こあと小傘と・・・
ピースブリッジさんの声かけによる、ランダムカップリング(RCL)企画・・・に参加出来ているのかどうか、自分でも自信が持てなくなっている作品です。
RCL企画参加、一作目。今回のテーマは多々良小傘と小悪魔でした。
当小説は、
上海アリス幻樂団『東方プロジェクト』の版権による二次創作作品です。
一部、ちょっと孤独のグルメねたが入ってます(笑)
淡い光に照らされた書架の一部が、ほんのりオレンジ色に映える。
棚のぼやけて薄明かるいラインが色付いてくると、隙間無く収まった背表紙の輪郭も段々とハッキリしてくる。
オレンジ色の淡い光量が一時、眩しくない程度に強まり明るくなる。そして今度はゆっくりと光量を落としていった。
本の輪郭は薄れ、棚もゆっくりと仄かに暗く。淡いオレンジ色で照らされた光の末端は、書架の奥へ奥へと移っていった。
淡いオレンジ色の発光体がひとりでに浮游しているのだ。
ほぼ半透明な霧状の何かが球体を形作っており、そして発光している事で光に形を与えていた。
直径は30センチほど。その浮遊する発光はあくまでも仄かなオレンジ色で、直視しても全く眩む事がない。
それでもこの発光体は、不思議なほど周囲を明るく照らしていた。
また発熱は一切なく。ならば冷たいのかと言うと冷たくもなく。周囲の空間に対して温度差というものを及ぼさない。
つまり、こういう事である。
その機能。全ては書物の為に。
仄明かるいオレンジ色の発光体が、大図書館の書架を照らしながら回遊している。
物言わぬ浮遊光は漂いながら、その先々の書架回廊を灯している。
硬質な床に灯りを。堅牢な書架に灯りを。そして貴重な大判書にも。
平常な輪郭。平常な色彩。図書館主人からのささやかな魔力と魔法に従い通常運行していた浮遊光。
その回遊を止めたのは、書架と床の接する一角に現れたゴツゴツでギザギザに角張った、妙な輪郭の出現であった。
浮遊光は暫し停滞して、自らを纏め形作っている命令を探る。これは人工知能(AI)ロボットに例えるならば、自己の内蔵メモリに保存されたプログラムを再演算し、この状況に適応した指示を検索していると言う事である。
この大図書館の、そして浮遊光の主人となる魔女の願いは『浮遊して灯せ。そして巡回せよ』が基本であるが、大図書館内の同種浮遊光との魔力の繋がりを獲得する程度の能力も持っていた。
主人である魔女からの権限を得ている者は、浮遊光の構成や特性を活かして出来る事が様々である。
浮遊光は緩慢に下降していく。
他の区画と比べて変動の起きている一角の輪郭を、浮遊光の灯りで拡げていく。
ゴツゴツ角張った輪郭はイビツな円形となって定着する。中心に突起がある様で、光源の移動によって棒状の影を伸ばしたり縮めたりしている。
全体は紫色。人を一人は遮蔽出来る程度に大きい。イビツな円形の一部分だけが、大きく輪郭を出っ張らせ飛び出していた。
それは傘、詳細には唐傘であった。異様と形容せざるを得ない形態ながらも、ごく一般的な知識があれば『傘』と認識する事は出来るだろう。
当然、浮遊光がその輪郭体の名称や役割を認識しているという事はない。
『大図書館の書架区画通路内において、放置状態を進行中の物体』を照らし続けているだけであった。
浮遊光に新たな処理を生じさせたのは、カサリと鳴った物音である。
静止物認識となっていた輪郭が、形体を上向きへと変動し始めたのだ。
床と接する輪郭が上がり、輪郭と奥行きの新情報が浮遊光内で走る。オレンジ色の灯りが一瞬だけ点減していた。
物体はイビツな円形ではなく、円錐形で厚手のドーム状であった。物体は静止物ではなく動力源を有していた。
しかし、浮遊光の灯りに影響を及ぼしていた変化はこの先の問題なのである。
紫色でイビツな円錐ドーム体の角度が上がり、床の接地面から上がった先に・・・。
後ろ向きでしゃがみ込んでいる下駄履き少女の姿が現れていたのだ。
この段になり浮遊光の認識は、館内の放置物から人の形をした生体へとシフトする。
そして人妖を認識した浮遊光の役割は『読書家の灯りとなれ。ただし鼠は撃ち落とせ! むきゅーッ!』であった。
浮遊光は他の浮遊光達とのラインを強めながら高度を上げる。
上空から周回して前方から照らそうと移動する。傘が邪魔をして識別が困難になっていた為に、ゆっくりと回り込みながら高度を落としていく。
対象は動く気配がない。
大きな傘の形が大きな帽子の様にも見えてきたのか、浮遊光のオレンジ色が白色を帯びてくる。
当たり判定を持った弾幕へと変化しつつある兆しである。
不意に、他の浮遊光を介して司書権限の干渉を受ける。
ぴたりと接近を止め、淡いオレンジへと色合いを戻した。
ふわりと高度を上げる浮遊光は、何事も無かったかの様に周囲を灯しながら遠ざかって行った。
傘を肩越しに乗せてしゃがみ続けている少女の背後が、再び淡いオレンジ色に明るくなってきていた。
今度の浮遊光は誰か人を伴っていて、付き従う様に漂っている。
浮遊光の先導者が傘を持った少女のすぐ後ろで立ち止まった。少女の背後で屈む。無言のままに片手を伸ばす。
向けた手が傘のすぐ下をくぐると、傘をさしている少女の肩にぽんと手を置いた。
多々良 小傘は不思議なヤル気に満ちていた。動くモノ全てを驚かしたい気分になっている。
ありていに言う所の、とてもお腹が減っているだけなのだった。
何でも良いから今すぐお腹に入れたい。私はお腹が減ってるだけなんだ。
普段は人間の冷えた肝しか相手にしない小傘だが、たまたま通りかかった三人の妖精を驚かす気になっていた。
「うらめしやー」
物陰から飛び出すやいなや、本体の1つでもある傘をばっさばっさ揺すって脅かしつけた。
「うわわあああー!」「ひゃー!」
一人は尾を引くように叫びながら、一人はどしゃんと躓き転びながら、もう一人は何故か面白げに笑いながら駆け逃げて行った。
満たされる。意外な満足感。
「妖精狩り?」
丸めた手の平に顎を乗せつつ、「そういうのもあるのか」などと危うい台詞を口にしてしまいそうになる。
よし、今日は妖精にしよう。
妖精たくさん集まってる所行こう。
途中出くわした知人の妖怪、ぬえに相談してみた。
「よくぞ私に聞いてくれたね。湖に良く現れる妖精に気を取られてるのはシロートだよ。あれは駄目。その先の湖畔に建つ赤い館に行ってみな。そこには妖精がごろごろと出るんだよ」
湖畔を目指し、湖の湖上を渡る。
氷を操る妖精は現れなかったが、足がヒレになってる妖怪がボロ絵姿で仰向けに流れていた。
何か充実した表情をしていたが、もしかしたら腹に氷の妖・・・私も早く味わいたくなり速度を上げる。
・・・見えてきた。あれが湖畔の赤い館に違いない。
巨大な門扉が聳えて立ち、人も居たけど、そのチャイナ服の人は完全に眠っている様子で問題なく飛び越えられた。
それにしても今更ながら、何でこんな積極的でいられるのだろう。
良い意味で、最近の私はハシャいでいる気がするのよね。
まあ、どーでもいいや。この際。
さっさと入ってしまえ!
からかさお化けの付喪神、多々良 小傘は紅魔館へと消えていく。
本来なら。この時点でメイド長からの返り討ちに遇っている筈であった。
しかし幸か不幸か、メイド長は不在であった。
メイド長の居ない館内は妖精メイド選り取りみどり。目移りしながらいつのまにやら進みすぎて。
気付けば大図書館の扉を目前に、帰還したメイド長の手が小傘の傘をガッと掴んでいた。
「貴方、だれ。パチュリー様に御用客の予定は御座いませんわ」
ーー暫くして。凄く広い図書館の中で、椅子に座らされていた。
何故か特別危険視されず、自己紹介と付喪神の話をさせられている。
「ご飯は人を驚かす事です」
この一言を聞いた瞬間、凄く食い付いてきた人がいた。
「人嚇かすのが ご飯ですって! なにそれカッコいい! ねぇねぇ パチュリー!」
「何かしら、妹様?」
妹様と呼ばれている人に、ぴしりと指を指される。
「わたし、これ飼いたい!」
・・・・ながい間。
沈黙が続いていた。
「フランに生き物の世話とか出来るのかしらね」
「お姉様なんかよりは遥かに出来るわ」
「む、それは日常的に生き物飼ってきた私に言ったのか」
「お嬢様、日常的に飼われている生き物とは誰で御座いましょうか? 私でしょうか? 私の飼育で御座いましょうか?」
飼うとか何だと言われている私を放置し、館の人達は実りのない議論に花を咲かせている。
何となく余裕の出来てきた私は、座ったまま周囲を見渡してみる。
それにつけても広い所だ。
捕まった扉の所まで一本通路だった気がするけど。ここまで一人で入って来たら、永遠にさ迷い続けてしまいそうだった。
この場所まで連れられてきた道中、光る球体や妖精が行き来していた。
目下、私のターゲットだ。
たまに一体、妖精に混じって脅かし甲斐のありそうな人が居たのを覚えている。
薄紅色の髪をショートカットにした人で、いまこの場で一番偉そうにしている人と同じ様な形の翼を背中に、そして耳の上辺りにも小型の翼を出していた。
いま私の横を通って、鉛色の荷車に本を乗せて動き回っている人も同じ姿見で、こちらの人は濃い薄紅色の髪が腰辺りまで届いていた。
「あらレミィ。生き物を飼育する経験って、有意義な情緒を育むと思うわ」
「まあ、どちらにしても。ね。生き物を『これ』呼ばわりしているフランに、これを飼えるとは思えないよ」
「あ、あの」
私は傘の柄に触れていない方の手を、ぴっと挙げた。
「私は道具なので『コレ』呼ばわりがしっくりきます」
「・・・貴女、吸血鬼である妹に飼われようとしてんのよ? いいの?」
「いいですけど」
「良いんだ!!?」
声を揃えて上げられた叫声。ーーこれにはかなり、お腹が満たされていた。
良く分からないけど。要は使って貰えるという事だ。道具である『傘の付喪神』にとって不満など感じる筈がない。
「コガサ! 今日から私のコガサだからね」
「うん、よろしく」
「よしよし。先ず、私の事を何て呼ばせてみようかしら」
「とりあえず。お嬢様とお呼び♪」
「お嬢さ・・」
「あ、無し! 」
「無いわぁー。前々から思ってたけど、今日日、自分の事『お嬢様』とか呼ばせてる奴は、みんな頭どうかしてる奴が多いのよね」
(*注:幻想郷に於いてのみの、妹様の極めて個人的な日頃の恨みと偏見に沿った意見であり、色々フィクションです)
「私の事はフランさんと呼びなさい」
「わかったよ、フランちゃん」
「・・・まぁ、いいか」
私はフランちゃんに連れられて、フランちゃんの部屋(地下に自分だけの部屋を持っている。凄い!)を教わり、次に大図書館という場所を案内されている。
「フランちゃん・・・ お腹が空いてきたよ」
「ああ、そうか。餌を与えないとね。驚かせるのがご飯なのよね?」
小傘が連れられて来た場所は、書架が幾列にも並ぶ図書館の通路。
そんな とある区画の、とある一角であった。
書架の一つに背をつけたフランは、書架の端から頭だけ出す様にして角の先を覗く。
「よし」と、小さく呟くと頭を引っ込めて小傘に向き直った。
「コガサ、狩りの時間よ」
小傘も同じ様にして書架の端から頭を出すと、腰まで届くロングヘアーの司書が大判書を乗せたカートを押しているのが見えた。
妖精よりも格の高そうな人である事だけは、小傘にも十分感じ取れていた。
「あ、あの人、怖い人なんじゃないの?」
「小悪魔が?」
「悪魔なの! 駄目な人だよ それ! 妖精で良いよフランちゃんっ!」
「平気だって小悪魔なんて。悪魔ってのはね、私の事なの」
「『こあ』はね、悪魔って感じじゃないから」
「コア・ク・マ って感じだね」
「コア・ク・マ! 何か強そうっ」
「本当だ。魔王みたいな響きになってきたね」
「兎に角、こあを驚かせばコガサのご飯になるんだね?」
「うっ、まぁ、多分」
小傘が再びチラリと覗く。
改めて覗いて見る小悪魔の仕事姿に、決して一線を踏んではならない様な、不思議な危うさを感じる気がする。
言うなれば弱者のカンみたいなものであった。
「ねぇ、コガサ自身が脅かさないと駄目なの?」
小傘の頼りなげな様子を見ている内に、フランも少し不安になる。
「うーん、基本的にはそうだけど。今の私は道具としてはフランちゃんに使われてる身だから」
「多分だけど、フランちゃんが驚かせても大丈夫かも知れないよ」
「それなら大丈夫だね♪」
「でも多分だよ?」
「ちょっと、ここで待ってて」
相手からも見付かりそうな一角から小傘を十分に下がらせると、そこから離れないよう命じた。
自分が驚かせるのでも良いとなると、フランは俄然 余裕顔である。
「ちょっと小悪魔獲ってくるから、ここで大人しく待っててね」
「う、うん。気を付けてねフランちゃん」
「平気平気、こりゃ面白くなってきたよね♪」
書架の一区画の端の角から、フランは姿を消していく。
向こうの様子を全く把握できない小傘は、書架の奥から響いてくる物音だけに意識を向ける。
あっ は は は は は は ・・・ ♪
は は は ♪ きゃ は は ・・
これは? ・・これは?
うふふふふ
じゃ こ れ な ら 驚 ・・くふぇッ
これは衝撃波だったのか。書架の片隅で待機している小傘の体が突風に煽られたかの様な錯覚を受けた。
ーー ズシッッッッ!!!!
と言うような感覚だった。
実際には風は起こっておらず、髪も袖口も靡かない。
しかし、衝撃が書架を透過して風の様に当たってきた。と感じた時に、小傘のもう一つの本体自身でもある傘に張った紙を通してズシッッッと言う様な音が響いてきた。
小傘の全身が痺れた様にピリピリしている。
・・・ひた。 ひたし、ひた。
そんな音が近付いてくる。
フランがふらりと現れた。小傘は床の辺りを見ていたので、フランの足元が見えていた。
「フランちゃん裸足? 靴はどうし」
「半裸っ! 半裸だよフランちゃんっ! 」
「どうしたの!!!」
「うっ・・ め・・」
「・・・め・・なさ・・ぐす、ぐす」
小傘の戸惑いにも反応せず、蚊の鳴く様な小声で泣きじゃくっているフラン。
小傘を素通りする。
片手で目端を擦りながら。ひた、ひたし。と歩いて行ってしまう。
掛ける言葉の浮かばなかった小傘は、無言で付いて歩く事しか出来なかった。
フランは図書館を出ると地下室へと進み、自室の扉を開けて入っていく。
小傘は何となく、入って行くべきではないと感じたので閉じられる扉の前で立っていた。
ーー少女着替え中・・・。
きぃぃぃ・・・。扉が開いてくる。
「コガサ、」
「コア・ク・マを獲りに行くよ」
「え、フランちゃん。もう大丈夫なの?」
「もう大丈夫って何?」
「主語が思い当たらない」
フランは最初の服装より少しオシャレ感の増した服装に着替えて現れた。
表情や挙動からも、先程の様な事があった形跡は微塵も窺えない。
数分後、二人は再びコア・ク・・・いや小悪魔から身を隠せる区画に到着していた。
「ねぇ、フランちゃん」
「んー・・・」
「フランちゃんってば」
「何よー、コガサ」
「たくさん居るんだし、驚かせるのは妖精にしようよー。コア・ク・マじゃなくてもいいよー」
「はぁ・・・あのね、コガサ」
フランは小傘に向き直る。
「たくさんの妖精なんか相手にしてたら終わらないよ?」
「何で? 簡単に驚いてくれるよ?」
「アマいなー、コガサ。さてはウチのメイド妖精をそこらの野良妖精と一緒にしてるな?」
「それにほら! 二兎追うものは・・・」
フランは左右の手をピースにして、顔の横でふりふりと振ってみせている。
「いと 萌えず☆っていうじゃない?」
両指とも人差し指一本にして、左右の頬に添えながら小首を傾げているフラン。
「いと ってなーに?」
小傘もフランを真似て、両指頬に添えつつ小首を傾げていた。
「『いと』って言うのは昔の言葉で、凄くとか、非常にって意味だよ」
「みんなが凄く萌えなくなるって事なんだよ?」
「よ・・良く分からないけど・・・、燃えなくなるのは良い事なんじゃないの? 」
「 何 言 っ て ん の !!!!」
血相変えて小傘の肩を両手で掴む!
「ひゃっ!」
「萌えなくなるって言うのはねッ! それはもう、とてつもなく大変な事なんだよ!!」
「みるみる下がっていくんだよ!!!」
「さ・・下がるって、何が」
「 順位 に決まってるじゃない!!」
「決まってるのッ??」
「あと割合。だからね、私達は小悪魔に集中してないと駄目なの」
「分かった?」
「う、うん、分かった」
「 よ し !」
「コガサの為に今から小悪魔 摂って 来るから」
書架の一区画の端の角から、フランは姿を消していく。
向こうの様子を全く把握できない小傘は、書架の奥から響いてくる物音だけに意識を向ける。
こらぁー・・・ こあー・・
さっきみたい・・・
いかな・・ だぞー
こん・・
ここあにすっごいのを・・・
二兎追うものは・・・
い と 萌 え ず っ☆
長い長い、とても長い沈黙が続いていた。
やがて書架の角から人影が。
フランがふらりと戻ってきたので、小傘は胸を撫で下ろしていた。
「戻って来ないから心配し 」
「ぼさぼさっ! 髪が凄いボサボサだよフランちゃんっ!」
「何されたの!!!」
「N 」
「コア・ク・マにNCMされた・・・、私 人型なのに・・・、」
とぼとぼと、フランは地下室へ戻ってしまう。
小傘は所在なく扉の前で立っていた。
ーー少女整髪中・・・。
ぎぃぃぃ・・・。扉が開いてくる。
「フランちゃん、何故かお腹一杯になってきてるんだけど・・・」
・・・ばたーん!
書架の角からフランが倒れ出てきた。
「フランちゃん!!!」
倒れ出たフランの腰から先は、角の奥へと隠れて見えない。
「コガサぁぁー! 逃げろおおおーー!!」
「えええーーっ!」
「私はもう駄目だああ! コガサだけでも逃げるんだああ!!」
目を丸くしている小傘は、はっと思い立ちフランへ駆け寄ろうと近づきかけた。
「 来 る な あ あ !!!」
一喝され、びくりと震えて止まってしまう。
フランは床をカリカリ鳴らして掻くように爪を立てているが、その半身は少しづつ、少しづつと、角の奥へと引き込まれている様に見えた。
「コ・・コガサ・・・逃げ延びて、きっと仇を討ってくれ・・・」
「私には無理だったけど・・、コガサなら! コアを驚かせる事が出来るはずっっ・・・ だあぁぁあぁ ああ ・ ・ ・ 」
フランの体は、小傘への激励と共に書架の角へと引き込まれ。消えてしまった。
「フラァァンちゃぁぁぁぁん!!!」
ーー広大な大図書館。
書架に囲われた、仄暗い回廊の一区画。
遂に一人きりとなってしまった私は、一体どうすればいいのかな。
そもそも、ここには妖精から驚き栄養を戴く為に来ていたはずなのに。
何て言うか、もう、帰りたい。
後ろから、ぽんと肩を叩かれていた。
「ひんっ」
息が一瞬詰まって、屈んだ姿で硬直したまま首だけを後ろに回していた。
涙で霞んで歪む視界に、腰辺りまで長い薄紅色っぽいロングヘアーと、こめかみ辺りから延びる黒い翼が写っていた。
「うっ うっ うりゃめ、うりゃめひや」
かたかた震える手で、傘をくいくい上下する。振れてるのだか震えてるのだか、自分でも分からない。
ただ、屈んだまま小悪魔さんは優しく微笑み続けていました。
辛抱強く差し向けられ続けていた手の平を取るのに、そんなに時間は掛かりませんでした。
「そうなんだ、イタズラ好きなココアさんって小悪魔さんも居るのね」
「え、ウィッグで! じゃフランちゃんもコアさんだと思わされた・・・」
道中、私と小悪魔のコアさんは色んなお話に花を咲かせながら、書架の奥へと二人仲良く歩いて行くのでした。
大図書館。書物閲覧ロビー。
図書館の主人や紅魔館内の憩の場であり、ティーラウンジの様なものであった。
図書館入り口で捕まった小傘が連れて来られた場所でもある。
臙脂色の大きいラウンジテーブルに紅魔館の面々が集い、気付けば実の無さそうな議論が始まっている。
そんな場所なのだ。
図書館の主人、パチュリー・ノーレッジ。そして紅魔館主の妹、フランドール・スカーレットが紅茶の運ばれて来るのを待っている所であった。
「あ、妹様じゃないっスかー。もう、こっち戻ってたんスねぇ」
「確かさっきまで、こあで遊んでたんじゃなかったっスか」
「うん、飽きたの」
「ばっさりっスね」
紅茶を運んできたショートカットの小悪魔。
通称ここあは、砕け過ぎた性格と話し方が特徴的な『使い魔』少女であった。
「見てたっスよー」
「ほぼ全裸から半裸に直されたり、可愛い挑発して囲われたメイド妖精達にナデナデまでならまだしもCやMまで移行しそうになって救出されたり・・・ こあで遊び過ぎっス」
「でもほら、相手はコアでしょ? ココアじゃあるまいし安心よね」
「私ならほぼ全裸から事g‥‥」
「そこまでよ」
ずんっ、と重厚な本の重みを頭に乗せて、パチュリーがココアの軽口を封じていた。
「まぁ、私の事はともかくとしてっスね。あまりこあを挑発し過ぎない方が身のためっスよ?」
ココアは神妙な目付きでフランを見つめる。
「仕事モードに鬱積した萌えゲージは休憩に突入した瞬間に全百合解放されて・・・パチュリー様に及ぶっスよ」
「ちょっっ、なんでそこで私に向くの」
「あ、いやパチュリーさま。これは冗談じゃなく。・・・もし、妹様が与えた不完全燃焼分を休憩に入ってパチュリー様に放出する道中に、誰か可愛い娘になんか出くわしちゃったら・・・」
「え・・・私、そんな小悪魔知らないんだけど、私の使い魔がいつの間にそんな性格に・・・」
「主に私の影響っスね」
「おいっ!」
「あー、それにしてもコガサ遅いなー、そろそろ誰か連れ戻してくれてもいい頃なんだけどなー」
「つまり。知らない人には、絶ッ対ッに!ついて行ってはいけないよっ!」
「・・・って話っスね」