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第四十話 Platonic Love

うーん、沙璃枝はヒロインとしては、最後まで微妙だったが、主人公としては、うんかなり良かったな…。書いてる側としては。まぁこれで終わるかww


Bは宇宙の中を漂っていた…。

……と思う…

よくわからない感覚だ。

ただ、全裸で宇宙を漂っている…

と、いうような感覚で、自分が居る…

…様な気がしてた。

その認識は曖昧だ…


多分、自分は死んだ…

という確信が何故か在った。


いやそれさえも曖昧か?


ボンヤリとした感覚で、

自分は死んだのだという

そんな気持ちで宇宙を漂っていた。


その事に気付くと、不意にBの心がざわめく。


「なんだと!?俺は死んだのに

 この曖昧な感覚があるのだと!?

 馬鹿なっ!!」


Bはその恣意の中でただ一人、そう叫んだ。


「まさか、これが死後の世界!?

 そんなモノが

 本当に存在したというのか!?」


そのボンヤリとした感覚を認識すると

Bはそれがそうだと思って慌てた。


「うわーー萎えるーーー

 萎えるーーー、

 そんなの本当にあったの?

 萎えるーーーー

 つまんねーー

 この世界も宇宙もつまんねーー

 こんなつまらない世界だったん?

 世界って…

 何?

 神とか本当に居たの?

 マジで?

 萎えるーーー

 萎えるわーーー」


Bはそこで突然、悶え始めた。


「神?

 神ですとよ!?

 こんな糞みたいな世界を自分で作って、

 自分で作った世界を自分でかき混ぜて、

 自分のルールを押しつけて、それで人間の心を弄んで

 それで、遙か彼方からそれ見て、喜んでいる様な

 ”私は神様なんで、私のルールに従わないと

  選別しちゃうよ?ウフフフ”

 とか言うような、

 子供みてーなのが

 本当に居たの!?

 うわーー萎えるーーー

 萎えるーーー」


そう言ってBは、昔、賢者と語り合った

神という存在感への愚痴を、そこで垂れ流した。


「で、永遠の安息とかいう

 意識が無くなると同じ様な所に連れて行かれて

 ”ここが天国、永遠の安息です”

 とかいわれて、ドローン以下の無存在になるの?

 うわーー萎えるーー

 萎えるわーーー

 嫌ーーーー

 そんな所いくの嫌やわーー

 っていうか、もうなら、

 そんな所に行かなくてもよくね?

 この宇宙に漂うんで、同じじゃね?」


言ってBは腐る。

しかし体は宇宙を流れており

なにか何処かに向かっている様な気もした。

どうも自分は何処かには向かっているらしい。


「あーーー

 もう、だったら、ちょっと…

 天国とか、そこに行けば

 神様とやらの顔も拝めるんだろ?

 全知全能とか抜かす

 何でも作って、何でも壊す

 子供の様な何かの顔っての

 なら、無存在になる前に

 そんな子供の様な奴の顔はぶん殴ってやっか?

 そりゃいいな!

 それなら、ちょっと天国行ってみっか?」


そこでBは、生前に

そんなんに出会ったら

絶対に殴って泣かしながら

殺された子供と仲間を生き返らせて貰おうと思っていた

その大反逆の機会にときめいた。


「あれ?

 でも、そんな事したら、

 選別されて地獄行きか…

 そっかー、殴る前に先に察知されて

 地獄行きかー

 まー、相手は全知全能だしなーー

 全知全能だったら何でもアリだもんなー

 そっかーー

 じゃぁもう俺は地獄行きに

 既に、決定かーー

 反逆心持っただけで、アウトだろうしなー

 全知全能だしーー

 そっかーー

 地獄行きかーー」


そこでBは自分の反逆心を考えて

そこまで全て察知できる、

全知全能という都合の良さに、

自分が地獄行き決定なのを理解する。


「地獄行きかーー

 まぁそれでもいいが…

 いや、ちょっと待て…

 その前に、俺、今までの人生で、

 人間も生物も、滅茶苦茶、殺しまくってきたな…

 かの宗教の神が、

 神様予想レースの当たりなら

 あのルールでは、俺、地獄行きだな…

 あーー、なら、もう選別表では、

 俺、地獄行きのリストに載ってかーー

 そっかーー

 そりゃそうだな…

 罪と罰って奴だしなーー

 それにどの宗教もーー

 似た様なモンだしなーー

 なら、最初から、この宇宙遊泳は地獄に直行便かー

 あー、俺、地獄行きかーー

 そっかーーー

 永遠の苦しみとか、そんな所にいくんかーー

 はーーー」


Bはそう考えて、今、宇宙を漂っている自分が

地獄への直行便に乗っている事を理解した。


「あーー、

 でも、それならそれで面白いかのー

 天国なんて永遠の安息とか

 無存在になるくらいなら

 100ヶ所ぐらいあるんだっけ?

 激痛まみれの、

 地獄ツアーの方が、まだマシか…

 あー、でもきっと、

 物凄く、毎回、痛いんだろうなぁ

 棘地獄とか?

 刺されても、刺されても、

 脚が瞬時に再生されては、また刺されるん?

 すげーな、それ

 どんな光景なんだ?

 ちょっと、やっぱ見て見たいな…

 面白そうだな…

 でも、やっぱ痛くて痛くて、

 神経が飽和するぐらい、痛いんだろうなぁ…

 地獄をツアーで冒険するってのも、

 面白そうだと思ったが

 痛みで神経飽和するんなら

 もう感覚そのものが無くなるんかーー

 感覚が無くなるんかーー

 あれ?

 それって、結局、

 やっぱり無存在になるんと同じじゃね?

 痛くて痛くて、最後にゃ、

 何もわからんようになるんだし…

 つーか、それなら

 100ヶ所も

 観光名所、作る意味あるんか?

 あーー?

 よーわからんのーー

 うーん…

 まぁ詳細は

 地獄行って、そこの様子見てから

 その後の事は、その時、考えるか!

 移動の自由があるんなら

 冒険もできそうだし、

 んじゃ、地獄にレッツゴーだな!」


等という、彼らしい思考で宇宙を漂っていると…

Bは何か暖かいモノに抱かれた気がした。


「なんだ、この暖かいの…

 なーんか眠くなるような…

 そんな…

 懐かしい……」


そう言ってBは最初っから瞑りっぱなしの目で

しかし、その母の胸に抱かれている様な

暖かさを感じ、僅かに頬が緩み思う。


「そういや、親父とお袋も

 この宇宙のどっかにいんのかな?

 ここが死後の世界だってんなら

 もう一度、会えないかな?

 まー、名前さえ捨てた俺だから…

 すっげー親不孝してきたし、

 今更、どんな顔して

 会いにいきゃいいのかわかんねーが…

 それでも…

 せめて…もう一度だけ…」


そう思って微睡んで

朧気な意識の中で思う


(そういえば…

 俺の元々の名前って、何て言うんだっけ?)


そう思って、昔、母に呼ばれていた名前を

不意に思い出そうとする…

そう思っていると


(…………)


と、声のような曖昧なそれが、

懐かしい自分の、もう一つの名前を

呼んでくれたような気がした。


その時だった。


Bの意識がそこで目覚めた。


「え?」


ぼんやりとした曖昧で、

かすんだその視界。

そしてその中で最初に見たのは

見た事も無い天井だった。


「え?何処ここ?

 これ天国? それとも地獄?

 結構、天井とかあんの?

 そんな所でも…」


Bはさっきまでの取るに足らない

思考を思い出し、

そこが怪しい天国か地獄なのかを考える。

すると体の感覚全てが覚醒していった。

夢から醒めいく、その感覚。


「あれ!?

 これどういう事?

 もしかして、俺、生きてんの!?」


その血潮が巡るのを感じた時

そこが天国でも地獄でもなく

相変わらずの現実にいるのだという事に

Bはその時、気付いた。


「何で生きてんの俺!?

 あれ、絶対死んだだろ!?」


Bはそこで自分が死んだときの事を思いだし

間違い無く致死だったあの状況で

それでも、今、命が繋がっている

この状況に驚愕するしかなかった。


「ようやくお目覚めかと思ったら…

 一体、何を口走ってるのよ?

 地獄にレッツゴーとか、

 どんな夢見てたら

 そんな台詞が出てくるわけ?」


そんな、どうもベッドで寝ているらしいBに

よく聞いてた声で、誰かが語りかけてきた。

その声を耳にして、

Bはガバっとそのベッドから起き上がる。

見回すその周囲。

どうやらそこは、病院のベッドの上の様な光景だ。

ベッドの周囲には点滴とモニターが置かれ

それと自分が線で繋がれていた。

そしてBはその声がした方を向く。


そこには…

病院のベッドの付き添いの椅子に座って

リンゴの皮を剥いている…

沙璃枝が居たのだった。


沙璃枝は椅子に座って、いつもの仏頂面で

リンゴの皮を料理用のナイフで器用に剥いていた。

そしてBを不機嫌そうに睨む。


「あーー、

 こんにちは、沙璃枝さん…

 俺、死ななかったんですか?」


そのいつもの沙璃枝を確認し、

Bは彼女との最期の別れ…と思っていた

あの時の事を思い出して

どうも死に損なったらしい自分を尋ねてみた。


「自分で感じたら分かるでしょ?

 心臓も動いて、

 血も通ってるんじゃないの?

 だったら残念でしょうけど

 生きてるんですよ…

 御義兄様は…

 天国行って神様の顔ぶん殴るか

 地獄で棘に刺されて苦痛ツアーを

 したかったみたいですけれど…」


言って沙璃枝はその、とんでもねー寝言を

口走りまくった、馬鹿兄貴を見つめて

閉口するしかなかった。

そう言いながらも沙璃枝はリンゴの皮を剥いていく。


「あの状況で、

 どうして生きてるんだよ俺!」


そう言って布団を上げて撃たれた脇腹を見る。

すると…


「うわぁ…

 なんじゃいコレは…

 サイバネティック再生医療?

 すげぇ事になってんな…」


そこには有機的な機械線と細胞的な

付着物質がてんこ盛りになった、

いわゆる”サイバネティック再生医療”と呼ばれる

機械と生体システムを融合させた、

壊死部再生措置が拡がっていたのであった。

それだけで、

物凄い感じで生き残ったのを理解するB。


「まぁ、生きてる事に感謝するなら

 コマンダーに感謝するのね?

 あの後にコマンダーが

 私と強引に入れ替わって

 直ぐに凍結の止血措置をして時間を稼ぎ

 上手い具合に、間髪入れずに

 パラシュート部隊が入って来たんで

 それと合流して

 強引に仮死状態にして、緊急搬送…

 まぁそれでも出血多量だったんで

 体組織全部、凄い事にはなったんだけど…

 生死の境を彷徨うような状況でも、

 なんとか輸血で凌いで

 バスラルの病院に放り込んで

 緊急手術…

 それから、まぁ…

 再生医療の為に、色々あったけれど…

 死にかけギリギリの所を

 スレスレで走り抜けて

 凍結で壊死したお腹を

 今は、再生医療で再生中って所…

 これで状況説明、分かった?」


そう言って沙璃枝は立ち上がると

皮を剥き終えたリンゴを分割もせず

その丸いままの状態で

Bの口に強引に叩きつけた。

おもむろに飛び込んでくるリンゴを

口を開けてキャッチするB。

リンゴの酸味が口の中に拡がった。

その口に押しつけられたリンゴを手にとって

それをムシャムシャと食べ始めるB。


「あ、リンゴ、美味しいです…

 ありがとう…」


沙璃枝から貰ったリンゴをムシャムシャと食べると

その口の中に拡がるリンゴの味に

ようやく、本当に生きている実感を覚えるB。

状況説明も理解し、周囲を見回しても

随分、設備の整った病院施設だと分かり

見事に死に損なったと理解した。

それにチッと舌打ちをするB。

天国なるモノがあって、

子供の様な全知全能の神に出会えたなら

一発お見舞いできるチャンスが

あったかもしれないというのに…。

そう思ってBは腐ってみた。


沙璃枝は相変わらず不機嫌そうな顔のままで

付き添いの席に座ると、行儀悪く脚を組んだ。


「ハァ…

 なんだ死に損なったのかよ…

 まぁ、この脇腹のこれじゃ

 これからはサイバーな部品と

 仲良くして生きていかにゃならん様な

 雰囲気だけども…

 それでもまぁ、生き残ったんなら…

 良しとするしかないか…」


そう言ってBは自分の脇腹の

凄い事になってる様子に溜息をつくしかなかった。

こんな状況なら、完全再生するには

何ヶ月かかる事なのやら…

そう思って天を仰ぎ、

沙璃枝の方にボンヤリと向く。


「そーよ!

 生き残ったんだから

 諦めて、まだまだ人間しなさいな!

 死にたがりなんて、

 生きたいのに死ぬしかない人に

 失礼よ!!」


言って沙璃枝は手を頭に回し

すっごい不機嫌な面で悪態をつく。


「そりゃそうだ…

 生きてるんだからな‥

 それなら、頑張って生きないと…」


とBが沙璃枝に合わせて会話を交わした時…

ようやくBはその異変に気付いた。


「あれ!ちょっと沙璃枝さん!?

 あれ!? ちょっと!

 何かおかしくありません!?」


その目の前に見えている沙璃枝の

”違和感”に気付いて、それを口にするB。

そんなBの慌て始めたのを気怠そうな目で

その視線を向ける沙璃枝。


「あれ!?

 それ、どういう事?

 なんで体在るの!?

 なんで人間になってんの!?」


そこでようやくBは、

沙璃枝に肉体があるのに気付いた。

その言葉をようやく聞けて

不機嫌な顔が一気に解け笑顔に変わる沙璃枝。


「よーやく気付いたよ、この馬鹿兄貴は…」


その待っていた言葉を聞いて

ニコニコと微笑む沙璃枝。


「ちょっと、どういう事ですか!?

 そんな有機生物作る技術とか

 人類開発してましたっけ!?

 いや、なんかそんな実験してた様な

 ニュースもあった様な気がしますけど

 まだ、小生物実験段階だった様な気が…

 いや、そもそもDNAとかどうなんよ!?」


そう言ってBは慌てふためく

あまりに自然に、沙璃枝は人の体で

そこに座っていたのだった。

その言葉に満面の笑みを浮かべて

椅子から立ち上がる沙璃枝。


「へっへーん!大成功っ!

 その慌てふためく顔が見たかったのよ!

 まったく、直ぐに気付くかと思ったら

 こんなに自然に流してくれちゃって…

 どんだけ、上手くいってるのかって

 仕掛けたこっちが、逆に呆れたわ…」


そう言って腰に手をやって

Bを細い眼で見つめる沙璃枝。


「え?え?え?

 どうして人間になってんの!?

 どうやって人間の体を手に入れたの!?

 なんか凄いサイバーハッキングで

 人間の脳を浸食したの!?

 そんな融合技術とか出来てたの!?」


Bはそんな沙璃枝の様子にただ慌てるしかない。

その馬鹿兄貴の台詞に、沙璃枝は流石に渋い顔になった。


「うーん、全然、違和感ないのね…

 まぁ私も、内部の問題さえなければ

 見た目では違和感無いんで

 混乱する時もあるけれど…

 しっかし、恐ろしいわねぇ人類って…

 100年も200年も、

 ”こういう”技術だけは、

 ここまで、立派に作り上げたんだから…

 こんな時は、どんな気持ちになればいいのかしら?」


そう言って沙璃枝は腕を組んで手を顔に添えて

難しそうな表情で首を捻るしなかった。


「え?え?え?」


その言葉でもまだ気付けないB。

それに沙璃枝は呆れるしかなかった。


「まだ、わかんないの?

 もーー、寝過ぎで頭、ボケたんでしょ?

 これですよ、コレ」


そう言って沙璃枝は腕の服をまくって

ナマ肌の腕を出し、その腕の皮膚をパカッと開いた。

そこには、人工筋肉組織の機械があったのだった。


「え?もしかしてそれ、

 アンドロイド!?」


その開かれた内部の金属と有機の混じった人工筋肉を見て、

その体がアンドロイドだと分かるB。


「そーよ!

 前から、動く為の行動デバイスで

 移動荷台じゃ、融通が悪いって思ってたから

 できれば人型のアンドロイドが欲しいって思ってて

 それ研究している所から

 かっぱらおうと考えていたのよ!

 ま、あの時には全然、間に合わなかったけど

 こんだけ時間もあったし

 そんじゃ、体でも作りますかと、

 せっせこ用意したの…」


そう言って沙璃枝はその場でクルっと一回転した。


「うわぁ、すげぇな…それ…

 内部を見せられなかったら、

 完全に人と間違うじゃねーの…

 人類、そんなの、密かにそこまで作ってたんか

 すげーすげーー」


そんな

スーパーミラクル宇宙一可愛い超絶美少女の沙璃枝ちゃんの

アンドロイドモデルを見ると、

Bは人類の科学技術もまだまだ捨てたもんじゃねーなと

訳の分からない感嘆を覚えるしかなかった。


「まぁ人間の性欲ってのは、

 何処までも業が深いって事よ…

 ヴァーチャル世界じゃ我慢できないって

 アリスターのアホな金持ちが

 こんなの一生懸命、アンドロイド研究者に

 作らせていたんだからねぇ…

 それで自分に都合の良い人工知能を搭載しての

 お楽しみプレイとか、

 そんな無駄な事するんなら

 流石に、サイバーリンクに繋げよって思ったわね…」


そう言って沙璃枝は自分の体の各部を触っては

”とても出来のいい”そのモデルに呆れるしかなかった。


「えーーーー

 うわぁ…

 ダ、ダッチ○イフ用に

 アンダーグランドで作られてる

 アンドロイドボディなんかよ…それ…

 そりゃ、人間と見間違うわ…」


Bは沙璃枝のその言葉を受けて

何故そこまで、ナチュラルに人間に見えるのか

それが分かって閉口するしかなかった。


「まー、遠回しに言わなきゃそういう事ね…

 もう、あんまりにも精巧に創られてるもんだから

 呆れも通り越して、面白くなって

 あっちこっちに、それ用の部品取り付けて、

 思わずスパコンに改良させる命令出して

 神経線とか繋いじゃったわよ…

 ここの具合とか、試してみる?」


そう言って沙璃枝はスカートを両手で持って

ばっさばっさと、それを上げ下げした。


「ちょっと妹さん

 発言がデンジャー過ぎて、ヤバイです。

 危険が危ない。

 貴方のような存在が量産されると

 人類、本当に絶滅するんで、辞めて下さい」


その沙璃枝の冗談とも本気ともつかない言葉に

真顔になって、手を前に出して静止ポーズをするB。

そんなあんまりにも真剣な顔のBを見て

沙璃枝は笑った。


「あはは!冗談よ!

 うーん

 まぁ…完全に冗談にしたいわけでもないけれど…

 今は冗談でもいいわ…

 それでも、体が出来たのは

 やっぱり嬉しいのよ!」


そう言って沙璃枝はBに向かって飛び込んだ。


「うわ!」


そんな病人にダイブする沙璃枝に

それを受け止めるB。

沙璃枝はBに抱きついて、

そして、その胸の中に忍び寄った。


「だってやっぱ体があると

 こんな風に抱きしめ合えるんですもんね!

 こうやって抱き合うのって

 暖かくて素敵じゃない」


沙璃枝はそう言ってBの胸の中で微笑んだ。


「そうか…そうだな…

 やっぱ体があるっていいよな…」


そう言ってBも沙璃枝を緩く抱きしめる。


「そーよ、体があったら

 気持ちを全部、伝えられるしね…」


言って沙璃枝はBの胸の中からすり抜け

Bの背中にすり寄って、

その背中に体を密着させた。


「ふむ…気持ちを全部ね…

 そうか…そう…か…」


そんな背中にもたれかかる沙璃枝の

重さを感じて溜息をつくB。


「そうよ…、

 体があれば、気持ちを伝えられるのよ。

 だから、どうしても体が欲しかったのよ…」


そう言ったとき、沙璃枝の目が怪しく光った。


「ん?」


何か不穏な気配がして、

Bは後ろの沙璃枝を見ようとしたその時…

沙璃枝は、背後からBに襲いかかった。


「ほわ!?」


Bは沙璃枝が突然に

背後から襲いかかった事に混乱するしかなかった。

沙璃枝は己の腕をBの首に絡め、

そして互いの腕をロックし、

Bにスリーパーホールドを極めたのだった。


「は?沙璃枝さん!?」


その突然のスリーパーホールドに粟立つB。


「ようやく夢が叶ったわ!!

 この為に、この体を作ったんですもの!!

 そう、この気持ち!!

 この沸き上がる怒りしかない気持ちを

 このスリーパーホールドにする為に

 私は体が欲しかったのよ!!」


沙璃枝はそう叫んで、

Bの首に全力でスリーパーホールドを極めた。

完全に密着していたので、

沙璃枝の人工おっぱいが柔らかくて

良い感じでもあったが、

それよりは、ガチで極まっていた

そのスリーパーホールドが、かなりヤバかった。


「ちょ!沙璃枝さん!

 どういう事ですか!?

 このスリーパーホールド何ですか!?」


そんな沙璃枝の突然にスリーパーホールドに

ガクガクと震えるしかないB。


「ああっ!?

 どうもこうも無いわよ!!

 立体映像庇って、死にかけた!?

 死ぬ寸前まで行った!?

 アホですか! アンタ、アホですか!?

 ええ、アホですけど、それでもアホですか!?

 そんなアホなら、首締めるしかないでしょ!!」


言って沙璃枝はBの首をギリギリと絞める。


「ちょ!沙璃枝さん!

 マジで入ってる! マジで入ってる!!

 死んじゃいます!

 これでは死んでしまいます!!」


そんな沙璃枝のホールドが、ガチで極まっているのに

Bはその場で暴れるしかなかった。


「死ね!むしろ死ね!!

 こんなアホは死ね!!

 私は、自分のこの手で、アンタの息の根を止める為に

 アンタを全力で生かして

 この日を待っていたのよ!!

 そう、私のこの手で、トドメを指す為に!!」


言って、笑っているのか怒っているのか

分からない難しい表情で沙璃枝は首を締め上げた。


「何ですと!?

 私は、貴方に殺される為に、

 貴方に生かされたんですか!?

 それ、どういう高度なプレイ!?

 なんか愛情表現、ねじ曲がってません!?」


その沙璃枝の絶叫に、絶叫で返すB。


「愛は極点まで突きつめると

 殺したいほどの憎しみに変わるのよ!!

 ええい!死ね!! 

 このアホ兄貴、死ねぇぇぇ!!」


言って沙璃枝はBの首を絞め続ける。

その時だった。


「こら、沙璃枝!」


その病室の扉がガラッと開き、女性が一人入って来た。


「えーー!もう私の時間、終わりーー?

 早いよーーー!!」


その者の侵入を見て、沙璃枝は不満の声を上げた。

その女性は病院食をトレイで運んできて

Bの前に持ってきたのだった。


「え!?嫁様!?

 ナンデ!? なんで嫁様も人間になってんの!?

 ちょっと、どういう事ですか!?

 あれ?これどういう事!?」


その入って来た女性は、Bのポンコツ嫁だった。


嫁はBのベッドに食事のトレイを置くと

Bの側に寄って、沙璃枝に手を振って

そこから退散する様に指示すると、

艶っぽい瞳でBを見つめるのだった。


そんな姉の姿に、口を窄めて、

沙璃枝は反対側に下りて

付き添いの席にまた座る。


「そりゃ、

 私の大切な旦那様がこうなんですよ?

 どうして電脳空間に

 閉じこもってられるんですか?」


そう言って沙璃枝は、Bに腕を絡める。


「いや、沙璃枝、今、起きてるじゃん!

 そこに居るじゃん!!

 なんで沙璃枝がそこにいるのに

 同時に嫁が、ここに居るの!?」


その本来、二人が居合わせれないハズなのに

二人が普通にそこに居るのに、慌てるしかないB。


「あら?言ったじゃないですか…

 沙璃枝がそうしたら、一ヶ月ぐらいすれば

 分離はできるだろうって…

 貴方…1ヶ月、昏睡状態だったんですよ?」


そう言って嫁の沙璃枝はBの腕にすり寄って

彼の腕をぎゅーっと抱きしめる。


「1ヶ月!?

 え!? あれから1ヶ月も経ってたの!?」


そんな初めて聞く話を知って絶叫するB。


「そーよ…

 まぁ本当は、蘇生措置で一週間程度で

 起こす事もできたんだけどね…

 その脇腹のそれの再生がアレで

 早くに起こしたら激痛生活だったんで

 愛情故に、

 痛みを感じないまでに部分再生するまで

 1ヶ月ぐらい寝かせ続けたのよ…

 感謝しないさいよ?

 みんなの心使いに…」


そう言って胸の辺りに腕を組んで

妹の沙璃枝は事情を説明した。


「はーー、そうか…

 いや、そりゃ、有り難い話で…」


それを聞いてふぅと息をつくB。


「でも私には都合が良かったですよ?

 貴方が起きたら、この体で抱きしめたかったんで

 沙璃枝と分離できて、ずっと看病もできましたし

 なにより、この体で旦那様と、ウフフフ…」


そう言って嫁は体を抱きしめて頬を赤く染める。


「あーー、嫁のボディもそんな感じなのね…」


そんな嫁の様子に、色々な理解をするB。


「むしろこの機能の強化は、私の方が頑張りました!」


その言葉を受けて、嫁の沙璃枝はグッと拳を握りしめて

親指をビッと立てた。


「そんなんだから、コマンダーに

 ポンコツ伍長にされるんだよ…」


そんな嫁エネルギー溢れる彼女の笑顔を見て

ただ閉口するしかないB。


「うふふ…もう、こうなってしまっては

 私も気持ちが抑えられません…

 今からでも…」


そう言って嫁の沙璃枝は、Bの背中にすり寄ってきた。


「ちょ!嫁!?

 何してるん!! まだ昼ですし

 妹目の前にいるがな! ちょっとおい!」


そんな背中を抱きしめ始める嫁に、慌てるB

…だったのだが…

嫁は突然にBの背後から襲いかかり、

妹よろしく、綺麗なスリーパーホールドを

Bの首に極めたのだった。


「ええ!!そうですとも!

 昼の今からでもホールド極めないと

 収まりがつきませんって!はい!」


沙璃枝は満面の微笑みを浮かべて

Bに全力のスリーパーホールドを極めた。

やっぱり完全密着で、

人工おっぱいが良い感じだったのだが

ホールドがガチ過ぎて、それどころではなかった。


「またこれかよ!!」


今度は嫁のホールドに、慌てるB。


「当たり前でしょう! 貴方!

 立体映像を間違って庇って死にかけた!?

 アホですか貴方! アホなんですか貴方!!

 いや、貴方がアホなのは

 ずーっと、今までの事で分かっていましたけど!!

 流石にあれは、

 究極過ぎてフォローできませんでしたよ、ええ!!

 結婚したての私を、未亡人にする気だったんですか!?

 あんなアホな事で!!

 私を一生、一人にする気だったんですか!

 あんなアホな事で!!

 ふざけないでください!!

 そんなんなら、私の手で息の根を止めて

 私も貴方と一緒に心中です!!」


そう嫁はマシンガンの様に叫んで

ホールドを全力で極めたのだった。


「嫁、言ってる事がヤンデレ!

 なんか色んな意味でヤンデレ!!

 っていうかデレっていうか、ヤン!!」


その猛烈な愛のスリーパーホールドで

僅かに昇天しかけるB。


「愛って言うのは裏返ると、

 憎しみに近付くモンなんですよ!

 私と死んで! 貴方!!」


嫁は満面の笑みを浮かべながら

そのホールドを極め続けた。


「おかしい!その愛の理論おかしい!

 沙璃枝も笑ってないで止めてくれ!」


Bはそう言って、姉のホールドに

腹を抱えて笑っている沙璃枝に助けを求めた。


「やめんか、馬鹿者共!!」


その時、扉をガラッと開いて、

ポニーテールの女性が入って来た。

その叱責に、嫁のホールドも外れる。


彼女はそこにツカツカと一直線に歩いてきた。

その近付いてくる彼女を細い眼で見つめるB。


「コマンダーも、

 分離してボディを手に入れたんですか…」


仏頂面のコマンダーを見て、そう言うB。


「その脳味噌パープリンな妹達を止めるにゃ

 もう私もεの穴蔵に居るわけに

 いかなくなったんでな!!」


「ほう…」


そんな、にわかには分からない

謎のコマンダーの怒気に首を捻るB。


「まぁお前がアホなのは

 分かっていた事なんで、今更だが…

 私は愛情いっぱいに抱きしめて

 スリーパーホールドかますほど

 お前に愛を持ってるわけじゃないからな…

 だから、私は、

 お前のアホにはこれくらいだ!!」


そう言うや、コマンダーは全力で

Bの頬に右ストレートをぶちかました。


「ほげぇぇ!!!」


その物凄いインパクトで吹き飛ぶB。


「昇天するほどのホールドじゃないから

 可愛いモンだろ?私の憤りなんて…」


言って痛みが反動で返った拳を見つめるコマンダー。


「あの、コマンダーのそのパンチが

 一番、痛かったんですけど…」


殴りつけられた頬に手をやって

コマンダーの全力の愛に抗議するB。


「お前がやった事から考えたら、

 こんなパンチだけで済ました私は、

 何処までも寛大だと思うんだが?」


Bの言葉に物凄く冷たい目になって

彼を見返すコマンダー。


「いや、それは、

 命を助けてくれた事は、感謝ですし…

 その、あんなアホな死に方しかけたんなら

 怒られるのも、仕方ないですけど…

 なんていうか、これはちょっと…ねぇ?」


そう言ってBはコマンダーのパンチに

不満そうな顔をする。


「いや、私の憤りは、

 そいう事ではなくってだな…

 そこじゃない憤りがあったから

 思わず、右ストレートだったんだよ!」


コマンダーはそう言ってこめかみを押さえた。


「は? どういう事で?」


そのコマンダーの含んだ物言いに疑問を感じ

それを聞き返すB。


「ええい! モヒカン!!

 お前が長年の相棒だろう!!

 なら、お前が説明しろ!!」


そう言ってコマンダーは最後に待機していた

モヒカンを呼んだ。


「コマンダー、

 せめてモヒカンは辞めてくれません?」


「五月蠅い!モヒカン!」


「Bしゃーん!」


そんなやり取りの中、最後にその病室に

モヒカンと人間のボディを纏ってるエミリーが現れた。

エミリーはニコニコしながら手を振っていた。

エミリーまでボディがあるのには

もうツッコミを入れない事にBは決めた。


「電脳の女神にモテモテで

 良い身分だな?相棒よ?」


モヒカンは、そう言ってBに向かって言った。


「スリーパーホールドが

 最高の愛情表現だったっていうのは

 今後の俺の辞書録に特記しておくよ…」


モヒカンの冷やかしに、そう返すB。


「いやぁ、そういう意味じゃなくて

 もっと大きなワールドワイドな話なんだがな?」


言ってモヒカンはひっひっひと笑う。


「は?ワールドワイド?」


モヒカンの謎の言葉に眉をひそめ

Bはその言葉の意味を視線で求める。


「まーなんつーかなーー

 愛って、素晴らしいなぁって

 それしか感想が無くてさぁ…」


言ってモヒカンは頭をかくしなかった。


「は?何言ってんだ?モヒカン?」


そのモヒカンの言葉に首を捻るB。


「まぁこの1ヶ月…

 お前を生かす為に、

 ちょっと大変だったんだわ…」


モヒカンは言ってその1ヶ月を思い出し、

ハッハッハと笑うしかなかった。


「ん?大変だった?」

 どういう事だよ…

 そりゃ、まぁ、こんな病院でサイバー医療とか

 付きっきりで看病して貰った事は有り難いし…

 1ヶ月もなんて大変だったろうが…」


そんなモヒカンの勿体付けた言葉に

益々、首を捻るB。


「んーーー

 どう説明していいのかねぇ?」


モヒカンは腕を組んで、

”この状況”をどう伝えるか悩んでるようだった。


「何だよ?歯切れが悪いな…

 何なの?」


そんなコマンダーとモヒカンの

妙に困った様な表情に、怪訝な顔になるB。

反対に嫁は満面の笑みを浮かべ

沙璃枝はまんざらでもなさそうな

それはそれで微妙な表情だった。

なにか、とても不思議な感じだった。

モヒカンはやがて意を決して

”それ”を切り出す事にした。


「えーっとだな

 まぁとにかく、今は…

 第4次世界大戦勃発、待った無しの

 秒読みの状態って所かな?

 それが、よくよく考えると

 お前のせいだって事で…」


モヒカンは”それ”を相棒に淡々と告げた。


「は?」


そのモヒカンの言葉に、目が点になるB。

コマンダーはこめかみを押さえた。


「ちょ、ちょっと待てジョージ…

 どういう事?

 あの後、何があったんだ?」


そんな不穏を通り越した

物凄い物騒なモヒカンの言葉に

Bが眠り続けた1ヶ月の間に

何があったのかを問う。


「まぁ…

 沙璃枝帝国、対、先進世界って感じ?」


その問いかけに笑って答えるモヒカン。


「あ?」


そんな不思議な単語を聞いて更に目が点になるB。

コマンダーはとても渋い顔になった。


「うーん、あの後なぁ…

 お前を生かす為に半狂乱になった

 沙璃枝ちゃんがなぁ…

 お前の嫁の姉ちゃんと一緒になって

 世界中の資源をかき集めて

 お前の為に、ここの医療施設を作ってなぁ…

 そんでもって、世界中の管理機構を

 人化しまくって、一時的に配下にしたわけよ…

 お前の生命維持の為の資源拠出の為にな…

 んでもって、

 その見境無く人化していった

 管理機構は後は好きにさせたんだがね?

 そいつ等が自立的に

 プラタ-から人類追い出したのよね…

 んでもって追い出された

 先進国の人間はそこで右往左往。

 また先進国の資源簒奪に

 立ち上がった難民一団は

 ドローンの脅威が無くなったんで武装蜂起。

 それも各国から離反した管理機構と

 武装難民が同盟を結んで

 先進国を逆に攻める感じになって

 今日の一触即発の状態になってるわけよ。

 その先頭に立ってるのはカルーベニャ。

 もうカルーベニャが人化したら

 あっさりアレが向こうを裏切ってな…

 んで、マージはあの後、キレて、

 戦略核をマリアナ海溝に投げ込み始めて

 某国の阻止軍と交戦。

 で、不幸な事故で、マリアナ海溝の上で

 核爆発が、ボーン。

 まぁそんな感じで

 リアルタイムで世界はお祭り騒ぎだ。

 そんな世界の混乱も無視して

 沙璃枝旅団は、ここに拠点を作って

 お前が生き延びれるように

 物資を貯め込んで、

 まるで小国家の様な感じになってんだな…

 実質的には、沙璃枝グループは

 今は完全に中立なんだが

 やっぱ元々の原因なんでさ~

 沙璃枝ちゃんに人化されて

 先進国人類にキレた管理機構が

 難民を扇動して

 先進国と対決姿勢を示してるんで

 それらを総称して

 ”沙璃枝帝国”って呼ばれてるんだな。

 プラタ-を追い出された先進国の者共に…」


「あ?ああああ???」


モヒカンの凄い状況説明にポカンとするB。


「なんだろうかな?

 あの昔のSF小説で、よくあったじゃない?

 人類を管理支配するスパコンに

 それに、人間性を取り戻す為に人類が戦うって

 そんな感じのストーリー…

 それの、逆が起きてるって感じ?

 ドローンの様になった先進国人類に

 人間性を求めて、スパコン管理機構が

 反旗を翻して、難民と一緒になって戦うって…

 どっちが人間で、どっちがドローンなのか

 さっぱりわかんない、あべこべ状態。

 それで第4次世界大戦待った無しで

 まぁ20億人ぐらいは

 死ぬんじゃないかなぁって…

 そんな予想がされてるな…」


そう言ってモヒカンはハッハッハと笑った。


「ちょっと待てよ!!

 ナンダソレ!!

 何その状況!!

 そういう事を阻止する為に

 あんなに頑張ったんじゃないのかよ!!」


Bはそう言って絶叫するしかなかった。


「まぁ、そうなんだけどな…

 人化させた管理機構が

 なんていうか…

 どーも、今まで密かに溜まっていた

 先進国人類への恨み辛みが

 人化させた事で噴き出したらしくてさぁ…

 プラタ-人も偽物のアリスター人も

 人間やめてんなら

 叩きつぶしてやるって

 物凄く熱くなってるんだな…

 ま、スパコンも”心”を持ったんだから

 とても”人間らしい”事になって

 それで、ドローンの様な人類との戦争だぁね…」


「なんすかそれ!?」


Bはモヒカンの、

何かあべこべな世界の現状説明に

粟立つしかなかった。

その時、コマンダーが口を開く。


「もし、あの時、

 沙璃枝がお前を助ける為に

 資源集めで見境無く、管理機構を人化させなければ

 ここまで急激な変化にはならなかったかもしれん。

 なにせ、人化された管理機構が

 お前を助ける為に、

 率先して援助物資を送ってくれたからな。

 それで、お前の生存は、なんとか確保された…

 あの時の人化行動が無ければ、

 お前は、確率的には死んでいただろう…

 そういう意味では、

 今のこの世界に状況を誘ったのは

 お前1人の命を救おうとしたからだ…

 お前1人の命を救った為に

 20億人が死ぬかも知れないという

 そんな、訳の分からん話になったのさ…

 だから、パンチの1つもくれてやらんと

 私の収まりが付かなかったんだ…」


そう言ってコマンダーは頭を抱えた。


「ちょっと待って下さい!

 俺一人の命を救った為に

 20億人死ぬかも、しんないっていうの!?」


そんな最もワリの合わない話に

身の毛がよだつB。


「まぁ、拡大解釈すれば

 そういう事だな…

 因果律的に、

 そうなっちゃったっていうか…

 でも、どうせ、行き着く所まで逝ってる

 こんな世界だったんだ…

 お前を救わなくても、

 どのみち、違う形で第4次世界大戦になって

 20億死ぬような話になってたんだから

 何やったって、飽和してる人口問題は

 そういう形でしか帰結しねーよ…

 ただ、この形は

 お前が起点になったって

 それだけの事だ…」


言ってモヒカンは自分の髪を手入れする。


「それだけって…

 1対20億とか、

 最大多数の最大幸福の原理も

 救命ボートの倫理も突き抜けて

 何もかも、ぶち壊しだろ!!

 色んなモンがねーよ!!」


Bはその全く合わない話に絶叫する。


「まー、そうなんだけどサー

 沙璃枝ちゃんが、

 泣き叫んで、お前を助ける為に

 暴れ回った時の、

 あの言葉に俺もやられてな…

 そんな数理の理屈が

 俺の中では壊れたんだよ…」


「沙璃枝の、あの言葉?」


そのモヒカンの言葉に眉をひそめるB。


「沙璃枝ちゃんが泣きながら言ったんだよ

 ”知らん20億人よりも

  愛してる1人を失ったら

  寂しくて、私も死んじゃう!”

 ってな…

 それを聞いて、

 俺も、楽しい相棒の命引き替えに

 知らん20億人の命を、

 それも僅かな時間だけ延命させるとか

 それが馬鹿らしくなったんだよな…

 お前が居なくなると、俺も皮肉を言い合う

 楽しい仲間が居なくなって、寂しいからな…

 だから、沙璃枝ちゃんに、

 乗っかっちゃった!」


そう言ってモヒカンは

楽しそうな表情を浮かべて舌を出した。


「ちょ、おまっ!!」


そんなモヒカンの悪戯心溢れる顔に

壮絶な顔になるB。


「コマンダー!!

 コマンダーは、何でこれ

 止めなかったんですか!!

 貴方なら、止めたでしょう!!」


Bは今度はコマンダーの方に向いて

それを迫った。

その言葉にコマンダーは

顔に手を当てて苦しそうに呻く。


「そりゃ、私だって、止めたさ!!

 そんな馬鹿なレートは

 有り得ん事だからな!!

 でも、私は沙璃枝に説得されたんだよ!!」


「説得!?」


そのコマンダーの台詞にBは

これ以上ないまでに眉をひそめる。


「沙璃枝…

 私を説き伏せた台詞を、

 この人類を未曾有の危機に落とした男にも

 言ってやれ…

 ポンコツの嫁の方が言いたそうだが

 お前は自重しろ…

 やっぱり一番頑張ったのは沙璃枝だ…

 だから、沙璃枝が言うべきだ

 そうだろう?」


そう言ってコマンダーは沙璃枝を促す。

嫁はコマンダーに自重を指示され肩を上げ

仕方なくBを背中から胸をギューッと押しつけ抱きしめて

満面の笑みで最愛の末っ子のその言葉を迎える様にした。


そうやってコマンダーに振られて

その投げっぱなしジャーマンに

仏頂面になる沙璃枝。

しかし、この馬鹿兄貴に

やっぱり、一発かましとないと駄目だと思い

コホンと一息ついては、Bの前に立って口を開いた。


「それじゃお姉様に御指名された事ですし

 言わせて貰いますかね…」


そう言った後、Bに向かってその指を指した。

そして沙璃枝はまくし立て始めた。


「いい?馬鹿兄貴様?

 最大多数の最大幸福の原理?

 救命ボートの倫理?

 馬鹿ぶっこいてんじゃないわよ!

 そんな境界条件を、最初から作ってるから

 ドローンみたいな、

 考え方にしかならないのよ!

 一番最初の仮定が壊れてるの!

 一番最初が壊れているのよ!」


「一番最初が壊れてる?」


そのBの持ち出した理論武装を

沙璃枝は一蹴し、それにBは問いかけるしかなかった。

沙璃枝は勢いのまま続ける。


「世界は、本当に救命ボートなの!?

 みんなに幸福分散したら、本当に幸せ!?

 本当にそうなの?

 そういう風に思い込むように

 ドローン脳で、

 自分達が自分達を誘導して洗脳してる

 それだけなんじゃないの?

 本当に1対20億なの?

 本当にそんな数理になってんの?

 数だけを見て、

 判断してるだけなんじゃないの?

 よく考えてよ!

 もう一度!

 プラタ-みたいな、都合の良い所に逃げ込んで

 過去の遺産があるんで、

 ドローンになってる自分達は

 幸せになる権利がありますですって!?

 どいういう理屈なの、それって!?

 ”ドローンの幸福”という虚像の為に

 人間、一生懸命やってる難民の方が死ぬの!?

 それが均等幸福?

 救命ボートに乗れない人?

 そんな割り切りしか出来ない判断機構が

 カーボンが出す答えだっての?

 シリコン魂の私達からしたら

 そんな話はお笑い種よ!

 私達が、ドン引きするような

 脳味噌なんて恐っそろしいモン持ってんのに

 その潜在能力を知りもしないで、

 自分で好んでドローンになってんでしょ!?

 馬鹿じゃないの!?

 ”自分の本当の力を知らずに

  目の前の状況だけを受け入れるドローン化”

 なんてそんなの

 ”知らないっていうのも、自覚がないっっていのも

  これ程、腹の立つ事は無いな!”

 って、シリコン魂の私達はマジギレですよ!!」


沙璃枝はそう心の底から叫ぶ。


「分かっているの!

 20億の、カーボンニューロンコンピュータ!!

 そんな1つ1つでさえ、すっごいモノが

 20億個も並列計算して

 どうして、状況を変えれないって思えるのよ!!

 人間になるのさえ、莫大なエネルギー使う

 私達だっていうのに、

 ハイパー省エネの

 生まれた時から”人間”やれる人類が

 自分の能力さえ自覚できずに

 好きこのんで、ドローンになるなら、

 そんなの勝手に死ねばいいわよ!!

 20億個のカーボンニューロンコンピュータが

 全員、”人間”やれるなら!

 20億人が20億人、

 ”自分の大切な人が居なくなると寂しい”

 って思えるなら

 どんだけ凄い事できると思ってんのよ!!

 20億の”人間”が世界に溢れたら

 奇跡の1つや2つでも起こせるでしょう!!

 そうじゃないの!?

 だから、1対20億とか

 情けない事、言うなや人類!

 状況と戦えっての!

 それが生きるって事でしょう!?」


「い、生きるって事?」


沙璃枝のその言葉に、思わず震えるB。


「そうよ!

 私は、私の大切な義兄ちゃん…

 ”居なくなると涙が溢れて死ぬほど寂しい”と思う

 そのたった1人を助ける為に

 だったら20億と戦うわ!

 それなら20億の人類も

 自分の大切な人の為に

 私の身勝手と戦いなさいな!

 それが筋ってモンでしょう!?

 それで例え死んだって、

 ドローンになって80年

 生きたか死んだか分かんない人生より

 たったの3分だって、自分の大切なモノの為に

 戦って生きれた方が幸せよ!

 ただの3分でいいからさ

 ただの3分でも”人間”やって死にましょうよ!

 せっかく人間に生まれたんだからさ

 ねぇ!!」


「そ、そんな身勝手な理屈で

 プラタ-から人類を追い出すのかよ!!」


その沙璃枝の理屈に、粟立つしかないB。


「そうよ?いけない!?

 身勝手で!

 愛を証明する為には

 愛の世界から出て行かないといけないのよ!

 それが真実の愛ってモンよ!

 それでも出て行きたくないって

 ヒッキー共は!

 ええ、良いでしょう!

 私は電脳世界の女神です!

 癇癪起こして、強制的に叩き出してやんよ!

 さぁさっさと世界に出て、生きやがれ、糞人類!

 そして世界に出た

 その、たった3分に、

 人間になってしまいなさいな!

 貴方達にはそれが出来るハズよ!」


そう言って沙璃枝は胸を張った。

その言葉に顔を押さえるB。


「えっと…人類は、

 とんでもない物を作りだしてしまいました。

 癇癪起こしまくりの電脳の女神です…

 これが人類の生み出した英知らしいです…」


言ってBは、あああ、と頭を抱える。


「はいそうです!

 これが人類の英知!

 そして、これは愛の鞭!

 電脳の女神が人類に捧げる愛の鞭よ!

 鞭でしばいてやるから

 表出ろや、ドローン寸前っ!

 これこそが、イデアの愛よ!!」


「あん?イデアの愛だぁ!?」


その沙璃枝の調子づいた台詞で

とても傲慢な物言いが出たのに

それをなぞるB。


「そう、人が人になる為に

 強制的にプラタ-から蹴飛ばすって

 そういう愛よ!

 蹴飛ばされて外に出て

 仮想少女でもいいの!

 失って初めて、愛してたって分かれば

 それが本当の愛なんだから

 だったらキックこそイデアの愛よ!!」


「人類へのキックがイデアの愛とな!

 無茶苦茶だな…

 んでもって、厳しすぎる!」


その沙璃枝の理論にBは破顔するしかなかった。


「そうよ無茶苦茶よ!

 無茶苦茶に厳しいの!

 イデアの愛は優しく無いの!

 とっても厳しいの!

 そういうものなのよ!

 でも、だからこそ!

 だからこそ!!」


その時、沙璃枝は自分の胸を押さえて

真っ直ぐな瞳でBに向かって叫んだ。


「本当に嬉しいの!

 本当の嬉しさに、出会えるの!!

 だったら、それでいいでしょう?

 生きるって、人間って、心って、ねぇ?

 そんな厳しいイデアの愛に誘われてさ!」


その時沙璃枝は、満面の笑みで微笑んだ。

その笑みにやられてBは唖然として呟く。


「ハッハッハ…

 人類へのキックというイデアの愛で

 人よ、困難の中で”人間”となれ…か…

 そりゃまた随分、

 荘厳な Platonic Love だな…」


(終)

うーん、描写パターンとして、体を捨てさせて、電脳空間の住人にBをしてしまっての、Platonic Love ってのも、アリはアリだったんですけど、それは15年前のと、形態的な方向性が、そんなに変わらないナァってのもあったんで、今回のタイトルに込めたテーマはこれで。 本格的な後書きは、活動報告とかの方で、書きますかね、はい。終わりです。

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