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「イジメグループのリーダー格?」


 桐生の問い直しに鑑取り班員である四係の藤原が答える。

 吊るしのダークスーツの上にオリーブグリーンのM65を羽織るのが彼のスタイル。

 えらの張った浅黒い顔だから、本人は織田裕二を意識居ているのだろうが、いずれ今はあまり見ない某ピン芸人ほうが近いと指摘してやろうと常々桐生は思っている。

 その彼が、得意満面に小鼻を膨らませ報告を続けた。


「同じクラスの父兄数人からの証言によりますと、マル害は大柄で力が強い上に中々のワルでして、は近所に住む同級生とつるんでクラス全体に圧力を掛けて、気に入らん子を苛め抜いてたとの事です。ターゲットになった子の中には登校拒否に成った子も居ったとの事です」

「で、その登校拒否になった子には会えたん?」


 続いて桐生の指摘。藤原はとたんに顔色をなくし、「あ、ええっと、まだです」

 尾上が立ち上がる。


「氏名は小林翔太。同じクラスの生徒でしたが、彼の家が母子家庭なのを理由にイジメのターゲットにされ、夏休み以降出席せず、そのまま転校、今は住まいの近くの小学校に通ってます」

「話は聞けたの?」

「親の承諾を得て、家で聴取しました。最初は母親が居ないことを馬鹿にされ、その内、クラス全体で無視を決め込まれやがて毎日のように死ぬことを強要されたと言ってました」


 捜査員全員の視線が尾上に集中する。


「死ぬことを強要とは?どういう意味や」


 たずねたのは庄原。


「朝のホームルーム前や、昼休み、下校直前なんかの時間を見つけて、仲間で彼を囲み『父親に捨てられるようなヤツは生きてる意味無い』とか『お前みたいなボシカテイの子は世界のゴミ、自分で死ね』などの罵詈雑言を毎日の様に浴びせ、時には学習ノートに遺書を書くことを強要されたり、校舎の四階から飛び降りるようにはやし立てられたりなど、まぁ大人も引くようなイジメを受けとったようです」


 朝の会議室にペーパーノイズやスマートフォンを操作する音が響き、皆が尾上の報告を懸命に記録している事がわかる。

 桐生も手帳に報告を書き付けてから、以前の記入を見比べ思考をめぐらせる。


 一年前の転落事故、その現場に仲田瑛児は居た。

 ひょっとして、彼が転落事故を仕組んだのか?イジメとして・・・・・・。

 実に短絡的な考えだが、今ある材料を並べて俯瞰すればそう言う構図が浮かび上がる。

 そして、昨日の茅野秋也の物言い。

 明らかに彼はマル害に敵意を持っている。彼もマル害からイジメを受けていたのか?それとも親友が被害を受けていたのか?

 ともかく、もう一度秋也に合いたい。何とか彼の心を開いて話を聞きたい。

 桐生は立ち上がり、捜査員全員を見渡し言った。

 

「鑑取り班は、マル害の周囲をさらに詳しく当たって。特に彼に被害を受けていた子やその父兄を重点的にかつ慎重に、地取り班は駅周辺での聞き込みを継続してちょうだい。谷田署が目撃情報を募るチラシを作成して頂いたので有効に使うこと、そしてどんな些細な目撃情報でも帳場に上げて、本件の真相は一見取るに足らない情報の中に隠れてる筈やわ」


 彼女の指示を受け、庄原の檄を聞き、蜘蛛の子を散らすように会議室を去ってゆく捜査員達の中に、二人だけ桐生に歩み寄るものが居た。

 一人は監視カメラの画像を分析していた谷田署強行犯係の巡査長。手にはあの茅野秋也が手を振る場面を拡大したカラープリント。


「管理官、この男の子の隣におる女性なんですが」


 よく見ると、秋也の右隣にショートヘアーの若い女性が立っていた。

 歳は二十代前半、ベージュのコートを着て、手にはA4版の封筒。

 

「よう見たら、男の子とまったく同じ方向見てるような気がするんですよ」


 指摘され凝視すると、なるほど視線はまっすぐ秋也と同調している様に見える。

 当時、現場は相当な修羅場だったはず。普通の女性なら絶対に目をそらす、しかし、彼女はまっすぐ向こうのホームを見つめている。

 横から首を出した庄原が言った。


「封筒の文字、綺麗に見えたら連絡先がつかめるかも知れへんなぁ」


 しばらく考えて、桐生は巡査長に言った。


「科警研にその画像一式を分析してもらって、向こうには私から連絡を入れとくから、それで、封筒の文字が読めたら貴方が彼女と連絡を取って証言を引っ張ってくること、ええかな?」


「了解です!では行って参ります!!」と勢い良く駆け出す三十路半ばの巡査長の背中を笑いながら眺めていた尾上だったが、桐生の「で、あんたは?」の問いに急に真顔を作り。

 

「管理官、ちょっとええですか?」

「なにか?」


 彼女がそう答えると、尾上は一枚の写真を提出した。


「この前報告した一年前のマル害、里村静也でっけど・・・・・・」


 デジカメプリントらしきその写真には、聖杖学園指定の体操服を着た二人の少年が写っていた。

 一人は少し頼りなげな柔和そうな顔に、はにかむ様な笑みを浮かべている。胸には『四年三組里村静也』とある。

 そして、その傍ら、しっかり肩を組み屈託無く笑うその少年は、昨日、あの暗い言葉を桐生に吐いた茅野秋也だった。


「昨日、管理官が会われた茅野秋也とは大親友やったとの事です」

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