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超能力高校生はパフェがお好き  作者: まんぼう
第1章 白い薬にご用心
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白い薬

7月の期末考査が終わるともうすぐ夏休みだ。

学校は未だあるものの、気分は完全に夏休みモードとなる。


「ああ~、やっと終わったよ。多分赤点は無いと思うから、これでもう9月までは勉強の事考えなくてもいいんだよね?」

鈴和の親友の康子は両手を上に上げて背伸びをしながら晴れ晴れとした顔で言った。

「そんなに浮かれてて良いの? 夏期講習とか行かないの?」

「鈴和、そう現実に引き戻さないでよ。せっかく気分はバカンスモードなんだから」

「いいわねえ康子は快楽主義者で」

「あら、快楽主義って……なんかいやらしいわね」

「そうじゃ無くて、すぐに楽しい事を考えると言う事よ」

鈴和はスクールバッグに今日の試験の科目のノートと教科書等を仕舞うと、帰る為に教室を出ようとして、いきなり入って来た女生徒とぶつかってしまった。

「ああ、ごめんなさい。大丈夫?」

鈴和がそう声を掛けるとその女生徒は

「こちらこそすいません不注意で」

そう謝ってその場を去って行ってしまった。

気がつくと、その場所に何やら、ピルケースの様なものが落ちていた。

これは今の娘の物じゃないかと思ったが、面識がなかった。

「ねえ康子、今の娘知ってる?」

そう訊かれた康子も

「ううん、知らない顔だった。あんな娘1年に居たかな?」

そう言って不思議がる康子に鈴和は

「まあ、でも生徒みんな知ってる訳じゃないからね」

そう言ってそのピルケースを手の平に乗せてみせた。

「なんだろうね?」

「薬かな? 見てみようよ。大事な薬だったら大変だし」

そう言う康子に云われて鈴和はケースの中を開けてみたのだった。


プラスティック製のケースの蓋を開けると中には白い錠剤が入っていた。

よく見る様な平凡な感じだった。

鈴和の守護霊が興味半分でそれを覗く

「なんか判ったご先祖様?」

鈴和の守護霊は上郷の先祖でもかなり力がある人物だった。

「いいや判らん。でもなんか変な気を感じるな」

「そう、やはりね。私もそう思ったんだ」

やはり覗いていた康子が

「これ、今流行ってる眠くならない薬じゃないかしら。私も持ってるわよ」

そう言って自分のカバンからやはりピルケースを取り出すと、中を開けて見せてくれた。

「ほら、同じでしょう」

二つの錠剤を比べると見た目は全く同じだった。

「康子、眠くならない薬ってカフェインの錠剤?」

そう訊いた鈴和に康子は

「違うよ、、今これ流行ってるんだよ。試験勉強する時に飲むと朝まで頭が冴えてしっかり勉強出来るって」

鈴和はそんなものがこの学校で流行ってるとは全く思っていなかった。

「良かったら、1錠だけで良いからくれないかな」

そう康子に頼むと

「いいわよ1錠でいいの? もっとあげるわよ」

「ううん、1錠でいいの!」

そう言うとそれを大事にティシュで包むと家に持って帰ったのだった。


鈴和は家でこの薬の正体を調べて見る積りだった。

眠くならない、なんて可笑しいと思ったし、康子にどこで買ったか訪ねても

「友だちに譲って貰ったの」と言うだけでラチが開かなかったからだ。

「ただいま帰りました」

家に帰り声を掛けて居間に行くと、江戸から三井の志摩さんがやって来ていた。

「あ、志摩おばさま、ごきげんようで御座います」

そう言って挨拶をする。志摩さんも

「あら、鈴和ちゃん。暫く見ないうちにお綺麗になって、もう何時でもお嫁に行けるでござんすねえ」と言って笑ってる。

「いやだおばさま、未だ早いですわ」

鈴和も笑いながら会話をする。

鈴和は志摩さんが好きなのだ。それは幼い頃からかわいがってくれたせいもあるが、

自分が親にも言えない位、自分の能力の事で悩んでいた時に散々親身になって相談に乗ってくれたからでもあった。


鈴和は母親と志摩さんの前で、先程の錠剤を見せ、「眠くならない薬」として自分の高校の生徒が特に女子を中心に出回っている事を話したのだ。

すると、その錠剤をしげしげと見ていた志摩さんは、小指にその錠剤の端をつけて舐めて見せると一言

「これはヒロポンでござんすな」

そう言ったのだった。

「ヒロポン!」

その場に居た、母の陽子もそして何より鈴和も大声を出してしまった。

ヒロポンと言えば覚せい剤だ。それが自分の友だちやクラスメイトの出回っているなんて、

想像も出来なかった。

余りの衝撃に目の前が真っ白になって行くのを覚えた。

「それは本当ですか志摩おばさま!」

余りの事に鈴和は顔色を変えて志摩に迫る。

志摩はややあっけに取られながらも

「落ち着いて!確かにこの錠剤はヒロポンで間違いありませんが、そう強くないものです。

わちきの世界では医者の処方箋が無くても買えるものと同じで御座んすなぁ」

志摩さんはそう言って落ち着いている。

「処方箋無くても買えるのですか?」

鈴和は驚いて志摩に再度訊いて仕舞った。

「ヒロポンは薬名をメンフェタミンと申して、うつ病やもうろう状態からの覚醒に使うで御座んすよ。まあ普通の人間が使用すると、かなりの覚醒効果がありんすな。弱いのは眠気覚ましとして使われるでござんす。最も1日1~2錠の但し書きがあるで御座んす」

そこまで志摩が言うと母親の陽子も

「そういえば、最近では使用されなくなりましたが、確か今でもお医者さんの処方箋があれば買えるハズですよ」

鈴和はヒロポンなんて戦争後の一時期に流行った覚せい剤、としか認識していなかった。

実際は多くの兵士に支給され、戦争の厭戦気分を和らげる為に随分使用されたのだ。

陽子はそんな事も鈴和に教えてくれた。


暫く頭の中が整理出来なかったが鈴和は我に返ると、自分のスマートフォンを出すと、

「康子!」そう呼びかけて、康子と連絡を取った。

このごろではスマホも音声認識が進み、電話帳に登録してある名を呼ぶだけで、通話してくれるし、メールもスマホが読みあげてくれる。

前は文字入力が主だがこのごろは殆んどが音声入力になっている。


何回かの呼び出しの後で康子が出た。

「どうしたの鈴和、なんか用?」

そう言う康子に鈴和は極めて冷静に

「あのね。大事な話があるから、晩御飯の後でも会えないかな?」

その鈴和の呼びかけに康子は

「うん、いいよ。何時にどこで会う?」

「そうね。『喫茶館』だったら9時まで営業してるから、『喫茶館』で7時半はどうかしら?」

そう鈴和が言うと康子は陽気に

「うん、いいよじゃあ7時半に『喫茶館ね』」

そう言って通話は切れた。

鈴和はそれまでに康子から聞き出す事を頭の中で整理していた。

そして「絶対康子にもうヒロポンなんか使わせない!」

そう固く心に誓うのだった。


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