第十七話
――1941年七月上旬、柱島泊地――
柱島泊地は聯合艦隊の大部分が集結する泊地であるが、今は空母を主力にした艦隊しかいなかった。
「左舷から雷撃機九機接近ッ!!」
改装が終わった空母赤城の艦橋で見張り員が叫ぶ。
「面舵二十ッ!!」
防空指揮所にいた長谷川艦長が操艦手に告げる。
赤城は面舵をして投下された訓練用魚雷を必死にかわそうとする。
しかし二本の訓練用魚雷が赤城の艦底をくぐった。
「魚雷二本命中ッ!!」
見張り員が叫ぶ。
「……練習航空隊もやるな」
「そのようですな」
上昇していく九六式艦上攻撃機を見ながら第一航空艦隊司令長官の小沢治三郎中将と参謀長の古村啓蔵少将がそう呟いた。
本来なら史実のマリアナ沖海戦でコンビになる二人だが、この世界では第一航空艦隊設立時からであった。
第一航空艦隊は練習航空隊の訓練を手伝いながら自艦隊の操艦の腕を鍛えていた。
各空母の搭載機は無かった。
搭載機は鹿児島の錦江湾で訓練訓練また訓練をしていた。
全てあの場所を攻撃するためであった。
「敵機急降下ーーーッ!!」
見張り員が叫んだ。
赤城上空から九六式艦上爆撃機が急降下爆撃をしようとしていたのだ。
「面舵二十ッ!!」
対空戦闘をしている赤城は面舵をするが、九六式艦上爆撃機は高度五百で引き起こして離脱していく。
「……今の当たっていたかな?」
「いや、至近弾でしょう」
二人はそう言い合う。
「他の空母も上手くやっているようです」
古村参謀長が双眼鏡で外を見る。
赤城の周りでも艦艇が対空戦闘演習をしていた。
第一航空艦隊は史実より早い40年の七月に設立された。
初代司令長官と参謀長は小沢中将と古村少将である。
空母は改装が終了した第一航空戦隊赤城、加賀、第二航空戦隊蒼龍、飛龍、第三航空戦隊扶桑、山城、第四航空戦隊龍驤、飛鷹、隼鷹、第五航空戦隊翔鶴、瑞鶴、第六航空戦隊祥鳳、瑞鳳、龍鳳、千歳、千代田の空母群である。
ただし、第四航空戦隊の飛鷹と隼鷹、第五航空戦隊の翔鶴と瑞鶴はまだ建造中で竣工は七月下旬の見通しである。
戦艦は金剛型四隻で、対空砲はボフォース四十ミリ機関砲が装備されている。
重巡は利根型二隻と最上型の鈴谷と熊野の四隻である。
軽巡は阿賀野型の阿賀野と矢矧、それと防空巡洋艦に改装された長良と五十鈴である。
駆逐艦は四個駆逐隊の十六隻である。
また、長門型を主力にした主力艦隊は土佐湾沖合いにて水雷戦隊と艦隊運動の演習をしている。
「……若人が散るのは阻止したいな……」
「………」
小沢長官の言葉に古村参謀長は何も言わなかった。
――ホワイトハウス――
「……日本は挑発には乗らないか……」
大統領室で大統領のルーズベルトが呟いた。
「ジャップにはまだテンノウがいます。彼が抑えているのでしょう」
大統領顧問官のハリー・ホプキンスがそう答えた。
「……チャーチルから催促が頻繁に来ている。ビスマルクを沈められなかったのが原因だ」
「それにまだドイツは小型空母を保有しています。通商破壊も激しさを増すでしょう」
ルーズベルトは溜め息を吐いた。
「ジャップが早く爆発すれば問題はないがな……」
「仕方ありません。それかもう少し日本に圧力してはどうですか?」
ホプキンスがルーズベルトに言う。
「……圧力か……」
「はい。圧力をかけて溢れそうな怒りを溢れさせるんです」
「むぅ……」
ルーズベルトは腕を組んで唸る。
「……だが圧力をかけるにしても何か理由が無ければならない」
「それならば理由を作るのです」
「ほぅ……理由を作るのか」
ホプキンスの言葉にルーズベルトはニヤリと笑った。
「そうです。世界地図を見て下さい」
ホプキンスは世界地図を拡げる。
「ハワイは易々と理由は作れません。なら……」
「……フィリピンか……」
「イエス」
ホプキンスの指がフィリピンの場所をトントンと叩く。
「フィリピンのアジア海軍に工作させましょう」
「……ホプキンス、君の作戦は何かね?」
「……日本軍の特殊部隊がアジア海軍の駆逐艦を爆破しようとするのを失敗した……という事です」
ホプキンスはニヤリと笑う。
「……ハッハッハッ!! ……面白い作戦だな」
ルーズベルトは愉快そうに笑う。
「フィリピンには多数の中国人がいます。彼等に金を渡して擬装すれば……」
「確かにな……ジャップは中国人の女性と猿の交尾で生まれた人種だからな。多少違うくても問題はない」
ルーズベルトが笑う。
「ホプキンス、失敗する確率は?」
「ゼロですよプレジデント。失敗するような事は起こりませんよ」
「……ならば構わない。早速作戦を練ってくれ」
「分かりました」
ホプキンスは大統領室を出た。
「……全く……世界は我々の物だというのにつけ狙ってくるのは困る」
ルーズベルトは一人になった大統領室でそう呟いたのだった。
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