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天頂近くに登った陽の光のお陰で幾分か空気が温まり、公園での待ち合わせも苦には成らなかった。
コートの襟を緩め、久々に味わう暖かい陽光を受けながら、ベビーカーを押す若い母親や、世間話に興ずる年寄り達を眺めていると、予想通りの場所から茅野秋也は遣って来た。
キッズ・サイズの黒いMA-1、インディゴカラーのデニム。
少し大人びた印象は服装だけでなく、伏目がちな彼の表情からも来ているに違いない。
そんな彼と視線が合ったとき、桐生は立ち上がり言った。
「お昼ごはん、ご馳走するわ、そこのマックでええ?」
黙って彼は頷いた。
ランチタイムのマクドナルドは、親子連れ、部活帰りの学生、昼休みの勤め人など雑多な客で完全に満杯。
「ゴメン、席一杯やわ、テイクアウトして、公園で食べよか」
謝って見せ、彼が頷くと桐生はカウンターに向かう。
彼から聞いたメニューはチーズバーガーのセット。
正直言って自分の娘の方が良く食べる。
コレではイカンと思い、自分の分のチキンフィレオセット以外にナゲット注文する。
品物を受け取り公園へ帰り適当なベンチを見つけ二人並んで座る。
コーヒーを一口啜り、桐生は言葉を掛けた。
「話が先のほうがエエ?」
見上げてきた彼の目には、出会った時にあった挑戦的な光は無く、代わりに不安げで縋り付く様な揺らぎが見える。
これまで何度も見てきた眼差し、その場所は取調室。
そう、これは落ちる寸前に必ずと言っていいほど容疑者が見せる眼差し。
重要な何かを、今、彼は語ろうとしている。
「言いとうて、我慢してることがあったら言うてね、どんな事でもおばちゃん聞くから、刑事としてやのうて、君と歳の近い子供が居る女の人と思うて」
半ば本当、半ば手管としてそんなセリフを口にする。
恐ろしく長い沈黙の後、秋也は口を開いた。
「ぼく、根性ナシの裏切り者なんです」
呻くような小さな、しかし、はっきりと聞こえる声で彼は言った。
「なんで?どんな嘘ついて、誰を裏切ったん?」
勤めて彼の目を見据え、たずねる。
「静っち・・・・・・。大親友の静っちです、静っちが瑛児らに殺されるところ見てたのに、瑛児が怖いから・・・・・・学園長先生が怖いから、誰にも言われへんかった」
うなじが総毛立つ感覚を味わう。
今、正に事件の真相に迫る言葉が紡がれようとしている。
逸る気持ちを必死になだめすかせ、聞き返す言葉を慎重に選んで桐生は訊ねた。
「静っちて、静也君の事?」
秋也は黙って頷く。
「瑛児君が静也君を殺したって、どういうこと?」
「駅のホームから突き落として・・・・・・殺したんです。ぼく、それ、反対側のホームから、見てた、瑛児が静也の後ろに立って、『膝かっくん』した後、思い切り背中を突き飛ばして」