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「消化不良ですなぁ、まぁ、しょうがないですけど」


 例のネコの死体様の鞄に書類を詰めながら庄原はぼやく。それを桐生は苦笑いをしつつ聞くしかなかった。

 他の四係のメンバーも、面白くない顔で片づけを行う。

 本部から持ち込んだパソコン、無線機、臨時電話、ファックスなどをケースに詰め、作成した書類を所轄の継続捜査班に引き継ぐ準備をする。

 谷田署の警務課員と手すきの署員が大量に入り込み、テーブルや椅子を元のロの字型に並べなおし、余分な調度は倉庫に戻しに行く。

 会議室の入り口には、本来『戒名』と呼ばれる捜査本部の名称を書いた看板代わりの紙が張り出されているのだが、本件ではそれを出さぬまま捜査本部縮小が決まった。

 

 元から事件としての扱いがなされて居たか、微妙な所だった。

 桐生は改めて思う。しかし、事件とし、帳場を立てた判断は間違っていないとも確信できる。

 ホシは誰であれ、動機が存在しそれによって殺意が産まれ犯行があったなら、事件は事件だ。

 ただ、問題は、畑一課長が指摘する通り、そのホシが我々の了解の外にある存在だったかもしれないという点だ。

 そこは、諦めるほかにないのだろう。

 彼女はそう半ば強引に結論付ける。


 が、心残りなのは茅野秋也。

 彼の勇気ある決意を無にしてしまったのは、悔しくて成らない。一生の汚点として自分の心に穿たれる筈だし、そうならなければ嘘だ。

 そして、そうならない様にこれからもこの件を可能な限り追い続ける決心もする。

 また何時か、この谷田に戻り、事件の背景を暴き立てる。

 

 そんな、様々な思いを一時封じ込め、捜査本部だった会議室を後にした。


 その時。

 懐の携帯電話が鳴動した。

 取り出し、ディスプレイを見る。


 茅野秋也。


 恨み言の一つでも聞けるかと思い。言うべき言葉を捜しつつ電話に出ると、耳に届いたのは彼の悲痛な叫びだった。


「桐生さん!駅に来て!!先生が、学園長先生がぁ、静っちに殺される!!」


 聞き返す間もなく走り出していた。

 背後から庄原や他の四係のメンバーも追ってくる。


「管理官!どないしたんです!?」


 庄原の怒鳴り声に、彼女はそれに倍する悲鳴の様な声で答えた。


「谷田北駅!こんどは学園長が危ない!!パトカーを出して、駅にも連絡!急いで!!」




 サイレンもけたたましく覆面パトカーが、署から駅までほぼ直線でつなぐ府道を突っ走る。

 時間にして僅か数分、しかし桐生にはそれが永遠に思えた。

 駅のロータリーに到着するとパトカーから飛び出しホームに走る。

 どのホームか、半ば確信できていた。

 一目散に駆け、改札を飛び越え、エスカレーターを駆け上がる。

 幾人か人を突き飛ばした感覚はあるが、構っていられない。

 背後から庄原が、尾上が四係メンバーが追ってくる気配がするが、振り向く間もない。

 

 ホームに飛び出すと、すでの耳を弄する電車の警笛が鳴り響き、強烈な先頭車両のライトが辺りを照らしていた。

 視線をめぐらせ秋也と校長を探す。


「管理官!あそこ、あそこに!!」


 叫んだのは尾上、彼の指差す先には。学園長が居た。

 もう後姿しか見えないが、なぜか右手を前に突き出し、何者かに引きずられるようにホームの端へ進んでゆく。

 その異様な姿に、すでに他の客らも慄いて身を引き、だれも学園長の行く手を阻むものは無かった。

 

 秋也は、人々の中に居て、携帯電話を握り締め凍りついたように立ち尽くしている。

 その視線の先は、校長の突き出された右手の先。

 桐生は彼の横をすり抜け、学園長の背後に向け猛然と走る。


 ホームに、列車が滑り込んできた。

 桐生の手はまだはるか学園長の背中に届かない。

 

 そして、彼の足は宙を踏み、膨大な質量を持つ鋼鉄の箱が目前に迫った。


 時は午後四時十五分だった。

  




 本作の元ネタはmixi上で私とお友達になって頂いている、ある方の日記であります。



 その方が、駅で電車を待っていると、

 隣に立っていた可愛い男の子が向こうのホームに向かって手を振っている。

 友達でも居るのかな?と、思い、彼が手を振る方向を見ると・・・・・・。


 誰も居ない。


 毎朝その子と合うけど、

 何時もホームの向こうに手を振っていて・・・・・・。


 毎回其処には、

 誰も居ない。



 と、要約すると言うかなり不思議で、少し不気味な話でありました。


 拝見した途端、私の貧弱では有りますが、そこそこ年季だけは入っている物書き脳がビビン!!と反応し、物語を紡ぎ始めました。

 最初は、少しお涙頂戴系の甘口幽霊話を思いついたのですが、それではインパクトが足りないと感じ、今回の様な警察小説風味をスパイスとして使ったホラーに仕上げてみました。

 皆様、如何だったでしょうか?


 怖くなったらごめんなさい

 また、怖くてもすみません。

 ま、本作、ビジュアル的な気持ち悪さよりも心理的な居心地の悪さを狙いました。

 呪いや怨霊は人間社会の不条理が産み出す副産物。そんな思いを少し込めてみました。


 宜しければ感想、批判、ご指摘。頂戴できれば幸いです。

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