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駅長室に安置されたそれは、すでに現着した鑑識が、防水シートの上にかつての形状に近い形に並べていた。
その傍らでは検屍官が遺体の見聞を終え道具一式を片付けている最中だった。
「この子、はね飛ばされたんやのうて完全に轢かれとる」
ラテックスの手袋を脱ぎながら、桐生も何度ともなく世話になった超ベテランはうめくように言った。
「つまり、ホームから線路に落ちてちょっとの間は意識が有った言う事や、自分を轢こうとする電車を見てた可能性がある。可哀想になぁ」
「親御さんには伏せといった方いいですね」
彼女がそう返すと検屍官は黙って相打ちをうつ。
「生徒証、マル害の身元です」
庄原が差し出したそれは、血にまみれた顔写真入りの身分証。
ジップロックに入ったそれを手に取り見つめる。
『聖杖学園小学部五年二組 仲田瑛児』
我が子と変わらぬ歳と知り、更に気分の重さが上塗りされ、部下に飛ばす指示の声も暗くなる。
「藤原君、所轄の人と一緒にマル害の学校へ行って、西田さんは同じく自宅、同行は女性警官でお願い。二人ともマル害やその身内に絡んだトラブルの有無も確認して頂戴」
指名された四係の刑事らは、生徒証を受け取り素早くメモると一目散に駅長室を飛び出る。
「管理官」
背後で彼女を呼ぶ声。 振り返ると指紋担当の鑑識課員が、ショルダーハーネスが引きちぎれ血に塗れたランドセルを捧げ持ち立っている。
「指紋と掌紋出ました」
エナメルコーティングの黒いランドセル。
雨蓋の真ん中には学校の紋章と、それを覆い隠す様に、アルミパウダーでプリントされた小さな一揃いの手のひら。
「他の指紋を塗りつぶす形で付いてます、オマケに新鮮ですわ」
他の指紋の上に付けられた両手分の真新しい指紋。
駅までの道のりで付いたかもしれないし、昨日のものかもしれない。
しかし、ホームで見た状況と遺体の状態から考えれば、今出す答えは自ずから導かれる。
「帳場、立てましょう」
桐生は静かな、しかし明瞭な声で宣言した。