序章2話
………すっ、すごく、おおきい、です。
何がって?ラオルスクの市壁がです。遠目で見るよりも近くで見ると積み重なった石の重厚感と言うのをヒシヒシと感じるのです。で、その外と街を隔てる外門で、街に入るために審査の順番待ち中な私達です。春になると近隣の村々では跡取り以外で、一攫千金を夢見る若者達が冒険者に成ろうと街へと集まりちょっとした行列が出来る事が恒例となってます。皆、考える事は同じなんですねぇ……。で、街側も慣れたもので冒険者希望とその他の2列で対応してるようです。
ただし、ぶっちゃけ出遅れました。さっき正午を知らせる時の鐘が鳴ってましたが、私達は最後尾で並んでますが、先頭まで40~50人ぐらいの人が居るようでちょっと時間が掛かりそう……。
「も~。ちょっと多すぎでしょ。折角お昼は街で食べられると思ったのにぃ~」
「まあね、でもフィオナ仕方ないよ。この時期は冒険者に成ろうとするのは何処でも同じみたいだし」
「それそうだけど……。大体ね、モーリスやクロルが寝坊したのが悪いんじゃない。あれで出発遅れたのよ!?」
「ちょっ、確かに寝坊はしたのは悪かったけどさ、フィオナだって出発するのにお化粧がーって言ってチンタラしてたじゃねぇかよ」
「はあ?レディの準備に多少時間が掛かるのは当然でしょう?あんた達を起すのに時間とられたんだから仕方ないじゃない」
アーネストやクローディア、エリスらの仲裁でクロルのせめてもの抵抗むなしく結局は謝罪させられて、はい、お終いとなりましたが、なんだかんだ言ってもクロル自身も何時もの事で慣れ慣れになっていているようではあります。
……とは、言うものの物事は正確に伝えなくてはならないと本来はそう思うんです。ええ、これは世の真理ではないでしょうか?
モーリスやクロルを起したのは、私です。決してフィオナじゃありませんよ?序に言えば、故郷のオクル村からこの方、携帯食とは言えご飯の準備をし、アーネスト、クローディア、エリスはそれぞれ自分で起きてきますがお寝坊なモーリスやクロル、そして何よりフィオナを起したのは、紛れも無く私なのですが。後ろから3番目に起きた貴女が言う台詞では無いと思います。
もっとも、冒険者に成るための旅費や選別などでフィオナのお爺さんたる現村長がかなりの金額をフィオナに渡していて、その恩恵をもろに受けてる私以外の5人は強く言えない。だから、私も思うところはありますし、突っ込みたいとは思いますが一番年齢が低い私の立場が立場なのでスルーせざるを得ません。世の中、世知辛いです。
ん?何で私が恩恵を受けていないかですか?今までのお手伝い(よその子の3倍は働きましたよ)で得たお駄賃を貯め続け、行商のおっちゃんの抗いがたい誘惑(主に甘味類)に耐え忍んだおかげで、実はこのメンバーの中では2番目にお金持ちなのです。因みに皆には内緒ですが、現時点で1銀貨と23銅貨を持ってます。なお、100銅貨で1銀貨となり100銀貨で1金貨となります。生れてこの方金貨なんて、一度も見たこと無いので今の所関係なさそうですけどね。
そっそれにしても、正直お腹が減って仕方が無いです。それもこれも、せっかくだからお昼は街で食べよう!!ってアーネストが言い出した所為で干し肉を齧る事も出来ない。アーネストって食事とか抜いてもさほど気にならない特異な体質(私視点で)を持っているため食べなかったら一食二食抜かしても一向に気にしない人なんですよね。それにこういう時って皆、無駄に我慢強くなる所為か誰も干し肉食べようとしないのです。あの大柄でメンバーの中では一番食べるモーリスでさえ、お腹をぐーぐー鳴らしながらも我慢してるんですよ。その雰囲気をKYして齧ろうとすると皆の視線が冷たくなるので結局私も我慢せざるを得ないのです。
前の人達が羨ましい……ああぁぁ、たかが干し肉を齧るその姿すら美味しそうに見えるのは何故なんでしょうか……。