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彼と私のぐだぐだ恋愛日記。

グダグダ四月

作者: ひばり れん



四月一日。朔日と言っても問題なし。

今日この日はエイプリルフール。

直訳して四月バカ。

通称、「嘘をついても怒られない日」。


大体のいたずらっ子はこの日をとてもエンジョイしているらしい。

毎年手を変え品を変え、頑張って人をだましているらしい。

朝のニュースに続いたアニメを見て気づいた。

「そういえば、今日がそれだ」と。


といっても私に嘘をついてくる人はどこにもいない。

友人はもちろん、長年付き合ってきた彼もだ。

一度も嘘を吐かれたことはない。私の記憶が確かならば。

その代り、彼がいつも婚姻届けを持ってくるのは何かの錯覚だと思う。

あれは新手の嘘だったのだろうか?



「おはよー」

「うん」

「今日、何の日か知ってる?」

「四月一日火曜日」

「そうじゃなくって」



あからさまにエイプリルフールについての話題提供をしてくる彼。

朝から頑張るなーと思いつつ受け流す。

きっとまともに聞いた方が馬鹿なんだ。



「まぁ、いっか」



諦めたにしては明るめな声で彼はそう言った。

最初から見込みのないことに挑戦したかのような語調。

何のことだろうと疑問には感じたが、私が打ち切ってしまった話だ。

今更訊けない。



「そのかわりーこれどーん!」

「・・・・うぇ」



恒例の婚姻届け。

両手で折らないように丁寧に彼は持っていた。

すでに彼の分は書いてある。判子も押してある。

後は私が書き込んだりなんだりすれば、完了してしまう。



「あのさ、去年も言ったけど」

「まだ結婚はできないけどさー予約みたいな感じでいいからー」

「・・・私はあんたが年を取るのを待ってる程暇じゃないから」

「ええー!?あと一年くらいじゃん!」

「あと一年と半年。切り捨てすぎでしょ、一年じゃないよ!」

「・・・そだっけ?」



彼の誕生日は十月。

そして私たちは今高校一年生だ。

まだまだ婚姻適齢ではない(主に彼が)。

それに未成年の私たちは両親の承諾だって必要だ。

これらのことを考えれば婚姻届けなんてまだまだ早い。

今の私たちには不要なもの。


私は彼が、・・・その。好き、だけれど。

同じように彼が私を好きであることも知っているけれど。

それでもいつか、この感情が消えてしまうような気がしてしまう。

永遠の愛なんてどこにもないのだから。

そもそも有限の私たちが無限の存在に手を伸ばせる訳がない。

最初から誓えるわけないのだ。

病める時も健やかなる時も。なんて。



「じゃぁ、今はちゅーで手を打とう!」

「は?」

「ちゅーーーーーーーーーーー」

「い・や」

「いいじゃん、いいじゃん。一回だけー」


呆気に取られたままの私を引き寄せ、口を近づけてくる。

腕を突っぱねて何とか止めたけれど長く持たない。

じりじりと近づいてくる彼の顔。


まるで、そういったことが目当てにも見えてしまう。



「離してよ、ばーか!!」

「うわっ」



思いっきり突き飛ばした。

彼が一メートル程私から離れる。

その隙を狙って捨て台詞と共に彼から遠ざかる。



「もう、あんたなんて大っ嫌い!」



喉からこんなに大きな声が出るなんて知らなかった。

今まで声を荒げたことなんて数えるくらいだし。

それでもいくらか加減していたから。

彼に対してだけは、いつだって全力だった。


だから、どうしようもなく悲しかった。

すぐにでも既成事実を作ってしまおうとしているよう。

私自身に興味があるんじゃなくて、女である私に付きまとっているだけに見える。



「えへへー」



ぎょっとするほど空気の読めない笑い声。

それはもちろん私じゃない。彼だ。



「な、なに・・?」

「珍しく年間行事に付き合ってくれたなーって」

「はぁ?」

「いま、嘘、吐いたでしょ?」

「嘘なんて、」

「ついたよ。俺のこと嫌いって」



自意識過剰、と口が動いた。

まるで私が彼のことを大好きだって確信しているみたい。

そんな証拠なんてどこに・・・。



「そんな泣きそうな顔しないでよ」

「べ、別に」

「婚姻届け(これ)は偽物だって、知らないの?」

「・・・・え」

「やっぱり知らなかった?これねーここがちょっと違うんだよ」



先ほどの紙を根絶丁寧に指さしながら教えてくれる。

嘘の種明かしを今するのか。

明日でもよくない?と思ったけどスルー。

きっと彼なりの考えがあるのだろう。



「去年も同じことしたけど、突っ込んでくれなかったよね」

「・・・そうだっけ?」

「うん、本気にしてたよね」

「・・う゛」

「でも大丈夫。俺が18になったら本物渡すから」



書いて、も。判子を持ってきて、もなく。

それが当然のように笑う彼。

私が必ず彼と結婚するかのようで。


顔が下から徐々に温かくなってくる。

彼の顔は段々二ヤけてくる。




「ばーか」




今日は私も彼も四月バカ。


来年もきっと同じように嘘を吐くのだ。

でも再来年はない。



その時はもう吐く嘘がなくなってしまうだろうから。




永遠はどこにもない。

私の手元には有限ばかり。

彼の強い思いに対抗できるものはほんの一握り。



真実と嘘は両方とも私の手元にある。

だったら、私は両方とも有効活用しよう。

彼に誠実な気持ちで向き合うために。

彼のほんの冗談だって、受け流せるように。



いつか、彼に誓う愛は永遠じゃない。

嘘偽りない、愛を彼に誓おう。


彼にだけは嘘を吐かずに行きていきたいから。








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