遥かなるノスタルジー
北区滝野川、今でこそ古いアパートは建て替えで減ってはいるのだが・・・。
八月の古びたアパートの窓辺は、ヤケドしそうなくらい暑かった。トランクス一丁で、窓際に腰掛けた僕は飛び上がってしまった。
「熱いっ!わぉ!」
その時ふと思い出した風景がある。
それは、親父が赤いきつねを膝に落として、大ヤケド一歩手前の事態に追い込まれた、というか自業自得の事件のことだ。
「そういえば、オヤジもトランクス一丁だったよな。」
「そうだったわね。」
「由紀子!いつ出て来たんだよ?!」
目の前に立っていたのは、二つ年下の妹、由紀子だった。
「お兄ちゃん、不用心ね。」
「なに?俺は踊りなんかやらないぞ。」
「それは、字が違うわよ。」
「お前こそ、そんな裸同然の格好して。」
「だって暑いんだもん。」
妹は白いホットパンツにピンクのノースリーブという、非常に刺激的な格好だった。
群馬県の高崎から、友達と新大久保に遊びに行く途中だという。
「友達は?」
「下で待ってるよ。」
「待たせたら悪いから、呼べばいいじゃない。暑いんだもん。」
「呼べるわけないでしょ、こんなきったねぇとこ。」
「あ、言ったな。そうだけど。」
窓から顔を出して、アパートの外を見ると友達が、赤いハイヒールに赤いふんどし姿で立っていた。
「ガタンッ!」
僕はケツに痛みを感じた。
どうやら、窓際で寝てしまったようだ。
そして、滑り落ちた。
リアルな夢だった。不思議な感覚だった。
父さんがこぼしてしまった、赤いきつねが無性に食べたくなって、近所のコンビニへ出掛けて、警察官に注意された。
「君、パンツ一丁にサンダルは街を歩く姿じゃないだろ!」
故郷を懐かしく思う気持ち。
それは、時に人を狂わせる。
(完)