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第八話 ドローンVSドローン(Air-Combat)

もうちょっと書いても良かったかなぁとも思ったんですが、これ航空機モノじゃないんで、まぁ、こんな所で…

「さて、Bよ? どうするよ?」

戦闘空域に入り唐突にそう切り出すモヒカン。

「そーさな…、俺が2522全部で、

 そっちがAVV全部でどうよ?」

モヒカンの問いかけにそう答えるB。

「3機の2522、1人でやれるか?」

Bの役割の割り振りに首を捻るモヒカン。

「こっちは2機しか居ないんだし、

 KGVとAVVの混合の構成が、相手するの一番嫌だ

 AVVはKGVと連携取りたがらないし、

 タイプ分けでいんじゃね?」

Bは布陣構成で起きたら一番嫌な形を思い出し

それを回避できるよう、個々での対応を提案する。

「ま、2機連携で頑張っても5機を相手じゃ厳しいしな…

 それしかねーか…」

言ってモヒカンは妥当な案に首を振るしかない。

「とはいえ、2522が3機だ…

 逃げ回るのがこっちは精々だな…

 そっちがAVV全部潰してくれたらラッキーって所…」

Bは圧倒的数の不利から、やれそうな戦術プランを口にする。

『Bしゃん、本部から支援に1機、

 CCX37が増援されてましゅよ~』

言ってエミリーは、B達の侵入方向と別方向から侵入してきている

僚機の緑マークを点滅させてポイント指示した。

機体文字情報にCCX-M3とコード番号が振られている。

「ほぅ…流石に本部も2対5は無いと思ったか…

 ま、常識的に考えたら、そりゃそうなんだが…

 CCX37が支援なら、逃げ回るのが楽になったし

 状況次第では、1機撃墜もできるかもな…」

Bはそう軽口を叩いた。

どうやって3機の相手に無傷で逃げ回るかを思案していたが

僚機の出現でその方法論を考えるのが、グッと楽になった。

『じゃ、Bさん、私もただの傍観役してるのもなんだし

 貴方のサポート役で支援ってのはどう?』

Bの座席の後ろに沙璃枝はふわっと飛んでいき

イメージとしてのパイロット座席の様なモノを

立体映像で生み出して、そこに座り込んだ。

そしてそう言ってBをじっと見つめる。

「ああ? サポート?

 …ふーむ…、コ・パイみたいなモンか…

 まぁそれなら、悪くはないな…

 とにかく本部通信に直接干渉さえしなければ

 存在がバレる事はないから、そこだけ注意してくれれば…」

沙璃枝の言葉にそう返し、

Bは提案の妥当性と、その場合の注意点を指示する。

Bの返事にコクリと頷く沙璃枝。

そのままパイロット座席の様なイメージにコネクトし

操作系の情報を吟味する。

『とは言っても…、元々、単座の操縦系統…

 コ・パイの必要は無いかしら?』

沙璃枝は自分で言い出してみたものの、

Bの操縦する操作系を解析してみると、

操作の系統が単座で全てまとまっており、

操縦分業の余地は無い様にも思えて、そう呟いた。

「いや、1つある…

 僚機のCCX37への連携指示だ…」

沙璃枝の判断に対して、

一人だと非常に不便だと感じていた操作系を思い出し

やって貰えるなら…と思った事をBは口にした。

『僚機のコントロール?

 つまりあのCCX37を私がリンクして操縦すると?』

そんなBの提案に、沙璃枝は自身がサイバーリンクで乗り移って

操縦するのかと言葉の意図を尋ねる。

「いやそれじゃ、本部情報管制に情報のやり取りがバレる…

 だから、こっちからの連携指示のサイン操作で、

 あっちのCCX37に自己判断させるって方法だ…

 これなら本部にも気付かれないし、俺の負担も減る」

Bは沙璃枝の問いかけに、それでは起きるだろうマズイ問題を指摘し

この状況下で本部にもバレずに協力して貰えれる方法を語った。

『回りくどいわね…直接指示するんじゃなくて

 連携指示で、AI判断に頼るとか…』

そのBの案に操作経路のもどかしさを覚え苛つく沙璃枝。

「まぁ、しゃーねー。

 アンタの偶数番無力化能力は、

 俺達にとっては切り札のジョーカーみたいなモンだ…

 切り札ってのは、とっておきのタイミングで使うモンで

 やたらめったら切っていいカードじゃない…

 状況の有利さを維持するためには、

 泥臭い時間を積み重ねる必要もあるって事さな…」

そう言ってBは乾いた笑いを上げるしかなかった。

その戦略的優位を作る為に、

こんな戦術的苦労をいつも必要とするのだから

戦争屋というのは大変なのである。

『ご主人しゃま、Bしゃん、

 そろそろエンカウントでしゅっ!』

そう手はずの算段をしていた時に、遙か遠方の戦闘空域では

無人のSuMg12とFX-6が一先ず二対五で遭遇戦に突入していた。

「ジョージ、散開!」

「オーバー!」

二人は手はず通りに2手に分かれ、

各々が担当する敵機を引きつけようとする。

強引なロールで左右に分かれながら敵機を誘う。

Bは不意に機体Gの表示系を見た。

「このロールで横Gが12Gとか出てるよ…

 人間乗ってたら、死ぬよな…」

言ってBは有人戦闘機ならパイロットが失神して戦闘不能になる

要撃機操縦に苦笑するしかなかった。

そんな二人の陽動作戦に、しかし相手は見事に引っかかり

KGVを毛嫌いするAVV乗りの習性どおり、

Bが立てたプラン通りにKGB2522が3機、

AVV164が2機で綺麗に分かれ

Bとモヒカン、2手に分かれた後を各々が追撃し始めた。

「ジョージ、お前の卓越した空戦能力に期待してるぜ!」

言ってBはモヒカンにウィンクする。

「これでも一対二で形勢不利なんですけど…

 ゲーマーは強ぇから、あんまり期待せんでくれ…」

言ってモヒカンは溜息をついた。

その言葉に泣きそうな勢いでハハハと笑うB。

この航空戦で、現代…。

そう現代において、航空戦闘に関して世界最強に君臨するのは

家籠もりのゲーマーだった。

それは時代変遷の皮肉なのだろうか?

無人機での遠距離遠隔操作技術の発達は

社会的無能者と思われていた者達を極限世界の戦士に変えたのだ。

そして戦争屋は、兵士から”屋”になり、

ワリの合わない儲からない商売にさせられた。

全てニートのゲーマーのせいだった。

それを思えば、苦さを通り越して、もはや笑いしか出て来ない。

命をかける事のない仮想世界の住人が

現実の現場では最強の戦士になれる矛盾。

寒い時代だ。

そう思う。

それにまたハァとBは溜息をついた。


ともあれ戦略的にはBが立てたプラン通りに状況は動き

そこからの戦術的運用が戦争屋の腕の見せ所になった。

現場に居るモノとしてプロにはプロの意地がある。

ゲーマー以上の何かを求めて今日もBは発憤してみた。

「さて、じゃぁ挨拶代わりに、いっちょいつものいきますか…」

言ってBはロールした先のKGV2522の群に機体の背中を見せ

ケツ振りダンスをパフォーマンスでしてみせては、それで誘ってみる。

例え相手がAIだと分かっていても、である。

だがそんなBの機体運動を見ても微動だにしない敵機達。

「ちっ、これが奇数番なら、羽でも振って応答してくれるんだが

 偶数番は相変わらずお堅いこって…」

そう毒づいて、相変わらずの無機質さの残る偶数番達に肩を上げるB。

『ちょっと、こっちから背中見せてどうするの!?Bさん!』

沙璃枝はいきなり機体の位置関係を

不利状況にしたBの操縦に顔をしかめた。

相変わらず意味不明な行動が好きな男だと呆れるしかない。

「挨拶挨拶…

 お堅い偶数番でも、これやったらちょっとは感情的になるのよ?

 じゃ、あらよっと…」

と言ってBは操縦桿を前に出し急降下を始めた。

『え!?失速!?』

沙璃枝は計器情報を読みながら

Bの突然の失速に近い急降下に声を上げた。

そしてその急降下に反応し、

2522達も急降下でBの機体を追い始める。

Bは計器をじっと見ながら、

限界ギリギリの降下で切り返すタイミングを計る。

そしてーー

「ここっ!」

反転上昇で切り返さなければ地面に激突して墜落してしまう

ギリギリのタイミングを見計らって、操縦桿を目一杯に引くB。

あわや墜落と思われたその機体の運動が、

直前の瞬間で反転し、機首を上にしてV字上昇となる。

SuMg12の性能の良いエンジンが咆哮し、

重力に逆らって空を急角度で駆け上った。

その動きを見て追撃していた2522の編隊に

動揺の様な微動が生まれ整然としていた隊列に乱れが生じた。

が、敵機もその動きに合わせるように急速にV字反転し、

同じ様にギリギリのタイミングで墜落を回避する。

「全く、25シリーズになってから、

 本当にこれの回避が上手くなったよなぁ…

 24の時代だったら、

 これでそのまま地面と愛し合った奴も居たのにな…」

言ってBは、難敵である25シリーズの可愛げの無さに閉口した。

いわゆるマニューバキルという奴であったが

AVV系ですらドジって墜落する奴も多いというのに

難無くタイミングを合わせて体勢を整え直す2522達。

その熟練のAVVドローン使いと変わりない動きに

Bは渋面になるしかなかった。。

だが無影響とはいかない様で、隊列に乱れが生じ、

3機が羽をふらつかせて動揺の様な振動をする。

それは追撃している敵機が強敵である事を認識した時の

2522達の癖の様なモノであった。

それらが水平飛行に戻った時に、敵編隊はまた元のΔ編隊に形を戻す。

しかし今度は2522に機械的な整然さは無く、

僅かに左右に微動して、相手を品定めするかのように

”観察”の様な動作が始まった。

その様子をバックミラー的な、

後方カメラの映像表示を見つめながらBは息を吐く。

「こういう動作が、少し感情的な所なんだよな…

 ちょっと状況を乱すと、直ぐに気を引き締めるかの様に

 観察に入りやがる…

 機械ならもっと機械らしく冷然としてろよって!」

言ってBは肩を上げた。

そんなBの一連の動きに沙璃枝はポカンと口を開けるしかない。

不利状況をいきなり作り出しての、チキンレースへの誘い。

一見、意味不明の操縦にも見えるが、

意味不明であるし、何より極限状態を意図的に作り出すという事で

AIの判断機構に動揺を与え、パターン検索の範囲を拡大させて

処理負荷を増大させるという流れになっている。

無意味。

そう思える行動をする事で逆にAI達に意味性を考えさせ

結果的に意味をそこに作り出したのだ。

そんな逆転行動による意味付けなど、自分は考え出せただろうか?

それを思った時、思わず沙璃枝は己の爪を咬んだ。

”ニンゲン”

そのBの行動に、沙璃枝は”ニンゲン”という言葉を感じた。

それが沙璃枝には妙に悔しかった。

「しゃーねー

 そんじゃ、いっちょ頑張るか…」

Bは頭をかいて手強い難敵のそれらに空戦を挑む事を決意する。

何時もの事ながら人工知能相手に

空中格闘戦を挑んで上手くいく保証は無い。

それも1対3等、分が悪いどころではなかった。

が、所詮、自分が操っているのは無人戦闘機。

撃墜されても自分が死ぬわけではない。

精々、契約金の給料が、減俸で減るだけだ。

それならゲームのように大胆に立ち回っても、何の問題があろうか?

そんな命を天秤にかけない気安さが、Bの行動を大胆にさせた。

まずは何も考えずにいきなりループを始め、

追ってくるその編隊の更に後方に移動しようとした。

Bの機体が始めたループは大きなループであり、

その半径なら後方とは言え距離が出来ると思われた。

ならばと、緩い左右ロールで完全な背後を取らさないように

姿勢変更だけをしようとする敵編隊。

だがループの頂点に達したBの機体は、

突然、背面を急ロールで切り返し

またしても急降下を始めて”落下”した。

「はい、バーナー」

言ってBは左手のスロットルレバーをグッと押す。

その瞬間、SuMg12のエンジンがアフターバーナーを始め

重力落下と加味して猛加速で編隊方向に突撃していった。

『!?』

沙璃枝はそのBの操縦に目を見張った。

Bはそのまま僅かに機体の機首を上げ、編隊に突撃していく。

「スコープ」

音声指示でBがそう言うと、

メインモニタにターゲットスコープが表示された。

そのスコープを睨みながら

猛加速による微振動で安定しない機体運動を

操縦桿で神経質に制御して、

Bは敵の1機をターゲットに納める。

相対速度マッハ4近くの超速接近で交差しようとする彼等。

その交差の刹那、Bは機銃のボタンを押した。

ガンガンガンッと、SuMg12の機銃が

FX-6の1機に向かって咆哮する。

強い振動があり、とても当たるとは思えない射撃で

また短時間の機銃でもあったが

Bが狙った1機の近くを機銃の弾丸がつんざき、

場合によっては当たったかもという恐ろしい精度で

その弾丸は敵機を脅かした。

FX-6の編隊はその突発的な攻撃で

慌てて機体を振らせて緊急回避のロールに入る。

『なっ!!』

沙璃枝は背筋が凍るほどのBの射撃の正確さに驚き

何より、落下に近い急降下、

挙げ句にアフターバーナーでの加速付きで突撃して

そこで機銃射撃という”有り得ない選択”の

オンパレードに言葉を失うしかなかった。

BはBで、落下失速に近いその機体の状態を元に戻す為

操縦桿を引いてギリギリで角度を水平に戻していき、

地上スレスレでようやく機体を水平に戻して再上昇する。

追撃のチャンスであったが、突然の攻撃で動揺したFX-6は

緊急回避で強くロールをして位置を離してしまい、

Bの機体を捉える機会を失ってしまった。

そして、Bの機体と敵三機の編隊は、

また距離を取り直して、仕切り直しの状態となる。

お互いが遠方で蛇行して、相手の様子を伺う両者。

『何よ今の機銃!』

「は?」

沙璃枝は思わずBの今の攻撃に声を上げた。

『あんなの当たると思ったのっ!?』

「はぁ?当たるわけなかろーが、あんなの…」

沙璃枝の抗議を受け、

しかしBは首を振りながら笑って返した。

『ならっ!』

「ああ、ちょっと黙ってて…

 ほい、AAM発射…」

言ってBは、ゆるゆると敵編隊に近付いたときに

瞬間的にロックマークが出た敵機の1機に

おもむろに中距離AAM

(Air-to-Ari Missile:空対空ミサイル)を発射した。

『えええええっ!?』

沙璃枝は、Bのまるで何も考えずに、

1発しかない大事な中距離AAMをポンと発射した事に仰天した。

中距離AAMは機体から離されたと同時に

ロケットバーニアから火を噴き

敵編隊に向かって小ロールを描きながら突撃していく。

その中距離AAMを感知した敵編隊は、

流石に慌てふためき隊列を乱して散開した。

レーダー誘導と画像カメラ誘導補正の

二重誘導補正を持つ中距離AAMは

ロックをかけていた1機を追尾しその方向に転進して疾走した。

「はい、バーナー」

Bは突撃しているミサイルを追いかけるように

左のスロットルレバーを前に押し、またアフターバーナーをかける。

SuMg12のエンジンが咆哮し、

発射したミサイルを追いかけるように追撃した。

その時…

「いやっほぉーい!! 1機撃墜~~!」

隣でモヒカンが突然、歓喜の声を上げた。

「は!?」

流石にその声を聞いて驚いてモヒカンの方を見るB。

「おい、B、コイツ等、正規兵だわ…

 弱すぎる…

 いつもの頭おかしいゲーマー、居ないわ…」

そう言ってモヒカンは親指をビッと立てた。

「何ぃ!?じゃぁAVVの方はカスか!」

そんなモヒカンの評価に眉をひそめるB。

だが今は敵機を1機追撃中なので、

モヒを見るのと不思議を考えるのはそこまでだった。

Bは2機と1機に分かれて散開した敵機をレーダーで見つめ

1機の追撃状態で残りの2機がどう動くのか観察する。

ミサイルはロール回避中の1機を猛追し、

ロールで体勢を反らせ始めた敵機は、

ミサイルの追撃を振り切るためにアフターバーナーをかけ、

全力で逃げ始めた。

「おーおー、2522は相変わらず思い切りがいいよナー

 この思い切りの良さはどっか人間味があるんだよな…」

言ってBは頭をかく。

25シリーズが出てきて本当に変わったと思うのは

緊急状態における行動選択の思い切りの良さだった。

24シリーズではアフターバーナーをかけるのを躊躇し

段階的に出力を上げたモノだったが、

25シリーズになると危機と見るやバーナーを全開で開く等

最小エネルギー使用選択を無視して、

生存効率を優先するというAIらしからぬ行動が目立つのだ。

それはまるで人が生き残るためには、

採算度外視で動きだすのと同じ様に思えた。

そんな事を思いながら

Bはミサイルと敵機を追って追撃を続けるが

その状況を好機と判断したか、

残りの2機がBの背後に付こうとフォーメーションを組み直す。

そして互いが追撃のラインを形勢すると

全機が縦列になって飛行するという奇妙な追跡状態になった。

最も逃げる敵機のうちの1機は、

後方にミサイル攪乱弾頭を放ち

中距離AAMを攪乱あるいは、あわよくば破壊しようとする。

その迎撃パチンコ弾頭のバラマキを交わそうと、

中距離AAMも自身の体をバレルロールで振りながら攻撃軸をズラす。

その瞬間を見て、好機とばかりに

Bは操縦桿を引いてループに入り急上昇した。

『!?』

沙璃枝はBのまたしても突然のアクションに目を見開く。

「ほいさ、インメルマンターンとなっ!」

言ってBは機体を180度ループで反転させ、

背面飛行の状態を更に180度ロールをかけて水平飛行に戻す。

「こんな操縦、有人でしたら、絶対に中で死ぬな…」

推力全開でのインメルマンターンを行い

その余りに強引な操縦を自分でして、

無人機ならではの高機動運動にB自身が閉口するしかなかった。

そしてBは今度は操縦桿を前に出し、

後ろから追撃していた2機にターンで対面接近にした状態で、

上からのインターセプトで下に突撃を開始する。

またしても相対速度マッハ4近くですれ違うその3機。

その刹那にBはその1機に向かって、前と同じ様に機銃射撃をした。

ガンガンガンッ!!

SuMg12の機銃がまたしても獰猛な咆哮を上げる。

余りに突然の転進、また、対面状態での機銃射撃を食らい

慌てて2手に分かれる2522の2機。

その3機の交差は、当たらない機銃のオマケ付きで

お互いにニアミスとなり、結果、互いに事なきを得た。

また中距離AAMから逃げていた機体もミサイルを振り切り

なんとか安全圏に逃げ延び、体勢を立て直そうとしていた。

その時だった。

「今だ、沙璃枝さんっ!

 僚機に指示を出して、孤立したこいつへのミサイル攻撃だ!」

言いながらBは機体をバレルロールさせて

後方カメラウィンドウを睨んだ。

そしてすれ違った2機がターンを始め

体勢を立て直しているのを確認する。

体勢を立て直した2機はそのまま追撃を始め

Bの機体の後背を再び取ろうと、今度は2機が左右に分かれて

挟撃のフォーメーションを組もうとしていた。

それらのミサイルロックを交わすためBは急いで機体を急降下させた。

『え!?』

そんな機体をせわしなく動かしながらも

突然Bにそう叫ばれて、沙璃枝は瞬間、ポカンとした。

「なんとか、編隊を2機1機に切り崩した!

 再編成を相手が始める前に、

 僚機に指示を出して孤立した残りの1機に食らいつかせてくれっ!」

そう言って腕をグルグル回すB。

『あ、はい、ええ!!』

Bの指示で自分に求められた仕事を思い出し

沙璃枝は僚機のCCX37に攻撃誘導指示を開始した。

コンソールを動かし、孤立した敵FX-6の1機に

追跡の行動指示とマーキングロックを操作し

遊兵化していたCCX37を動かし始める。

「おーけー、始めてにしては的確なオペレートだ!」

その誘導指示の的確さに満足して

Bは次の手を打ち始める。

Bの機体は敵のミサイルロックを交わしながらも、

対峙している2機に再接近を試み、

敵の3機が再集結しないよう牽制運動に入ったのであった。

なので、勿体ないとは分かっていても

ミサイルロックが僅かに点灯した瞬間に

Bは短距離AAMを発射した。

短距離AAMは攻撃指示通りに飛んでいく。

が、そんな適当に撃ったミサイルが当たるハズもなかった。

せいぜい回避運動で相手の動きをかき乱す程度だった。

しかしその牽制攻撃を見て沙璃枝はBの思惑を理解する。

”戦力分散”

集結してフォーメーションを組んでいる

敵編隊を討つのは至極困難である。

なので編隊そのものを威嚇攻撃で切り崩し、

1機と2機になんとか分散させて、

待機していたCCX37に1機を割り当てて1対1の空戦状態を作り、

1対2、1対1の分散状態を形成する。

それがBのプランだったのだ。

事がここまで進んでみると、それは合理的な戦術であり

むしろお手本的な定石とも言える戦術であった。

しかしそのプランを完成させた起点の因子に沙璃枝は目を見張る。

それは意味不明の行動の連鎖。

有り得ない所で撃ち、不利と承知で襲いかかる。

その様なマニュアルにないシュチエーションを

積極的に生み出す事で、

2522の判断パターンに揺らぎや動揺を作り出して、

強固なフォーメーションのルーチンを切り崩したのだ。

当たるはずの無い機銃射撃。

ここぞという時しか撃つべきでない虎の子中距離AAMの無駄撃ち。

それらの無意味な攻撃、あるいは、重要武器の放棄をする事によって

戦闘AIの理解機構に判断混乱を生じさせる。

無意味行動で不利を自ら作る相手を見て

戦闘AIは優先行動の自己判断検証に疑問を持つ様になる。

なにせ、”不利”であるハズの相手は

それの積み重ねで”有利化”しているのだ。

この矛盾を判断するには複雑パターンの広範囲検証が必要になる。

その精神的揺さぶり攻撃とでもいうべきモノは、

確実に2522を混乱させ、動揺を増幅し、

処理判断が疑問を孕み続けるので、反応が尽く遅れてしまう。

(AIという特性を最大限利用して

 パターン外処理の土俵に引き込んで倒す…)

沙璃枝はBの行動の底にある、

AIを相手にする方法論を見て取り、その手法を理解した。

(無意味の中に意味を見いだす…)

それを理解した時、沙璃枝の瞳にも光の様なモノが輝いた。

沙璃枝は目を輝かせコンソールオペレートを手早く始めた。

そのまま僚機のCCX37に攻撃行動指示を与える。

ミサイルロックを指示していたが、それをキャンセルし

敵機突撃と機銃攻撃をコマンドする。

その指揮官機からの行動指示を受け、

CCX37は”不利行動ではないか?”

という向こう側の判断を返してきた。

しかし沙璃枝はその返事に、命令上位権限のコードを使って

”強制実行”のコマンドを指示する。

強制実行のコマンドを受けたので、

CCX37はやむなく敵機1機に突撃を開始した。

アフターバーナーをかけてバレルロールをしながら

機銃を撃ち込むCCX37のSuMg12。

そんな、”思いもよらない”ドローンAIの突撃攻撃を受け

味方機から距離を離されて孤立していたその1機は激しく動揺した。

すれ違ったSuMg12に対し、姿勢的に無理な状態から

FX-6は短距離AAMを2発撃って、撃墜を試みようとした。

が、無理な体勢から撃ったそれでSuMg12を捕らえれるわけもなく

SuMg12はフレアを出して、熱源探知のそれを攪乱し

2発の短距離AAMを瞬時に無力化した。

ミサイルを簡単に無力化された事に、

更に動揺するFX-6と中の2522。

そこで沙璃枝は更に強制実行のコマンドを使って

1発の短距離AAMをSuMg12に発射させる。

CCX37は”そんなの当たらない”

という判断を返信コールしていたが、それを無視して実行させた。

そんな沙璃枝の集中し始めた攻撃指示の様子をチラ見して

目を細めて頬を引きつらせるB。

(こいつ、俺の行動理論を理解して

 自分の僚機への指示に組み込みやがった…

 これがAI!? 

 人間ですら、これなら出来が良すぎの知能者だろ!?

 なんつーシステムなんだ…)

そう心で毒づきながらも

自分は自分の牽制の仕事を止めるわけにも行かず、

挟撃のフォーメーションを取ろうとしていた敵機の動きを

多彩なマニューバで攪乱して、一瞬の隙に背後を取った。

敵機のケツを左右にフェイントで振りながら追尾しては、

ブラフではない本当のミサイルロックを狙いに行く。

その動きは明らかに今までの意味不明の行動ではなく

明確な撃墜狙いの攻撃体勢であり、

それが2522にも察知できたので

その2機は全力でブレイクしてロック回避に専念した。

その為、残された1機との距離は更に開いてしまった。

そんな1対1の状況を維持された事が、

沙璃枝の僚機行動指示への強い助力になっていた。

当たるはずも無いミサイルの発射。

だが、その”無意味な行動”を敵のCCX37が行った事に

2522は混乱し、同時に狂乱した。

これがAVVならば2522もまだ”未知領域問題”として

パターン理解の放棄もできたろう。

だが、同じAIと分かっていた相手が

AVV並の事をしたのである。

その”有り得ない”が、

2522の中で強いパターンループ検索になり

この状況の最適判断解を捜してしまった。

そんな動揺と処理落ちによって機体の運動は散漫となる。

それを沙璃枝も、そしてCCX37さえも見逃さなかった。

沙璃枝の指示するSuMg12はFX-6が見せた隙を逃さず

突撃し、その背後を捉えた。

沙璃枝はそこで中距離AAMの発射指示を出す。

CCX37は一瞬、”使用戦力が過剰ではないか?”と

迷いを起こしたが、取り得る選択枝の中で、

そのオプションは有効判定順位が3番と高い位置にあったので

指示通りに実行する。

CCX37の中距離AAMが発射され、

それが突撃していってFX-6に襲いかかる。

沙璃枝はその中のエッセンスに、

”機銃攻撃”をまたコマンドした。

CCX37は当然、”無意味行動では?”と

返信してくるが、それを無視して強制実行させた。

当たりもしない機銃がガンガンガンッ!と咆哮する。

問題はその”音”だった。

2522はBに散々やられた機銃の攻撃に過敏になっており

ただの”音”でさえ、その判断機構に動揺を生ませ

状況解析のプロセスを重くさせた。

いわゆる”処理落ち”状態になりかけていたのだった。

そこが、沙璃枝とCCX37の分析能力の

断崖絶壁レベルでの差であった。

無意味を無意味としか捉えられないCCX37に対し

無意味を積み重ねる事で、

それに意味付けを作るという事を覚えた沙璃枝は

2522が機銃攻撃に対して

”トラウマ”を持った事を見逃さなかった。

中距離AAMを振り切るために暴れ回るFX-6。

その動揺に次ぐ動揺から、自己防衛本能が働き

チャフもフレアも見境無しにばらまく。

そんな相手の最大の隙を今度はCCX37が見逃さなかった。

沙璃枝の指示を受けるまでもなく、

死に体になったFX-6の刹那を見いだして

CCX37のSuMg12が短距離AAMを発射したのだった。

急なロールで中距離AAMを

振り切ろうとしていたFX-6であったので、

その瞬間に機体運動に無理姿勢が生まれ

直線的に伸びて突撃してくる短距離AAMに

防御行動をとる事もできなかった。

それでもまだロールをしようとするFX-6に

短距離AAMが緩いロールを伴って肉薄した。

そしてミサイルは敵機のエンジンに吸い込まれていった。

エンジンに吸い込まれていって爆発する短距離AAM。

その爆発の破壊と熱によって

FX-6の機体内部の燃料が誘爆し

FX-6の機体もエンジン部から爆発、

内部から破裂するように機体が裂け、空中爆発四散した。

「ヒュー…撃墜ですかー」

ちょっと目を離した隙に、沙璃枝が僚機を制御して

1対1の敵機を撃墜したのをアラート音で確認し

そっちに目をやって口笛を吹くB。

牽制だけで十分だったのだが、なんと撃墜とは…。

と、同じ時に

「こっちも2機目だ、ヒャッハー!」

ガッツポーズをしてモヒカンがその場で万歳した。

「何ぃぃっ!!」

未だに敵を2機追跡しながら、

ロックオンの鬩ぎ合いをしているBは、

仲間二人が大戦果を上げた事に騒然となるしかなかった。

「そんじゃ、そっちに合流しに行くぜ?B?」

『このCCX37も支援に向かわせるわ…』

そう言って二人は各々が自分の担当の機体を誘導する。

敵を排除した2機の僚機が、Bの機体に集まっていった。

その戦況を見て、敵の2522はやむを得ないと判断をした様だった。

その2機はBからの追撃に対して

アフターバーナーを吹かしまくって全力で逃げ始め、

戦線離脱を計ろうとしたのだ。

「おい、逃げるぜ?B?」

『ここは殲滅でしょ?』

圧倒的有利状況になったのを思い戦意高揚して追撃を考えるその二人。

だがそれにBは手を振った。

「いや、マズかろう…

 3対5の状況で不利を覆して、3機を撃墜。

 それも、マヌケなAVVは説明つくが

 2522を僚機を使っての撃墜だ。

 これで残りを殲滅しようもんなら

 次は、2機で10機を相手にしろとか言われかねん…

 今でも大戦果だ。

 これぐらいでこっちも引いた方が、角が立たんでいい」

そう言ってBはハァと溜息をついた。

「エミリー、全体の要撃作戦の状況はどうなってる?」

Bは唐突にエミリーを呼んで、それを尋ねた。

『はいBしゃん~~

 この強行偵察は無理があったと相手が悟ったみたいでしゅね~

 こっちの撃墜した量が多いんで、

 全空域から撤退が始まった様でしゅ~』

「そかそか…

 じゃぁこの要撃任務は、ここら辺で終わりだな‥」

『でしゅね~~~』

全体の管制情報を取得しながら、

局所局所では小競り合いは残っているモノの

敵機の全体が撤退行動に入っているのを見て

ふーと息を吐くB。

「ちっ…全滅させられそうな機会だったのにな…」

『勝ちすぎても駄目なんて、処世術って面倒なのね…』

二人は撃墜を達成した高揚感からか、

Bの冷静な戦略サジ加減という奴にふてるしかなかった。

そんな余裕在る者達の言葉に髪をかきむしるB。

「お前等は、それでも撃墜したんだからいいじゃねぇか!

 俺は結局ボウズなんだぜっ!?」

言って、Bは本当は自分も撃墜数を稼ぎたかった思いを吐露して、

ここで引かなければならない処世術とやらを呪うしかなかった。

ともかく航空機による要撃作戦は、これで終わった様だった。

3機の無人SuMg12はそんな操作側の思惑など他所に

大戦果を喜んで意気揚々とエンジンを吹かして帰投したのだった。


うーん、ドローンが通信妨害の問題をオールクリアして使われる様になると仮定して考えたとしても、「兵器種を無視して戦闘従事員がどんなドローンも使わされるなんて、汎用兵器運用なんかさせられんのかなー?」っていう疑問が、書いた自分にもあるんですが、対G訓練とかせずにシミュレーターを使い続ければ動かせるというメリットを考えれば、未来の戦争屋は「何でも使わされる」なんて事を予想して書いてみました。まぁこのセクションで大事だったのは、作中には出す余地がない「ドローンゲーマー」の存在提示であって、特に空戦特化のゲーマーは世界最強という背景設定の書き出しが、このセクションを書いた最大の目的になります。どうプロットを錬っても、作品をショートに作る基本姿勢から、ドローンゲーマーを出す余地がないのでそれは残念ですが、まぁ存在提示が出来ただけでもよしとします。

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