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Disturbed Hearts  作者: 炊飯器
第2章 ジラークへ
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第24話  喰人鬼 1

結局街についたのは日が上りきってからだった。まず宿をとることを主張したベルゼの剣幕に押され、一行は宿で荷物を下ろした。物騒なことこの上ない荷物だが、あまり気にされているようには見えなかった。商業の中継地点と言う事で、武器商人も少なくないのだろう。

部屋に案内されて早々、ベルゼは荷物を下ろし、横になった。よほど疲れていたらしい。エリナは「へタレねぇ」と言ったが、ロイは生憎エリナ側につくことはできない。もちろん怖かったので否定もしなかったが。

ロイもベルゼほどでないにしろかなり疲れていたので、休みたかったが、エリナは自分の部屋に戻ることなく(ロイやベルゼとは当然別の部屋だ)運んできた荷物を物色し始めた。

「今からホーエンス山脈越えるわけだからね、やっぱり装備は軽くしなくちゃ」

「装備って、装備してなかっただろ!」

ベルゼが哀れでロイが言うと、エリナはかわいそうなものを見る目をロイに向けた。

「本当に田舎者はレディファーストがなってないわ。こんなにか弱い乙女にこんな重たいものを運ばせる気だったというの?」

「か弱い乙女は敵の兵器に1人で立ち向かったりもしないし、銃を持っていくなんていう主張もしねえよ!」

ロイの的確な突っ込みだった。

「・・・悪かったと思ってるわよ」

やはり冗談だったらしい。エリナは口を尖らせた。ついで、右脚のブーツを脱いで軍用パンツの裾を捲り上げた。その脚は素人目に見ても重度の捻挫だと分かるくらい腫れ上がっていた。

「おいっ、どうしたんだ、それ!?」

「森の中で戦闘中にやっちゃってね。これでもずっと固定し続けといたから割と治ってきたんだけど・・・また痛くなってきたわ」

「言えよ、バカ野郎!」

ロイが怒鳴る。

「野郎じゃないわ!乙女よ!!」

エリナが反論した。

「乙女はこんな腫れた足で丸一日歩かねえよ!!」

ちなみにロイの手首はもう治っていた。早めの治療が功を奏したのだろう。治療をしてくれたのはエリナだから、自分にも同様の治療をしたのだろうが、それでも動かせば意味がない。

おかしいと思ったのだ。エリナは確かにわがままではあるが、そこまで理不尽なことをおしつけたりはしない。あれほど急かしたのもとにかく早く着きたかったゆえだろう。ロイは大きく息を吐いた。

「ああ、もう。言ってくれりゃあ負ぶってやったのに」

「結構よ。そこまで甘えるつもりはないわ。・・・言えなかったのはベルゼがいたのも大きかったわね。一線引いてる感じだったし、あんまり信用できなかったってのはあるわ」

確かにここまでの1週間、ベルゼはほとんど眠っていて、少なくとも親交を深めようという感じではなかった。信用できなかったのもムリはない。

「寝てる間だったら言えたんじゃないのか?」

思いついた疑問を口にする。ベルゼが寝ている間だったら別に問題ないはずだ。そうなるとロイも信用されていなかったということだろうか?かなりショックだ。

「気付かなかった?ベルゼは半分以上狸寝入りだったのよ。それが信用できない最大の理由だったんだけど・・・。でも疑うのはもうやめたわ。これはあれね、危機をともにした2人は恋に・・・じゃなかった、苦しみを共にすれば親密になれるってやつね」

「苦しみが同じじゃない!」

ベルゼとロイは重い荷物と戦っていて、エリナは足首の痛みと戦っていた。その理屈でいくと親密になったのはロイとベルゼだけだ。

「いいのよ、ロイがベルゼを信用できればそれであたしも信用できるんだから」

「・・・そいつはどうも」

ようするにロイは信用されているらしい。ショックが解消された。

「だからここに来て話すことにしたの。・・・分かった、ベルゼ?」

ロイが振り返ると、ベルゼが身体を起こすところだった。相変わらずニコニコと笑っている。

「いやあ、ごめんごめん。なんか2人の会話って入りにくくてさあ。邪魔するのもあれだったから狸寝入りしてたんだけど。ところでどこでばれたの?こう見えても俺は隠密だったから気配消したりとか得意なんだけど」

「こちらに興味を注ごうとした時に微妙に寝息が変わってるわ。でもその微妙が致命的ね」

2人の間に挟まれたロイは居心地が悪かったので少し横にはけた。

「実際悪いとは思ったんだよ。でも俺は裏切られて育ったからね。いや、裏切られてすらいないのか。まあ、人間を信用するようにはできてないんだ。だから君たちが俺を信用してるとは思えなかった」

「まあ、そんなどうでもいいことで1週間もスパイご苦労様。で、結果はどうだった」

エリナは腕を組み、皮肉をたっぷりに込めた言葉を投げかけた。

ベルゼはベッドから降りて宿のカーペットに胡坐を書いて両拳を突き、頭を下げた。

「ごめん」

しばらく、ベルゼは顔を上げなかった。あまりにも動かないのでロイは寝てるのかとさえ疑ったが、どうやら違うらしい。

「・・・できれば俺を信用してほしい。ムリにとまでは言わないけどさ」

言ってベルゼは顔を上げた。

「そうね。あなたがあたしたちを信じてくれるとあたしたちも嬉しいわ。ね、ロイ?」

突然振られたロイだが、当然だと頷いた。振られたことよりもさっきまでの棘のある声色から一気に変わったエリナの口調に驚いた。

「さて」

エリナが手を叩いた。少し暗かった空気が一気に吹き飛ぶ。エリナは再び装備品に向かった。

「あたしたちはこれから山を登るわけです。なんと天壁とまで言われるホーエンス山脈です。それで荷物を極力減らしたいのでいらないものは売ってしまおうと思うです。が、ご存知の通り、あたしは足が痛くて歩けません。さて、ここで問題ベルゼさん。今からこれを売ってくるのは誰と誰でしょう?」

笑顔で解答を促すエリナにベルゼは苦笑し、ロイと顔を見合わせた。ロイは諦めろ、と肩をすくめる。

「手厳しいなあ」

「信用してるのよ。こうしておつかいを頼めるくらいにね」

エリナは笑う。ロイも笑った。ベルゼも静かに微笑んだ。


「すごい殺し文句だよ、それ」




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