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 痴漢、盗撮、喧嘩、スリ、器物損壊。

 駅のホームとは、まさに軽犯罪の巣窟でもある。

 そんな場所での監視カメラの存在は抑止や捜査の面でも有用であり、本来の乗客の安全確保よりもいまやそちらのウエイトが高い。

 

 北谷田駅のホームには合計八代の監視カメラが備えられており、捜査本部は念のため事件発生時から始発までの全画像を駅に要請し領置していた。

 画像分析の班は四係と鑑識、所轄警邏課から一人づつ人員を割いて行われており谷田署の小会議室を使って作業を行っていた。

 

 突然入ってきた管理官と係長に全員が驚き、作業の手をとめ立ち上がる。

「ああ、かまんかまん続けて」との庄原の言葉に再び作業が始まり、ちょうど被害者がホームを駆けて転落してゆく場面が再生された。


 明らかに同年代の子供としては抜きん出た体格。仲田瑛児だ。

 背中のランドセルが小さく見え、詰め入りのジャケットと半ズボンが恐ろしく窮屈に感じる。

 そんな大柄の少年が、つんのめる様な不自然な足取りでホームを横切り、奈落とも思える線路に落ちてゆく。

 周囲の乗降客は、突然の出来事に身動きが出来ない。ただ、呆然と目の前で起きた異様な出来事を注視するのみ。

 そして、彼の命を奪う上り列車がホームに滑り込んでゆく。


「彼の最初に居った場所の画像は?」


 庄原がたずねるとすぐさま画面が切り替わった。

 線路側からホームを映した画像。

 大勢の大人に囲まれ列車を待っていた少年が画面の端に移る。

 最初は変化無かった彼の表情に、突然驚愕の色が現れるとまるで電撃に撃たれたように体が痙攣し、そのあと駆ける様に前に進んで、画面の手前に消えた。


「突き飛ばされた瞬間、やろか?」


 庄原が呟き桐生はまき戻しと再生を銘じる。


「彼の背後、詳細な画像分析かける必要あるわね、それと、その周囲の人間はもう当たってるの」

「すでにプリントして捜査員に持たせ駅周辺で聞き込んでます」


 庄原の答えを聞き頷くと、桐生は再び部下に訊ねる。

 

「改札口の映像で不審な場面は?慌てて駅から出た人間や挙動不審な人物とかは無かった?」

「西口、東口、両方ともチェックしましたけどそれらしいのは居ませんでした」


 唸る庄原の傍らで、桐生は三つのモニターの画像を順番に睨みながら思考をめぐらせる。

 手形のサイズからみて、持ち主は子供、これらのカメラの角度では小柄な子供なら他の大人らの影に隠れて見えなくなった可能性もゼロではない。

 と、言うことは、人間と同じ目線であれば、小さな子供でも捉えれている可能性はある。

 だが、そんな視野をもったカメラはここには無い。そもそも監視カメラは俯瞰であってこそ意味がある。

 ならば・・・・・・。

 

「ねぇ、反対側のホームの画像、転落地点のと向き合ってた場所の画像はある?」


 桐生の求めに訝しげに思いながらも捜査員は画像を呼び出しモニターに出した。

 それはちょうど列車がホームに滑り込む直前。

 前列に立つ人々の顔が鮮明に確認できる。


「この連中やったら、マル害が落っこちるところも、その真後ろに居ったヤツも目撃してる可能性がありますなぁ、オイ、済まんがそれプリントしてくれ、あした地取りの連中にもって行かす」


 庄原の指示を受け、プリンターが起動される。

 その時には、画像は列車が被害者を轢く場面になっていた。

 驚愕し、慌てふためき、絶叫し、狼狽する乗降客。

 だが、そんな只中で、一人だけ微動だにしない人影が有った。

 制帽、詰め入りのジャケット、半ズボン。被害者と同じ制服を着た少年。

 粗い粒子の中でも、その少年の端整な顔は緊張し、目はしっかりと見開かれ、真っ直ぐに視線を送っているのが解る。

 線路の向こうの何かを凝視している。桐生にはそうとしか見えない。見るべきものはすでに目線の下にあるはずなのに。あるいは、目は背かれていてもいいはずだ。

 なのに、その目は反対側のホームを凝視する。


 不意に、彼の右手が上がった。

 そして、ゆっくりと、しかし確かに振られた。

 まるでホームの向こうに居る誰かに呼びかける様に。

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