第十八話
――1941年九月十五日、東京――
「それで九五式軽戦車の後継車はどうなりましたか?」
東京のとある料亭で将樹達は既に何十回目の会合をしていた。
「新型軽戦車は百式軽戦車……海軍名は零式軽戦車と名付けて既に量産体制に入っている。開戦までには一個連隊が揃う予定だ」
東條が報告する。
「隼の配備も順調だ。飛行第六四戦隊には既に全機配備してある」
飛行第六四戦隊は有名な加藤隼戦闘隊である。
「陸軍航空隊は開戦までには隼を百八十機は揃える予定だ」
東條はそこまで言うと報告を終える。
「次に海軍だが、既に空母飛行隊の戦闘機は零戦に更新している。台湾の航空隊も順調に零戦へ更新している」
山本長官が報告する。
「此方は何時でも戦えるわけだが……アメリカの状況はどうなっているんだ?」
「反日運動が激しくなっているようです。また、アメリカ国籍を取得した日本人に対するイジメ、差別も酷くなっています」
伏見宮の言葉に白州が答えた。
「……同胞は守りたいが、さてどうしたものか……」
東條が腕を組んで唸る。
「日本にいる在日アメリカ人と交換してはどうですか? 自分達もイジメては意味無いですし、もし戦時になれば日本人によるアメリカ人の虐待も起きるかもしれません」
将樹が言う。
「……確かに、此処はそれをアメリカ側にも言って交渉してみてはどうですか?」
杉山が白州に訊ねた。
「分かりました。その方向で交渉してみます」
白州が頷いて、その日の会合はそこで終わった。
――同日フィリピン、マニラ港2330――
「ん? おい、あれは何だ?」
「どうしたマックス?」
アメリカ海軍アジア艦隊の重巡ヒューストンの艦上で一人の水兵が何かを見つけた。
「……あれは人間じゃないか?」
ヒューストンの近くに停泊している駆逐艦スチュワートの艦尾付近の海面に人間の頭を見つけた。
「確かに人間だな。ヘイ、そこのヒューマンッ!!」
水兵が叫ぶと、海面にあった人間の頭は此方に気づいて慌てて潜った。
「敵じゃないのか?」
「何ッ!! ならジャップか?」
水兵達は慌てて十二.七ミリ機銃にしがみついて、銃口をスチュワートの艦尾に向けた。
「もし違っていたらどうする?」
「サメと間違えたと言ってやるさッ!!」
ダダダダダダダダダダッ!!
十二.七ミリ機銃が唸り、スチュワートの艦尾に水柱が立ち上る。
「……やったか?」
水兵達は艦に搭載されているライトを付けた。
「ヒュゥッ!! 見ろよマックス。奴が浮いてるぜ」
十二.七ミリ機銃弾が命中したのか人間の四肢が浮いてきた。
「……ジャップの特殊部隊か?」
引き揚げられる死体を見ながら水兵達はそう思った。
――翌朝、桐野家――
「……今日もまた暑くなりそうだな」
桜花は太陽を見ながらそう言って家の前の道に打ち水をする。
その時、一台の車が停まった。
「楠木中尉はいるかね?」
車から出てきたのは山本五十六だった。
「や、山本聯合艦隊司令長官ッ!?」
桜花はいきなりの大物に唖然とした。
「騒がしくして済まない。楠木中尉はいるかね?」
「は、はい。今呼んできます」
桜花は慌てて家に戻った。
そして将樹は慌てて家から出てきた。
よく見ると慌てて着たのか服はボタンが階段になっていたりしている。
「どうしたんですか長官?」
「大変な事になった。急いで海軍省に向かうぞ」
そして車は慌ただしく発進した。
「……台風が過ぎたみたいだ……」
それを見送った桜花はそう呟いた。
――海軍省、大臣室――
「えぇッ!? 日本軍の特殊部隊がフィリピンのアジア艦隊の駆逐艦を爆破しようとしたァッ!!」
大臣室で将樹は叫んでいた。
「ど、どういう事ですかッ!?」
将樹は吉田大臣に訊ねた。
「……それが分からんのだよ。私も今朝知ったばかりなんだ」
吉田大臣は肩をすくめた。
将樹は山本長官に視線を向けるが山本長官も同様の事をしていた。
「経緯は分かりますか?」
「あぁ」
それは昨日の事であり、夜中に怪しい人物がアジア艦隊の駆逐艦の艦尾の海面付近にいて、それを不審に思った水兵達が機銃を撃ったら逃亡した人物は死亡。
所持品には日本語で書かれた作戦指令書があった。
作戦指令は『アジア艦隊の艦艇を撃破せよ』だったらしく、アジア艦隊からの報告を聞いたルーズベルトは激怒して犯行の動機解明と日本帝国の謝罪を要求した。
当然日本はそんなの知らなかった。
「杉山さんや東條さんも首を振った。今アメリカと喧嘩してどうするつもりだとな」
吉田大臣はそう言った。
「日本の特殊部隊は中野学校だが二人ともそんな命令は出してないし、今の状況でしようとしない」
「……まさかなんですけど……」
「ん? 何だね楠木?」
口を開いた将樹に伏見宮が訊ねた。
「これはもしかして……アメリカの策略じゃないんですか?」
『なッ!?』
将樹の言葉に三人は驚いた。
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