太郎の思考は止まりました。


「そ、それは、どういう――」


 やっと声が出た吉備太郎。しかし右大臣はなおも真実を告げます。


「君の父親の名は雷光ではない」


 右大臣は吉備太郎を哀れむように、そして同情するような目で見ました。


「真の名は源頼光。全ての武者の憧れであり頂点に立つ男だった」


 そして吉備太郎に向かって、残酷な真実を告げました。


「吉備太郎くんの本当の両親は頼光によって殺された。御上の命令でね。それには私も関わっているんだ」


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