神城の生まれ
鈴和も本物の美樹も康子も、一瞬にして自分の自由が奪われたのが判った。
「これが新城先輩の『支配』なんだ……」
鈴和は心の中でそう思い、何とか横の康子だけでも見れないかと思ったが無駄だった。
新城は鈴和達が自由が利かないのを見てとると、右手の指を「パチン」と鳴らした。
その瞬間、鈴和も美樹も康子も自由が復活した。
「大丈夫だよ。皆は普段と同じ様に動ける様にしたから」
そう新城は言うと、男が作った結界の中に入って行った。
案の定結界の中ではサツキが固まっていた。
そして、中を良く観察するとサツキと同じ顔をした能力者が固まっていた。
新城はそこでも右手の指を「パチン」と鳴らすと、能力者の結界の指示は一瞬で崩れ、サツキだけが自由を得たのだ。
そして、もう一度指を鳴らすと能力者の結界が解けて、新城の結界だけとなった。
「そっちのヤツとこっちのヤツを身動き出来ない様に縛っておいてくれ」
新城はそう鈴和に頼むとサツキに
「大丈夫だったかい?」そう言ってサツキの事を心配したのだ。
「大丈夫です!」サツキは力強く言うと、新城が人気があるのは当たり前だと思った。
人の上に立って物事を見る素質があるのかも知れ無いとその時は思ったのだった。
そして新城は皆が無事なのを確認すると結界を解いたのだった。
能力者の男二人は気がつくと自分達が縛られているので面喰らってしまった。
特にサツキと相対していた男は自分が「なりすまし」の結界を仕掛けたのに何時の間にか自分が縛られていたのが信じられなかった。
「クソ、お前ら何やった!」
男は激しく言ったが新城は静かに
「二人共大人しくした方が良い。二人をこれから我々の組織に連行する。そこで色々と話して貰う。いや話さなくても調べれば判るがね」
そう言って二人を見た。
すると、片方の美樹に化けていた方が
「あんたの能力はもしかして「支配」かい?」
そう訊くので新城は「ああ、そうだが、それが何か……」
そう言い返すと男は表情が変わり
「あんた、もしかして、この世界の生まれじゃ無いだろう?」
いきなりそう訊いてきたのだ。
「どうしてそれを知っている……」
新城の表情がやや暗くなった。
「やはり……あんたは、俺らの世界で突然消えた王子の可能性があるのかも知れないな」
ニセ美樹になっていた方の男が新城にそう言って分け知り顔をする。
それを聞いた新城はおもむろに
「じゃあ、僕がお前らの国の王子だというのか!?」
そう言って笑い
「証拠があるなら見せて貰おうじゃ無いか、いい加減な事を言うなよ」
そう言って今度は怒った。
ニセ美樹だった方の男が新城に
「お前の使った「支配」は我が世界では王位を継ぐものだけしか与えられない能力だ。だから今現在その能力を使えるには我が世界でも王だけなのだ。王子は先程も言った通り十数年前行方不明になったままなのだ。生きていれば今年17歳になるはずだ」
それを聴いて新城は正直混乱し始めていた。
自分は何処か異世界からやって来たのは覚えているが、元の世界の記憶は全く無い。
だから自分では何処の生まれだか証明しようが無いのだ。
「我々と一緒に来てDNAを調べればすぐに判る」
男はそう言って続けた。
「向こうへ行き、違っていたらすぐ殺害か?」
新城が冗談めかしに言うと男は
「そんな事はしない。俺達だってこの仕事があるからな。ちゃんと送り返してから殺害する」
そう新城に説明をする。新城はそれを受けて
「大した変わりは無いな、いずれ殺す積りなんだな」
と言って「その前に死んでみるかい?」
と笑顔で語り書け、「支配」の結界を作ろうとした。その時だった。
「待って!新城先輩!」
それまで黙って見ていた康子がいきなり新城に語りかけた。
「もし、先輩が異世界の王子だったら……」
康子は真剣にもしもの時の事を心配している様である。
「康子ちゃん、万が一にもそんな事は無いと思うよ」
そう新城の言葉にも康子は納得していない様である。
新城は仕方なしに
「例え、それが事実であっても僕が向こうの世界に行く必要は無いんじゃ無いのかい?」
そう言って男たちの反応を伺った。
男たちは逆に「とんでも無い!王子と判明したら、すぐ国に帰って貰います。帝王学を学んで貰います」
そう言って康子を困らせた。
康子は新城が異世界の王子かどうかより、離れるのが嫌なのだとこの時鈴和は思った。
どれだけ新城の事が好きなのかと鈴和は呆れるのだった。
男たちは抵抗が出来ない様に気で半自由を奪う形にして、縄で結くのは辞めにした。
「ありがたい。どっちみち「支配」という究極の能力相手には抵抗なんか出来やしない。だから王位を継ぐ人の能力だと言われているんだ」
ニセ美樹だった男がそう言って、能力の説明をする。
新城は、自分がこちらの世界に来た時の事を、教えて貰っているので、疑問点を男達に問う。
「僕はこちらに来た時に異世界の言葉を話していたそうだが、お前達は何故同じ言葉を話しているんだ」
その問いに男たちは
「我々も独自の言葉を持っているが、普段はテレパシーで会話をしている。テレパシーが通じない相手には言葉で会話をするのだ。ちなみに、こんにちは、は『※△▼■□☆@?○◎』と言う」
全く判らなかった。正直言って言葉とも思えなかった。
「こちらに来る為に言葉を覚えたのだ」
手に傷のある男がそう言って周囲を納得させた。
「兎に角、売春だかデートクラブだかの組織は潰させて貰うし、再びこの地でこのような事は止めて貰う」
新城が厳しく言うと、男たちは仕方がないという感じで
「まあ、いいさ、卵子も精子もある程度は溜まって向こうに送ったからな」
割合あっさりと納得した。
「ほう、やけにいい子になるじゃ無いか」
新城がそう言うと男たちは
「もし、王子だったら、我々がその王子が暮らしていた地でそんな事をしていたのがバレたら只では済まない」
そう言って苦笑いをしている。
「それがきちんと守られたなら、僕は向こうへ行って検査しようじゃ無いか」
新城の突然の言葉に鈴和も康子も美樹もサツキも皆驚いたのだった。
「先輩!」もう康子なんか泣きそうである。
「大丈夫だよ康子ちゃん。君に逢う為に必ず帰って来るから」
そう言って新城は康子を慰めたのだった。




