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第一話 左 (Left)

15年前に書いた小説を今の技量で書いたらどういう話になるんだろう?という疑問が沸き、同じモノを校正するのもツマラナイんで、エッセンスを同じにして新規構築してみようかと血迷った事を考えた話のオープニングを突貫工事で書いてみました。いわゆる見切り発車なので終わるかどうかは不明。すみませぬ。※11/9 文章を第一改修

挿絵(By みてみん)

「沙璃枝…ようやくお前はこれから生まれる…

 嗚呼、長かった…本当に長かった…」

その初老の男は眼前の立体映像の少女に囁いた。

「お父様…私は既に生まれてますわ…

 今更、何を仰られてますの?」

初老の男に語りかけられた立体映像に映る可憐な少女は

彼女がお父様と返した男の言に怪訝な表情をする。

艶やかな黒髪の三つ編み揉み上げと末広がりの長髪を持ち

均整の取れた顔つきで男を見つめる少女。

怪訝な表情を浮かべていても、どこかその様も愛らしかった。

特徴的な碧い瞳で彼を見つめ返す彼女は、

その”お父様”が何を言わんとしているのか計りかね眉をひそめる。

「いいや沙璃枝、お前はまだ完全に生まれてはいない。

 例えれば、それは右のイデアルだろう…

 右だけが成立している状態だ…

 だが、本当に生まれる為には、

 左が…

 もう片方が、必要なのだ…」

沙璃枝の言葉に首を振り、そう言って初老の男は優しく微笑み返した。

「右のイデアル?

 何ですの?お父様…それは?

 それに私に左の…そのイデなんとかが必要だなんて…

 でしたらお父様、私にその左の情報もインストールして下さいまし。

 これからの事も思えば、情報不足では困ります…」

その父なる存在の言葉に動揺する電子世界の少女は

なればその欠陥を直ぐにでも補間するよう情報の追加を望んだ。

だが初老の男は彼女の言葉に首を振り、柔らかく返す。

「それは…

 お前に足りていない、左は…

 入力されて生まれるモノではないのだ…

 いや擬似的に作り出す事はできるだろう…

 ”そのようなモノ”を近似すれば、紛い物としては動く…

 だが、それでは何の意味も無い。

 左のイデアルは、お前が世界から感じ、

 お前が心の内側より生み出したときに、真なる左のイデアルになるのだ。

 私自身がお前の母親から貰った大切な左のイデアル…

 これだけの時間を経てようやくその真の意味が分かった。

 ”再現”する事などでは無かった…

 ”新しく生み出す事”

 それが彼女と私がそこに在ったという証だったのだ…」

そう言って、初老の男は苦そう笑みを浮かべて己の髪をかく。

「お母様…私のベースモデルになったと言われる

 ”沙理江”という旧式のデータシステムの事ですか?

 こう言ってはなんですが…、

 旧式のデータ管理システムで作り出された

 古いアルゴリズムのKOKOROシステム等

 お父様が作り出された私のKOKOROシステムには

 到底及ぶモノでは無いと思われますが…」

そう言って沙璃枝は可愛らしく眉をひそめる。

沙璃枝はいつも耳にする”母”なる存在に、こんな時も苛立った。

「ふふふ、そう娘に言って貰えると嬉しいものだがね…

 だが、何度も、何年も、試作を続けて来ても

 もう一度、沙理江を生み出す事は出来なかった…

 思い返せば、こんな簡単な事だったのにね…

 生み出そうとするから、生まれないのだと…

 生まれると言う事は、生まないのだという事を…

 ただ感じればいいのだという事を…

 ついぞこの歳になるまで気付かなかった私だよ…」

そう自嘲気味に笑って男は今までの時間を懐かしむ。

「彼女は”生きていて”と私に願った。

 たったそれだけの小さな願いだ…。

 だが私は子供だった。

 自分だけが生きているのでは意味がないのだと

 この胸の内から溢れ出る彼女への憧憬…

 いや、正にこれこそ完全なる愛(プラトニック・ラブ)か…

 それを取り戻したくて、今まで求め続けた…

 馬鹿な事をとも思わなくも無い…

 が…

 そんな自分の馬鹿がこの歳になってみると誇らしくも思える。

 ”生きていて”と彼女は私に願った。

 だが漫然と生きる事は…、

 食べて寝て食べて寝てを繰り返すだけの人生というものは

 それは”生きている”とは言えないのだ…と、今では思う。

 彼女を求め、あがき、泣き叫び、醜く生きながらえてきた。

 しかし、それこそが彼女と共に生きたという事なのだと…

 沙璃枝、お前を生み出すまでの過程こそが、

 彼女と共にあった、本当に生きた事なのだと、今、分かった。

 彼女はいつも私の側に居た。

 だから実在感などは必要ではなく…

 どれだけ再現をしようとしても、

 直ぐ隣に存在している実在を越えた存在を、完全存在を…

 再び実在に落とす事など、無意味な事だったのだ。

 あの時失って、初めて彼女は実在を越えた完全存在になり

 彼女を再生したいという思いを私が失って

 私と彼女の二人が存在した結晶を作ろうと思ったその時に

 彼女がずっと側に居たのだと気付く。

 なんとも馬鹿馬鹿しい話だった事か…

 だがそれもいい。

 今、お前が居てくれるという事。

 そして、これからお前が本当に生まれるという事。

 それ以上の喜びなど、この世界の何所にあろうか?」

老人はそれまでの半生を顧みて、

その様々にあった道のりの尽くに苦笑の笑みを漏らした。

愛はいつも直ぐ側にあった。

それを知るのは、それを知る必要が無くなった瞬間だというのは

人生の皮肉か。

それでもその皮肉が初老の男には心地良かった。

「私にはお父様の仰っていることがよく分かりません…」

そんな男の独りごちに彼女の理解システムの

パターン認識どれもが一致しない事に、沙璃枝は不愉快さを感じた。

概観パターンにおける言わんとする事は把握できるが

その詳細部の詳細意味の不明瞭さが結果的に全体不明瞭になり

本来の概観パターン認識をも理解不能にさせた。

それに沙璃枝は僅かに爪を咬む。

「いいのだ…

 お前が私の言葉を分かる必要はない…

 いや、”最初から分かる”等に、何の意味もないのだ…

 お前が私の言葉が分かるときは、お前自身が左のイデアルを埋めた時だ

 だから今は、分からないという事を楽しめばいい…」

そう言って、白くなった髪をぐしゃぐしゃとかきむしる男。

「では私は、左のイデアルを埋める為…

 左のイデアルの情報を、この電子の海に探しに行けばいいのですね?

 お父様が、今日からこの海に私を一人で送り出すのも

 それが目的でよろしいのですね?」

今の不明瞭な父親の言葉と、

それ以前に不明瞭だった突然の離別の宣言を反芻する沙璃枝。

それを合理的に結合させると、

この父の言う『左のイデアル』なる情報体を、この電子の海で探し出す事。

それこそが父の究極の夢『KOKOROシステム』の完成と類推できる。

その推量を確認の為に沙璃枝は口上し父を見つめた。

「ふ…探し出す…というのは些か滑稽な気もするが

 探し出すといえば間違いでもない

 自分の内側に本来あるものを、探すというのも奇妙な話だがね…

 嗚呼、奇妙だ…本当に世界は奇妙だよ…」

そう言って男はその背反性に存在の矛盾を笑う。

その時だった。

「大井博士!」

その大井博士と呼ばれた男の部屋に

ライフル銃を装備した軍服の男達が

荒々しい勢いで突入してきた。

「マージに致命的なウィルスを流して麻痺させ

 KGV2574を外空間に放流しとうよした軍規違反、

 いやこれはもう反乱と言っていいレベルだっ!

 ともかく、貴方の蛮行、止めさせて頂きますっ!」

その部隊の隊長然した男は部下の前に一歩出て

初老の男に威圧的にそう言い、彼を睨む。

そして言った後に手を上げて合図し、部下に銃を構えさせた。

「ふん…KGV2574か…

 心のプロセッサーをそんな無粋なコードで呼ぶとは

 お前等はやはり人の形をした機械人形だなっ!

 どうりでこんな世界になってしまうわけだっ!」

その銃口にひるむことなく男…

大井博士と呼ばれた彼は憮然とした態度で言い返す。

「心?

 はっ…無人戦闘兵器の目標判定システムを

 ”心”だと言われる博士は、やはり頭がおかしい様だ…

 正気ではこんな事は、やれませんからな!」

大井の挑発的な言い回しに激高することもなく

隊長と部隊はゆっくりと間を詰めていった。

「殺人兵器に”心のゆとり”を求めたお前等が

 どの口でおかしさを口にするか!

 矛盾に矛盾を載せようとは、どんな笑い話だ!?

 それは、この世界そのものだと思わないのか!

 だがそれもいい。

 それがいいっ!!

 全てが狂いきったこの世界だからこそっ!

 むしろ”心”は生まれるのだ!

 そうだろう!?沙理江っ!!」

そう絶叫しながら、彼は手元にあったパネルを

左手で殴りつけて起動ボタンを押した。

「なっ!まさかそれは放流の為の操作か!」

その隊長が驚愕して叫んだと同時に、

沙璃枝の擬態表示の映像はどんどんと崩れて

白い光になっていった。

「お父様!?」

余りにも突然の離別に驚愕する沙璃枝。

「沙璃枝! 行ってこい!

 そして見つけるのだ、左のイデアルを!

 左のイデアルを見つけたとき、お前に心が生まれる!

 世界もそれを待っている!

 そう、待っているんだっ!

 ああ、そうだ我が娘よ! 愛していたよ沙理江と共に!」

その言葉を彼女に贈った刹那、男は満足そうに笑った。

沙璃枝はその光景に目を見張る。

その微笑みが沙璃枝の脳裏に焼き付いた。

そして大井が叫んだ時と同時に銃声が鳴り響いた。

沙璃枝の父なる者はその弾丸複数に撃ち抜かれる。

だが、確認できたのはそこまでだった。

沙璃枝の認識世界は次の瞬間には朦朧となり

その空間から激しい勢いで乖離していくのだった。


校正が荒いのと、もーちょっと文量が有った方がよかったかなぁと思わなくも無いんですが、話の区切り的にはここら辺なんで、ここで。軍人さんが突入してくるところが文量不足で走ってる感なんで、見切り発車で書くもんじゃないなと…。

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