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残酷御伽草子 吉備太郎と竹姫  作者: 橋本洋一
六章 猿

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草の者

「そういえば、信濃には『草の者』が居ますね。なんでも怪しげな術を使うとか」


 信濃の山中。吉備太郎たちは早朝から相模へ向けて歩みを進めていました。


「草の者? なんだいそれは」


 吉備太郎は初耳でしたので、話題に出した蒼牙に訊ねると「簡単に言えば間者です」と快活に答えました。


「敵の情報を仕入れたり、毒を盛ったり、罠を仕掛けたりと様々なことをしますね」

「ふうん。そうなんだ」

「あんまり友達にはなりたくないわね」


 苦笑いして竹姫も応じます。


「拙者もよくは知りませんが、昔から人同士の争いに暗躍しているらしいのです」

「人同士? なんで人が争うんだ?」


 吉備太郎にはさっぱり分かりませんでした。人同士が争うことの意味が理解できなかったのです。


「もしも鬼が居なかったら、人間同士は醜く争うでしょうね」


 竹姫は遠い目で吉備太郎や蒼牙を見ずに言いました。

「むしろ人間のほうが鬼よりも醜いところがあるのよ」


 蒼牙は否定したい気持ちでしたが、自分の家を取り潰された顛末を思い出すと、何も言えなくなりました。


「そのようなことはない。鬼を滅ぼせば日の本は平和になるに決まっている」


 吉備太郎は明るく言いました。

 本当に人を信じている者の言葉。

 そして鬼を憎んでいる者の言葉。


「……それならいいのだけれどね」


 竹姫は何も言いませんでした。

 いや言えなくなりました。


「それで、その草の者がどうして信濃に居るんだ?」

「なんでも本拠地があるらしいのです。詳細は分かりかねますが」


 竹姫は「結構有名な話なわけ?」と不思議に思いました。


「間者って誰にも知らされないようにするんでしょ? それなのに本拠地が知らされてもいいの?」


 蒼牙は「詳しくは知りませんが」と前置きしながら言います。


「有名ではないと依頼とかを受けられないのではありませんか?」

「矛盾しているわね。無名のほうが仕事をやりやすくなると思うのだけど」


 すると吉備太郎は「草の者は傭兵のようなものなのか?」と何気なく言いました。


「そうとも取れますね。しかし拙者としてはあまり頼りたくない連中でもあります」


 蒼牙は苦笑いをします。


「彼らは独自の掟を創り、朝廷の命令すら聞かない。ゆえに草の者と呼ばれています。草は誰の命令もなく、独自に生えてくる」


 吉備太郎は少しだけ草の者に興味を持ちました。そして少しだけ話してみたいと思いました。

 その希望はすぐに叶えられることになります。


 具体的には、喉元に突きつけられた両刃の武器――苦無を三人同時に知覚した瞬間でした。


「――っ!」

「……えっ?」

「……面妖な」


 蒼牙、竹姫、吉備太郎の三者三様の反応を無視して、黒い装束をした真っ白な仮面の者が問いました。


「貴様らは何用で我らが領域に入った?」


 吉備太郎の首に苦無を当てている者でした。吉備太郎は目をぱちくりさせて「旅をして居る者です」と答えました。


「では依頼をしに来たわけではないのだな?」


 さらに問われて今度は竹姫が答えます。


「そうよ! いきなり何なのよ!」


 すると仮面の者は「ならば、用はない」と殺気を放ちました。


「よそ者は始末する。それが我らの掟だ。悪いが死んで――」


 言い終わる前に、吉備太郎は鞘に納めたまま刀を振って、仮面の者の持つ苦無を叩き落とします。


「速い――」

「――遅いよ」


 吉備太郎はそのまま仮面の者の頭部めがけて納刀したまま、思いっきり刀で殴りました。


 他の仮面の者が動揺した隙を見計らって、今度は蒼牙が動きます。

 槍を使わずに素早く下にしゃがみこんで、脚払いをして転ばしました。

 予想もつかない連携。そのまま蒼牙は倒れた仮面の喉元に槍を突きつけます。


「竹姫殿は――」


 蒼牙は竹姫を見ますが、蒼牙が争っているときに既に吉備太郎によって助けられていました。

 気絶している二人と押さえられた一人。形勢は逆転していました。


「蒼牙。この人たちは?」

「多分草の者でしょう」


 蒼牙は突きつけている仮面の者、いや草の者から目を離さずに答えました。


「こんな乱暴な真似をするとは――」


「まだ居るかもしれないから、気をつけて」


 竹姫が二人に警戒を促します。


「なんでまだ居ると思うんだ?」

「あたしだったら、こうするわ」


 竹姫はとうとうと説明します。


「あたしたちを相手にするのなら、三人で相手をして、一人は隠れて様子を窺うわ」

「どうして四人で行動していると?」


 蒼牙は疑問に思って問いました。


「基本的に四人で行動するのが最上なのよ。いざとなれば二つに分けられるし、動きやすくなる。奇数だと偏りが出るし、六人だと統率が取りにくい」


 竹姫は意識のある草の者の反応を見ながら話しました。仮面をしていても動きで動揺しているのかは容易に分かります。


「それに明らかに戦闘のできないあたしが居るのだから三人で十分なのよ。でも失敗した。だから次に彼らが行なうのは援軍を呼ぶことよ。早くこの場から逃げるわよ」


 吉備太郎は蒼牙に「竹姫の言うとおりだ。早くここから逃げよう」と言いました。

 蒼牙が頷いてその場から去ろうとしました。


「おいおい。ちょっとそりゃあないんじゃねえの? お楽しみはここからだぜ?」


 のんびりとした口調。

 吉備太郎たちは十数人の草の者に囲まれていました。

 声の主は吉備太郎たちの真正面に居ました。


「いきなり里の若い連中をこうも簡単に倒しちゃうなんて驚きだ」


 おそらく男性でしょう。それにしては小柄な背丈をしています。

 しかしにじみ出る殺気は先ほどの草の者とは比較になりません。

 それに他の囲んでいる草の者と違うのは、黒い装束ではなく、真っ赤な装束を着ていることでした。

 また彼は猿面をつけていました。

 異なった装いから推測できるように、明らかに草の者でも上位の者でしょう。


「……私たちは旅のものです。あなたたちと争うつもりはありません」


 吉備太郎は慎重に刺激しないように声をかけました。


「でもなあ。掟なんだよなあ。よそ者は殺すって。くだらないけどよ」


 猿面の男は軽口を叩きながら吉備太郎に近づきます。


「あなたたちの領域に入ろうとしたのは謝ります。見逃してくれませんか?」


 なんとか戦いを回避しようとする吉備太郎。彼には分かっていました。この状況が不利だということに。


「うーん、見逃してやりたいけどよ。そりゃあ無理だわ」


 すると猿面の男は何気なく苦無を持ち、さりげなく吉備太郎に向けて投擲しました。


「――えっ?」


 その流れるような所作は吉備太郎の反応を遅らせました。

 虚を突かれたのです。


 吉備太郎は「うぉおおお!?」と驚きながら顔面に迫っていた苦無をなんとか避けました。しかし完全に避けることはできずに、かすってしまいました。


「貴様! 吉備太郎殿に何をする!」


 蒼牙が槍を猿面の男に向けます。


「いや。もう何かしたよ」


 猿面の男は底冷えのする声で言いました。


「――っ! ぐっ――」


 吉備太郎の視界が揺れています。いや視界どころか地面が揺れているような感覚。

 吉備太郎は立っていられずに、そのまま倒れてしまいました。


「――水遁、痺れ水」


 おそらく苦無に毒が塗っていたことに違いありません。

 そのまま吉備太郎は動かなくなりました。


「吉備太郎! しっかりして!」


 竹姫が吉備太郎に駆け寄ります。


「さてと。そこのお兄ちゃん。このまま俺様たちと戦うかい?」


 余裕あふれる言い方に苛立ちを覚えている蒼牙でした。

 しかし蒼牙は「拙者はどうなっても良いですから、吉備太郎殿と竹姫殿は助けてください!」とすぐさま懇願しました。


 その様子を見た猿面の男は。


「ふうん。面白い。おい。こいつらを里へ連れて行け」


 そして笑って言いました。


「吉備太郎って聞いたことがある。頭領に報告する価値があるかもな」


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