第三十二話 師匠 (Instructor)
二話で終わらせようなんて、とんでもなく甘い考えやった…。直ぐ終わるだろう!?何を馬鹿な事を考えてたんだww あかん、賢者編は三話必要だった…。やっぱ作中最強キャラだったの…。すげぇ強ぇww
『おい、小僧…』
「あ?」
『詳しく話せ…』
「ん?」
賢者はBにそう言ってきた。
『こりゃ相当の訳ありなんじゃろ?
お主がワシの所に来にゃならんほどの…
この沙璃枝さんなる
人であるを迷う人工知能を
ワシに人と断定させるのが
本当の目的ではあるまい?』
「は…見抜かれたか…」
『どーも、ワシは”賢者”らしいからの…』
「はははは…そうか…」
『弟子が相当困っておるんじゃからの
こりゃ師匠としては手でも貸してやらんとの…』
「あ?誰が弟子だって?」
『お前の事じゃが?』
「おい…何時、俺が爺さんの弟子になった!?」
『なんじゃい、自覚がなかったんかい…
インドでは、
年上に教えを、こいに来た若者は
それで師弟関係になるんじゃぞ?
知らんかったんかの?』
「聞いた事がねぇな!
そんな話!
どうせ、爺さんのでっち上げ話だろ!?
何でもかんでも、インドのせいにしとけば
そんな気になると、思うなよ!?」
『ブラフマーも仏陀もゼロの発見も生んだ国じゃぞ?
じゃから何でもインドのせいにしとけばいいんじゃよ
カカカカ…』
「テロリストが、
どの口でそんな事をいうんだ!」
そんな師弟の語らいに、会話を聞いていただけの沙璃枝は
思わず口に手を当てて笑いを堪える。
『わしゃ自分の信念と哲学でやった事じゃからの
自分をテロリストじゃと思った事なんかないがの…』
「まったく、この爺さんは…
まぁ確かに困ってるのは事実だ…
しかし、色々有り過ぎて、
何から伝えればいいのか…」
『大事な事でいいんじゃ
些細な事は、些細な事』
「そうか…
まぁいま緊急に困ってるのは…
マージってポンコツが、
遂にどうにもならんポンコツになって
世界に核兵器をバラ巻こうとしてるって事かな
それをどうやって止めるか
分からなくて、困ってる…
それが、直ぐに直ぐ、困ってる事だ…」
『なんじゃい、遂に人類は自分の手で
自分にトドメをさす気になったんかい…
自分を諦めるには、随分時間がかかったの…』
「そんな言い方があるか!?
やろうとしてんのはマージだぞ?」
『あんなん、仲介物じゃろ?
それを本当に求めるてのは、
その後ろにおる人類じゃよ。
こんな何やっても詰んどる世界で
ようやく詰みを人類が自覚した。
それだけじゃろ?』
賢者はBの説明に冷たくそう切り捨てた。
「アンタ、本当に”賢者”だな…
俺はそこまで達観できんね…
やっぱり…」
『ワシはもう死にかけじゃからの。
ならもう、何でも好きにいえるわい』
「そういうモンか…」
『そういうモンじゃ』
その師匠の言葉に、その師弟は思わず二人で
ハッハッハと電脳空間の中で笑うしかなかった。
「しかし、まだ寿命がたっぷり残ってる
俺達にゃ、
はい、じゃぁ人類全滅します…
なんて達観はできんのだよね…」
『それが若者の特権じゃろ?
死にたくなきゃ、生きろ
それだけじゃ…』
「そうだな…
で、生きる努力をするのが
この目の前の彼女なんだな…
マージのポンコツを止める鍵が
どーも、この沙璃枝らしいんだよ…」
『ほぉ?こんな可愛い嬢ちゃんが
人類の未来の命運握っとるんか?
ははぁ?
もう人類全部失敗と認めて
超越者作って、
精神の頂点の座を
譲る気になったって事かいの…
随分、人類、終わる寸前になったら
賢くなったようじゃの…』
「どうしてそういう解釈になる…」
『違うんか?』
賢者は脳を揺らしながら、
本気とも冗談とも思えない調子でそう言って笑った
「まぁもしかしたら、
それが一番の正解かもしれんが…
この沙璃枝さんを作った人は
この沙璃枝さんを人間にして
マージを止めたいらしい…」
『この沙璃枝さんを作った人?
ん?なら、もしかして
この子を作ったのは、大井のアホか?』
「え?なんで分かった爺さん…
大井博士を知っているのか?」
突如、大井博士の名前が出て、驚くBと沙璃枝。
『知ってるとも!
大井のアホとは、お前さんと同じくらい
顔なじみじゃからの…
小僧もワシの事を知っとるじゃろうが?
ワシの所には、”色んなの”が来る…
人生に迷った、”色んなの”がな…。
そうか…サリエか…
ワシも、もう耄碌しとるのぉ…
サリエといえば、大井のアホじゃったのぉ…』
「なんだよ…
大井博士もアンタと顔なじみだったのかよ…」
「お父様が…」
『お父様?
沙璃枝さん、アンタ大井の心の嫁じゃないんか?
そういえば、母親がとか言っとたの…
ははぁ?
あのアホもようやく、
娘だというのに、気付いたんかい。
それで、こんな超越者をのぉ…』
「娘だと気付いた?」
『失った精神の嫁を作りたいとか
アホな事を抜かし続けておったからの…
自分の隣に、もうずっと嫁が居るのに
何を言うとるんじゃ、このアホはと…
面白いから黙って見とったが…
自分で、答えに辿り着いたらしいの…
で、あのアホはどうした?』
「死んだ…」
『死んだ?
はぁ…遂にあのアホも死んだか…
そりゃ少し寂しいのう…』
「そうだな、俺としても寂しいんだがな…
ともかく、この子が人になるのを引き替えに死んだ。
今、思えば、宿敵ならがら、見事な最期だったかな…」
『ふむ…で、娘にマージを止めるように
命引き替えに、超越能力を与えたとか
そんな感じかの…』
「アンタ、”賢者”すぎるよ…
話が早くて助かるが…
詳細なのを飛ばせば、そんな所だ…」
Bはそんな賢者の理解の早さに閉口するしかなかった。
『細かい事は、よくわからんが
だいたいは分かったかの…
まぁそんだけでええかの…
で、ワシに何を聞きにきたんじゃい?
マージをこの子が止めるのに
何かに困ってるから、ワシの所に来たんじゃろ?』
「マージの止め方」
『ぶっ壊せばよかろう?
どうせポンコツ機械じゃ』
「それじゃ、大井博士がな…
どうせ、新品のマージを作り直して
営々と同じ事になるだけだって言い残してな…
マージの本当の止め方を求めているのさ…
大井博士は、この子に心が出来て
それを武器にできたら、止めれるって
よーわからん謎謎を残して逝ってしまってな…
その謎謎解きさ…」
『それ、何所が謎謎なんじゃ?
それが答え以上の
何物でもないと思うんじゃが?』
「は?」
賢者のその言葉に、一瞬頭が白くなるB。
『この子に心が出来ればマージは止めれるじゃろ?
いや、もうこの子には心もあるようじゃし
それで終わりじゃないのかの?』
「どうしてだよ?
どうして心ができたらマージが止まるんだ?
それ、どう繋がるんだよ?」
「………」
Bは賢者の言葉に憤り、沙璃枝はその言葉に考え込んだ。
『小僧…お前は、
まだまだじゃのー
不出来な弟子を持つと師匠は悲しいぞい…
簡単な事じゃろ?』
「簡単な事?」
『マージは所詮、人の心の映し鏡
人の願望の形じゃよ…
形としては歪じゃがな…
マージが永遠に生まれるのは、
人が永遠にそれを求めるからじゃ
あんなプラタ-の様な紛い物の中に居る為にな。
なら、貫かにゃ、ならんのは
映し鏡の方ではなく、その後ろにいる
人間の心の方じゃろ?
そして人間の心を変えるには、
人間の心で変えるしかあるまいて
たったそれだけじゃろ?』
「マージは…映し鏡…」
「……こりゃまいったな
今まで彷徨って、考えてきた事を
一瞬で答えられるなんてな…
爺さん…
俺はとんだ回り道をしてたらしいな…
アンタに最初に会いに来れば…
それが簡単に分かったんだな…」
『はっはっは!
それは違うかもの!』
その時賢者は大声で笑ってBの感想を一蹴した。
「なんでだ?」
『答えを最初から知ってしまっては
答えの本当の意味が、逆に分からんからの…
答えとは、散々、探し回って、探し回って
自分の中に何時の間にか浮かび上がってきて
それを掴んだとき、その全部が答えじゃよ…
探す過程が抜けてしまえば
”分かったつもり”になるだけ
違うかの?』
「探す過程、全てが答え?」
『数学の証明と、同じじゃろ?
数学の公式を、ただ覚えるのと
その公式が、”どうしてそうなのか”を証明する事。
同じ公式を、知る分かるにしても
その2つのやり方では全然違う。
最初から公式しか知らんのと
その公式を分かるまでに、
散々、寄り道をして
違う事を沢山考えて、間違って
それでようやく辿り着いた公式の理解は
同じ公式でも、それを”使える力”が全然変わる。
無駄に寄り道をして得た、
”その公式以外の様々”が
さらにその公式に力を与えるんじゃ…
しかし、”分かる”とは、つまりそいう事じゃ
無駄と思える過程…
それが無意識の様に上を支えて
初めて、本当の力になって”分かる”じゃよ…
幸せの青い鳥だって、そうじゃろ?
チルチルミチルが、鳥を捜しにも行かずに
自分の家の中にある鳥かごの鳥が”青い鳥”だと
最初から言われて、そうだと思い込めば、
それで何が”分かる”んじゃい?
”幸せを探しに行く過程”がすっぽり抜ければ
そこにあるものが、幸せなのだと
気付く事もできんじゃろうて…
”過程”があるからこそ、
答えを聞いたときに、
それが本当の力になるんじゃ…
なら、それは無駄とはいわんの…』
「は…
そう…だな…
そりゃそうだ…
流石、”賢者”様だ…
俺の師匠と言い張るだけの事はある…」
『ワシの人生の感想じゃからの…
わしはずっと、
こんな形でも探しておるんじゃ
しかし、この過程こそが、
結局は答えそのものなんじゃろ…』
「ははは…」
『カカカカ』
二人はその時、お互いに笑い
お互いがしてきた、無駄と思える探索の日々に
お互いが思いを馳せるしかなかった。
『しかしわかったぞい…
お主が何をする為に、
ワシの所に来たのか…』
「分かるのか?」
『賢者じゃからな…』
「ほぉ…」
『具象化じゃな?』
「…む
当たりだ…
なんでそれが分かるのか…
…なんて…理由は聞かなくてもいいのかな?」
『見たままじゃからの…
既に心が、その娘さんにあるのに
心の武器は、もうできているのに、
それでも更にワシに問いかける事。
つまり”使い方”が分からんのじゃろうからな。
それを師匠の所に、聞きに来てくれるとは
それはそれで嬉しいのぉ
こういうのを、生きてて良かったというのかの?』
「言ってろテロリスト!」
『カカカカ
しかし、弟子の妹とは言え
心捜しをした娘さんなら
ワシにとっては孫弟子になるんかいの?』
「そこら辺は、沙璃枝が決める事だな…
まぁ俺はもう、
爺さんの弟子でもいいけどな…」
「私が…”賢者”の孫弟子?」
『どうじゃい、嬢ちゃん?
ワシが師匠では嫌かの?』
「いえ…その…
それなら、
それで教えて欲しいです…」
言って沙璃枝はおずおずとその賢者にお辞儀した。
『ふむ…
ならやってみなさい…』
「え?」
そう賢者に唐突に促されて驚く沙璃枝。
『今の嬢ちゃんの、”心”、それが武器だと思うなら
ワシの心の奧にまで、届くはずじゃろ?
なら、投げてみなされや…
嬢ちゃんが持ってる、今の心の槍を…』
「どうして…
心の槍だなんて…」
『言葉は槍じゃよ…
相手の心を覆い隠す硬い盾を貫く、鋭い一本の槍。
言葉だけが、心を繋げる唯一のリンク方法なら
相手の心を貫くのは槍の形じゃ
そうじゃないかね?』
「ふふふ…はははっは!
本当に敵わねぇなぁ!
爺さんは…」
『お前さんは、今まで”言語化”
できんかっただけじゃよ…
散々、世界に槍投げしてきて
ようやくここで、それが槍投げだと気付けた。
それだけじゃろ?
何せ、この嬢ちゃんに、
お前は散々、槍を、投げつけまくった様じゃからの…
そして嬢ちゃんに、”心”ができた…
そういう事じゃないかの?』
「ああ、そうか、そういう事か…
沙璃枝の中には、
もう既に俺の沢山のが
入り込んでいるのか…」
『そろそろ、お前さんに昔出した宿題…
お前さんの答えも聞きたいしの…
ただ…最初はおそらく無理じゃろうがの…
それでも、まず”無理”を知らねば
具象化の必要が分からん。
じゃから嬢ちゃん…
お主の今持つ、心の槍…
ワシに投げてみなさい…』
「そ、それは…」
『遠慮は要らんぞい?』
「…できません」
『どうしてじゃ?』
「私の言葉では…
今の”賢者”には届かないから…」
『カカカカ…
そうじゃ、それで正解じゃ』
「!?」
そんな賢者の喜んだ声に、沙璃枝は驚いた。
『万能な言葉があれば、誰も困らんて。
世界に数ある”強い言葉”ですら
何もかもを貫く事なぞ、できはせん。
何より、言葉を諳んじるだけでは
言葉は何もしてはくれん。
”心”を乗せた言葉でなければ
”心”の中には入っていかん…』
「心を乗せた…言葉…」
『”唯一”を人は求める。
それは人の願望じゃよ…
それが在れば、きっと楽じゃからの…
じゃが”唯一”なんて物は
考えようによっては、この世界を終焉させるだけの
つまらない物とはおもわんかね?』
「唯一?」
『ただ一つの事だけで、事足りるのなら
世界など在っても無くても同じじゃろ?
ただ一つなのじゃから…』
「…‥…」
『しかし、なら世界は、何で広がっているんじゃ?
この世界にあるもの
この世界にあるもの全て
1つとして唯一ではない…
みな、個々じゃろう?』
「………」
『心の槍の形は…、その為の言葉は、
相手の心の数だけ、無限に存在するという事じゃ…
それが”唯一”ではなく”世界”を認めるという事。
心の槍も、それを乗せる言葉も、
常に変わらなければならん。
それが”具象化”という事じゃ』
「具象化?」
沙璃枝はそのBが昨日言った言葉と同じ言葉に
それを反芻するしかなかった。
『その相手には、その相手のための
その相手の心に入り込む、専用の心の槍があるんじゃ
それを瞬時に具象化できてこそ
その武器は、本当の意味での武器になる』
「でもそんな…
千差万別、無限にある心に
瞬時に対応できる、心の槍を具象化なんて…」
『そんなの、感じればいいだけじゃろう?
その出会った相手を…』
「感じる!?
『左のイデアル』!?」
『左のイデアル? なんじゃいそれは?』
「大井博士の遺言だ…
イデアになるには、右と左があって
2つを合わせて、イデアになる。
『右』が知識なら、『左』は心臓…
で、心臓を、大井博士は『左のイデアル』と言った」
『ほぉ…
あのアホも最期には
マシな事を言い残したんじゃの…
『左のイデアル』…
心臓か…
じゃから、その嬢ちゃんには、鼓動があるんじゃな…』
「聞こえるのか!?
爺さん
沙璃枝の心臓の音が…」
『聞こえるとも!
人よりも遙かに大きな鼓動の音が!
じゃからワシは、
この子が超越者じゃと分かったんじゃ
こんな激しい情熱の音…
何十年ぶりに聞くのかの…』
「五感が無くなると、
第六感とかいう、怪しいのでも生まれるのか?
サイバーリンクだぞ? ここは…」
Bは賢者が言う、有り得ない感覚に閉口するしかなかった。
『人の体を失って
鼓動まで失って、何もかも失うと…
逆に聞こえない音が、聞こえたりもするもんじゃ』
「そんなモンかねぇ…」
『そんなモンじゃ』
「……鼓動」
そんな二人の言葉の中で、沙璃枝は己の胸に手を当てて
その鼓動を感じてみる。
『嬢ちゃん…
アンタの可愛さに免じて
ちょっとヒントをやろうかの』
「ヒント?」
『感情とは、1種類しかないのかの?』
「1種類?」
『相手の心に対応する、
心の槍を瞬時に具象化するのは難しい…
じゃからこそ、長い対話があって
相手の心の中に、互いに入り込めるんじゃろう?』
「はい…」
『でも時として、たった一瞬で
相手の心の中に飛び込める、特異な心の槍もあるんだの…
それは、なんでじゃ?』
「一瞬で…相手の心の中に飛び込める…槍?」
『そんな経験はないのかの?』
「あ…」
その時沙璃枝は、義兄に告白した時の事を思い出した。
あるいは6代目としての
夢枕に立ったときの告白の時のイメージか。
『恐らく”好き”という言葉は、
この世界で最強の言葉じゃろう…
原始のワシ等…
人よりも遙かな昔からの…
原始のワシ等から、脈々と受け継がれた性質である
”A10神経”や”扁桃体”
それに入り込む、最も重要な信号…
ワシ等で言えば”言葉”
それが”好き”あるいは”嫌い”じゃからの…
しかし、最強の言葉であってさえ、万能ではない。
好きで、世界が変えれるなら
世界はとっくに、塗り変えられておるからの…』
「………」
『じゃが、この最強の言葉が、もっとも鋭くなるとき
最も相手の心に突き刺さるとき、
そこに乗っている”心”の形は
ただの感情なんじゃろうか?』
「心の形?
ただの感情?」
『さて、感情は、感動は、
”エモーション”だけなんかの?
好きを叫ぶその時に乗っているのは
”エモーション”なのかの?』
「好きを叫ぶ時に乗っている、心の形?
エモーション…だけ?」
『こりゃヒントを出す過ぎたかの?』
「うわぁーーー
まったく爺さんには本当に敵わねぇな!!
そういう事か!
”それ”か!
流石は、俺の師匠だ…
完敗だぜ…」
言ってBはその脳味噌に、追加のスキットルを放り投げた。
『男は可愛い女の子には弱いモンじゃからの…
ついつい手助けしたくなるんじゃよ…』
「脳味噌風情が
何を言ってやがる…」
そう言って二人は笑って、酒を一杯あおった。
そこで2人はお腹が空いたので
昼食として食事を取り始めた。
サイバーリンクで食べる食事とはいえ
沙璃枝には仮想栄養であり、Bには疑似信号である。
脳への信号的には、確かに食事だった。
昼食を美味しそうに食べる沙璃枝を見て呆れる賢者。
『なんじゃろうな…
この面白いお嬢さんは…
おおよそ人工知能とは、ほど遠いこれでは
超越者としか、やはりいえんの…』
言ってその沙璃枝の食事を評する。
「ま、概ね、予想通りというか
今の俺達に、必要な輪郭というか…
結局、個別への具象化なんだよな…」
握り飯の様なイメージを食べながらそういうB。
『そうじゃな、個々への具象化じゃ
そんな事が、万事が万事、可能なら
革命家は、みんな世界転覆できとるの…
結局、それが最も難しい事じゃの…』
言って賢者はカカカと笑う。
「そりゃそうだ…
過去の苦労人はみんな…
伝えるという事への
具象化で苦労したんだ…」
「うーー、というか義兄ちゃん…
何か分かったみたいですけど
私には教えてくれないいですかー?」
そう言って沙璃枝は先ほどの賢者のやり取りで
Bが何かを掴んだのを見て
それを教えてくれないのに頬を膨らした。
『ところで小僧、その義兄ちゃんというのは何じゃ?
その嬢ちゃんが人工知能の超越体として
どうして兄妹という設定になっておるんじゃ?』
賢者はそこで、ようやくその
不思議な関係を問いかけてみた。
「うーん、どう説明すればいいか…」
そんな賢者の質問に返答を考え込むB。
『あ、いや待て、小僧…
こんな愉快な気持ちになれたのは久しぶりじゃ…
ワシに予想させてくれ…』
言ってその脳は脳を上下に揺らした。
「ほう、師匠…
予想してみてくれ…」
その脳の素っ頓狂な申し出に、
どんな予想をされるのか興味を持ち、それを促すB。
『むむむむ…
こういうのはどうじゃ?
お前さんが、なんかよくわからんが
その娘さんの、姉さんと結婚する事になって
人工知能の姉さんと結婚したんで
その娘さんが妹になった…とかの!』
言って賢者はカカカと笑う。
「…え?
なんで分かった…」
その賢者の言葉の正解に青ざめるB。
『…なに?
いや、冗談じゃったんじゃが…
なんと? これが正解なのか?』
そんな思いがけない返事に、目はないが
目をぱちくりさせるかの様な、脳振動をする賢者。
「じょ、冗談で言った事で
正解、当てんなよなーー!!爺さんっ!」
Bは賢者がまた凄い直感力で見切ったのかと
心底驚き、次の瞬間には、
それがただの思いつきと分かって、
心底、悲しくなって、頭を振るしかなかった。
『偶然というのは、恐ろしいモンじゃの…
というか小僧…
お前、人工知能と結婚したんかの…』
言って、その脳は呆然とする。
「まぁ成り行きで…
そんな感じに、なりました…」
Bも賢者の言葉を肯定し、僅かに項垂れた。
『お前さんやっぱりワシの弟子じゃの…
人間探求するために、五感無くしたワシで
人間探求するために、人工知能を嫁に貰ったお前さん…
ちょうどいい師弟と思わんか?』
「釈然とせんなぁ…」
そんな二人の会話に、眉をひそめて沙璃枝は割り込んだ。
「ちょっと義兄ちゃん!」
言って沙璃枝は、Bを指す。
「なんすか、妹殿?」
その沙璃枝の指に、沙璃枝を見るB。
「質問してたのは私よ?
エモーションじゃない感情って
賢者師匠がヒントをくれたのに
それを分かった義兄ちゃんは
妹には教えてくれないの?」
それを蒸し返し沙璃枝は眉をつり上げた。
「あーあーー、うーん
そーね…
でもな、さっきの師匠の言葉にあったろう?
答えなんて、探し回って、初めて分かるもんだって…
俺は、世界を探し回ったから、
そのヒントで、ようやく分かったわけだが
それを苦労もなく教えたら、
その答えの半分も、力が引き出せないかもしれんだろ?」
『そうじゃな…』
「それともう一つ、これには問題がある」
「問題?」
「この感情は、意識的に制御するのが物凄く難しい奴だ…
鍛錬で力を伸ばせるのがエモーションなら
こっちの方は、天才性があるかどうかも
人間の方では、結構、重要になったりする。
そういう才能性の高いモンなんだ…
まぁ、それを具象化の、より具象化にするなら…
という事だが…
この性質をキャンパスに叩き込むとかなんて考えたら
正に、天才と何チャラは紙一重の話なんでな…
言葉で伝えたからって、どうにかなるかも怪しいな…」
『そうじゃな…』
「うーー何それ!!」
「まぁ安心しろ…
沙璃枝は、使えてるし…
誰だって、使ってるときは、使ってるモンだ…
それを意図的に制御する
それが至難なだけであって…
無意識には、誰だって発露するもんなんだ。
むしろ、意図的に制御しない方が…
これは、一番、効果が発露したりするモンなんだ…
だから、あんまり意識しない方が
よっぽどいいかもしれん…」
『ふーむ、そうじゃな…
もしそれさえ、完全に意図的な、計算的な制御が出来れば
それはもう、神か何かじゃろうな…』
言って賢者はカカカと笑う。
「うわーー難しい事言われてる…
そんなの困るよ…」
「エモーションを制御するだけでも
かなり大変なんだから
そこまで贅沢言われてもな…
ただまぁ確かに
アレは決まれば、一瞬で人の心の深層にまで入り込むモノだ。
そうそう簡単に決まるモンでもないが
決まってしまえば、防御不能の最強の槍だな…
神話で例えれば、全てを必ず貫く槍
”グングニル”を生成するような話か。
だから具象化そのものは、運みたいなモンだがな…」
『そうじゃなぁ‥
常にアレを相手に対応した形に
瞬時に具象化して貫く槍に出来れば…
全人類の魂は書き換えれるやもしれんな…』
言って賢者はカカカと、苦笑するしかなかった。
「うーーー、益々気になるーー!!」
「まぁ、それを使っている時に
それに気付ければ、
その名も自然に口に出てくるモンさ…
何か、そんなものが”在る”って
今は思ってればいい…
必要な時に、それは現れるモンさ」
言ってBは笑う。
『そうじゃよ、嬢ちゃん、
そんなに焦る必要もあるまいて。
嬢ちゃんは既にそれが使えるのは
嬢ちゃんはまだ気付かんじゃろうが
ワシにはよく分かってるからの…
外から見れば、分かるモンなんじゃよ…
それに人生、生き急がなくてもよかろうて…』
賢者はそう言って沙璃枝を諭す。
「でも、マージとの対決にはもう時間が無いんです!
マージに乗り込むまでに、
マージの前まで詰め寄ったときの
”最後の決め手”を見つけなければ…」
『なんじゃい…
そういう事の為に、ここに来たんかい』
「実は、そうなんだな…」
『ふむ…
緊急でマージを排除せにゃならんのか…』
「そうなんだよ…当座ぶっ壊すという
手段も考えているんだがな…
それじゃ駄目だって、大井博士の遺言でな…
マージは、心で倒すんだって
そういう謎かけ…」
『大井のアホは
マージの後ろにいる人類じゃなく
マージの本体を心で倒すとか言ったのかえ?』
「…そ」
『ふーん…
人間性も何もない処理プログラムを
心で倒すとなぁ…それは難問……』
『………』
その時、賢者はその問題をしばし考え込んだ。
「どした爺さん?」
『なんじゃ、簡単な事じゃの…
技術的に下準備できてれば
そんなに難しい話でもないじゃないか…』
「は!?」
賢者は少し考えた後に、そう言った。
その言葉に驚くB。
「賢者師匠、師匠は方法論が分かったので?」
沙璃枝も賢者の言葉に、僅かに表情が明るくなる。
『そんな難しい話かの?
心さえ在れば……』
その時、賢者は不意に何かを思い、言葉を止めた
『いや…それはワシの口からは言うまいて…』
言って賢者は、それを語るのを辞めた。
「何!?」
『大井のアホも、きっと気付いとったんじゃろ?
じゃから、”心”というヒントを残したんじゃろな。
ならワシも言うべきでは無かろう…』
言って賢者はカカカと笑う。
「いや、分かったんなら、教えてくれよ師匠!!」
『いや、それがお主等が見つけ出すべきじゃ…
大井のアホもそれに気付いていても
自分でそれをしなかったのは
お主等に、それを見つけて、
そして、それをお前等にして欲しかったからじゃろう…
なら、ワシも同じ気持ちじゃ』
「どうして!?」
沙璃枝はその賢者の言葉に叫ぶ。
『ワシ等はもう老人じゃ…
世界に、散々、咆哮して生きてきて
それなりに満足はしとる…
そして、ワシ等にとっての世界は
この後、世界がどうなろうと、もう終わるのじゃ。
しかし、お前さん等は違う…
少なくとも、ワシ等よりは、まだこの世界を
生きて行かねばならんし、
生きていって、欲しいんじゃ…
人間という存在が、絶滅すればいいと
お前さん達が、絶望せん限りな…』
「爺さん…」
『世界を切り開くのは、老人では無かろう?
世界を切り開くのは、
そこでまだ生きて行かねばならん、若者のお前等じゃ
じゃから、答えがワシ等なら分かってしまっても
その答えを見つけ出すのは
これから生きて行かねばならん
お前等、若者じゃ無ければならんのじゃ
それが命のリレーじゃよ…』
「命のリレー…」
その言葉を聞いて沙璃枝は言葉を反芻した。
『老人のする事は、やれて、その手助けじゃよ…
きっと大井のアホも、そんな思いでやったんじゃろ?
なら、準備は全て、出来ておると思うよ…
多分じゃがな…
後は、お前さん達が、心の中に眠っている答えを
この意識の世界に引きずり出せるかどうかじゃ…』
「心の中に、既に答えが眠ってる!?
賢者もお父様と同じ事を言うのですか!?」
その時、沙璃枝は父との最後の会話
その会話の中で父が言っていた言葉のフレーズを思い出す。
”自分の内側に本来あるものを、探すというのも奇妙な話だがね…”
その言葉を。
『やっぱり、大井のアホは
そんなヒントも残しておったか…
じゃろうな…
ならワシも、この若者達の為に
一肌、脱がねばならんて…』
「爺さん?」
その時、賢者はズズっとBの前にその脳味噌を寄せた。
『小僧、宿題の提出時間じゃよ…
ずーっと渡しとった宿題
そろそろ提出して貰おうかの…
それが出せたら、
この問いかけの答えも、きっと分かるじゃろ?
ワシにはそう思える』
「ほう…
そうなるのか…」
師匠のその詰めよりに、いよいよ来たかと
身を引き締めるB。
『不満か?』
「いや、不満じゃないが…
回答者は、この妹でいいか?」
『ほう?』
そんなBの言葉に、
目はないが目をぱちくりさせる賢者。
「実は、爺さんに聞いてみたかったんだな…
大井博士の遺言の1つに
この沙璃枝が…
人工知能である沙璃枝が、心を得れば…
人間も、もう一度心を取り戻せる
そう信じてるって、言ってたんだ…
どーも、その理屈がよく分からんでな…
人工知能が、人の心を得れば
なんで人間が心を取り戻せると思えたのか…
爺さんなら、それ、分かるか?」
『さぁ、それはよく分からんの…
じゃが…』
「が?」
『ワシなら、こう思えるの…
人工知能ですら、見つけれる答えも
それも分からん、
そんな、人足らずな人間なら
死んでしまえばよかろうが…
…との…
ドローン寸前の者が
人である必要がどこにあるんじゃね?』
「流石、プラターを壊しまくったテロリスト…
言う事が過激だ…」
『人より、人が出来てしまう
人さえ超越できる人工知能が生まれたなら
人がこの世界に居座ってる必要もなかろう?
それは、自然淘汰の原理じゃ…
なら、せめて心だけでも蘇らせて
生きる事で、対抗せにゃ…
生きている意味って何所にあるんじゃね?』
「………」
その問いに二人は沈黙するしかなかった。
『”人の心を、取り戻せるかもしれない”
……のではなく
人は、人の生物としての
存在としての尊厳をかけて
”心を取り戻さねばならん”のじゃよ…
こんな地下鉄の様な世界では…の…』
「…そう…か。
なら、まずは人類の脅威を作らないとって事か。
そりゃそれで、大事だ。
なら、という理由なんだ爺さん…
爺さんの宿題の答え提出は…
俺の妹がする…
それでいいか?」
『ほう、なるほどの…
では、人類の尊厳にかけて…
ワシは超越者へ問いかけて
その解答を聞かねばならんのじゃな…』
「そうだな…
それでいこう…」
『じゃが、まぁ、焦りなさんな…
特にこの嬢ちゃんは
心の槍を見つけても
それを持て余しておる…
まずは、気分転換…
今まで、何を見、
何を感じたのかを
ワシに見せてもらってから…
それから、宿題の提出とさせて貰おうかの…』
「ふむ…、
軽いウィーミングアップをしてからか…」
倒しに来たら弟子入りしたとか、笑えるなww なんかワンピースの、ゾロがミホークに弟子入りした様な感じのアレか。いやあれ、物凄く好きなんだけども。いやー、この師匠は、もっと前に一回出しといて、ちょっと稽古付けて貰って、下界で更に修行して、そんでもって最後の力試しに、最終バトル前に、最終試験で試合するみたいなのの方が燃える展開になったんだろうなぁ。まぁ格闘漫画の様なリアルパンチ出てくるんじゃなくて、精神バトルなんで、そこら辺が格闘漫画と同じ様にいかないわけではあるけれども…。




