第二十話
――1941年十月十日、東京――
「号外ッ!! 号外ッ!! 聯合艦隊司令長官の山本五十六大将が内閣総理大臣になったァッ!!」
新聞配達者が号外の紙を投げ捨てていく。
民衆はそれを拾って紙を見る。
十月九日に山本五十六大将は聯合艦隊司令長官を辞職して後任に堀悌吉大将が就任した。
そして翌日の十月十日に、大政翼賛会の支持により山本五十六は近衛総理の後を継いで総理大臣に就任した。
山本内閣の誕生だった。
山本内閣の構成は主にではあるが、外務大臣に白州次郎が就任。
海軍大臣は山本が兼任して、陸軍大臣には東條が留任していた。
商工大臣には吉田茂が就任。
海軍次官には嶋田大将が就任するなどした。
「……やはり開戦は避けられぬか」
帝国ホテルの一室での会合に今回は陛下も参加していた。
「は、アメリカは戦争をやる気です。なのでこれ以上の交渉は……」
「よい。楠木は日本のためによく尽くしてくれた」
謝ろうとする将樹に陛下はそう諭した。
「山本、食糧の備蓄はどうなっている?」
「は、前々から少しずつですが備蓄はしており約三年分はあります」
「うむ、史実のような食糧が不足するような事はしてはならん。山本、皇室の財産も使うのだ。戦争中に皇室の財産は使う道は無いからな」
「は、分かりました」
山本首相が頭を下げて、その日の会合は終わった。
十月十五日、参謀本部の場所にて陸海の大本営の設置が決定された。
更に同日、伏見宮が後ろから支えていた海上護衛隊司令長官に就任。
参謀長には及川大将が就任した。
「……何か戦争の道へ進んでいるな」
朝食のとき、桜花がポツリと呟いた。
「……まぁいざと言う時に備えてやからなぁ」
将樹が少し焦りながら味噌汁を啜る。
「それでも、横須賀基地でヒヨコに教える機会が増えているけど?」
同じく味噌汁を啜るクロエが将樹を見る。
なお、将樹とクロエは桐野家で下宿をしていたりする。
桜花は何やら嬉しそうな顔をしていたが……。
「……馬鹿兄上は何か知っているのか?」
桜花は秋刀魚を食べている桐野に訊ねた。
「い、いや俺は何も知らんなぁ……」
桐野はギクシャクしながらもそう答えた。
「……ならいい。私はただの一般人だからな」
桜花は興味が失せたように言う。
「(……何か申し訳ないわ)」
将樹は味噌汁を啜りながらそう思った。
将樹と桐野は朝食を済まして大本営に来ていた。
なお、クロエは横須賀基地へ行った。
「それで……作戦だが……」
集まった陸海の参謀達は将樹を見つめた。
「自分も独自ながら簡単に作戦を考えてきました」
将樹は立ち上がってそう言い、参謀達に一人二枚の紙を渡した。
「こ、これはッ!!」
「……大胆過ぎる……」
参謀達はそう口々に言う。
「質問は後です。では説明します」
将樹は指揮棒を持ち、世界地図のある場所を指した。
「まず海軍ですが、開戦時にアメリカ太平洋艦隊の根城である真珠湾を奇襲攻撃してハワイの航空戦力と太平洋艦隊、基地施設、燃料施設を徹底的に破壊します。この作戦には第一航空艦隊と一日に竣工した大和を加えた第一艦隊が担当します」
「大和は秘匿すべきではないか?」
海軍の軍令部第一課長の富岡定俊大佐が言う。
「既に公表していますし、今更秘匿するのは意味無いと思います。大和は積極的に使うべきです。大和は戦うために生まれた戦艦なんです」
将樹はそう言った。
「そして第一航空艦隊と第一艦隊はウェーク島とハワイの間にいるはずの空母エンタープライズを捕獲します」
「……あれだけ空母を建造しているのにまだいるのかね?」
第一部長の福留少将が聞いた。
「アメリカとの戦いは消耗戦です。日本の工業力はアメリカには敵いませんから建造する日数は明らかに違います。なので空母は一隻でも多くいる必要があります。エセックス級だけで二十隻以上ありますからね」
『………』
将樹のエセックス級という言葉に海軍関係者は顔を歪ませた。
「そして第四艦隊がウェーク島を攻略します」
「ミッドウェーはどうする?」
「……艦艇の数が足りません。開戦初期は南方を素早く手に入れて油田施設を無傷で捕獲しなければなりません」
近代兵器は石油やガソリンが無くては戦えないのだ。
「陸軍ですが、タイから進撃する部隊と海軍の南遣艦隊に護衛された輸送船団をコタバルから上陸させて進撃する部隊に分けます。そして南遣艦隊の空母龍驤、飛鷹、隼鷹等の空母部隊はシンガポールを奇襲してイギリス東洋艦隊を撃破させます」
将樹はトントンとシンガポールを指す。
「イギリスに気付かれないか?」
「南遣艦隊の派遣はタイへの訪問目的だとか言うしかないです。まぁ向こうも此方が手を出すまでは動けません」
「南方作戦支援として堀長官は伊勢と日向を派遣する予定です」
『オォォッ!!』
聯合艦隊から派遣された宇垣参謀長がそう言うと、陸軍関係者は喜びを見せた。
やはり航空機が主力になりつつ今でも戦艦は威圧感を出す存在なのである。
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