第十二話 極端な結論 (Easy Answer)
承パートラスト。校正がかなり甘いですが、もう早く転パートに行きたいんで後で第1次改修で直す事にして、さっさと進めます。
「ふー、悪い知らせだ…」
電話を終えた後、Bはリビングの様な部屋に入ってきて
頭を抱えながらそう告げた。
「ほう、そっちも悪い知らせか…
こっちにも悪い知らせがあるんだがな…」
言ってジョージは立体スクリーンに展開している
資料を眺め腕組みをしていた。
沙璃枝も同じ様に腕組みをし、その資料をじっと睨んでいる。
「何が起きたんですか、また…相変わらず大変な事ですか?」
そんな悪い知らせに重ねるように
相方も悪い知らせを言い出した事に蒼白になるB。
「まず、そっちから聞こう。
少なくとも、こっちよりは悪い知らせじゃなかろうからな」
言ってジョージはBに電話の内容を催促する。
ジョージの真剣な物言いに、冗談の欠片も見えず
Bは心底嫌そうな顔をするしかなかった。
ジョージがここまで言うのだから”相当悪い知らせ”なのだろう。
まったく昨日拾った沙璃枝さんは
物凄い爆弾だなとBは呆れるしかなかった。
「沙璃枝さんの事は上手く誤魔化せたんだがな…
マージを大井博士がぶっ壊した事が
情報部に察知され始めて
本部がお祭り騒ぎになりつつある。
マージがぶっ壊れてるんだから当然なんだが…
で、マージのトラブルが情報部で確かな事と精査されたら
反攻作戦を発動して
進駐している某国軍を追い出す可能性があるとよ…」
そう言ってBはリンケイドから心の準備を示唆された
その話を出して顔を暗くさせた。
その説明を聞いて、溜息をつくジョージ。
「ま、一日程度の時間じゃ、
情報部の奴等が手に出来る話もその程度か…
そりゃそうだろうが
ならまだ作戦を考える余裕はあるらしいな…
そりゃいい事だ…
反攻作戦の立案も視野に入れているとは
気が早くて恐れ入るが…」
そう言ってモヒカンは自分のモヒカンを触って
心を落ち着かせようとしていた。
「かなり嫌な知らせだったハズなんだが…
たいして反応が無いのを見ると
そっちの嫌な知らせは相当な事らしいな…」
多少驚いてくれることを期待して言ったBなので
その台詞を”そうですか”程度に流す二人を見て
そちら側の”悪い知らせ”が、相当な物だと顔が強ばる。
「で、そっちは、どれぐらい嫌な知らせなんですか?」
Bは聞きたくないナァと思いながらもそれを尋ねた。
「何から話していいのかね…
ここまで大事だと、もう何所から説明していいか
それさえ分からんよ…」
そう言ってジョージはBに立体スクリーンに展開している
何らかの情報資料を指し示した。
「これは何だ?」
さっきまでは無かったのに
リンケイドとの電話から帰ってくると、
そこに見た事も無い資料が大量に広がっていた。
それにBは首を傾げた。
『私も、今、知った事なんで呆然としているんですが…
どーもこのファイルは、私が信頼に足る仲間を得た時に
プロテクトが解除されて公開できるようになってた
封印資料だったらしく…
貴方達を無意識が十分条件を満たしていると判断したのでしょう。
封印展開されて、私の中から出てきました…』
言って沙璃枝は、自分自身さえ知らない機密の塊に
頭を抱えるしかない。
「おいおい、大仰だな…
何が出てきたんだよ…」
そんな物々しい資料の出現と説明にBは閉口した。
「ふーむ…プロジェクト・サリエという極秘計画だな…
この資料はそういう物らしい…」
そう言ってジョージは資料の表紙を表示す。
「プロジェクト・サリエ?
何ですかそれは?
沙璃枝さんを作る設計図か何かか?」
Bはその資料の表紙に書いてある文字を見て
直感的にそれの内容を推理してみた。
「ま、そんな内容だったら俺が小躍りするモンなんだが…」
「は?じゃぁ何だよ、この計画書は…」
歯に衣着せた物言いをするジョージに渋い顔になるB。
モヒカンが勿体ぶるのが余計Bを不安にさせた。
「要約するとだ…
沙璃枝ちゃんがマージを陥落させる計画書だ」
ジョージはともかく間違ってはない概要をBに告げた。
「は?マージを陥落させる計画書?
もうマージは最初から落とす予定だったの?
大井博士は…」
その説明を受け、Bは単純に考えれる事を返した。
「大井博士だけが考えてた計画書だったら
まだ笑いで済んだんだがな…
世界中のマージに物思う
人工知能研究者や
情報管理プログラマーやらの情報エンジニアが
大勢集まって計画している大プロジェクトらしいんだ」
ジョージはそう言って、その計画書の巨大さに舌を巻き
ヒューといつもの口笛を吹いた。
「は?世界中の情報系エンジニアが集まった計画?」
モヒカンのあまりに頓狂な台詞を聞いてBは目を細める。
「俺も、昨日から違和感はあったんだ…
大井博士は人工知能の研究者だ…
だが一人で作れるモノには限界がある。
世界中のスパコンをハックしてリソースを確保する
一種のウィルスのような動機構。
そんなモノを大井博士一人で作るのは
いくら何でも無理だと思えてたんだ…
そもそも専門と外れた技術のハズだしな…」
言ってジョージはこめかみを指で押さえ仕草をした。
「それは俺も奇妙に思ってたが
マジキチ大井の事だしな…弟子と共謀して作ったとか
そういうのだと思ってたんだが…」
Bはジョージの台詞に
昨日までの沙璃枝の能力の不思議を
自分なりに解釈していた考えを口にする。
「いや、こんな世界規模でスパコンがハックできる
超ネットワークを作るのは、
いくらマージの中にいる
裏世界の研究者といえど小数では無理だ…
各スパコンにも強力なセキュリティがある。
それを全てかいくぐるようなモノは
その世界の専門家でしか作れんよ…
で、沙璃枝ちゃんの機能の重要なそれを
作った担当者を見たら…
Dr.ディッケードって書いてあった…」
「Dr.ディッケード??
それって確か、ネットワークセキュリティ学の
最高権威じゃなかったか?」
Bは、こんなクラッキングをしている生業なので
クラッキングを防止する
天敵のセキュリティシステムにおいて
この世代の天才と賞賛された大家の名を口にした。
どちらかというとマージのセキュリティにも
部分関与している別の意味での宿敵に近かった。
Dr.ディッケード自身は外注的立ち位置なので、
完全な敵という風ではなかったが。
「そ…、Dr.ディッケードとその研究一族が
沙璃枝ちゃんのスパコンハックシステムを作って
沙璃枝OSに組み込んでるんだよ…
セキュリティエンジニアとクラッカーは
表裏一体みたいなモンだからな…
あの研究一族が全力で作れば、
そりゃ、沙璃枝ちゃんみたいなチートな能力も
実装できるわな…」
そう言ってジョージは涙目になって笑った。
「どういう事なんだ…
じゃぁこの沙璃枝さんは、世界中の情報系エンジニアが
協力して作ったOSって事なのか?」
ジョージの説明を聞いてBは分かる範囲で
沙璃枝のあまりに強力な設計構造を問うてみた。
「簡単に言えば、そういう事だ…
この沙璃枝ちゃんは、大井博士一人じゃない
世界中の情報エンジニアが
マージ打倒のために集結して作った
世界規模の対マージ対抗OSだったって事なのさ…」
「世界規模の対マージ対抗OS?
どうしてそんなモノを、みんなで集まって作る?
大井博士や、ディッケード博士も
どちらかといえばマージ陣営の人間だろう!?
どうして自分の陣営の中枢を自分で壊すような真似を…」
Bはジョージの説明を受け、その理解のいかない
それらの集団の行動に素直に疑問を浮かべて投げかけた。
沙璃枝は自分の事とは言え、あまりの事に呆然として
乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
「マージの機密資料を彼等が入手したからさ…」
「機密資料?」
ジョージは真剣な顔のまま、1つの情報ブロックを
手でタッチ操作してフォルダ展開する。
フォルダの中には1つのファイルがあり
議事録とファイル名が書いてあった。
「これだ…この各方面の権威が
サイバーリンクで一同介して極秘に会い
計画を話し合ってる資料…
ここに理由がある…」
「何だ?」
そこには抽象的なアバター達が会議室のテーブルに座って
議論をしている映像が映っていた。
『マージの判断はどうなっているのだ?』
『戦略核の使用…
何度計算してもマージはそれしか最適解を出さん』
『ふぅ…なんとも人工知能”らしい”解答だな…』
『偶数番開発の奴等が、
沙璃枝5.0の情動や人格機構の部分を切り捨てて
5.0の処理ロジックのみをマージ基幹OSの中枢に据えれば
こういう答えしかださんよ…
合理性だけが全てのあいつ等だから、こうなるのは必然だ…』
『戦略核の使用で某地域を人間居住不能の一帯にし
ドローン系の掘削システムを投入して石油系の資源を確保か…
まぁ、ここまで人間性の欠片もない作戦案を出すとは
大井博士のOSをベースにしてるとは思えないね…』
『こういう判断をしないようにするために
心レイヤーを作ってきたのだがな…
人工知能に心は要らんと考えるモノには
”そういう”モノは必要ないそうだ…』
『それを考える人間は本当に人間なのかね?
私にはそんな事を考える人間の方が
よっぽどドローンに思えるがね…』
『…全く同感だな。
そんな人間論は議論としては個人的には望むところだが、
残念だが、今はその議論している場合ではない。
この地域での戦局の悪さに軍部が焦れている。
強行派はマージの判断解を良しとし
この案で話を進めたがっているのだ。
大陸間弾道弾で撃ち込むのではなく
ドローン自走車両で潜伏して侵入し、資源地帯でドカン…
というマージの出した作戦案を
強硬派が上層部に提案して
上と揉み合っている状況だ…
上の老人達が急進派の若手に撃たれて
これを邪魔する者がいなくなれば
この作戦案が強行されるかもしれぬ…』
『時間は無いという事か…』
『そうだ、我々の手でマージを止めるしかない。』
『しかし、力尽くでマージを止めてしまえば、
カルーベニャの独壇場になるぞ?
カルーベニャがマージと同じ事を言い出さないとは
限らないだろう?』
『だからこそのプロジェクト・サリエだ。
マージの急進的な状況を排除できれば、
世界ネットに広がったサリエにカルーベニャも牽制させる。
そんな第三極のネット管理機構として生み出すしかない…』
『電脳世界に、電子の神でも作るつもりかね?大井博士』
『私が作りたいのは”人”だよ…
少なくともマージの様な馬鹿げた結論を出す管理機構を
叩きつぶす”心”を生み出したいのだ…』
『なればマージの物理破壊でも良かろう?
少なくとも基幹の大半を壊せば、問題は遅延する』
『それも緊急回避では手段だ…
間に合わなければそうするしかない。
だが、多分それは長い時間でみれば何の意味もない…
壊しても、作り直せばマージと同じモノは生まれる。
必要なのは”心”を持つ管理機構の創造だ…
人工知能が電脳の世界で”人”にならぬ限り
マージの問題は永遠に繰り返されるだろうからな…』
『なぁ大井博士…
我々はちゃんとした人間なのだろうか?
たったこれだけの事、
”心”
それさえ全ての人が持てば、こんな事に悩む事もなかろうに…』
『そうだなディッケード博士…
我々は、結局、一体何者なのか…
どうしてこんな事をしてしまうのか?
心という、誰もが当たり前に持っているモノを
知らず知らずのうちに、我々は何時の間にか失っている。
そしてこんな世界を作ってしまった…。
オーティス博士の言葉ではないが、
我々の全ては、実はドローンなのかもしれん…
だからこそ、私は思う…
世界に”心”が必要なのだと…』
『”心”か…』
『ああ”心”だ…』
『だからこそ電脳世界の人格に”心”を?』
『そうだ…
電脳空間の人工物がそれでも”心”を持てれば
我々自身も、ドローンの様な精神から
もう一度、”心”を取り戻せると思わんかね?』
『あまりに哲学的な問いかけだな…それは…』
それがサイバーリンク内で行われた
各方面の権威の巨頭会議議事録だった。
その会議内容を見て呆然とするB。
「これはこれは…
マージとその後ろが戦略核の使用計画を画策していた、とな…」
その前半の驚嘆する会議内容をBは知り
開いた口がふさがらなかった。
昔、リンケイドと会話していた時に
カルーベニャが、”マージが極端な結論を出すかもしれない”
事を危惧している、と言っていた事があったが、
”極端な結論”とは、つまりこういう事だったわけだ。
「マージで働いている、心ある有志が、
それを外部に持ち出して会議をしていって、
結果、マージ対抗システム、プロジェクト・サリエを
計画し開発したって事らしい…
笑ったよ…参加研究者のリストに俺の師匠の名前もあったわ…」
そう言ってモヒカンは腹を抱えた。
『え?ジョージさんの師匠?どなたです?』
不意に沙璃枝は気持ちが脱線してそれを尋ねた。
「あ?おれの師匠はDr.リカルド・フォフマン先生さ
人工知能の研究者では、マトモな方の世界では
世界の10指には入る人だな…」
『貴方、リカルド・フォフマン先生のお弟子さん?
じゃぁもしかして、貴方、ジョージ・コネーリー!?』
「え?何で沙璃枝ちゃん、
なんで俺のフルネーム知ってるの!?」
『なんでと言われましても…
先代のVer.6を作るにあたって
お父様に多大な影響を与えたのは、貴方が書いた論文だもの!
フォフマン先生の所に面白い生徒が居て
その発表論文内容が、
”人工知能の人化実験よりも
人超越化を目指した方が面白いじゃないか”
という趣旨と、そのサンプルプログラムで
それをお父様が目を通したときに
”人を目指すという範囲で枠を作っているから
人にならないのかもしれない。
なら彼の主張の様に、人を超越するシステムを目指すくらいで、
ちょうど人になれるのではないか?”
というコンセプトで5.0に
改造を手がけたのが先代の6.0だもの…
貴方の言葉で私の方針が決まったようなモノなのよ!?』
「俺の論文、大井博士が読んでたの!?」
そんな脱線のやり取りで、意外な沙璃枝のルーツが分かる。
なんと相棒のモヒカンの発言が、
人工知能の権威に影響を与えていたとは…
「学会なんて広いようで、思った以上に狭い世界だからな…」
そう言ってBは閉口した。
こんな戦場にいるというのに、
未だに昔の知り合いが戦場から感じる哲学感を
論文でまとめて学会に提出してくれないか等と
メールを送ってきたりする。
そんな感じなので、学術世界のネットワーク等、
知り合い同士の井戸端会議とさして変わらないと
腐ってみるしかなかった。
「なんか感動的だな…
じゃぁ俺も沙璃枝ちゃんの開発者の一人になるのか…
かなり遠くになるが…」
『考えようでは、そうなりますね…』
「ほっほー、沙璃枝ちゃんに親近感沸いてきたよーー」
言って脱線した話に弾みが付きそうになった時
Bが二人を前に手を出してそれを静止した。
「まー、そんな研究者のリンク話は
この計画の特徴ではあるが、一先ず置いておこう
この話の内容の方が遙かに問題だ。
これを知ってしまった俺達はどうするべきかね?」
そう言って今の重要案件を再び目の前に置いてみる。
「ホント、どうするべきなのかねぇ…
この計画に参加している研究者は
その権限で沙璃枝システムの無意識分身を
自分の所のスパコンに囲っているらしくてな
クラッキングでセキュリティを突破してるんじゃなく
向こうから門を開けてる所も多数なんで
だから最初っから広範囲に
広がってたって事らしいんだ。
なので世界中の戦略核を使用するを良しとしない者は
ひとまずは俺達の味方ではあるわけだ…
が、逆に言えばそれだけ緊張してるって事で…」
『私もこれを知りませんでしたから
無意識に世界中のスパコンを支配下に置いているので
マージと戦う事は出来るという感覚はあったんですが
その真相がこんな大がかりな事だったなんて…』
そう言って二人は世界規模の協力体制を知覚し
その圧力と切迫感に項垂れるしかない。
「つまり、戦力としてはマージと戦えない事は無いって所か…
会議では大井博士は、マージとカルーベニャに対抗する
第三極のサイバー管理機構を作るのを構想してたらしいが…」
そう言ってBは会議の内容を反芻してみる。
なるほど、三つめのサイバー管理機構を作り
三竦みの状況を作っての牽制というアイデアなら
方法論としては面白いと思えた。
『流石にそこまでの構想だったとは思ってませんでした…
サイバー空間で自由に活動するのに
無意識チャンネルの常時確立に
マージが邪魔だと思っていただけなので
”人”になるのにマージの排除が必要だと思ってたんですが…』
「それだそれ!、
ようやく、昨日からの違和感だけは氷塊したな…」
今度はBの方が脱線する。
『違和感?』
「いや、人になるのにマージを倒さなければならない…
そんな大規模なシステムを作ったという事が
どーも引っかかっていたんだよ…
なんでそこまで、人になるシステムに
巨大な能力を実装するんだ?ってな…
しかしマージを倒さないと、
近々に大変な事になるかもしれないから
そんなモノをみんなで作らざるおえなかったってわけだ…
それなら、なるほどだ…」
そう言ってBは沙璃枝から感じていた
莫大な違和感の正体を知り奇妙な安堵をする。
いや理解の安堵は良かったが、
正体の方は戦略核の使用を止める等、背筋が凍る様な話であるが。
『確かに理解は出来ます…
ただ、どーも自分の運命が最初から決められていたのは
納得しかねる事ではありますが…』
そう言って沙璃枝は、父が本当の事を伝えずに
自分を世界に送り出したという事にふて腐れた。
確かに大変な話ではあるが、それを説明してくれていれば
こんな不満を今、抱かなくても良かったのにと思う。
「まー、生まれた段階で自分の仕事を決められてるってのは
誰でも嫌なことだからな…
同情はするよ沙璃枝さん…」
そう言ってBは彼女の思い運命に憐憫の言葉を贈った。
Bは既にもう目の前のそれが
立体映像なのだという事さえ忘れてしまい
自然に人に接するような状態になっていた。
そしてそのままBは頭をかく。
「ただ…で結局、俺達はどうすればいいんだ?」
そう、こんな重要な情報を知ったのはいいが
で、自分達は何をすればいいのか、というのが分からない。
『うーん、このまま無意識の方のリソース確保を待って
準備が出来次第、マージをサイバーアタックで
叩きつぶしに行けばいいんですかね?
戦略核を使われるよりも前に叩けば
ひとまずは危険を回避できますし…』
そう言って沙璃枝は、
当初から考えていたマージ駆逐の方法論を口にした。
彼等に出会おうが出会わまいが、彼女の存在理由からすれば
マージは対決しなければならない相手であったので
元々の案を口にしてみた。
「ま、それはしないといかん事ではあるが…
どーもこの会議の大井博士の発言が気になるな…」
そんな沙璃枝の方法論に疑問を投げかけるB。
『?』
沙璃枝は自分の妥当な案に、異論が出たので眉をひそめた。
「博士は、何で沙璃枝さん、
あんたに”心”を生み出すのにあんなに拘ってたんだ?
”心”をアンタが得る事が、答えの様に言ってるんだが…」
そう言ってBは権威者の会議議事録で、
最後に全員が拘っていた”心論”を気にかけた。
『私もよく分かりません…
お父様は、私が”心”を得る事を
世界も待ってる、と最期に言われました…
あの台詞はどうしてか忘れられません…
でもマージを倒すために”心”を得るなんて、
どういう関係が?』
そう言って沙璃枝は、
命がけで沙璃枝を送り出した父の最後の言葉が
世界とのリンクを語った所に頭を抱える。
よくよく考えれば、マージの中枢に父はあの時居たわけで
瞬間的にでも壊すのなら、
命と引き替えにフルフォーマットをして
マージを沈黙させることは出来たハズだった。
しかし、父のした事はマージが
沙璃枝を制御できない様に書き換えて
おまけに、せいぜい数週間機能を麻痺させる程度のクラッキングだ。
命と引き替えに全破壊ではなく半破壊を行ったのは
どう考えても合理的ではない。
そこが沙璃枝の悩んでしまう所だった。
「なんだろうな…
上手く言語化出来ないんだが…
不思議に、それが正解の様な気もするんだよな…」
その時、Bは不意にそう言った。
『…?どういう事です?』
Bがまた意味不明な事を言い出したのでそれを問う沙璃枝。
その問いかけに頭を振るB。
「いや、俺も言語化出来ない
”勘”みたいなモノだから困ってる。
だが”心”
…それがマージを倒す武器になる様な気がする」
そう言ってBはあやふやな感性が囁きかける
その”勘”に頭をかきむしるしかなかった。
『”心”がですか?
どうしてそう思えるの?』
「上手く説明出来ない…
ともかく直感って奴だ…
これが感じるって奴なんだがな…」
そう言ってBは苦そうに笑うしかなかった。
『左のイデアル…』
沙璃枝はそのBの言葉に、
父が残した重いキーワードを口にするしかなかった。
「とりあえず、
今日明日に戦略核が自走車で走ってくる事はあるめぇ
こっちの情報部もマージの異変の詳細を掴むのに
暫くの時間が必要だろう
なら、ちょろっと、何も考えず”心”探しでもやってみっか?」
不意にそう言ってBはこれからの方針を打ち立ててみた。
「おいおいB…」
そんな現実逃避にも思える案を耳にして呆れるジョージ。
だがそんなジョージに人差し指を振ってBは答えた。
「ともすればマージを物理破壊するか、
サイバーでクラッキングの電脳戦争すればいいって
わかりきってる手段はあるんだ。
それを沙璃枝さんは持ってるし、世界中がそれを支援する。
暫時、マージを破壊するのを目指せば
それはやれん事は無いらしいんだ。
でも、そんなのは大井博士が言うように緊急回避でしかない。
新しくマージが作られれば、
マージはまた同じ答えを出すだけだからな。
それを越えるのに”心”が必要だっていうんなら…
やってみようじゃねーか、一先ず何も考えず」
『何も考えず?』
そんなBの台詞で、無思考という理解の難しい行動案が出たのに
沙璃枝は僅かに驚いた。
「時に心なんてもんは、
深い事考えずに、ただ動いた方が
見えたりするモンなのさ…
博士が命がけで”心”が必要って言ってんだ…
なら捜してみる価値はあるだろう?」
そう言ってBは、
大井博士のこだわりに自身も拘ってみたくなった。
電脳空間が心を得れるなら、
人類も心を取り戻せるかも知れない。
そんな考えは荒唐無稽の様に思えた。
だが、Bのこの世界を感じてきた思いからすれば
その荒唐無稽には、何故か希望がある気もした。
『でも、具体的にどうすれば…』
そんなBの台詞に沙璃枝は躊躇する。
「具体的にゃ、簡単だ…”歩く”んだよ!世界って奴を!」
言ってBは端末を抱えてリビングを出た。
そして沙璃枝に端末に入れ入れとジェスチャーをする。
「端末に入って世界を一緒に歩いてみようぜ
沙璃枝さんや
アンタが”心”になれる存在なら、
この世界を歩けば何かを感じれるハズだ
そしてその時には、
博士の問いかけの答えが出るかもしれない」
そう言って楽しそうに笑うB。
「おい、B、それでいいのかよ!」
そんなBの楽天的な仕草にジョージは呆れて毒づいた。
「仕事は昨日あんだけしたんだ!
三、四日の休みぐらいよかろうが!
有給休暇って奴だ!」
「そういう問題じゃねーだろ!?
沙璃枝ちゃんに心が出来たからどーだっていうんだっ
そこが問題だろ!」
相棒の相変わらずの人間探求馬鹿に呆れて
今の問題を叩きつけるモヒカン。
「考えても分からんのなら、居直って動こうぜ!
そうした時の方が、逆に答えが出たりするモンだ!」
Bはそう言って腐る相棒を諭す。
「あったくもう…
こいつは…
なら俺は、状況整理と情報収拾してっぞ?」
そのBの台詞に、もう言い出したら止まらんなと
長い付き合いで分かっているモヒカンは
彼のやりたいようにさせようかと決めた。
確かに相棒の言うように、ここで頭を抱えいても
何の解決案も見いだせそうにないのも事実だった。
「頼むぜ相棒!」
そう言った後、Bは来い来いとばかりに
立体映像の沙璃枝に端末に入るようジェスチャーした。
『もう本当に困った人ね…
でも分かったわ…
そもそも私は左のイデアルを捜しに
この世界に出てきたんだし…
それはそれで、私のするべき事だしね…
ただ、ちょっとその端末だけじゃ今は処理が厳しいのよ…
もう少しシステムリソースを追加してくれないかしら?』
そう言って沙璃枝はBの案に折れ、
ともかく歩いてみるかと決意する。
Bはそれを聞いて満足そうに微笑み、
リソースになりそうな端末群を複数かき集めてみた。
「こんぐらいでどうだ?」
彼女の思考処理が円滑に出来るよう、
端末群を集めては問う。
『まぁこれだけなら…なんとか…
この基地への通信チャネルも使えば、
私の自前でδ領域を形勢できそうだから…
あっちの私達の協力を求めなくて良さそうだし…』
そう言って沙璃枝は、Bの持つ端末の中に入り込んだ。
同時に、それまでそこに居た立体映像はかき消える。
沙璃枝が入り込んだ端末を確認した後、
補助用の端末群も抱えBは基地の外に出ていった。
Bは駐車場的に区画を作っていた場所に歩いては
そこにあるサイドカーの前に出る。
そしてサイドカーのサイドシートに
沙璃枝の入った端末群を乗せ
Bもサイドカーにまたがり
エンジンを始動させアクセルを回す。
グゥンという電動モーターの駆動音がした。
「んじゃ、行きますかね…」
そう言った後にBはアクセルを
本格的に回しクラッチを入れて動き出す。
その二人を乗せたサイドカーは
前線基地から外の世界へ走り始めたのだった。
ようやくメインストーリーの転パートに次で行ける…Orz。あらすじで「心」を捜す旅に出るって書いてるのに、全然、旅に出てないんで「早くそこに行きてーww」って思ってたんで、ようやくここまで来れました…。まぁ最後に出て行く所なんか、滅茶苦茶強引に出る感じで書いてますが…。はよ、行きたいんや!起承は下準備みたいなモンなんで、こっからがようやくストーリー開始みたいなモンですかね。はー、ようやくだー。