第十五話
――1940年十月、ドイツ海軍総司令部――
「な、何ですとッ!?」
ドイツ海軍総司令部の一室で、ドイツ海軍長官のレーダー元帥が思わず叫んだ。
「そ……その話は本当ですか?」
レーダーは目の前にいるドイツ駐在武官の日本海軍中佐に訊ねた。
「はい、我が日本海軍は日独伊三国同盟の一環として小型空母二隻をドイツに提供します」
海軍中佐の駐在武官はそう答えた。
「……しかしだ、今の日本海軍は空母は一隻でも必要ではないのかね?」
レーダーは内心で喜びつつも駐在武官に聞いた。
「いえ、提供する小型空母は輸送船から改装した空母なので然したる問題はありません」
この小型空母改装は将樹が逆行後に密かに改装していたのだ。
将樹がドイツ海軍に小型空母を提供するのはビスマルクを救うためでもあった。
「此方が小型空母のデータです」
駐在武官がレーダーに紙を渡した。
小型空母は搭載機は三十機、連装高角砲四基、三連装対空機銃十基、最大速度は二八ノットである。
「問題点は空母が輸送船からの改装です。なので防御力は弱いです」
「それは仕方ないだろう……が、私個人としては嬉しい限りだ」
レーダーはニヤリと笑った。
「その小型空母の受け渡しは何時になるのかね?」
「本国からの報告では工員を大量に集中させているようで、十二月に竣工予定です。そしてそのままドイツに向かうとの事です。突貫工事らしいのでもしかしたら若干の浸水があるかもしれませんが……」
「いやそれは我々のところでしよう。だが問題は搭載機だ。我々には搭載する航空機は無い」
レーダーは悔しそうに言った。
「艦載機は此方のを格安で売却します。戦闘機は旧式の固定脚ですがまだまだ活躍出来る九六式艦上戦闘機三三型です」
この九六式艦上戦闘機三三型はフィンランドに売却するために作られたと言っていい。
エンジンは史実の零戦二一型が搭載していた栄エンジンであり、武装は機首と主翼に十二.七ミリ機関銃四門である。
速度は推力式排気管を採用して五百二十キロを出し、航続距離は千六百キロだった。
既にフィンランドには一個中隊規模の九六式艦上戦闘機三三型が売却されている。
「小型空母はフィンランドに戦闘機を売却してからドイツに向かいます」
「分かった。だが我が乗組員も出来るだけ早くに空母の運用になれさせねばならん。インド洋に空母用の乗組員をUボート等で派遣する」
レーダーは俄然やる気を出していた。
「分かりました。本国にそう伝えておきます」
駐在武官はそう伝えて大使館に帰った。
「……問題はパイロットだ。全て空軍の管轄だからな。前にもグラーフ・ツェッペリン用のパイロット貸し出しも断れたからな。あのゲーリングには頭を下げたくないしな……」
レーダーはそう呟き、温くなったコーヒーを飲む。
「……待てよ。直接総統に直訴してみるか。総統に空母の必要性を伝えれば海軍独自のパイロットを確保出来るかもしれないな」
そう考えたレーダーはコーヒーを飲み干して、そのまま総統官邸へと向かったのであった。
――ベルリン、総統官邸――
「ハイル・ヒトラーッ!!」
応接室で数分待たされたレーダーは、許可が降りて総統室に入った。
「レーダー、いきなり訪ねてきて何かあったのかね?」
ちょび髭のドイツ第三帝国総統のアドルフ・ヒトラーはレーダーに訊ねた。
「実はお願いがあって参りました」
「ほぅ、願いか」
ヒトラーは少し興味があるように言う。
「実は空軍のパイロットを一部海軍に回すか、海軍独自のパイロット育成の許可が欲しいのです」
「ほぅ……海軍にパイロットか。だが海軍には空母は無いはずだが?」
「実は日本から小型空母二隻を売却すると打診がありました」
「……何?」
ヒトラーがジロリと睨む。
その眼光にレーダーは身体をビクッとさせるが直ぐに持ち直した。
「先程、日本海軍の駐在武官が海軍総司令部に来まして、輸送船を改装した小型空母二隻とその艦載機の売却を言ってきました」
「……ふむ」
ヒトラーは運ばれたコーヒーを飲む。
「確かに空母は必要だ。しかし何故余に言ってきた?」
「空軍のゲーリングがパイロットを貸そうとしないからです。そのために総統にお願いに参ったわけであります」
「……成る程。余を利用してパイロットを確保したいと?」
「罰は受ける覚悟であります」
レーダーはヒトラーに頭を下げる。
『………………』
二人は暫くは何も発しなかった。
やがて、ヒトラーの方から口を開いた。
「良いだろう。ゲーリングには余から言っておこう」
「総統の御決断に感謝します」
「ただし三ヶ月間の給与は減給だ」
ヒトラーなりの処罰だった。
「は、分かりました」
レーダーはヒトラーに頭を下げた。
そしてゲーリングはヒトラーからの要請を受けて仕方なくパイロットの提供を承諾したのであった。
こうしてドイツ海軍の小型空母受け渡しの準備は着々と進んでいた。
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