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Disturbed Hearts  作者: 炊飯器
第2章 ジラークへ
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第9話  Doubt! 1

ロイがグリンのボディーガードとして働き始めてから2ヶ月が経った。とは言っても仕事はほとんどない。この2ヶ月でボディーガードとして働いたのはわずか5回。グリンはケムトを代表する商人のようで、暗殺を目論む者がいる。それからグリンを守るのがロイの役目だ。

グリンは相当ロイが気に入ったらしく、わが子のように物を教え、着る物と食べる物、そして屋敷の中に部屋をを用意してくれた。ちなみにグリンに子供はいない。妻とは昔に死別したのだと執事が教えてくれた。


ある日のこと。ロイは太陽と同時に目覚め、水道で顔を洗っていた。夏真っ盛りだというのにひんやりと冷たい水道水は心地がよい。

その日は遠い国から旅商人が来ており、取引をするからとグリンがロイを呼んだ。ロイはすぐにグリンのもとへ行く。家の門の外には既に車が停めてあり、運転席には運転手、助手席にはグリンが既に座っていた。ロイは急いで後部座席に乗る。そこにはケムトの名産品やら何やらが詰められており、グリンの今日の商売への意欲をまざまざと見せ付けられた。旅商人、特に今日のような遠い場所から人間はひと月に一回ほどしか来ない。それゆえに外の文化を多分に受け入れるチャンス―――ひいてはケムトを栄えさせることに繋がる、とグリンは豪語していた。シルクの父親といいグリンといい、ケムトでは商人とは町を守る役割でもあるのだろうか。商人は皆町の発展を常に第一に考えているようだ。

「グリンさん。ご一緒していいですか」

そういって車に駆け寄ってきたのはシュートだった。季節の変わり目のせいで強く拭きつける風がその黒髪を揺らしている。

「おお、シュート殿、後部座席は狭くてすまないがそれでも良ければぜひどうぞ」

シュートはありがとうございますと短く言ってロイの横(と言っても大量の荷物を挟んでいるが)に座った。

「やあ、ロイ。久しぶりだね。どうだい、仕事には慣れたかな?」

相変わらず上から目線で話す、という言葉をロイは飲み込んだ。シュートはこの街では救世主のような男だ。敵に回すのはまずい。ロイはこの2ヶ月のうちに流れに身をおくことも学んだ。

「そういえば、今日はシルクは一緒じゃないのか?」

シュートは一瞬気まずい顔をして溜息をついた。シュートの代わりに助手席に座っているグリンが答える。

「あの娘には困ったもんだ。私ではないというに・・・・・・」

「?」

ロイが首をかしげていると、グリンが続けた。

「シルクの父親がこの街の大商人だったことは知っておろう?知略、話術、どれをとっても完璧な上に、誰にでもわけ隔てなく優しい。私はあの男にだけは絶対に敵わないと思っていたし、それでもいいと思っておった。しかし去年の春、中央広場に街のシンボルとして鉄塔を建てようとしていたときに、それが崩れてあの男を始め50人の犠牲者が出た。そしてその時資材を提供し、後に名を轟かせるようになった私が真っ先に疑われたのだよ」

「なるほど・・・」

どうりで2ヶ月前、シュートがグリンのことを話したとたんにシルクの表情が翳ったわけだ。

「まあ、街の大半の者は不慮の事故と言ってくれるが、あの娘は終始私を疑ったままだ」

グリンは深い溜息をつく。

「僕も諭しているんですけどね。まあ、その場にいなかったから断定できない僕じゃあ彼女の心を動かせないようですが」

「まあ、いいさ・・・。そのうちあの娘もわかってくれるだろう」

「着きましたよ」

重苦しい雰囲気を運転手の声が打開した。グリンは表情をパッと切り替えた。車が止まると、すぐさま下り、既に来ていた部下達に荷物を下ろすように指示を出した。


キシャアアアア


「!!」

ロイとシュートは声のした方を見た。獣の咆哮。魔獣か魔物に違いない。ロイは駆け出した。シュートも同時に駆け出したが、ロイの足にはかなわない。ロイは全力で走り、一目散に声の咆哮へと急いだ。

「きゃああああっ!!」

広場の方から悲鳴が聞こえる。同時にはじめの夜と同様に人の波が見えた。道路の家の屋根に飛び乗り、広場を目指す。はじめの夜と同じように。


キシャアアアア


ロイがその青い竜のような魔獣の目の前に立ったとき、魔獣は口を大きく開き、ロイの目の前で大きく吼えた。耳を劈くその声にロイは耳を覆う。

「うるせー!」

更に口を大きく開け、ロイを飲み込もうとするその魔獣の首を避け、剣を抜いたロイはその首に切りかかった。

「あれぇぇっ!?」

手ごたえは全くなかった。硬そうなその皮膚を傷つけることができるだろうかと思っていたロイは、その抵抗感のなさにバランスを崩し、着地の際に左手をついてしまった。手首が痛む。


キシャアアアア


「え?!」

本日三度目の咆哮。青い竜はロイが切り落としたはずの首を振る。大きく息を吸い込むと、溜めた息を一気に吹きだしてきた。

「うわっ」

その突風にロイは吹き飛ばされ、その魔物二体分くらいの距離の所で着地した。魔物とロイはお互い向かい合う形になる。

「まさか、こいつ・・・」

ロイは一気に距離を縮め、その首に再度躍りかかる。しかし、今度は剣を抜かない。拳を握り、その長く、あまりにも無防備な首を殴った。

またしてもロイの攻撃は手ごたえがなかった。それどころかバランスを崩したロイの体までもがその首をすり抜けた。

「・・・これは実体じゃないってことか?これが能力だとしたら、でもどこかにあるはずだ」

もう一度ロイを吹き飛ばそうと魔物は息を大きく吸う。その反り返った首の下をロイは悠々と抜けていき、その胴に剣を突き刺した。


グギョオオオオン


魔物は心臓が揺さぶられそうな悲痛な悲鳴をあげた。次の瞬間、その姿がかすみのごとく消え去った。

「ロイ、倒したのか!?」

シュートは肩を弾ませながらロイのほうへと詰め寄ってきた。ロイは頷く。

「大した相手じゃなかったらしい」

シュートは顔色を変え、先ほどまで魔物がいた街の壁を見る。見るとそこは人が1人ギリギリ通れる位の穴が空いていた。シュートは銃を取り出した。

「あの魔物は狡猾だ。機を待って攻撃してくるつもりかもしれない。僕が行く。君はここにいろ」

そういうと駆け出し、穴へと急いだ。

「・・・・・・」

どうにも解せない。始めの夜にシュートの銃によって魔物が消えた時、同時に炎も消えていたし、何も燃えてはいなかった。街の人々の話だと、魔物が出るときはいつそうだと言う。ロイは何か嫌な予感がして穴へと駆けた。





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