第三十話
――1942年二月下旬――
日本軍は破竹の進撃をしていた。
マレー半島、フィリピンには五個師団が上陸していた。
上陸部隊は九七式中戦車を先頭にしてシンガポール、マニラ等を目指している。
米英軍はこれを阻止しようとM3軽戦車スチュアートやM3中戦車リーを出してくるが、九七式中戦車や百式軽戦車の敵ではなくあっという間に破壊されて蹴散らされたのであった。
無事に帰還した戦車兵達は口を揃えてこう言った。
「ジャップの戦車はブリキの装甲じゃない。戦車砲もジャップのが遥かに強力だ」
この報告を聞いた米陸軍は新たにM4中戦車等の太平洋戦線に投入する事を決定するのだが、アハトアハトをライセンス生産した九七式中戦車改に蹴散らされるのはまだ先の話だった。
それは兎も角、マレー半島ではイギリス軍の士気は大幅に減少してしまい、九七式中戦車を見るだけで降伏する兵士までもが出る始末だった。
そして二月中旬にはジョホール水道の陸橋を爆破されずに九七式中戦車が渡ってシンガポールに突入した。
英軍司令官のパーシバル中将は徹底交戦を指令したが、既に士気は最低だった。
このために戦闘開始から三時間後に、英軍司令部に白旗が掲げられた。
「イギリス軍は降伏するのかしないのか? イエスかノーか?」
日本軍司令官の山下中将はパーシバル中将にそう突きつけた。
これに対してパーシバルはイエスと頷いてシンガポールは日本軍に占領されたのであった。
この時、シンガポールのセレター軍港には動けなかったイギリス東洋艦隊がいたがそれは接収された。
シンガポールには工作艦明石が入港して航行が可能になれば日本まで曳航する事になった。
南遣艦隊の角田機動部隊はパレンバン空挺作戦の援護としてスラバヤにいた連合軍艦隊を攻撃し、これを撃破した。
パレンバンには陸海の空挺部隊が輸送機と武装を外した海軍の一式陸攻や九六式陸攻等に分乗し、出撃。
角田機動部隊の零戦の援護の元、空挺作戦が決行された。
オランダ軍は反撃しようとしたが、角田機動部隊からの攻撃により前進する事が出来なかった。
その間に上陸部隊の輸送船団がスマトラ島に上陸した。
快足の百式軽戦車を先頭にした上陸部隊はオランダ軍を撃破していき、パレンバンの油田施設を占拠していた空挺部隊と無事に合流したのであった。
全体的に油田、精製施設は半分がオランダ軍に破壊されたが残りは無傷で手に入れたのだった。
「半分は破壊されましたが半分は使えるので吉としましょう」
会合で将樹はそう言った。
「うむ。既にスマトラにはタンカー十隻を向かわしている。内地に帰還予定は四月上旬と見込んでいる」
伏見宮が報告する。
「フィリピン戦線でアメリカ軍のM1ガーランドを捕獲した。空路で内地に十二丁を持って来させた。今は分解してそれを元にした新型半自動小銃を開発中だ」
「弾薬も大量生産が必要ですね」
「一応、工場は増設して淡路島等に建設予定だ」
将樹の言葉に東條はそう言った。
「それとアハトアハトとジェットエンジン、ロケットエンジンを分解して日本に移送中の伊号潜がもうすぐシンガポールに到着予定だ」
日本は戦前にドイツと交渉してアハトアハト、ジェットエンジン、ロケットエンジンのライセンス生産とそれぞれ二本と二基の輸入を締結していた。
アハトアハトを分解して帰国予定の伊号潜二隻は潜水艦の防音技術者も連れて日本に向かっていたのだ。
「それと今後の予定ですが……」
将樹が口を開いた時、皆の顔が変わった。
「東南アジア、ニューブリテン等は四月までに占領予定だ」
東條が言う。
「はい、史実で四月はセイロン作戦でしたがこれを拡大させましょう」
「拡大だと?」
「はい。セイロン島攻略と北アフリカのドイツの救助です」
『ッ!?』
将樹の言葉に皆が驚いた。
「セイロン島を占領するのかね?」
「はい、セイロン島とアッヅ環礁です。アッヅ環礁には残りのイギリス東洋艦隊もいます」
「……セイロン島を占領すればドイツとの技術提供もやりやすくなるな」
「それに北アフリカのドイツ軍を助ければ、わざわざ大西洋を回らずにスエズ運河を使う言葉も出来ます」
「……成る程。だが四月は帝都空襲があるぞ?」
山本が将樹に問う。
「帝都空襲は基本的に迎撃でと思います。横須賀基地等に陸攻隊を配備して敵空母部隊がやって来たら陸攻隊で叩く。それと第一艦隊と第五艦隊、それにこの時期になればエンタープライズも使用可能だと思います。それに小型空母を加えれば十分に対処出来ると思います」
「……だが油断は禁物だな」
「はい。一応、自分も横須賀におっておこうと思います。空技廠から新型機がそろそろ完成しようとしているみたいですので」
「陸軍も高射部隊を配置させておく」
東條も頷いた。
会合はそこで終了となり、将樹と桐野少佐(昇進)は桐野家に帰った。
「どうしたのだ将樹?」
「ん? 何がや桜花?」
「さっきから何か考え事の顔をしてるわよ」
クロエがそう指摘する。
「いや何でもないわ……(何やろかこの胸騒ぎは……)」
将樹は何か釈然としなかった。
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