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「どの話し聞いても、ピリッとした中身は無いなぁ、諸君。死んだ理由を早いとこ突き止めんと、彼の魂も行くと行けんがな。明日の会議までにはなんか目新しいもん拾うて来い」


 と、報告を終えた捜査員らに言う庄原の口調は、声色は穏やかなものの辛辣な棘と苛立ちが散りばめられていた。

 

「地取り(聞き込み)班はもっと目撃証言を集めること、鑑取り(関係者への聴取)班はマル害のクラスメートや同級生の父兄まで範囲を広げてみて。正し、相手は小学生、人権への配慮は万全に」

 

 追いかけるように桐生は指示を飛ばす。

 結局、初回の捜査会議では初動の際に仕入れた以外の情報は、さほど集まらなかった。

 出勤ラッシュ時の駅のホーム。住宅街と小中高の学校を抱え乗降客は路線でもトップクラスの三万人。

 その中に潜む目撃者を洗い出すのは容易ではない。

 しかし、根気よく地取りを続ければ「何か」が掴める筈だ。


 問題は鑑取り。

 取り乱した被害者の母親や、茫然自失の父親から、この段階で有用な情報が引き出せないのは解るとしても、学校関係者の口が重いのが解せない。

 担任教諭は当たり障りの無い証言を繰り返し、教務主任は「成績優秀で素直な生徒」一点張り、校長に至っては「生徒の人権に配慮した捜査を希望します」と半ば圧力まがいの発言。

 協力を拒んでいるとしか思えない対応振りは首の一つでも傾げたくなる。


 明日の会議開始を九時とし、署長の訓示のあと捜査員はそれぞれの持ち場に散る。

 署長、桐生、庄原などの捜査幹部、それに集めた情報を精査し分析する「デスク」と呼ばれるチームのみが会議室に残された。


「ま、今日の話を聞いただけでは、まだ事件と言う根拠はつかめませんね」


 しゃれたデザインのセルフレームのメガネを、ファインクロスで拭きつつ署長が呟く。

 若干三十代後半で中規署の署長に任命された準キャリア組の警視。

 順当な出世を望むなら適当な成績を上げ、平穏無事に署長の任を終え、府警本部に戻るのが早道だ。

 ならば、こんな事件か事故か判然としない事案に関わるのは得策では無い


 対して、五部刈り頭をなでつつ庄原が唸る。

 

「しかし、複数の目撃証言と、なによりもランドセルの掌紋はいかんともしがたいですなぁ、アレを見て、事故やと言い切る自信はないですわ」


 所轄署の署長が『帳場』を持ちたくない気持ちは解らないでもない。

 労力、金銭、なによりも責任と言う負担の重圧は、この程度の規模の所轄署には間違っても歓迎できない。

 かといって、事故であるという確証を得られない限り帳場を畳むわけには行かない。

 桐生は署長に向き直り言う。


「たしかにそうです。アレを無視して事故と決め付けるのは早計過ぎます。もっと証言が必要です」 

「駅前でチラシでも配りますか・・・・・・」


 署長はそう呟くと「では、他の仕事がありますんで」と一人席を立った。


「若署長さんは気楽ですなぁ」


 と愚痴る庄原を、桐生は苦笑しながらみやる。


「私もこのヤマは事故や無いいう管理官の読みはドンピシャや思います。ランドセルの掌紋だけや無い。学校の対応。匂いますなぁ」


 学校への疑念を部下と共有していたことを確認し、桐生は腹の中でわだかまっていた思いを口にする決心を固めた。


「校内の生徒間のトラブル、イジメなんかを視野に入れるべきね。学校側は把握してても面子を守るため公にはしたないでしょうから」

「組織って言うのは、どこでもそんなもんですわ」

「だから、イヤでも口を開きたなる証拠を集めんとね・・・・・・」


 そして、しばらく考えをめぐらせた桐生は不意に思い立ち席を立った。


「駅構内の監視カメラの画像、いっぺん私も見てみるわ」

「転落現場付近の画像は精査済みとは聞いてますけど」

「もっと視野を広げてみたらどうかな?現場の左右や改札口も目通しといた方がエエと思うわ」

「・・・・・・一理ありますなぁ、現場で写りきらんかった何かを捉えてるかも」


 庄原はそう答えると、すでに会議室を出ていた桐生を追った。

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