第二十七話
――空母エンタープライズ――
「ジャップの偵察機を取り逃がしただとッ!!」
エンタープライズの艦橋でブルの異名を持つハルゼー中将が叫んだ。
「戦闘機隊は何をしていたんだッ!!」
「それがジャップの偵察機はかなりの高速を出していたらしく、戦闘機を改造した偵察機ではないかと思います」
参謀がそう言った。
速度の速い偵察機など艦橋にいる誰もが信じていなかった。
「だがこれでジャップに我々の位置がバレた。十分な対空警戒をするんだ」
「サーッ!!」
ハルゼー中将の言葉に参謀は敬礼をした。
「エンタープライズを見つけたか……」
報告を受けた小沢長官がそう呟いた。
「内藤、攻撃隊の準備は?」
古村参謀長が内藤航空参謀に訊ねた。
「何時でも行けます。後は小沢長官の御命令だけです」
内藤航空参謀は自信満々で頷いた。
「……分かった。これより敵空母捕獲のために攻撃隊を発艦させよッ!!」
小沢長官の命令は発光信号を通して各空母に伝えられた。
各空母は慌ただしく準備していた攻撃隊を飛行甲板までエレベーターで上げていく。
爆弾、魚雷を搭載した攻撃隊は整備兵に押されて飛行甲板に整列していく。
そして発着艦指揮所から発艦開始の旗が振られて攻撃隊はプロペラを回しながら次々と発艦していく。
発艦していく攻撃隊は零戦四五機、九九式艦爆五四機、九七式艦攻二七機である。
「第三次攻撃隊が戻る前に発艦させてよかったですな」
遠ざかっていく攻撃隊に古村参謀長はそう呟いた。
「……攻撃隊の未帰還機は?」
「第三次攻撃隊からの報告を入れますと、今の段階では零戦五機、九九式艦爆十一機、九七式艦攻七機が未帰還となっています」
「伊号潜に不時着水したのは何機だ?」
「零戦は飯田大尉を含めて三機、九九式艦爆五機、九七式艦攻四機です」
「……となると零戦二機、九九式艦爆六機、九七式艦攻三機の十一機が未帰還になるか……」
小沢長官はそう呟いた。
「楠木少佐、どう思うかね?」
「自分としては全機が帰還してほしかったのが本音です」
「そうか」
将樹の言葉に小沢長官は笑う。
「これからの戦は消耗戦だ。特に航空機と飛行士はな。これらを大事に使い、上手く育てねばならんな……」
『……………』
小沢長官の呟きに将樹達は無言で頷いたのであった。
それから三十分後、第三次攻撃隊が第一航空艦隊に帰還して損傷機から着艦を開始させたのだった。
――空母エンタープライズ――
『レーダーに反応ッ!! ジャップの攻撃隊ですッ!! 数は約百五十機ッ!!』
艦橋のスピーカーからレーダー員が叫んでいた。
「戦闘機は全機発艦ッ!! ドーントレスも出せッ!!」
米軍の艦上爆撃機であるSBDドーントレスは機首に十二.七ミリ機銃を搭載しているので一応は格闘戦は出来るのである。
ワイルドキャットやドーントレスが次々と発艦していくが、時間が足りなかった。
攻撃隊には十八機だけ残して残りの二七機は空戦に入った。
ワイルドキャットやドーントレスはクルクルと回るうちにエンジンやら主翼から火が噴き出して海面に墜落か爆発四散して部品を海面に叩きつけた。
「敵戦闘機は零戦隊に任せて敵艦隊に向かうぞッ!!」
本日二度目の出撃をしている村田少佐が指示を出す。
「雷撃隊は高度を下げろッ!! エンタープライズは任したぞ高橋ッ!!」
『了解だ』
九七式艦攻の雷撃隊は徐々に高度を下げていき、高橋少佐率いる艦爆隊は徐々に高度を上げていく。
「『ト連送』だッ!!」
村田少佐の言葉に通信手がキーを叩く。
雷撃隊は高度を五メートルにまで下げて飛行している。
「何だあの高度はッ!?」
エンタープライズの艦橋でそれを見ていたハルゼー中将は思わず称賛した。
「敵機急降下ァァァッ!!」
エンタープライズの見張り員が叫んだ。
エンタープライズの上空から高橋少佐直率の中隊が急降下爆撃を敢行したのである。
「回避ィィィッ!!」
エンタープライズの対空砲が射撃するが九九式艦爆に当たらない。
「撃ェッ!!」
高橋少佐は投下索を引いて二百五十キロ爆弾を投下した。
投下された二百五十キロ爆弾は弧を描いてエンタープライズの飛行甲板に命中した。
更に二番機、三番機も飛行甲板に命中させていく。
「くそ、ジャップめッ!!」
ハルゼー中将は衝撃で床に倒れていた。
何とか立ち上がった時、艦橋に一機の九九式艦爆が機銃掃射をしてきた。
零戦の機銃弾が艦橋に窓ガラスを割り、破片がハルゼー中将達に降り注ぐ。
更に跳弾がハルゼー中将の右腹を貫いた。
「グアァァァァッ!!」
「ハルゼー司令官ッ!!」
再び倒れたハルゼーの上から破壊された鉄骨等が降り注ぐ。
これでハルゼー中将は意識不明の重体となり、攻撃終了後に安全のために駆逐艦へと移送された。
ハルゼー艦隊の被害は駆逐艦四隻が撃沈、重巡一大破、重巡二中破、空母一大破だった。
それから一日後、艦隊は真珠湾へ向けて回航していた。
しかし、その時に一人の見張り員が叫んだ。
「水平線上に多数の艦艇を視認ッ!!」
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