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Disturbed Hearts  作者: 炊飯器
第2章 ジラークへ
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第17話  土使い、ザバン 2



ザバンの足元の砂が盛り上がり、ザバンを空中へと弾き飛ばした。ザバンは空中で両足をそろえ、地面に向けて突き出し、ロイめがけて降ってきた。

「そんなのあたらねえよ」

ロイはその着地予想地点から二歩分後ろに下がった。着地の瞬間切れるように剣を構える。


ドゴォォォオン


気付いた時、ロイは空中にいた。本日何度目か分からないが、とにかく吹き飛ばされているらしい。

「くそっ!」

ロイが何とか体を捻って着地した。ザバンの姿は見えない。着地地点に駆け寄ると、その大穴の中心にザバンはいた。

「おいおいおいおい、うそだろ」

砂漠に大きなクレーターが出来ていた。クレーターの直径は20メートルくらいだろうか。中心でザバンがこちらを見ていた。

「うおおおおお」

ロイは剣を振りかざし、一気に間合いを詰めてザバンに向かって切りつけた。

だが、ロイは失念していた。巨大なクレーターをつくるほどの力と重量。それはつまり、薄く見える砂の装甲は半端じゃないほどの密度を持っているということだ。


ガキィィィン


「がっはっはっは。まるで手ごたえがないな」

ロイの渾身の一太刀は突き出されたザバンの左掌によって阻まれた。剣をつかまれ、身体ごと宙に持ち上げられた。

まずい、と思った瞬間、腹が貫かれたような痛みが走った。ザバンの右拳がロイの腹を突いていた。

「がっ」

腹が燃え上がったように熱くなり、真っ赤な血が吐き出された。ロイの身体はクレーターの外まで吹き飛んだ。

着地の衝撃が再び吐血を誘発する。どうやら内臓を強打したらしい。尋常じゃないほどの血溜まりが出来た。砂漠の砂は思いのほか水を吸わないようだ。あの拳の強度から言っても、生きているのが不思議なくらいだ。

「がははははは」

日射しが途切れ、ロイが顔を上げた。ザバンが空中に浮き、ロイの頭を破壊せんと両足を突き出していた。ロイは軋む体を何とか奮い起こして逃げ出した。

出来たクレーターはさっきよりは小さいものの、それでも大きな穴だ。

「さっきから逃げてばっかりだな。がははは、カルコン様直伝の術は忘れちまったのか?」

ロイは強いもどかしさを感じたが、しかしどうする事も出来なかった。熱で直接ダメージを与えるには距離が開きすぎているし、リスク覚悟で飛び込んだところで、攻撃が効きそうなのは鎧のない顔ぐらいか。だが、接近戦では確実に相手のほうが上。カルコンも言っていたが、やはり熱の術は不便だ。ギンのような風があれば、相手を吹き飛ばしたりできるのに。

―――ああ、だからカルコンは能力に手を出したのかもな・・・。

ロイは1人考える。わかりたくはなかったが、今はカルコンの気持ちが分からないでもない。

―――でも、俺は俺のやり方で戦うしかないんだよな。

ロイは口元の血を拭った。左手にどっぷりと血がついてしまった。

「わかったよ。・・・さあ来い、おっさん」

「おっさんって、言うんじゃねえ!」

ザバンは思いのほか逆上した。どうやらそれなりに年齢を気にしているらしい。

降ってくるザバンの攻撃を何とかかわし、ロイは一目散に逃げ出した。

「がははは。『わかった』ってのは勝てないとわかったって事か。まったくカルコン様はコイツの何を恐れているんだか」

そういうザバンの声は聞こえていて、それなりにはらわたが煮えていたが、ロイは足を止めなかった。



10分後、ロイとザバンはかなりの距離をとって向かい合っていた。いや、ロイはザバンを見ているが、ザバンは地面を見ている。

「はあ、はあ、はあ。・・・きたねえぞ」

ロイも肩で息をしているが、ザバンのようにうなだれてはいない。

「この炎天下。そして激しい追いかけっこ。あんたも鎧や砂のジャンプ台に術を使ってるし、俺も逃げるのに術を使っている。追いかけっこまでの消耗は俺の怪我とでおあいこって所かな。

でもそこから先は違う。俺は両足の筋肉を活性化させるだけなのに対して、あんたは鎧を維持し、ジャンプ台まで作らなきゃいけない。どっちが消耗するかなんて、考えるまでもないよな」

術に限界。人間の限界。それは課せられた必然。

「確かに接近戦なら俺に勝ち目はない。でも消耗戦なら、俺のほうが分がある」

「くっ、そ・・・」

ザバンは前のめりに倒れた。鎧は融けるように崩れて、砂漠の砂の一部になった。

ロイはザバンに近づいていく。自分でも卑怯だと思うが、今回ばかりはそうも言っていられない。ドートリア軍は今にも壊滅しているかもしれない。ここで迷って時間を割いている余裕はない。

「!!」

ザバンのほうからロイめがけてナイフが飛んできた。どこかで見覚えのあるものだった。ロイは転がるようにしてナイフをよけた。

「ヒヒッ」

「お前・・・スナグモッ!」

黒い装束。砂を掻き進む人外の技。ディアボロスの諜報部隊の1人、スナグモがそこにいた。

「ヒヒッ。よう、ロイ=クレイス」

「スナグモ、なぜここへ・・・?」

ザバンが何とか身体を起こした。顔は蒼白で、かなり辛そうだ。その辛さはロイにも十分わかるのだが。


「ヒヒッ、撤退ですぜ、旦那。ドートリアは落ちました」


「なにっ!!」

ロイは後ろを振り返る。しかし、塔からは火の手は上がっていないし、飛んでいるM-492Fの姿もない。

「ヒヒッ、戻れば分かる」

スナグモはそう言い放ち、ザバンを軽々と抱えた。

「逃がすかっ!」

「砂枷!」

ザバンが砂を一掴みロイに向かって投げつけた。それはロイの足元に積もり、硬くなった。

「がははは。せいぜい少しずつ掻き分けて抜け出せ」

ザバンは息も絶え絶えに、しかし楽しそうに言い放った。

「じゃあ、しっかり掴まっててくだせえよ」

スナグモは足元の砂に手を突っ込み、やがてその中へ消えていった。

「くそっ」

ロイは広い砂漠の中で1人悪態をつく。足元の砂を指で掻き分けると、少しずつだが掻ける。そう時間も掛からずに抜け出せそうだ。さっきの鎧は砂自体を術で固めて維持していたが、こちらはどうやら空気圧が関係しているらしい。足と砂の隙間はを完全に密閉されている。濡らした紙を床に置くとはがれにくくなるのと原理は同じだ。これならばずっと術で固めておく必要はないということか。

「よし」

軽くなったところで、力ずくで足を引っこ抜き、ロイは一目散にドートリアを目指した。




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