深紅の瞳~プロローグ~
「今まで育ててやったことに感謝しろよ、忌み子」
古びた薄汚い檻の前で村人が吐き捨てるように言った。石が剥き出しの檻の中にはぼろぼろのベッドが一つと鉄格子のついた申し訳程度の窓が一つだけついているが、とても人が生活できるような環境ではない。そんななかに一人の少年がいた。
「せいぜい死なねぇように頑張るんだな。まぁ無意味だろうが」
そんな村人の声に檻の中で小さく小さく踞っていた少年がビクッと肩を震わせた。村人はそれを一瞥するも、興味なさげに【強制転移】と唱えた。檻の中に光が溢れ、しかし瞬く間に消えた。
檻の中は相も変わらず薄汚れたままである。何一つ変わっていない。ただ一つ少年が消えていることを除いては。
村人は何事もなかったかのように地下牢から出ていった。
一方で、忌み子と呼ばれた少年は危険な魔物がうようよと潜んでいる破壊の森に一人、どうすることもできずに踞っていた。ぼろきれのような服は一切の防御にならないだろう。遠くからは獣の鳴き声が聞こえてきた。
「このまま、死んじゃう…のは……嫌だ、なぁ………」
今まで全く使われてこなかった声帯が産み出す音はひどく弱々しくかすれていた。生まれつき目が赤い。ただそれだけの理由で少年は忌み子、悪魔の子と罵られ、地下に閉じ込められた。更には録な食事も与えてもらえなかった。忌み子たる所以である赤い瞳からはポロポロと涙が溢れている。そのまま少年は意識を失った。
「人の気配がしたと思って来てみたけど……」
森の奥から一人の青年が姿を現した。ローブのような服を着ているため顔は見えない。青年は少年見つめ、何かを悟るとそっと抱き抱えて再び森の奥へと消えていった。
少年は目を覚ますと見覚えのない小屋の一室のベッドにいた。弱った体を必死で起こし辺りを見回していると、ガチャリという音ともにドアからローブの青年が出てきた。
「おはよう。目は覚めたみたいだね。ちょうど良かった、今果物切ってきたんだ。お腹、空いてるでしょ?」
「お兄さ…ん誰……?こ、こど…こ?何で僕……はここ、にい…るの?」
少年は体を震わせながら問い掛けた。何もわからないままでいることがひどく怖かった。青年は果物の載ったトレーをベッドサイドの棚の上に置くと優しく微笑み言った。
「ここは僕が住んでる小屋の中の寝室で、君がここにいるのは森で倒れてた君を僕が見つけて連れてきたから。そして僕が誰かって言うのは、」
そう言うと青年は徐にローブのフードを取ると、少年にグイッと顔を近付けた。
「……っ!目……赤い………!」
「んふー、そゆこと。僕も君と一緒の忌・み・子。ねぇ君、行く場所ないでしょ?僕と一緒に暮らそうよ」
青年は、一人暮らしってもう飽きちゃったしね~何て言いながらぽんぽんと少年の頭に手を乗せた。少年はされるがままの状態で茫然としている。「一緒に暮らそうよ」なんて言われるとは思いもしなかった。いつだって嫌われ疎まれ、出ていけと罵られる。森に来たのだって、村を追い出されたから。うまく働かない頭で何とか言葉の意味を捉えようとし、ようやく理解した頃には涙を溢していた。
「一緒…に……いていい……の?僕、が忌…み子……で、皆か、ら嫌わ……れる存在…でも?」
「勿論。それに僕も忌み子だしね。全く気にならないよ。知ってた?この赤い瞳は人間なんかとは比べ物にならない程の膨大な魔力を持っている証なんだよ。だからこそ僕はこの森で無事に暮らせてる。そこらの騎士なんか瞬殺できるよ。僕らは確かに人からは嫌われるけど、悪いことばかりじゃない」
そう言ってニッコリ笑うと「僕と暮らしてくれるかい?」と芝居がかった動きで少年の手を取った。
「は…い………」
何とか絞り出した声で返事をすると少年はとうとうボロボロと泣き出した。
「ほらほら、泣かないで。果物、美味しいよ?」
青年は少年を抱き締め、泣き止むまでずっと頭を撫でていた。
読了ありがとうございました。
続きを書き始めました。ある程度書けたら投稿する予定です。(3/9追記)