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Disturbed Hearts  作者: 炊飯器
第2章 ジラークへ
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第28話  怪盗/強盗 3


盗賊団のアジトは山脈麓の山の中にあった。討伐を警戒しているのだろう、街からは遠い。金品を運ぶ男たちに続く。

「俺がまとめておく。お前は地下のVIPの見張りを代わって来い」

「VIP・・・?」

「何言ってんだ、知ってんだろ?俺たちの隠れ蓑だ」

ロイは驚きが表情に出ないように努めた。だが、好都合だ。男の話からまだシルビアが生きている事が分かったし、なんと今から近づけるという。ロイは力強く頷いた。だが、場所がどこか分からない。立ち尽くしてしまった。男がロイを見る。不審がられたか、とロイは身構えた。まだ正体がばれる訳にはいかない。黙らせようか迷ったが、男が懐に腕を差し入れて取り出したのは鍵だった。

「ああ、そうか。お前は確か行ったことがなかったよな。あっちの地下室だ。これは入り口の鍵。牢の鍵はお頭が持ってるからな。まったく残念な話だ。あんな美人がいるのに手出すこともできねえなんて。お頭は変なところが紳士だからな。

だが、もう少しの辛抱だ。お頭の話だと俺たちの正体もそろそろバレる。ま、そうなったらなったで上手い汁がすえるってわけだ」

「・・・・・・」

男はマスクの上からでもわかるくらいニタっと笑った。ロイは何も言わなかった。

「なんだよ、食い付きが悪いな。一番楽しみにしてたのはお前だろうが」

そう言われたので、ロイは煮えくり返るはらわたを押さえながら「そうですね」と同意した。男は満足げに頷くと金品を持って行ってしまった。ロイは踵を返して地下室へと向かった。


鍵を使って開けたその部屋はひどくかび臭かった。傍にあったたいまつに火をともし、扉を閉めて目の前の階段を降りていく。その地下はかなり立派に石で造られていた。盗賊団が造ったのだろうか。それとも別の誰かだろうか。しかし、今はそんなことを気にしてもしょうがない。

「あら、もう朝食かしら。お腹がすいたのだけれど」

聞き覚えのある声がする。しかし険のある口調だ。ロイが地下に足を踏み入れ、たいまつをかざすと見知った顔がそこにはあった。

あの露出の高い服を着て、怪盗リリーはそこにいた。牢の中の鎖で足をつながれ、手錠をかけられていた。目立った外傷はないようだが、その露出の高い服がところどころ破かれている。かなりきわどい格好だった。

「・・・あの怪盗リリーも今は獄中の乙女、か」

ロイは呟いたが、シルビアは表情を変えなかった。しかし表情を変えずに叫んだ。

「犯すなり殺すなり、好きにすればいいでしょう!」

そう叫んだシルビアの目をロイはじっと見る。わずかに怯んだ。やはり不安なのだろう。誰もいなければ光など存在しない地下牢。それだけではない。自分がこれからどうなるのか、それすらもわからないのだ。心身ともに、まさに一寸先は闇。不安でないはずがない。

ロイはマスクを取って、素顔をあらわにした。

「ロイ!」

口元に人指し指を当てる。ここで正体がばれるのはまずい。ここまで来たが、見た所この格子はかなり頑丈なようだ。全身全霊を注げば溶かせないこともないだろうが、それではここから逃げることができなくなる。疲労困憊してやられるのがおちだ。

しかし、安心するかと思われたシルビアが急に悲しそうな顔になった。

「まさか、あなたの正体が盗賊だったなんて・・・。わたくし、あなたのことは信じておりましたのに。

・・・・・・いいですわ、あなたがそう望むなら、犯すなり殺すなり好きにしなさいっ!!」

「ええっ!何でここでそういう結論に達するんだ!?」

いや、でもそういう考え方もありなのか。シルビアにとってロイは出地不明の少年なわけだし、運動能力があることも証明済みだ。もしかしたらそっちのほうが考え方としてはしっくり来るのかもしれないが・・・。

「格好つかね~」

嘆かざるを得ない。ロイは両手で頭を抱えた。その自分の声が思いの外反響したので、慌てて口を塞いだ。扉の方を見たが、誰も来ていないようだ。シルビアに視線を戻すと潤んだ目でロイを睨んでいた。

「あなたとは良い友になれると思いましたのに。わたくしの目は節穴でしたわ。成る程、あの日、わたくしを助けたのもそういう魂胆があってのことですか。・・・失望しましたわ」

なんか勝手に失望された。面白くないことはなはだしい。

「違う違う。助けに来たんだ!」

シルビアはきょとんとした顔をしている。

「つまり、裏切りを・・・?」

「ちーがーう!その原点を改めろ!」

確かに冷静に自分の考えを見つめなおすのは難しい。後で考えればなんでもないような答えでもそのときには無理難題の迷宮回廊に見えるものだ。

「さっきティグレーに来た盗賊の1人と入れ替わったんだ。ったく、ちょっとは『ヒーロー登場!』的なカッコイイ感じにさせろよ」

ロイは別にヒーローに憧れている訳ではないが、悪役よりはいいだろう。

「え?え?わたくしの体目当てで?」

ロイは息を吐いてうなだれた。なんて強情なのだろう。

「離れろ!そっから!」

「・・・あなたは性的未熟者だったんですか?」

「違え!そんなこと言うとここから出してやんねえぞ」

「構いませんわ。自分で何とかしますもの」

「嘘つけ、絶対諦めてただろ!・・・だが自分で何とかするって言うなら俺が盗賊団を壊滅させて、かつお前をここに放置してやるよ。行く先は白骨死体だな」

ロイはシルビアを指差し、意地悪く笑った。シルビアは悔しそうな顔をする。

「この外道・・・」

「・・・・・・」

なぜそこまで言われなくてはならない。

「・・・そうですわね。意地をはっても仕方ありません。ロイ、無事わたくしを助け出せた暁にはご褒美を差し上げましょう」

おもむろに自分の胸を掴んだ。突然のことにロイは赤面する。

「結構だ!・・・ったく、今までどんな男と付き合ってきたんだよ」

「それは申せませんわ。・・・多すぎて覚えてませんから」

「失望した!」

ロイは頭を振って地面にうずくまった。そのまま冷たい床に寝転がって上を見上げた。その姿をみてシルビアがくすくすと笑った。

「ジョークですわ。しかしお子様には少々刺激が強すぎたのかもしれませんね」

「・・・・・・」

「・・・それよりも、本当にありがとう。これで二度も命を助けられることになるわね。やはり何か恩返しをしなくては」

「そういうことは無事助け出してから言ってくれ。恩返しもしなくて良い。俺は自分のやりたいようにしただけだから」

「やりたいのですか・・・」

「そこだけピックアップするな!いい加減しつこいぞっ!」

ムキになって声を上げたロイを見て、シルビアはふふっと笑った。

「なんとも、助けられ甲斐のない殿方ね・・・」

ロイは手を使わずに足を振り上げてその勢いで立ち上がった。

「甲斐とか義理とかいいんだよ。黙って助けられるのを待ってろ。それとあれだな。やっぱり俺は丁寧語じゃない方が好きだな。そっちのほうがかわいい」

さんざんからかわれたのでひとつからかってやる。しかし、かわいいと思ったのは本当だ。自然な感じがする。

牢の中のシルビアは固まったまま、さっきのロイよりも赤面していた。

「からかわないでくださいな!あなたは余計なこと言わずに早くわたくしを助ければ良いのです!」

丁寧語に戻ってしまった。まあいいか。そっちも嫌いじゃない。

「はいはい。わかったよ。せいぜいしっかり震えとけ」

ロイは階上へ向かって歩き出す。

「震えていたとしても恐怖でなくて寒いからですわ!というか本当に寒いのです」

確かに、冬がすぐそこまで来ているし、その上ここは地下室だ。更にあんな肌着じゃ寒くて当然だろう。

扉を開け、低い位置にある太陽を浴びた。ゆっくりと部屋の鍵を閉める。

「よし!」

さっきの男の話からすると、地下牢の鍵を持っているのはリーダー格の男だろう。まずはそこに向かわなくてはならない。




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