第三十二話
セイロン島上空は高射砲による対空砲火で黒く染まっていた。
その対空砲火の少し上を、爆装した九七式艦攻隊が飛行している。
「……獲物は少ないみたいやな」
双眼鏡で眼下を観察していた攻撃隊総隊長の淵田中佐はそう呟いた。
港は村田少佐率いる雷撃隊十八機による雷撃で停泊していた仮装巡洋艦や輸送船に被害を出させていた。
「しゃーない、各機目ぼしい物に攻撃させるか」
「後方から敵機接近ッ!!」
淵田中佐が呟いた時、機銃手が叫んだ。
水平爆撃隊の後方からイギリス軍のハリケーン戦闘機二機が接近してきたのだ。
「全機密集隊形やッ!! ジョンブルに九七式艦攻の機銃弾を食らわしてやるんやッ!!」
機銃手は十二.七ミリ機銃のコッキング・ハンドルを後方に引いて前方に戻す動作をしてから接近してくるハリケーン戦闘機に狙いを定める。
真珠湾作戦から空母に搭載されている九九式艦爆と九七式艦攻は共に零戦と同じ金星を搭載して旋回機銃は十二.七ミリ機銃に統一している。
しかしハリケーン戦闘機は突然、エンジンから火を噴いて墜落した。
「なッ!?」
機銃手が驚いた時、下方から零戦二機が上昇してきた。
ハリケーン戦闘機を撃墜したのはこの零戦二機だったのだ。
二機の零戦は水平爆撃隊に軽くバンクをしてから獲物という名のハリケーン戦闘機を探しに何処かへと行った。
「……危機は去ったみたいやな。ほんなら爆撃に入るでッ!!」
淵田中佐は照準器を覗く。
淵田中佐は港にある倉庫を狙った。
「用ぉ意……撃ェッ!!」
淵田中佐が投下策を引くと九七式艦攻の腹に付けていた五百キロ陸用爆弾が投下された。
投下された五百キロ陸用爆弾は見事に命中して倉庫を破壊、列機の五百キロ陸用爆弾も同様に倉庫等を破壊したのである。
一方、九九式艦爆隊はコロンボ付近にある航空基地を叩いていた。
イギリス軍は必死に対空砲火で九九式艦爆隊を蹴散らそうとするが、九九式艦爆隊は対空砲火をものともせずに急降下爆撃を敢行して対空砲、滑走路、格納庫、地上に待機していた敵戦闘機を破壊していく。
「ジャップをぶち殺せッ!!」
アメリカから輸入したブローニング十二.七ミリ機銃で撃つイギリス軍兵士が叫ぶ。
しかし、このイギリス軍兵士は九九式艦爆の六十キロ陸用爆弾で十二.七ミリ機銃ごと粉砕されるのであった。
攻撃隊を護衛する零戦隊はコロンボ上空にてハリケーン戦闘機四二機と大空戦をしていた。
だがハリケーン戦闘機は零戦の敵ではなかった。
零戦隊の数は五四機おり、数でもハリケーン戦闘機は圧倒されていた。
ハリケーン戦闘機が零戦の後ろを取ろうにもいつの間にか零戦が旋回をしてハリケーン戦闘機の後方にいて銃撃してくる状況だった。
そのためハリケーン戦闘機の指揮系統は混乱し、乱戦状態になっていた。
ハリケーン戦闘機隊は遂に逃走を開始するが、空襲後に生き残ったのは僅かに十七機だけだった。
コロンボ港はほぼ壊滅し、停泊していた艦船も大損害だった。
航空基地も痛撃を浴びて使用不能だった。
しかし、まだトリンコマリー港は爆撃していないのでセイロン島の防衛はまだ出来る筈であった。
――アッヅ環礁――
「何ッ!? コロンボが敵機動部隊の攻撃を受けているだとッ!!」
アッヅ環礁には補給のために停泊していたイギリス東洋艦隊がいた。
イギリス東洋艦隊旗艦ウォースパイトでソマービル長官は叫んでいた。
「それで被害は?」
「は、コロンボ港の基地機能はほぼ喪失したと思われます」
「……何て事だ。こうなれば補給が終了した艦艇だけでも出撃させなければ……」
「しかし相手はオザワです。艦隊が近づく前に航空攻撃でやられてしまいます」
参謀が反論する。
「だがセイロンを見捨てればインドを放棄した事になる。インドは我が大英帝国の生命線だ。インドは見捨てる事など出来ん」
ソマービルの主張はある意味の正論だった。
だが、事態は直ぐに急変となるのであった。
「哨戒中のカタリナより入電ッ!! 敵の攻撃隊が此方に向かっているとのことですッ!!」
「なッ!?」
駆け込んできた通信兵の報告にソマービル長官は驚いた。
アッヅ環礁に向かっていたのは第二機動艦隊から発艦した攻撃隊だった。
攻撃隊は零戦五四機、九九式艦爆六三機、九七式艦攻六三機であり九七式艦攻の半数は爆装していた。
「雑魚には構うなッ!! 敵の戦艦と空母を叩けばいいッ!!」
九九式艦爆の操縦席で攻撃隊総隊長の高橋少佐が叫ぶ。
高橋機から『トツレ』が発信される。
零戦隊は速度を上げて制空権を取るために先行する。
九九式艦爆隊と水平爆撃隊の九七式艦攻が上昇して爆撃位置に入ろうとする。
魚雷を搭載する雷撃隊は徐々に高度を落としていく。
動けないイギリス東洋艦隊は既に対空砲火を放っていた。
「敵さんの弾幕の雨だ。ト連送を打てッ!! 突撃するぞッ!!」
直ちにト連送が発信されて九九式艦爆と九七式艦攻の雷撃隊は雷爆同時攻撃を開始したのであった。
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