4. 青の戦士と遭遇
抽出したリュミエールエネルギーを黒の魔女に無事献上し、エネルギーの回収は幹部の中で交代制なのでしばらくは仕事はなさそうだ…となった私は。
「最っ高~!!」
この世界のアニメを見まくっていた。
色んな映画やアニメ作品が見られるサブスクを契約し、気になった作品から手当たり次第に視聴する。
この世界のアニメの出来も、元の世界と負けず劣らず素晴らしく、すっかり前世と同じようなオタク生活を始めた私はとあるアニメにハマった。
明治時代の話で、侍だった父に憧れた女の子が自ら刀を握り、「自身が目指す侍とはなにか」を模索しながら戦うお話。
アニメの世界の中で、更に違うアニメにハマるなんておかしな話だけど、まぁとにかく素晴らしい作品だった。
芯のあるカッコいい主人公! しかも剣士! 私の好みにドストライクだ。
現在配信している最新話まで見終わり、「さてさて、公式の次はこれだよね」とSNSで作品のファンアートを探す。
と、公式のアカウントで信じられない情報を見つけた。なんとこのアニメの劇場版が上演されると言うのだ。しかも公開日は三日後。
これはもう見るしかない。ほんと最適なタイミングでハマったなぁ、ナイスだ私。
「あ、もうこんな時間か。やっぱ一限は早いなぁ」
一回見始めちゃったら止まらなくて徹夜したんだけど、この後には授業が控えている。
休んじゃってもいいけど、今日の授業は資料を大学サイトに挙げてくれない先生だから、一回でも休んだらテストに響くんだよなぁ。ノート見せてくれる友達もいないし。
まぁ頑張って行くかぁ…と私は重い腰を上げて支度を始めた。
■
身動きができないというほどじゃないけど、かなり混んだ電車に残りこみ、スマホを操作する。
せっかくなら初日に見に行きたいから、あらかじめチケットを取っちゃおうかな。理想は映画前にもう一度アニメを見返して…って。
「なにあれ」
ふと視線をスマホから外せば、少し離れたところで制服の着た女子高生にぴったりと密着しているサラリーマンが見えた。女の子の顔は見えないけど、明らかに様子がおかしい。
あ、多分痴漢だな。あれ。
女の勘でそう直感すると、私は「失礼」と人混みを割って彼女たちに近付く。
「田中さん!」
パッと努めて明るい声色で話しかけ、「この子と知り合いですよ~!」と周囲にアピールする。
そしてさりげなく、背後のサラリーマンに視線を向ければバチッと目があった。
「…なにか?」
「あ、いえ…すみません…」
ニコリと微笑めば、彼はそそくさと離れて、タイミングよく駅に到着してドアが開いた瞬間に逃げ去って行く。
分かる。この美貌の真顔って結構怖いんだよね。私も鏡を見る度にちょっとビビるもん。
ふん、と鼻を鳴らしてそのまま立ち去ろうとすると、腕を勢いよく引っ張られた。
「あ、あの!」
「ん?」
「ありがとう!! あ、ゴザイマシタ!」
「んん??」
私の腕を握って来たのはつい先ほど、痴漢から助けた少女で、それはいいんだけど、その顔にものすごく見覚えがある。
明るい茶髪に、ぱっちりとした目。ちょっとカール気味のショートヘア。少し違和感を感じる日本語のイントネーション。
青の戦士ブルーこと、エマ・スミス。祖母に日本人を持つアメリカの女の子だ。
それはいい。それはいいんだけど、待って、藤原マリアとエマ・スミスって面識あったの?! こんな展開知らないんだけど…。
「私の日本語、変、デスカ? ええっと、Thank you…カタジケナイ!!」
「あぁ、いえ、大丈夫ですわ。なんでもありませんの」
「?」
「礼には及びませんわ。私が気になっただけですから」
「…!! お姉さん、優しい…!」
「ありがとうございます。では私はこの駅でおりますので。ご機嫌よう」
ニコニコしたまま電車を降りて、そのまま階段を上る。
電車が出発したことを確認し、「はーっ!」と息を吐いた。まだ心臓がバクバクしてる。
「変じゃなかった…よね?」
まさかこの姿の時に主要キャラクターたちとエンカウントするとは思わなかった。
必死に口調を取り繕ったけど、混乱しすぎてなんか変な感じになったような気もする。
「それにしても…もう二人目の戦士か。早いなぁ」
彼女の覚醒は確か…ローズが相手の回だったような気がするから、特に私には関係ないかな。
びっくりしたけど、藤原マリアとしてはもう会うこともないだろうし、ちょっとくらい変に思われたっていいか。
そう納得して辺りを見回し、さーっと顔を青くする。
「待って。駅、間違えた」
ダッシュ確定☆ てへっ!
…今日は厄日だったりするのかな。
徹夜明けに全力ダッシュって、私がなにをしたって言うんだ神様…。
■
そして三日後。
「嘘でしょ…?」
「…!! お姉さん!!」
気になっていたアニメの映画を見に来たら、二つ先の席が宿敵の一人だなんてそんな偶然ある??
パァッ…と顔を輝かせるエマに、笑顔を引きつらせる私。
「お姉さんも、このアニメ、好き、デスカ?」
「…ええ、気になって見始めたら止まらなくて」
「!! 分かりマス!!」
推しを語り合える仲間を見つけたオタクの表情をするエマを見て、あ、そうだった、と私はアニメの設定を思い出す。
このエマ・スミスは、日本のアニメが好きで、特に女侍のアニメにハマったのをきっかけに、そのままの勢いで「日本に住みたい!」とこちらへと引っ越してきたという話だったはず。
そうした憧れもあってか、彼女が変身したブルーとしての姿は、着物風のドレスで相棒は日本刀。
うん、そうだ。ちゃんと思い出した。そしてそのブルーの衣装って、ちょっとこのアニメの主人公のやつに似てるよね…?
もしかしなくても、女侍のアニメって、この映画の作品だったりする…?
「私、主人公にあこ、あこれ…」
「憧れて?」
「そう、憧れて、日本に来たんデース!!」
終わった。確定だ。一生の不覚。
一体どこの作品に悪役とヒーローが同じアニメを推している展開があるんだよ。謎すぎるだろそんな展開。
いや、まぁね? スパイとして悪役が姿を偽ってヒーローの友人ポジションに収まっている展開も他作品でなくはないし、それはそれでストーリーのいいスパイスになって美味しいと思うんだけど。
普通にアニメが好きで、普通にプライベートで映画を見に来て、これまた普通にプライベートのヒーローと仲良くお喋りするなんて、いくらなんでもシュールすぎる。
「あ、映画、スタートみたいデス!」
よし、さっさと映画だけ見終わったら退散するぞ。
■
おかしい。
「やっぱりあの場面いいわよね! 『制作陣の方々、分かってる〜!』って思わず叫びたくなっちゃったわ!!」
おかしいぞ。こんなはずじゃなかったのに。
なんで私は今、エマと一緒にカフェで映画の感想を熱く語り合っているのだろう。
「そうなんデス! 儚くてカワイイ見た目に反して、とってもストロングで、あのガイジュウナイゴウが素晴らしいのデス!」
「ガイジュウナイゴウ…あぁ、外柔内剛ね。そうね。主人公の魅力を一言で言えばまさにそれだわ」
「お姉さん! オマエとはウマイ酒が飲めそうだ、デス!!」
「好みが一致してそうなのは同意するけれど…未成年の貴方が言うとちょっと誤解を招きそうね」
「使い方、間違ってたデスカ?」
「いいえ? 時々ボキャブラリーが不思議だとは思うけれど」
「アニメで勉強シマシタ!」
「なるほど。納得したわ」
ギリギリ残った理性で最低限の口調はとどめているけど、久しぶりに人とオタク話ができているから、変なハイテンションになってしまっているのが自分でも分かる。
落ち着け私。私は悪役…私は悪役…。
「あと、アイボウも素晴らしいデスネ!」
「そうなの!!」
あ、無理。楽しすぎる。
「あの飄々としたナルシストっぽく振る舞ってる人が、実は結構重めなコンプレックスとかトラウマ持ちで、普段は『やれやれ、仕方ないな。付き合ってやるよ』とか思っている側の矢印の方が意外と大きくって!! あの関係性が素晴らしすぎるの!!」
「矢印…?」
「激重感情。愛よ、愛」
「なるほど!! 愛!! 愛は世界をも救う! アニメの鉄板デスネ!!」
「そうなの〜!!」
誰か私を殴って止めてくれ。
そう思った時だった。ドンッと大きな地響きが響いた。




