第八十六話
会合後、山本は直ぐに総理官邸に戻ってインドネシア、ビルマ両政府に駐留日本軍の撤収を説明した。
日本にいた両政府の大使は最初は撤収に驚き――特にビルマ大使――撤収は控えるべきだと反論した。
山本も満州戦線の事を話し、ビルマ大使にビルマ方面軍は撤収しない、撤収するのはそれ以外の部隊だと説明。インドネシア大使に一個大隊程の警備隊はまだ駐留すると説明した。
山本の必死の説明に両大使は漸く納得して撤収内容を本国へと打診した。
両政府も撤収を許可して両国に駐留している部隊は撤収準備に移った。
撤収する部隊は合計で約五個師団程であり、台湾や北海道からの師団も合わせて約九個師団となった。
更に樺太に駐留する二個師団のうち一個師団を抜いて満州戦線の投入を決定した。
海軍も陸軍に協力するために、中国地方や九州地方に展開していた第四航空艦隊を満州戦線に派遣した。第四航空艦隊の穴埋めは編成が完了したばかりの第六航空艦隊である。
第四航空艦隊の投入に海軍関係者達は反論したが、満州戦線が破れれば中国は赤化して日本に脅威になると山本自らが関係者達に駆け回って説得をしたのである。
また、インドネシア国軍やビルマ国軍への支援は順調であった。
九九式短小銃から更新された三八式歩兵銃を格安で輸出をして、両国に軍需工場を建設して弾薬の製造や三八式の生産を展開している。
また、退役した九七式中戦車を各一個連隊ずつ輸出して戦車部隊の編成も行われている。
インドネシアはその対価として自国で産出する石油を格安で日本に輸出している。
なお、フィリピンからの撤退はしなかった。いやまず有り得ないだろう。
フィリピンには日本軍の六個師団と、元からいるフィリピン軍九個師団がいた。
バターンの死の行進等は起きてない。駐留する日本軍は軍規を守り、フィリピン軍の訓練を徹底的にしていた。
そのおかげか、フィリピン軍はビルマ国軍、インドネシア国軍と同等の戦力と位置付けられている。
「……これで辻参謀も少しは喜ぶやろうな」
将樹は報告書を見ながらそう呟いた。
「将樹、夕食だぞ」
その時、桜花が襖を開けてひょこっと顔を出した。
「分かった、今行くわ」
将樹は報告書を鞄に締まって部屋を出るのだった。
――十二月三十日――
「いよいよヤポンスキーを倒す時が来たッ!! 立ち上がれ人民よッ!!」
ソ連軍極東司令官はそう叫ぶ。場所はチタに近いヒロクだ。そこには増強されたソ連極東軍約九十万程がいた。
しかし、その兵士の半分程は無理矢理召集されて小銃を持たされた国民であった。
更にソ連極東軍の二個機甲師団も加わり、進撃を開始する。それを上空から五機の彩雲が偵察していた。
この五機の彩雲は満州里にある飛行場発進した第五航空艦隊所属の彩雲である。
五機の彩雲は侵攻するソ連極東軍の詳細を電文で発信する。途中でYak-1戦闘機等が飛来するが、彩雲は高速を生かしてYak-1戦闘機を翻弄して余裕で満州里の飛行場に帰還したのである。
「おいおい、こんな寒い日に露助は来るのか?」
「奴等は元々寒さに強いからな。いつ来ようが構わないさ」
防寒装備をした日本軍の兵士達はトーチカや塹壕の中でそう言い合いながら警戒をする。
それでも寒さに耐えられない場合は焚き火をして暖を取る。
佐官達は怒らない。何故なら自分も焚き火の周りに群がって暖を取っているからだ。
チタに集結した日本軍は寒さに耐えながらソ連極東軍を待ち構えた。
一方、満州に展開した陸軍飛行集団や海軍の第四航空艦隊、第五航空艦隊は直ちに全機出撃となった。
陸用爆弾や対地噴進弾を搭載した攻撃隊は次々と飛行場を離陸してソ連極東軍へ向かう。
最初に到着したのは陸軍の飛行集団であった。
「全機突撃ッ!! 火砲や戦車を優先して叩けェッ!!」
疾風は上空にいたYak-1戦闘機と空戦に突入し、飛龍等は対空射撃を始めた機甲師団等に爆撃を開始する。
飛龍や銀星、靖国が爆弾を投下しながら機銃掃射をする。特に三式双発襲撃機である靖国は機首に搭載した四七ミリ速射砲はソ連軍兵士には覆いに脅威だった。
四七ミリ速射砲はカチューシャ等を砲撃して誘爆を誘わせている。
ロケット弾に引火して誘爆したカチューシャは他のカチューシャをも巻き込んでいき手の付けられない状況になっていく。
そこへ第五航空艦隊の攻撃隊が到着して零戦隊が空戦をしている疾風とYak-1戦闘機に加わり日本に有利な展開をさせていく。
六十キロ爆弾を搭載した一式陸攻と銀河がバラバラと六十キロ爆弾を投下してソ連軍兵士を吹き飛ばし、彗星は五百キロ爆弾でT-34中戦車等を破壊していく。
「対空戦闘を続けろッ!! ヤポンスキーの攻撃など恐れるに足らんッ!!」
ソ連極東軍司令官は叫び、兵士達は対空射撃を続ける。
そこへ第四航空艦隊の攻撃隊も到着して、ソ連軍はチタに到着するまで実に七波にも及ぶ航空攻撃を受けるのであった。
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